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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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誓い-ラグドリアン-part2/眠れる王子

メフィストクローを突き出すメフィストを飛び越え、背後から彼の腕を捕まえ、前方へメフィストを投げる。難なく着地はされたが、立ち上がる好きにネクサスはメフィストの胸元を蹴り飛ばした。
その隙に彼は宙に飛ぶと、自らの体に回転を加え、光刃〈ボートレイフェザー〉をメフィストに向けて飛ばした。何発も放たれる光の刃を次々と避け、メフィストは力を込めた光弾をネクサスに撃ち込んだ。
「フッ!」
「グッ…!」
剣を盾代わりにして防ごうと試みたが、衝撃までは吸収しきれず、ネクサスは後方へ飛ばされる。地面に落下した彼に向かって、メフィストがメフィストクローの刃先を向けながら飛び掛ってきた。まずい、気がついたときにはもう、今の背中を地面につけた姿勢から奴の攻撃を避けられるタイミングを逃していた。ならばと、ネクサスはメフィストクローが突き刺さる直前、すばやく両腕を伸ばし、驚いたことにメフィストクローを素手で掴んだ。
「ほぅ…」
関心したようにメフィストは声を漏らすが、力を強めてネクサスを刺そうとする。相手の力が強まっていることを認知し、ネクサスもまたメフィストクローをつかむ力を強めて押し出そうとする。しかしそれはブラフ、ネクサスはメフィストを蹴り上げ、脱出した。
「シュワ!!」「グゥ…ッ!」
再度立ち上がったネクサスは宙を舞うメフィストに向かって飛び上がり、追撃に上から拳を叩き込んだ。地上に叩きつけられるメフィストと、地上に着地するネクサス。すかさず、立ち上がろうとしたところへメフィストの懐にまで接近しエルボーカッターで切りつけ、胸元を蹴りつけてから、もう一度距離をとる。後退時にとっさに抜刀に似た構えを取り、十字型に組んで、光線技〈クロスレイ・シュトローム〉をメフィストに向けて放つ。
「っぐぁ…!」
光線は、メフィストの顔に直撃した。防げなかったこともあってか、効果が見受けられた。顔を抑えながらもだえるメフィスト。さすがのメフィストも顔面はかなり応えたようだ。
メフィストはネクサスの方を向く。その顔は光線を受けた影響からか、焼けていておぞましい。まるで初代ウルトラマンのスペシウム光線を受けたダダのようだ。しかし、驚いたのはその次だった。
「…くっくっく」
「?」
「くくくく……ははははは……ふははははははははははははははは!!!!」
構えを取っていたネクサスは思わず構えを解きかけた。なぜか奴が…メフィストが笑い出しているのだ。それも酷く悪寒を促す不気味な…気持ちの悪い高笑いだった。
「いい、いいぞ!!期待通りだよウルトラマン!!貴様は合格だ!!」
光線で顔を焼かれ、黒く染まった、その顔を覆う左手の指の隙間からこちらをのぞき見ているその目は、光線が直撃した左目が血のように赤く染まっていた。何よりも鋭く、恐ろしい殺意を放ちながら。
ネクサス=シュウは相手の奇怪な台詞と様子に、戦慄を覚える。ファウストも不気味な奴ではあるが、こいつはさらに気味の悪さと異常さを兼ね備えた脅威だった。
「かねがね貴様のことを聞いて、ぜひこうして殺し合ってみたいとは思っていた。だが肩透かしになるのではないかと正直不安だったが…杞憂でよかったぞ!
俺と同じ血の臭い、そして戦慣れしたその戦闘力…これほど焼き殺し甲斐がある者は『あの男』以外で貴様が初めてだ!」
メフィストは歓喜に満ちた声を上げる。
「だが、このまま勝負をつけるのはもったいないな。この場は俺自らが手を引いてやろう」
自ら手を引く?そう聞いてネクサスは耳を疑った。ウェールズという人質兼戦闘員である存在を用いて、ガルベロスを率いて、これだけ自分たちを追い詰めておいて自ら手を引くだと!?
「何を考えている…?」
思わずネクサスはメフィストに対して問いを投げかける。
「何を…だと?ふふ…貴様ならすぐにわかるんじゃないのか?」
メフィストは肩を震わせながら笑う。
「俺とお前にとって、戦いとは生きるための導。そして弱者を踏みにじり、強者との戦闘を純粋に楽しむための唯一の楽しみ。だから貴様は、ウルトラマンとして戦っている。違うか?」
「一緒にするな。俺は何の意味も無く戦うことをよしとはしない」
メフィストの言い分をネクサスは真っ向から否定した。それもそのはずだろう。確かにビーストとの戦いは慣れてきた頃だが、こんな奴のように乙女の純情を弄び一方的に優位に立って勝利を飾るような糞野郎とは訳が違う。
「では貴様は、理由さえあれば誰とでも戦うというのか?」
しかしすかさずメフィストはネクサスに指差して言ってのける。
「…ふふ。面白いことを浮かんだ」
次に言ったその言葉に、ネクサスは抱かずにはいられなかった。単なる直感ではあるが、確かな確信があった。たった今こいつは、とんでもなくやばいことを思いついていた。
「次会う日までせいぜい死ぬことがないよう腕を磨いてくれよ?そして再会を果たした時、貴様を焼き殺しその死骸の焼け焦げた甘美な臭いを嗅がせてくれ…」
「待て!皇太子を元に戻せ!」
背を向けるメフィストに、ネクサスは手を伸ばして引きとめようとした。ここで奴を取り逃がしてはまずい。ここでしとめなければ、こいつのイカれた脳内事情のために、他の命が食らわれてしまう。
「…いいぞ、その怒りに満ちた炎のような目は。それでこそ…。
言っておくが、俺に皇太子の洗脳は解けん。それと…」
しかしネクサスの手がメフィストに届くことは無かった。彼がメフィストの肩をつかむ前に、メフィストは闇の中に溶け込むように姿を消した。


――――皇太子はすでに『死んでいる』ぞ?


膝を着くネクサス。結局取り逃がしてしまった。ファウストの時もそうだが、自分は何かと詰めが甘いと思わされた。まだウルトラマンとしても、人間としても未熟なままだ。
メフィストが居なくなったにもかかわらずダークフィールドがいまだに顕在している。
しかし、聞きたくなかった言葉を聞いてしまった。
ウェールズがすでに『死んでいる』、と。予想事態は、していた。黒いウルトラマンとビーストは死人と密接な関係にある。無論、人形師とそれに操られる人形と言う立場で。あのミラーナイト=ウェールズもそれだということだ。
「く…」
しかし気になるのは、奴の『面白いことを浮かんだ』という一言だった。奴は一体何をしようとしている?姫の皇太子への想いを弄ぶような真似をしてまで、一体何を考えている?
…だめだ。今はそれどころじゃない。他の連中の援護に回らないと。




「姫様…」
歩み寄ってきたルイズたちに、アンリエッタは視線を再度向け、そしてすぐに目を背けてしまった。
これまでの連続した非常事態で、ついに頭に血が上って訳がわからない状態から眼が覚めたのか、彼女は少しばかり落ち着きを取り戻しつつあった。だがそれは同時に、自分のやってしまったことに対する後悔がこみ上げる。
自分は、危うく自分の身を案じてここまできてくれた幼い頃からの友人とその学友たちを…果てはウルトラマンの命さえも奪い、奪わせようとしていた。今ならわかった。自分は、利己的な理由であまりに愚かしいことをしてしまったのだ、と。
「ルイズ……私は、なんと言ってあなたたちに謝ればいいの…?私のために、どれだけ、なんと言って許しを請えばいいの?」

――――…アン…リ…エッ…タ…

その声を、アンリエッタたちもその耳に入れた。
「ウェールズ…様……?」
もしかしたら、と思った。ミラーナイトの顔を見上げた彼女は、再び耳を済ませた。
「…アン…リ…エッタ…君…か…?」
「ウェールズ様…なのですね?…あぁ…」
アンリエッタの眼から、涙が再び零れ落ちた。さっきのように、操られていた時の妖しさは感じられない。穏やかで澄んだ声をしている。
「このときを、どれほど待ち望んでいたか…」
やっと、愛する人と本当の意味で再会できた。それが、一度彼を失い悲しみにくれたアンリエッタにとってどれほどの救いとなっただろうか。
しかし…彼らはまだ、これが悪魔の戯れの一章に過ぎなかったことを察することができなかった。

ズキンッ!!!

「ッウグゥ!!?」
突然ミラーナイトが頭痛にさいなまれ、自分の頭を抱えた。
「ウェールズ!?」「ウェールズ様!?」
グレンと、地上にいるアンリエッタやルイズが彼の身を案じて名を呼ぶが、直後にミラーナイトは油断していたグレンの首を両手で掴み、そのまま彼を持ち上げ首を締め上げていった。
「ぐ、があ…!!」
「…僕ハ…負ケラレナイ…」
ミラーナイトから、声がもれ出る。おぼつかない、もはや死に掛けているかのような生気の無い声だった。

―――殺せ

―――お前とアンリエッタの仲を邪魔するものを…殺せ

「…アンリエッタ…ヲ…アルビオンヲ…守ル…ダカラ…コノ力を……」
「ウェ…ールズ…」
右手はミラーナイトの右腕を掴み、左手でミラーナイトに向けて手を伸ばすが、その手は彼に届かない。喉を押さえつけられ、グレンは声がだんだんとかすれていった。すでにわかっていたことだったが、やはり正気を失っている。


「そんな…!」
再び顔色を絶望の色に染めたアンリエッタ。感動の再会から一転して絶望の展開に、誰もがショックを隠せない。
「ね、ねえ…さすがにまずいんじゃない!?」
キュルケが危機感を覚えタバサに話すと、タバサも言葉を発さなかったが頷く。
「な、なんとか…なんとかウェールズ様をとめなければ…!」
アンリエッタ自身、自分でそう言うものどうかとも思っているが、事実ここでウェールズをとめてやら無ければならないのは事実だ。さっきまでの自分がそうだったように、これ以上ウェールズの暴走を許してはならない。本当のウェールズだって、きっとそれは望まないはずだと、確信しているから。
だから、自ら杖を採って彼女は前に出ようとする。自らの手でウェールズを、愛する人を止めようと。それを見てアニエスがいち早く彼女の手をガシッと止めた。
「殿下、行ってはなりません」
「離して、アニエス!今回このような事態を起こしたのは私です!だったら私がウェールズ様を止めなければ…!それにさっき、ウェールズ様は私の声に反応していました!もしかしたら…」
もしかしたら、またもう一度呼びかければウェールズの意識が戻るかもしれない。そして今のような凶行を止めてくれるかもしれない。すると、タバサがアンリエッタの前に杖の輪の部分を突き出してきた。
「無謀、そして危険すぎます。それに…」
タバサはちらと横目でグレンと彼の首を絞めるミラーナイトを見やる。
「や…めろ……!ウェー…ルズ…ッ!」
かすれていくばかりの声でやめるように言い続けているグレンだが、ミラーナイトは狂気に犯されるがまま、両腕の力をさらに締め上げていった。
「もう、誰の声も届いていない。もし私たちが束になっても、あの巨人の力には叶わない。犬死するだけ」
「……」
アンリエッタは、力なく膝を着く。結局こうなるのか、迷惑をかけるだけかけて、自分の過ちを悟って償いをしようとしても、それさえも許されない。
ルイズは、もうこれ以上こんな弱弱しくて、悲しい姿のアンリエッタを見たくなかった。
「なんとか…なんとかならないの!?」
これ以上こんな自体が続いたらウェールズも壊れ、アンリエッタ自身も壊れてしまう。なんとかならないのかと模索するルイズは、すがるように始祖の祈祷書のページを捲った。
すると、白紙だったあるページに、光で文字が刻み込まれた。来た!ルイズは期待を寄せながらその文章を読み上げる。
「…解呪(ディスペルマジック)…先住も含めたあらゆる魔法を解除する」
これだ!ルイズはこれしかないと確信した。いかなる魔法をも消し去る魔法。また一つ彼女は、虚無の魔法を手に入れた。使うしかない。彼女は杖を掲げた。
「ルイズ、何してるのよ!あんたの失敗魔法なんかじゃ助けられっこ無いわよ!」
キュルケが警告を入れた。寧ろここでルイズが魔法で攻撃を仕掛けたら、自分たちまでも危険に晒されてしまう。自分はともかく、アンリエッタやタバサ、それにルイズ自身まで命の危機に晒されてしまうではないか。
すると、そんなキュルケの考えを察知したのかのように、二つの光が飛び込んできた。
緑色の閃光と、赤い光線の二つがミラーナイトの腕に降りかかる。とっさに避けようとしたが、腕に光線を二つとも受け、その拍子にミラーナイトはグレンファイヤーを放した。そして、再び鏡の世界を作り出しその世界へ逃げ込もうとするが、直後に光り輝く白い帯がミラーナイトの両腕を縛り、捕まえた。
「もう逃がさん。そこでおとなしくしていろ」
グレンの傍らに、別の方で戦闘を終えてきたゼロとネクサスが降り立った。ネクサスの右手からは白い光の帯〈セービングビュート〉が伸びている。逃げられる前になんとか両腕を封じる形で捕まえることができた。
「ぐ…げほ!!」
握り締められた喉を押さえながら、グレンは着地し膝を着いた。炎も酸素が無ければ存在し得ないように、グレンもまたそうなのかもしれない。
「無事か、そこの炎男」
「俺の名前はグレンファイヤーだ!覚えときな」
ネクサスから変な呼び方をされ、グレンは少しカチンと来る。これだけ喚く元気があるなら平気だろうと見た。
「捕まえたのはいいけど、これからどうすればいいんだ…!?」
ゼロは迷いを口にした。確かに、今度こそ自分たちはチェックメイトを掴み取った。でも、あのミラーナイトの正体は、ウェールズだ。すでにここにいる全員が知っている。ここで、アンリエッタの前で、凶悪な怪獣と同列の存在として倒せば自分も含めたみんなは助かる、だけど…。
(お姫様が…)
目の前で、自分たちに殺される恋人の姿を見せることになるのではないのか。
『サイト』
迷いを見せるサイトに、ゼロが語りかけてくる。
『ウェールズは覚悟を決めているはずだ。元々、敗北を覚悟し勝利を信じてアルビオンに残り、炎の空賊たちと共に戦った身だ』
『それはわかってる!けど…』
助けられるかもしれない命なのに…。ゼロなりに、覚悟を決めなければならないことを言おうとしてくれていたかもしれないが、サイトはそれで納得できるほど割り切りがいい方ではない。まして、人の命にかかわることなのだ。
「平賀、今度ばかりは…俺も『諦めるな』と言う言葉を言うことができない」
「え…」
ネクサスからの言葉に、ゼロは目を見開いたかのように彼を見返す。
「一度は、奴がついた根拠の無い嘘かと思っていたが…違う。ウェールズ皇太子は、すでに死んでいる」
それを聞いて、ゼロとグレンは二人揃って絶句した。
「メフィストの手によるものなのか、それともアンドバリの指輪によるものかは知らんが、どのみち彼が一度殺され、偽の命を吹き込まれているんだ」
「マジ…なのか?」
「こんな状況でつく嘘に価値は無いだろ。奴を見ろ」
ネクサスが指をさす代わりに顎をひねってミラーナイトを見やる。良く見ると、その証拠たるものが見えた。ゼロとネクサスの、光線を受けた両腕がすでに治癒されていた。いや、たった今自然かつ急速に治癒されている。
「傷が…は!」
グレンも、今のミラーナイトの様子を見てわかったことがあった。さっきは自分のグレンドライバーを受けておきながら、今は平然と立っているではないか。もしや…。
「死人に…傷なんざ屁でもねえってのかよ…なんだよそりゃあ…」
グレンはわなわなと震える。やっと再会できたはずの戦友が、実はすでに故人だった。行き成りそれを言われ、納得などできるはずもない
「俺たちにできるのは、せめて彼を眠らせること。ただそれだけだ」
「…くそ!!!」
てっきり今度は、助けられると淡い希望を抱いていた。でもそれは結局幻。あの時、自分の身を挺してワルドの魔法から庇ってくれたウェールズを救えなかったことへの罪悪感とふがいなさを、ゼロは痛感する。
すると、ルイズからゼロたちに向けて呼びかけが入った。
「ウルトラマン、ウェールズ様の動きを止めて頂戴!後は、私の魔法でなんとかする!!」
(なんだ…ルイズは何をする気なんだ?)
ゼロはルイズの呼びかけに対し戸惑いを見せる。彼女に、何か方法があるというのか?ふと、ルイズの手に持っている本…始祖の祈祷書のページが光っているのが見えた。ルイズに、何か秘策があるということか!
「グゥゥゥゥ!!」
ミラーナイトが、ネクサスの縄から逃れようともがいている。回復の影響からか、光の帯を引きちぎろうとする力が強くなっている。このまま時間をかけたら、いずれこの光の縄が断ち切られてしまう。
グレンが自ら、ミラーナイトの背後に回り、彼をとっ捕まえてネクサスとの連携で動きを二重に封じる。その間、ルイズが瞑想しながら祈祷書に記された呪文を唱え、
ゼロはルイズたちの傍らに立ち、彼女たちをルイズの詠唱完了までの間守る体制に入った。
「…ディスペル!!」
かっと目を見開いた瞬間、ルイズの杖から光がほとばしった。それはこの暗黒の空間を、皆の視界ごと白く塗りつぶしたのだった。




すでに、朝日が昇っていた。
湖の湖畔の傍らに、いまだ変身をとかないゼロとネクサスが見下ろす中、変身を解いたグレンも含め、全員が集まっていた。
アンリエッタはとめどなく流れる涙を隠すことができず、自分の腕の中に抱きしめたウェールズを見ていた。
白い光が晴れた時には、もうウェールズは元の姿に戻って彼女の腕に抱かれていた。今度こそ、目覚めない眠りについたのだろう。そう思っていたのだが…。
「…アンリエッタ…それに、グレン…」
「ウェールズ様…!」
「ウェールズ!」
ふと、もう目覚めないはずのウェールズが、目を開いた。それを見て、アンリエッタは驚きで目を見開く。それについてはサイトたちも驚きを見せたのだが、それもまた、淡くあかない希望だった。
「アンリエッタ…すまなかった…。操られていたとはいえ…君や君の部下たち…友人たちに…愚かなことをしてしまった僕を……グレン…君にも…すまないことをしてしまった…」
「腕が…!」
ウェールズの腕が、干からび始めていたのだ。
「無駄だよ…僕は一度、アンドバリの…指輪の力で…体中の水分を抜かれ死んだ…ほんのちょっとだけ、僕は帰ってきたんだろう。ひょっとしたら…水の精霊が…気まぐれを起こしたの…かもしれないな」
下半身から、彼の体が干からび始めていく。
「何かっこつけて妙なこと言ってんだよ!!」
「いや…いやですわ!また私を一人にするおつもりなの!?」
グレンとアンリエッタがそれぞれ抗議の声を上げるが、それも虚しくウェールズの体の腐敗は止まらない。
「僕は…3年前、ここで君に…愛を誓いたかったけど…誓えなかった…。根拠は無かった…でも…うすうす感づいていたんだ…。僕と君は、いずれ…離別するんじゃないか…と…だから…」
「そんなことおっしゃらないで!私はあなたに愛されることが何よりの幸せでしたのよ!!」
「最後だ…どうか…誓って欲しい…僕を……忘れる…と……僕を忘れて、他の男を愛する…と…」
それを聞いてアンリエッタの肩が震える。
「できない……他のことなら誓えても、…あなたを忘れるなんて…誓えるはずありませんわ!」
「お姫さんの言うとおりだ!馬鹿言ってんじゃねえ!!てめえの女くらい、自分の手で守って見せろよ!なぁ!!」
ウェールズの肩をガシッと掴み、グレンは怒鳴り散らす。友のためならと思えることはやろうと思えばできるだろうが、グレンにとってこの場合だと話が違う。愛する女性を守るのが、その女性が愛した男こそがふさわしいのだ。
「僕には…もう…できそうにない…だから…また僕が…逝く前に……生きている間に…逝って欲しい…でないと…僕の魂は…永劫現世をさまよう…ことになるかもしれない…。
グレン………アンリエッタを………僕の……愛しい従妹を………頼む……だから………君からも…誓ってくれ……」
もう長くは持たない。ウェールズはそれを悟り、せめて信頼する人物に愛する姫が託される姿を見てから逝くつもりだった。せめて自分の意識がまだ保たれている今の内に…。
「いやよ…そんなこと誓えないわ!!」
「俺も同じだ!意地でも生きろよ!生きて今度こそ自分の手で守って見せろよ!!」
「もう時間がないんだ…頼む」
ルイズは、気づいたらまた始祖の祈祷書を捲っていた。ディスペルはウェールズの呪縛を解いた。だが、それに伴い一度死したウェールズに植えつけられていた偽りの命が消えてしまった。なら逆も…そう思ってページを捲っても、やはり何も浮かんでこなかった。
「あんまりよ…こんなの」
アンリエッタに罪は無かったが、真に裁かれるべきは彼女の心を弄んだ者だ。少女としての純情を弄ばれた彼女に対して、このような仕打ちをするとは現実とはなんと残酷なことだろう。
キュルケは、視線を友人であるタバサに向けると、わずかにタバサの体が震えていた。珍しいとも思った。でも…ウェールズを抱きしめているアンリエッタの姿に何かを思っているのか、震えている。キュルケはそんなタバサの傍にそっと寄り添った。
こんなのあんまりじゃないか…。せっかくまた、今度こそ再会を果たせたのに…。
「…では…ウェールズ様…なら最後に一つ、私のわがままを聞いてください」
震える声で、アンリエッタはウェールズに言った。
「私を愛すると、今度こそ誓ってください。あの時言わないままだった、その言葉を…どうか…」
「残念だが……死人が…永遠を誓うことなんてできない…」
「だったら誓うことなんてできませんわ!私に他の殿方を愛することなんて……」
この世に未練を残すような誓いを、ウェールズは拒んだ。それではアンリエッタは自分への思慕を拭えない。ずっと自分のを失った悲しみに囚われてしまう。アンリエッタの気持ちは一人の男として嬉しいのは確かだが、自分のために生きて不幸を背負うことが、ウェールズには許せなかった。




『くそ…』
サイトは、また一つの悲しみを野放しにしたこと、助けられなかったもどかしさを改めて思い知る。ゼロがそんな彼に向けて、彼の中から言葉をかけてくる。
気づけば、自身の精神世界の中で二人は向かい合う形で相対していた。
『サイト、あの時のことも含め今回のことは俺の責任でもある。一人で気に病むなよ』
『けど…』
わかっている。自分ひとりで気負うことではない。現に、グレンはかつての戦友を結局救うことができなかったことへの後悔を募らせ、あからさまに悔しげな表情を露にしている。
それらも含めても、自分たちの無力さを呪うサイト。
ウェールズのような、大事な人のために戦い抜いた男。そのような男がどうして利用され、こんな死に様を見せることにならなければならない?逆に幸せにならなくちゃいけないはずの人がどうして!?こうして命が尽きるのをただ、黙って…。
(…ん?待てよ…)
サイトは何か、あることに気がついた。そしてそれから浮かんだ疑問を、自身と同化しているゼロ自身に打ち明ける。
『なあゼロ。ウルトラマンの命を共有する力って…同化しているウルトラマンと同化されている人間が二人とも命を持っていた場合はどうなってるんだ?』
『あ?そりゃ…二つとも維持されている状態だ。ただ、時間が経過するうちに互いの魂と自我が混ざり合い、最終的に二つの命も融合し二度と分離できなくなっちまう。最も今の俺たちは、ルイズの刻み付けたルーンのおかげで分離ができない。
まぁ、安心しろよ。いずれこのルーン関係無しにお前と分離できるようにする。いつまでも、お前と一体化したまま戦うわけにはいかないからな』
ゼロはサイトと自分の左手に刻みつけられたガンダールヴのルーンを見ながら言った。今の自分とサイトは二心同体。従来の一体化タイプのウルトラマンはたいてい勇敢な若者の命が尽きたところを救うことで一体化する。どちらか片方の命で互いの命を繋いでいたのだ。しかしサイトの場合はそうではない。二人の命がそれぞれ存在しているのだ。
『けどなんでそんなことを……ッ!!』
さっきの問いをかけてきたサイトに対して疑問を抱いていたゼロだが、直後にその意味を理解した。
『お前まさか!!』
『ああ。俺自身の命を、皇太子にあげてくれ』
『無茶はよせ!んなことしたら、この先分離できるかもしれないのに、俺とお前が分離できなくなるぞ!もしそんな時に下手に分離したらお前が死ぬとわかってて言ってんのか!』
『どうせ俺たちは、ガンダールヴのルーンが杭になってて分離できないじゃねえか。だったら余分に命を一つ持つくらいなら、誰かに分け与えた方が建設的だろ』
『簡単に言ってんじゃねえ!自分の命だぞ!時間をかけすぎて、俺と完全に一体化しちまったら、お前は完全に俺との境界線がなくなって、何万年もこの先ウルトラ戦士として戦うことになる!そんな道の上を歩くのは酷だ』
『…悪い。ゼロはこんな俺と完全に一つになることがいやかもしれねえけどさ。でも…俺はウェールズ皇太子を助けたい!今度こそ…俺のせいでこんなことになっちまったこの人を助けたいんだ!頼む!!』
精神世界の中、サイトはなんとゼロに向けて土下座までした。その姿に言葉さえも失うゼロ。ウェールズの一件は、サイトだけじゃない。ゼロ自身にも非があったと彼自身は認知していた。本当ならニューカッスルの城でゼロに変身すれば王党派の人たちを救えた可能性があった。だが前日のゼロの早まった行為がサイトからの見限りを買ってしまったのだ。そしてウェールズたち王党派が全滅し、今回の一件を招いた。
『………』
ゼロは、決断をした。そしてサイトの案に頷いてみせた。



「ヌゥゥ…デュ!!」
視点を現実世界に戻す。ゼロは両腕を広げ、自らのカラータイマーから金色の光を溢れさせ、ウェールズの体に流し込んでいく。
「ウルトラマン、ゼロ…?」
「お、おい!ゼロちゃん!」
急なゼロの行動に、アンリエッタやグレンは目を丸くする。キュルケ、タバサ、そしてルイズもまたその光景から目を放していない。
(平賀…一体何をしている?)
ネクサス…シュウもそれから目を背けることなく観察した。
「…あぁ…暖かい…」
ウェールズは光に包まれ、その心地よさに酔いさえも覚える。干からびていくはずだった彼の体が、光を浴びていくうちにだんだんと精気に満ちたものに戻っていく。
すると、彼の体は浮遊し始め、ゼロの手のひらの上に乗せられる。ゼロは彼が乗っている右手を湖の湖畔に向けると、ウェールズの体は湖畔の真上にまで浮いたまま移動し、光の球体に包まれながら、湖の中へと沈められた。
「ウェールズ…様…」
湖に沈められていくウェールズを、アンリエッタたちはただ見つめていた。
「ウルトラマンは…一体何をしていたの?」
「ウェールズ皇太子を、生きた状態で眠らせたんだ」
ルイズが素朴に問いをもらすと、彼女の背後から行き成り声が聞こえてきた。
「さ、サイト!!」
いつの間にかウルトラマンたちの姿は消え、代わりにサイトとシュウの二人の姿が、ルイズたちの後ろにあった。
「それよか、生きた状態…どういうことだよ!?」
グレンが声を荒げながら言った。
「ウルトラマンゼロは自分の命の一部を削ることで、もうすぐ死ぬはずだった皇太子を生きながらえさせたんだよ。でも、時間をかけないといけないから、この湖の中で誰からの手にも触れさせないように封印したんだ」
「では…ではウェールズ様は!!」
「大丈夫だよ、お姫様。皇太子様は死んでいない。生きて、今は眠っているだけだ。もう悪い奴らに利用されることも、きっとないよ」
それは今のアンリエッタとグレンにとって、これほど嬉しいことはなかった。甘い誘惑の世にも聞こえるほど嬉しいことを耳にして、グレンは思わずサイトに詰め寄った。
「本当なんだな!?マジでウェールズは助かるんだな!?」
「嘘ついたって、何の慰めにもならないことくらい俺だってわかってるよ」
「あ、あぁ……」
思わずアンリエッタは、口元を覆い、そして涙した。さっきの悲しみだけに満ちたものではない。正真正銘の、嬉しさのあまりの感涙だった。
「ありがとう…!ウェールズ様をお救いして下さって…」
「ど、どうして俺に礼を言うんですか!助けたのはゼロですよ?」
ある意味、サイトもまた礼を言われる立場ではあるが、正体にかかわるため敢えて言わなかった。
「あの…サイトさん、ウェールズ様はいつお目覚めになるかはわかりませんか?」
「そこまでは、わかんないです。俺はウルトラマンの知識があるといっても、ほんのにわか程度ですし。でも、これで…ウェールズ皇太子はきっと大丈夫ですよ。いつか必ず目を覚まして、今度こそ誓いの言葉を、伝えてくれると思う」
「…そうですわね。でも今回の一件で、私は皆さんにも、ウルトラマンたちにも迷惑をかけてしまいました」
途中まではウェールズが無事であることを喜んでいたが、それ以前に自分がまんまと敵の誘惑にかかって、ルイズたちに迷惑をかけてしまったことを思い出し、後悔を表情で表した。
「なら、今回の一件のことを償えばいい」
「あんた…!?」
すると、シュウが一歩前に出てアンリエッタに言った。目を丸くするルイズたち。
「貴様、もしや姫殿下に危害を…!」
「待って、アニエス」
愚かなことを下とはいえ、仕える主を守ろうと傷ついた体のまま剣を抜こうとしたアニエスを、アンリエッタは手で制した。
しかし一方でシュウの視線に少しばかり恐怖を覚えた。自分は、さっき自分たちトリステイン王国の民の英雄としても捉えられている彼を、一度はウェールズへの盲目のためだけに命を奪えと命じた…つまり、自分の都合で時刻の英雄を、一番裏切ってはならない立場にある自分の手で切り捨ててしまったのだ。殺されたって自分に文句を言う権限はない。
「…なんなりと申してください」
命で償えといわれてもそれを請け負う覚悟を決めたアンリエッタは、耳を傾ける。しかし飛んできた言葉はそういった類のものではなかった。
「あなたはいずれ女王となるはず。だから、二度とその使命から逃げないと、ここで眠った皇太子に誓いを立ててくれ」
「え…?」
シュウは恨み節の一つも言うことなく、ただそれだけを言った。
「私を…恨まないのですか?」
「恨みなんかどうだっていい。それよりも、少しでも申し訳ないという気持ちがあるなら、誓いを立ててくれ」
淡白なのか、それとも無頓着なのか。しかし、まっすぐ見据えながら答えを待つシュウ。これでは、一度でも彼に怯えた自分が馬鹿らしくなってきてしまう。だがどこか安心もしていた。まだこの人は、ウルトラマンはまだ自分を見限ってなどいなかった。ウェールズを救い、さらに自分にチャンスをくれたゼロとネクサスに感謝し、アンリエッタはウェールズが眠っている湖の水面を見つめながら誓いを立てた。
「ウェールズ様、私は…もう逃げません。ウェールズ様と、国も民も捨てようとしたこの愚か者の王女を救ってくださったこの方たちの思いと期待に応えるため…トリステインの女王となります」
「…ウェールズ、俺も誓うぜ。お前が眠っているこの場所を、そしてお前が大事にしてた姫さんも、お前が目を覚ますまで守ってやる」
アンリエッタに続いて、グレンもまた誓いの言葉を立てた。
誓いの言葉を聞き届けたように、湖は立ち上る太陽の光で反射し、その光がアンリエッタたちを照らした。
「………」
誓いの言葉を聞き届けると、シュウはサイトたちから背を向け、どこかへ歩き出した。
「どこへ行くんだよ?」
「決まってるだろ。帰るだけだ」
サイトからの質問に、シュウはただそれだけ一言言い残し、サイトたちの前から遠ざかっていった。
「死人を救う…か…」
ふと、彼は遠くまでひとりたどり着き、自分の右手のひらを見つめ返す。その時、一瞬彼の脳裏に…彼にとって忌まわしい過去の一旦の映像が脳裏に過ぎった。
自分の腕の中で、命のともし火が消えてしまった…『彼女』の顔が浮かぶ。
本当ならここで死ぬはずだったウェールズを救ったサイトこと、ウルトラマンゼロ。それを成した彼に対して、シュウはどこか複雑な思いを抱いた。
(…いや、やめよう。それよりも、あの男の動きが気になる)
シュウの脳裏に、今回新たに現れた闇の巨人メフィストに変身した男…メンヌヴィルの顔が浮かぶ。奴は、やばい。巨人の力を持つ以前に、人として異常すぎる。
できればすぐに見つけ出して倒しておきたいのだが、今は体を休めることを優先しなければ。
シュウはストーンフリューゲルを召喚し、それに乗って飛び去っていった。 
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