戦国異伝
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第二百二十四話 帝との話その七
「ここまですれば相手は煽られ動くにしても浮き足立ち」
「その姿を見せますか」
「少しにしても、そしてその相手を見極め」
「そのうえで、ですね」
「討ちます」
まさにだ、その者達をというのだ。
「そうします」
「そうですか、では」
「お任せ頂けますか」
「この天下のことは右大臣に任せます」
即ち織田家にというのだ。
「ですから」
「左様ですか、それでは」
「思う存分動くのです、闇の者達が蠢き天下を乱そうとしているのなら」
「その天下をですな」
「護るのです」
そしてその為にというのだ。
「右大臣に全ての権を授けます」
「さすれば」
信長は帝のお言葉に深々と頭を下げた、そしてだった。
この上洛と参内の直後にだ、信長は朝廷からの征夷大将軍、関白、太政大臣等の官位役職の申し出を断り。
そのうえで右大臣の官位を辞退した、このことには。
天下の誰もが驚いた、それは織田家の家臣達も同じで。
「殿は一体どうお考えじゃ」
「何を考えておられる」
「全ての官位役職の申し出辞退されるとは思っていたが」
「まさか右大臣の官位を辞められるとは」
「これは一体」
「どういうことなのか」
誰もがいぶかしんだ、だが。
信長だけは平然と笑ってだ、こう言うのだった。
「そのうちわかる」
「左様ですか」
「そのうち、ですか」
「殿のこの度のことが」
「わかると」
「見ておるのじゃ」
それでこうも言うのだった。
「ここはな」
「はい、それでは」
「その様にさせてもらいます」
「今は」
「そうしてですな」
「わしは意味のないことはせぬからな」
家臣達にこうも言うのだった。
「だからな」
「そうですな、殿ならば」
「そうしたことはされませぬ」
「ではこの度のことも」
「必ずやですな」
「我等もわかる日が来ますな」
「そうじゃ、見ておるのじゃ」
信長は家臣達に笑って言う、彼等はこれで落ち着き騒ぐことはなくなった。だがそれでもだった。天下は騒ぎ。
闇の者達もだ、その闇の中で言うのだった。
「一体どういうことだ」
「織田信長、何を考えておる」
「自ら無位無冠になるとは」
「どういうつもりじゃ」
「天下人が無位無冠になるとは」
「わからぬ」
「全くじゃ」
こう言ってだ、彼等はいぶかしむのだった。
そしてだ、老人も言った。
「わからぬな」
「ですな、織田信長の考えが」
「自ら無位無冠になるとは」
「将軍にも関白にもなりませぬし」
「そちらもです」
「訳がわかりませぬ」
「全くじゃ」
老人の声はまた言った。
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