魔法少女リリカルなのは 絆を奪いし神とその神に選ばれた少年
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第二十七話 肯定
フェイトコピーやアリシアコピーと呼称しよう。
それらがそれぞれ鉄の棒やパイプを持って高速で全達に迫る。
「この……!」
全はシンを持たずに素手で構える。
「全、何してるの!?武器を持って!」
るいも自身のデバイスであるファフニールを弓の形態で展開している。
しかし、フェイト達はデバイスは展開しているもののそれぞれ床に落としてしまっている。
戦闘できる状態ではない。
そしてそれはるいにもいえた事。
るいはそもそも近接戦闘向きではない。
原作の時期であった事件などではそれぞれ後方支援をしていたのだ。
それ故に近接戦闘はやったことがない。
つまり、今この場では相手の対処が出来るのは全しかいない。
フェイト達がいればまた変わったと全は考えるが、フェイト達の状況を見れば戦える感じではない事位わかった。
全は体全体でコピー達と戦っている。
しかし、全の攻撃が当たろうとする瞬間、一瞬だけ手が止まるのだ。
全にとってはこれほど戦いにくい戦いなどない。
(くそ……!頭ではわかってるだろう!?あいつらはフェイト達じゃないんだぞ!?なのに……手が、一瞬だけ止まってしまう……!)
戦いの中で一瞬だけ止まるというのは致命的ではないかもしれないと思うが高速戦闘中では話は別だ。
それは相手に隙を作ってしまう。ましてや相手が自身よりも早ければ早いほど相手にとっては何度も攻撃を与えるチャンスとなってしまう。
「ぐっ、くそっ!」
その証拠に全は何度もパイプや棒などで攻撃を受け、満身創意の状態だ。
既に片目は見えなくなってしまっている。それは頭から出る血の影響だ。
右手の甲の部分の赤く腫れ上がっており、とても戦える状態ではない。
「もう諦めたらどうだい?彼女達の実力はオリジナルと遜色ない程なんだ。それが何人もいる……君に勝ち目はない」
スバルは余裕な表情を崩さずにその場に佇んでいる。
どうやら全が負ける所を見物するようだ。
全は左手だけで何とかコピー達の攻撃をさばいているが右手が先ほどからずっと垂れたままだ。
(くそ……さっきから右手があまり動かない……いや、右腕と言った方がいいか。これは多分、折れてるな……)
全は何とかさばいてはいるが……やはり数が数だ。
「がっ!しまっ!?がはぁ!!?」
一瞬の隙をつかれて腹にパイプでの突きを喰らい、立て続けに攻撃を喰らってしまう。
その衝撃でるい達がいる場所まで吹っ飛ばされてしまう全。
「全!大丈夫!?」
るいは倒れた全を抱き起こす。
「ぐっ……」
しかし、腹を押さえたまま全は苦しい表情をするだけだ。
その間にもコピー達はにじり寄ってくる。
「どうして……」
「??」
その時、俯いたままだったアリシアが口を開いた。
「どうして……あんた、ここまでしてくれるの?あんたには関係ない話でしょう?」
「そうだよ……ましてや、私はクローン……助けられる理由なんてないのに……」
それを聞いた全は
「助けられる命なら……俺は、助ける」
そう返答した。
「え……?」
「クローンが生きちゃいけない理由なんてない。生まれた瞬間から……クローンにだって生きる理由はある」
「でも!」
「それに……オリジナルとかクローンとか関係ないんだよ、俺には」
そう言って全はるいから離れると自力で立ち上がる。
しかし、立つのでやっとなのか息が上がったままだ。
「俺にとって……フェイトやアリシアは友達だ。そこにクローンとかオリジナルとか関係ない。ただ助けたい……俺はそれだけで戦ってるだけさ」
そう言って少しずつながらも歩き出す。満身創痍の状態でも戦うつもりなのだ。
「とっとと地べたに這いずりまわりなよ。君は弱者で僕は強者……この法則は絶対なんだからさ!さあ、トドメだ!やれ!」
「やられはしないさ……俺は……!」
そして、コピー達の攻撃が全に迫る。
アリシア・フェイトSIDE
―アリシア―
何で……こいつは、私たちの為にここまでしてくれるんだろう……。
私はそう思って聞いてみた。
そしたら、オリジナルとかクローンとか関係ないとか言ってきた。
あんたに何がわかるのって言いたかった……管理局内でも、色々言われてるのも知らないでって……。
管理局内ではフェイトは「アリシア・テスタロッサのクローン」として見られ、私は「そんなクローンのオリジナル」として見られなかった。
でも、橘は言った。関係ないと。
それはつまり……橘は私は私、フェイトはフェイトという一個人として見てくれてるって事。
聖もそんな風には言ってくれるけど……何でだろう、橘の言葉には聖の言葉にはない、重みという物があるように感じた。
その時、私の脳内にある光景が出てきた。
―フェイト―
橘は変な奴だと思ってた。ずっと嫁嫁とか言ってたくせに……聖との戦いを機に一度も言わなくなった。
それどころか、心配もしてくるようになった。
そして、それが下心とかじゃなくて本心からの言葉という事もわかっていた。
でも、今回の件で私がクローンであると知られた時、私は「ああ、終わった……」と思った。
クローンは世間では忌み嫌われる。それは人道に反していると言われているからだ。
人の手で創られた命。そんなの、気味が悪いに決まってる。
でも……橘は関係ない、助けられる命なら助ける。そこにクローンとか関係ないって言ってくれた。
その言葉にどこか、重みのようなものを私は感じた。
その時、私の脳内にある光景が映し出された。
―アリシア・フェイト―
((あれは……過去の私……?))
今、フェイトとアリシアは同じ映像を見ている。
しかし、お互いにお互いが同じ映像を見ているとは知らない。
そんな中、映像の中でフェイトとアリシアと楽しそうに遊んでいる男の子。
(あれ……あんな子と一緒に遊んだ記憶なんて……)
(あんな子と一緒に遊んだ記憶、ない……なんで……?)
二人は疑問に思いながらも映像を見続ける。
その時、映像の中のフェイトとアリシアが泣き始めた。
何かを話した後に泣いたのだ。そしてそこでアリシアとフェイトはわかった。
この時、自分達はフェイトは自分がクローン、そしてアリシアはそんなフェイトのオリジナルである事を喋ったのだ。
何で喋ったのかわからない。でも、喋った。
そしてそんな話を聞いた男の子の返答は
「で?」
という物だった。
え、と映像を見た二人は思った。
「確かに二人の関係はわかったよ。フェイトがクローン、アリシアがそんなフェイトのオリジナル……うん、確かに結構複雑な関係だ。でも、それって双子と同じだよね」
「双子って一卵性双生児……まあ、同じ卵子から生まれた存在って事ね。それと同じだろう、同じ遺伝子とか……だったら二人は双子だよ」
「でも、クローンであるという事実は変わらないんだよ……」
泣きながらフェイトはそう言う。
「……ある女の子の話をしようと思う。その子はね、誰からも愛されなかった。家族からも、誰からも……」
「「?」」
「まあ聞いて。それでね、女の子はある日気づくんだ……その家には自分と同じ位の娘がいたって。でもその子は死んでしまった……病気でね。でも、両親は諦め切れなかった。そこで、娘の遺伝子を使って、新しい命を生み出した」
「まさか、それって……」
「そう、それが今話した女の子。女の子は誰も信用できなくなって……自殺を謀った。でも、それを止めた人物がいたんだ。なんで止めたのかって女の子は言った。その人物はね、こう言ったんだ」
「死んでいい命なんてこの世には存在しない。君だって生きていく資格はある。自らその資格を無くすなんてあっちゃいけない」
「君は確かに……この世界に生きているんだから」
「この言葉を聞いて、女の子は泣いたそうだよ。自分の存在を初めて肯定してくれたんだからね」
「「………………………」」
「だから、俺も同じ言葉を言う」
そして先ほどと同じ言葉を言う少年。
その言葉を聞いたフェイト達は……泣いた。
そう、それを映像として見ていたアリシア達も泣いていたのだ。
「俺は助けたいんだ……あの人と同じような境遇である君たちを……」
そう言って映像は途切れ、フェイトとアリシアは互いに横を見た。
そこにはそれぞれ泣いている姿があった。
「フェイト……」
「姉さん……」
「私達……生きてても、いいんだよね……?」
「……うん、橘もあの子も……肯定、してくれた……」
「あの子……橘と同じ感じがしたね……」
「もしかして……橘、かな?」
「わかんない……知るためにも、帰ろう。お母さんとお父さんと……」
「うん、一緒に暮らしながら……」
「笑い合おう……」
「うん……」
そして、二人の意識は浮上していった。
SIDE OUT
全と接触しようとしたコピー達はそれぞれ弾き飛ばされた。
「ぐっ……な、何が……!?」
腕で顔を覆いながら状況を確認するスバル。
尻餅をついた全と……その前に立つ、フェイトとアリシアの姿があった。
「橘は……いや、全はやらせない……」
「全は、護ってみせる……!」
その瞳には……かつてない程の覚悟の色が見えた。
後書き
ちなみに今回の過去の話で全が話した女性はその後、全達の仲間となります。
二十四話で出てきた科学者の彼女。それが今回の過去の話で出てきた女の子です。
さらに言うと、彼女を救った人は全の師匠です。
こんな感じで全の仲間は大概、全の師匠に心を救われた方々で構成されております。
だからこそ、絆が強いのです。
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