ローゼンリッター回想録 ~血塗られた薔薇と青春~
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第6章 アルレスハイム星域会戦 後篇 ~真実~
宇宙歴792年 2月 同盟軍 アルレスハム星域会戦 快勝す
というのが同盟軍史に残るアルレスハイム星域会戦の事実であるが、これには続きがあった。
艦隊戦は「七面鳥撃ち」と呼ばれるほどの大勝をし、陸戦部隊もコーゼル少将を捕獲し満足のいくものこの上なかったがローゼンリッターの中は静まり返っていた。
「ふざけるな!」
私の目の前にいる連隊長 ヴァーンシェッフェ大佐が書類を投げ飛ばしわれわれ6人の前で怒鳴り散らした。
その書類には第2艦隊憲兵隊の報告書が入っている。それは
「捕虜虐待について」
という題名から始まっている。
それによると…
「コーゼル少将は正式な降伏を申し渡したのにもかかわらず一人の同盟軍中尉に膝を撃たれた挙句に、右手をふみつぶされた・・・・・・」
とある。
大佐は
「貴様らこのことがどういうことかわかってるのか!
特にシュナイダー中尉! 貴様だ!!」
私はこの事案が上がった時点で提出済みであった報告書を基に第2艦隊司令部に反論に出たがどうやら通じなかったようだった。
どうやら、第2艦隊憲兵隊に握りつぶされたようだ。
私は
「事実は報告書で申し上げた通りです。」
すると大佐は
「もう良い!
君!シュナイダー中尉を逮捕しろ!」
と部屋の隅に立っていた憲兵隊の少尉に命令した。
その少尉はつかつかと私に歩み寄り
「シュナイダー中尉。
命令により逮捕させていただきます。」
と言って私に手錠をはめ連行しようとした。
私は反論できる絶対的な自信があった。
というのも、この事案が上がった時にアーロン大尉がヘッドカメラでその一部始終を録画しておりそれを出せば十分すぎるほどの証拠となりえたからである。
アーロン大尉はハンドサインで
「安心しろ。後で向かいに行ってやる。」
と送ってきた。私はウィンクで返した。
第2艦隊司令部へ移送されるシャトルに乗っている間、私の隣に座っている少尉の顔を見るとどこかで見たことのあるやつであるな、と思ったらそいつは士官学校同期主席卒業のアンドリュー・フォーク少尉であった。
理論、戦術論はこの上なくよく理解していていたが戦技特に白兵戦技は学年でも下位であった。
そんなやつが憲兵隊でよく勤まるな。
なんて思いながら第2艦隊旗艦バトロクスに移動した。
私は2日間第2艦隊憲兵隊取調室に拘束されていた。
そんな3日目の午前3時
私は、その時取調室の仮設ベッドの上で寝っころがりながら本を読んでいた。
いきなり、
「ゴン!」
という何かが艦船に衝突する音が聞こえた。
それもかなりの衝撃波であった。
シャトルか何かの衝突事故か何かだろうと思い、そのまま寝っころがって本を読んでいたがその衝突音から3分後くらいに
「我が艦に敵の強襲揚陸艇が強行接舷した!
ただちにB第4ブロックに迎撃要員は迎撃に迎え!
繰り返す…」
というオペレーターの焦りに焦った叫び声が響いた。
さすがに、のんきなことは言えなかったのでドアの小窓から外にいる警備兵に
「おい、君!
ここから出せ! 奴らを止められるのはローゼンリッターくらいだ。
死にたくなかったら、俺の言うことに従え!」
そこに突っ立っていたのは19歳前後の1等兵で手ががちがちに震えていた。
しかし、彼は震える声で
「私には、この扉を開ける権限がございません!」
と拒否してきたのだ。
「死にたくないだろ?!
ここを開ければ助かるんだ!
開けろ!」
といった瞬間。 彼は頭を打たれてその場に倒れた。
帝国軍がすぐそこまで迫っていたのだ。
扉を突き破らなくては自分もこんなところで殺されるか、捕虜になるに違いない
と思い、部屋の中を見回してみる。
机、椅子、PC、仮設ベッドだけしかない。
机の柄の部分で扉を思いっきり叩き割ろうか? などと考えていたが外では銃撃戦の音ののちに装甲服の足部分が床にあたる音が私のいた部屋の前で止まった!
よくよく耳を澄ませると帝国語で
「コーゼル少将はこの部屋にいるかもしれん。
とりあえずここを突き破ろう。」
という恐ろしい内容が聞こえてきたのだ!!
カチカチという爆薬をセットする音が扉の奥で響く。
外では
「爆破準備完了!」
「爆破せよ!」
「了解!
爆破3秒前! 3,2,1爆破!」
「バーン!」
扉が内側に吹き飛んだ!
扉の側面ちょっと奥にいた私はテーブルの柄をへし折ってとがった棒状のものを握って扉の破片をまともに浴びながら爆風を受けた。
すると、見慣れた銀色の筒が飛んできた!
フラッシュパンだった。
それも私の目の前に。
私は衝動的にそいつを外に蹴り上げた!
そして、それはどこかにあたって人の背丈くらいまで上昇して、最高点を過ぎるかすぎないかの高さで爆発した!
「バン!」
辺りが閃光に包まれたみたいだ。
私は目を隠してそれから自分を守ったが、外にいた装甲擲弾兵たちはとっさのことで何にも出来なかったようだった。
私は、瞬時に部屋から出て、耳鳴りのする中何が起きたかよくわからずにうずくまっている装甲擲弾兵の首元の非装甲化されている可動域にさっきのテーブルの柄を突き刺した。
たちまち、返り血を浴びたが、そいつからコンバットナイフを抜き取るなり近くにいたもう一人に向かって投げ首元に命中。
ブルームハルト中尉から投げナイフ術を教わった甲斐があった。
そして、トマホークを拾い上げ残りの7人と白兵戦になった。
一人の擲弾装甲兵がとびかかるが抜き胴で殺害。
前後で2人が一気にかかってくるが前方の一人の目をやりでつぶし、後ろのやつを頭部を切り裂く。
目をやられた奴にとどめを刺す。
残りは4人。ヘンシェルに比べれば楽勝だった。
敵は動揺している。
こっちから襲い掛かるほうが早い。
私は思いっきり間合いを詰めて軍曹の階級章のついた奴と中尉の階級章を付けた奴をいっぺんに片づけた。
残るは2人。
上段の構えで間合を狂わせる。
敵の一人が槍で突く!しかし、近すぎる!
かわして、そいつの脳天へトマホークを振り下ろす!
残るは1人。
動揺はしてるが逃げ出そうとしない。
右腕の部隊章を見る。
「第91特殊強襲揚陸群」
この部隊は帝国軍では5つしかない特殊強襲揚陸群の一つで私の亡き父が少佐の時に指揮官を務めた部隊だった。
私は上段の構えのまま動かない。
相手の伍長も下段の構えのまま動かない。
すると、向こうから
「貴官はローゼンリッターだな?
われわれは捨て駒だから、最後の最後で面白くなりそうだ!」
と言って飛び込んできた!
一瞬の気のゆるみだった。この伍長はローゼンリッター並みの速さで間合を詰め私の腹部へ槍を突き立てようとした。
すべてがスローモーションに見えた。
しかし、シェーンコップ中佐から教わったことがよみがえる。
帝国軍のトマホークは両刃。
つまりどっちにもひっかけれるだけのスペースがある。
それを利用する。ということを我々は教わっていたのだ。
私はすぐさま上段から振り下ろして柄の部分と伍長のトマホークを絡めた。
そのまま槍の進路が外れる。しかし、何十キロもある装甲服が腹部に直撃する。
胃の中身が一気に出てきそうだった。
しかし、思いっきり腹に力を入れた。
そして、両者とも同時に床に倒れこむ。
私は、さっき投げ飛ばしたナイフを死体から抜きとりその伍長に飛びかかって馬乗り状態から思いっきりのど元に突き刺した。
すると彼は
「へっ。ほんとに最後の戦いになっちまった。・・・・
でも楽しかったぜ。ありがと」
と血でせき込みながらそう言いながら息を引き取った。
私は立ち上がって、コーゼル少将が拘留されている独房へ直進した。
3分後そこに到着したがそこには無数の憲兵隊員の死体と腹部から血を流して倒れているコーゼル少将だけであった。
どうやら、処刑形式で腹部を撃たれたようだ。
私は、少将に近づくなり帝国語で
「何があったか話していただこう。コーゼル閣下」
すると少将は朦朧とした意識の中でうわごとのような言葉を口走った
「私は帝国軍にはめられた…」
とそれを何回も繰り返すばかりで
手の付けようがなかった。しかし、彼は最期に私の注意を引くのに十分すぎるほどのことをしゃべったのだ!
「エルビィン准将許せ」
と。
私は、すぐに少将の肩に掴み掛り
「どういうことだ!
何が済まないんだ!?
教えろ!」
といったが、時すでに遅し。少将はこと切れていた。
そこに艦隊陸戦警備隊がなだれ込んできた。
しかし、彼らに事情を説明するなり彼らの指揮官であった女性少尉は
「ご協力感謝いたします。
後処理はわれわれのほうでさせていただきます。中尉はパエッタ中将がお呼びですので艦橋へお急ぎください。」
と言って、きれいな敬礼をするとその女性少尉はテキパキと指示を下し始めた。
なかなかいい指揮官だ。指示も的確、自分も指示しつつ処理をこなす。
なんて思いながら、血だらけの軍服を着、帝国軍のA-12型トマホークを持って艦橋へ赴いた。
中将は私の服装や持ち物を見て唖然としていたが中将が
「このたびはご苦労。
そして貴官には大変申し訳のないことをした。
許せ。」
といろんな謝罪の言葉を並べていたが、結局中将が言いたかったのは「自分は悪くない。憲兵隊がコーゼル少将の告発をうのみにしただけだ。」
そして、
「今回の件:私の拘束の件と強襲揚陸事件はなかったことにしてくれ。」
だそうだ。
一瞬トマホークで切りかかりたくなったが、衝動を抑えて
敬礼をして
「シュナイダー中尉了解しました!
では、私はこれにてローゼンリッターのもとに帰らせていただきますがよろしいでしょうか?」
中将は
「今回の強襲揚陸事件はシャトルの事故としてあるため、シャトルは飛ばせない。
なので、ハイネセンまでは本艦にとどまってくれ。」
たぶん、艦隊旗艦に強襲揚陸されたことを隠したいだけであろう。しかし、
「了解しました。」
すると中将は
「よろしい。」と言って私の後ろにいつの間にか立っていた先ほどの女性少尉に
「イブリン少尉。中尉をあいてる部屋に連れてってやってくれ。」
イブリン少尉は敬礼をして
「了解しました!」
と言って「中尉こちらです。」と私を案内してくれた。
途中でいろんな話をしているうちにこの強襲揚陸事件の概要がつかめてきた。
このイブリン・ドールトン少尉について軽く説明しておこう。
彼女は一般兵として戦艦のオペレーターとして勤務し、戦術管制専科学校を最年少で卒業して、宇宙空母「アムルタート」の戦術管制官として勤務してから宇宙歴791年に第3幹部養成所を卒業し第2艦隊旗艦の近接防御管制官として勤めていた。
なかなか優秀な士官であった。
彼女の話によると
「隕石群が付近を通過する予定。」
という情報が流れた。そしてそののちに予測された時間きっかりに確かに隕石群は通過したもののあらかじめルートを少しながら変更していたために問題はなかったが結構近かったそうだ。
そして、そのうち数個があまりにも近くに接近したため少尉の管制下にある近接防御銃座群は即座に彼女の指揮下で銃撃を開始しこれを破壊したが、他方向からの隕石がまっすぐにこちらに向かてきたそうだ。
そして、それが隕石じゃなくて帝国軍の強襲揚陸艇であったと気が付いたのは自動防御システムの警告音が鳴ってからであった。
イブリン少尉の撃破した隕石は実際に強襲揚陸艇であったそうで、他のもそうであったそうだ。
自動防御システムのおかげで突入してきた5艇のうち4艇は破壊したが残る1艇は強襲揚陸に成功したそうだ。
少尉は陸戦警備隊を呼び寄せ侵入した2個小隊の排除に乗り出したが、1個小隊が逃亡に成功しコーゼル少将のもとに向かってしまった。
そのうちの1個分隊を撃滅したのがどうやら私であったようだ。
そして、残る1個分隊が例の謎の処刑で少将を殺害したのちに少尉の指揮下の部隊に包囲され戦死または自決を遂げたそうだ。
さらに少尉はコーゼル少将のことについても教えてくれた。
コーゼル少将は同盟への亡命を条件に今後3年間の帝国の軍事情報を提供した。
しかし、彼はそのほかのことも話し始めた。
宮廷での貴族の争い、軍の派閥争いなどなどであったがその中に私が興味を持たさざるを得ない内容があったのだ。
それは、「エルビィン・フォン・シュナイダー准将」についてであった。
父と少将は士官学校の同期生であったそうで、互いに切磋琢磨する親友であったそうだ。
しかし、父が反逆罪をかけられたとき少将は大佐で情報部に勤務していた。
少将は情報部でフェザーン方面から同盟に入る時の航路情報の一切を取り仕切っていたそうだ。
あるとき、当時の情報部長官エルマイン・フォン・シュタインマルク大将に呼び出され
「フェザーンから同盟に入る全航路のうち旧型の駆逐艦を改造して作った高速輸送船の航路情報をよこせ。」
という命令であった。しかし。少将はエルビィン准将が反逆罪で捕らわれ、しかも少将を頼って私の叔父ケーニッヒ中佐がどういった船舶で亡命するのかを知っていたため、誤った情報を上告した。
しかも、エルマイン大将から言われた高速船舶はその1か月間でフェザーン経路を通るのはケーニッヒ中佐たちの亡命行のみで発見するのは容易であったのだ。
しかし、大将はその情報が誤りということを見破ってしまったのだった。
そして、少将に
「次、このようなことがあったら貴官を奴と同じ目に合わせるぞ。」
と、脅迫したそうである。
出来る限りの遅滞行動をしたものの、少将は正確な情報を渡さざるを得なかったのであった。
結果として、母は死に、名前も顔も知らない兄は捕虜になり、叔父は死にかけた。
怒りが込み上げてくると同時に、コーゼル少将の救出がもっと早ければという後悔の念がわいてくるしかなかった。
コーゼル少将はいくつかの重要情報を同盟軍にもたらしたが、口封じのために殺害された。
もっと重大な情報を持っていたのではないか?そして、私の最大の謎、なぜ父は消されたのか?そして、私の兄はどこに行ったのか?
自分の未熟さにただただ、ぶつける当てのない空虚感を抱くだけであった。
そして、宇宙歴792年3月1日 われわれはハイネセンへ凱旋帰国したのであった。
また、私は第2級殊勲章、ハイネセン記念勲功勲章、アルレスハイム星域会戦従軍章を受勲し「コーゼル少将捕獲作戦」にかかわった約200名の将兵に個人感状が贈られた。
しかし、私はそんなものよりもこの手で実感したい人がいた。ニコールである。
帰国した瞬間にその場で勲章授与式だったのでニコールにはすぐに会えなかったが
勲章授与式が終わった瞬間にニコールを探した。
しばらくするとニコールを見つけた!
ニコールのほうが一瞬早かったようだ。人ごみをかき分けてニコールに接近する。
「エーリッヒ!」
と言って、いきなりニコールは抱きついてきた。
そのまま30分くらいニコールは抱きついて離れなかった。
その間ずーと泣きながらニコールは話していた。
私は
「さ、いい加減泣き止まないと美人が台無しだぞ。
ニコール。」
ニコールは
「だって、いつもいつも心配で…」
そんな調子で泣き止んだニコールと一緒に私はその場を離れた。
おそらく半年後までは第4艦隊に出撃命令はくだらないと思っていたし、今回のアルレスハイム迎撃艦隊の第2,4,7艦隊には1か月の休養が命令されていた。1か月休めば消耗した兵力の補充と通常訓練も考えたら半年は余裕と思ったゆえのことであった。
その時は。
そう、そんな静寂はたったの3か月しか続かなかったのだった。
それでも、この出撃後の休養1か月はニコールとの時間を大切にしていた。
宇宙歴792年 3月1日 あまりにも短い暖かい春が始まった。
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