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戦国異伝

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第二百二十四話 帝との話その八

「わしもな」
「この度のことはですな」
「何もかもが」
「理解出来ませぬな」
「この度のことは」
「織田信長がわからぬ様になった」
 全く以てというのだった、老人も。
「これはな」
「確かに」
「これは一体」
「あの者は今度は何を考えておるのか」
「わかりませぬな」
「理解出来ませぬ」
 他の者達も言うのだった。
「このことは」
「織田信長、どういうつもりか」
「将軍にも関白にもならぬとは」
「しかも無位無冠になるとは」
「天下人がそうなるとは」
「何もわかりませぬ」
「わしもじゃ」
 老人がまた言った。
「織田信長がわからん様になった」
「若しやですが」
 ここでだ、一人が言って来た。
「織田信長は気付いたのでは」
「我等のことにか」
「はい、そしてです」
「無位無冠になったりしたのか」
「そうではないでしょうか」
「そうなのか、ではな」
 老人はその者の言葉を聞いて言った。
「急ぐ必要があるやもな」
「そう思われますか」
「時間をかけて毒の花の実を撒いてな」
「そしてそのうえで」
「毒の花を広く咲かせるつもりじゃったが」
「それが出来なくなりましたか」
「織田信長が気付いていればじゃ」
 自分達にだ、それならというのだ。
「急がねばならん」
「急いで、ですな」
「そしてじゃ」
「そのうえで」
「うむ、この国をな」
「闇で覆いそして」
「再び戦乱の世にする為に」
 まさにだ、その為にというのだ。
「織田信長とその周りに毒を撒かねばならんか」
「毒の花を咲かせるのではなく」
「毒そのものを撒くのですな」
「種を撒くことからはじめずに」
「そうしますか」
「その必要があるやも知れぬ」
 難しい声であった。
「織田信長、思ったよりもさらに切れる男か」
「ですか、思えばです」
「松永めが思ったより早く戦を終えてしまいました」
「何故あそこで自害なぞしたのか」
「その必要もなかったというのに」
 ここでだ、松永の名前が口惜しげに出た。
「もう少し粘っていれば」
「我等が織田の軍勢の後ろで兵を挙げ挟み撃ちに出来たというのに」
「そして都も手に入れ」
「天下も乱せたというのに」
「何故兵を収めたのか」
「そして自害したのか」
「あれはわしもわからぬ」
 老人の声も忌々しげに言った。
「あそこであ奴が戦を終えるとは思わなかったわ」
「ようやく挙兵したと思えば」
「すぐにあれですから」
「しかも自害もして」
「死ぬ必要があったのか」
「全く以てわかりませぬ」
「まことに」
「しかも家臣達もじゃ」
 松永の家臣達もというのだ。 
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