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吸血鬼の少女
黒い影、それが僕の目の前に現れたかと思うと僕の顔にぶつかった。
「ぎゃあああああ」
悲鳴を上げて、僕はその痛みにしゃがみこむ。
ごすっと音がして何かが僕のすぐ傍に落ちる。
だがすぐにぶるぶると震えたかと思うとふわりと宙に浮かび、僕へと飛んでくる。
「な、なんで!」
「もしやあの魔道書は貴方を選んだんぽでは?」
「そ、そうなのかな?」
そこで再びぶつかってこようとする魔道書を今度はよけつつ僕は、その魔道書を見る。
濃い青色の装丁で、金色の模様が端につけられている。
高そうな本だなというのが第一印象だ。
だがすぐに何故か攻撃してくるようなこの本に殺意すら湧いてくる。
「どうして僕にぶつかろうとするんだ、痛いじゃないか!」
「もしかしたなら、試されているのかもしれません」
「何を?」
「魔道書は自身を持つ主を自分で選ぶ物ですから。この程度の攻撃には対処できるようにといった感じでしょうか」
「そんな無茶な。ああもう!」
というわけですぐ傍を飛んでいくその魔道書を手で掴んだ。
そういえば心なしか体の動きが軽く動きやすくなっている気がするが、これも魔力の影響なのかと思いつつその本のタイトルを眺めると、
「“ニートナ備忘録”、これっって伝説の魔道書?」
「その様ですね。さすがは異世界人の颯太といった所でしょうか」
「……何だか突然顔にぶつかってきたりしたから伝説の何とかという風な感じはしないな」
そこで不満そうに僕の手の中でその魔道書がじたばたと動く。
だが放したらまた顔にぶつかってきそうなので、しばらく押さえつけていたら大人しくなった。
こんな魔道書、僕には言うとことを聞かないので使えないのではという不安が頭に浮かぶ。
やはり新しい別の魔道書を探すべきかと僕が思っているとそこで、
「ちょっと、それは私が目を付けていたんだから!」
そんな女の子の声がしたのだった。
現れたのは黒いマントをはおった金髪碧眼の美少女だった。
短く切りそろえた金髪がきらきらと輝き、気の強そうな彼女にはとても似合っている。
だがその口からは時折白い牙の様な物が見える。と、
「この私、エイダ・ライナー伯爵から逃げるなんて、とんでもない魔道書ね。でも、それよりも許せないのはそこにいる普通っぽそうな少年を魔道書が選んだ事だわ!」
「えっと僕は別に……」
「私は本を集めるのが趣味なの。そして是非ともその伝説の魔道書が欲しいと思ってここに来たら私から逃げるように飛んで行って……まさかこんな事になるなんて」
わなわなと震える彼女に僕は嫌な予感がした。
なのでこっそり立ち上がり逃げ様とするけれどそこで、
「たかだか人間の貴方が吸血鬼の貴族である私から逃げられると思っているのかしら」
「吸血鬼?」
どうやら異世界ではそんなものも普通に生活しているらしい。
そう僕が思っているとそこでレイアが僕の手を掴み、
「逃げましょう、吸血鬼は執念深くて面倒くさいです。収集癖がありますし」
「え、えっと、うん」
そう小さく囁いて逃げようとする僕達だけれど、すぐ側に大きな影が走り、目の前に先ほどの吸血鬼が現れ、
「逃すと思っているの? 私は絶対にその本がほしいの。だからせめて貴方が私に勝つくらいの力を見せてくれないと……ねっ?」
そこで吸血鬼の少女、エイダの手に炎が灯る。
炎には水が効くだろうけれどそれの魔法を使うための道具は僕はまだ持っていなくて……。
「氷よ、結晶となり我が盾となれ」
そんな杖を掲げるレイアの姿が僕の瞳に映り、そして氷の壁が現れたのだった。
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