寄生捕喰者とツインテール
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偽りある “衝動” の大火
前書き
ああ、バトルが書きやすいのなんのって……
では、本編をどうぞ。
轟音を立てて岩と瓦礫が砕け散って、四方八方へ無造作に飛散してゆく中、グラトニーと “腕” のエレメリアンは更なる戦闘を続けている。
「ヤアアッ!」
「〔ジョオオオオ!〕」
柿色の弾丸が雨の如く降り注ぐ中で、グラトニーは風で加速させた左腕を打ち込み、“腕”のエレメリアンがそれを片腕で防御して、地面を掴むと強引に前へと進んでくる。
泥の上を滑りながら両腕で殴りかかってくる攻撃を、グラトニーも威力では無く妨害の重視した風の弾丸と、小回りの利く右腕で応戦してダメージを最小限に抑えていく。
密着されぬよう風を使い、後ろへとダッシュする事も忘れない。
「《ブレーク=リボルバー》!」
「へ?」
徐に地面を叩きつけたが何の反応も無い。
「!? ……わあっ!?」
―――と油断したのも束の間、地面から六つの岩壁が勢いよくせり上がり、グラトニーを上空へと弾きあげた。
「〔ジョオオオア! ジョオオア! ジョオアアアア!!〕」
“腕” のエレメリアンはそれを逃さずとばかりに、すぐさま岩壁を掴みネジ切るよう砕いて投げ付けてくる。
地表から上空めがけて “降り注ぐ” かの様に殺到する岩石群を、グラトニーは小動物の如き身軽さで足場代わりにし、目標を狂わせながら回避し続ける。
当然と言うべきか、それは長く続かない。
「《ブレーク=ショット》!!」
『でけぇし二つ来ンゾ! 油断すんな相棒!』
「ん! おーけい……!」
一際大きな岩をぶん殴って砕ける『瞬間』に固定。
拳の威力と速さにより生じる重さ、そして強化能力でさらに威力を上乗せし、ジェット機とも聞き紛う騒音を持って “ソレら” は飛んでくる。
ラースからの忠告でグラトニーは一瞬動きを止めてから、足場代わりの岩礫を砕き上空へ跳ぶ。一射目の柿色の岩塊が舌を通り過ぎ、周りの弾幕達を砂や礫に変えていく。
一回転して勢いを殺したグラトニーを見ると、既に左腕の吸気口は開いており、空気をより一層取り込んでいた。
意識を向けたと同時、間髪を入れずに二射が寄り騒がしい音を立て、彼女目がけてぶっ飛んでくる。
「《風砲暴》!」
適正距離とチャージ分が上回って功を奏し、岩の軍勢は無数の不揃いな石へと姿を変えた。
「〔ジョオハアッ!!〕」
「!」
またも降り注ぐ石作りの瓦礫を前に、ミニガンでも持ちこんだか重苦しい風切り音が断続的に響く。
そしてまた、これまで幾度となく見てきた柿色のエネルギーで覆われる瓦礫が、グラトニーへと狙いを定めて何度も何度も飛んでくる。
片手でバック転しそこから両手へ、両手でバック転し速点と同時に空気を噴出、グラトニーは全弾を掠らせずに躱した。
見えずとも不発を悟った“腕” のエレメリアンは、一度腕を振るわせ体を縮込める。
……瞬間、柔らかい筈の『泥地から』硬質的な響きが広がった。
「ジョオオアァァァ―――《ブレーク=ライフル》!」
「えっと……あっち、いやこっち……あ、まって……!」
このまま遠距離戦や、下手な近接戦闘を続けても負けるのは確実と見たか、『固定』して威力と硬度を高めた左腕を軽く曲げた。
そして自由に動く右腕を使い、“腕” のエレメリアンは柿色の光芒を引きながら、広い筈の泥地を室内かの如く所狭しと跳ねまわる。
この前見せた奥の手と同義の技だが、威力に速度に精度共に上昇しているのが見て取れた。
グラトニーも目で追えてはいるが、反射だけなら兎も角と右腕の打撃による不規則な軌道が邪魔し、思う様に軌道をつかめずにいた。
『ああモウ! ちょこまか跳ねまわりやがッテ!!』
ラースからも我慢できないと苛立ちの声が上がる。
より強力な単純感情種が出て来てしまった以上、彼等にとってこんな所で時間を食っている場合では無いのだが、しかしその思いから余計な焦りを生んでしまう。
ラースはまだいい方だが思考が幼くなっているグラトニーは、本来の実力を出せずにいた。
『ええい相棒一旦落ちツケ! 焦ったら焦る分だけ時間を浪費しちマウ! 一旦心を鎮めンダ!』
「で、でも……人、食べられちゃやだ……!」
『わーっテル! その為に落ち付けってンダ!! 向こうでも足止めしてくれてんダヨ!』
「……レッド達……! う、うん!」
焦燥ばかりが募る中でも、相棒であるラースの言葉だからか、深呼吸し始めるグラトニー。
何よりテイルレッドやブルー、イエローのいるツインテイルズが居るのだから、すぐには被害が出ない事を理解できたらしい。
彼女達が持っている間にケリを付けようと、大きく息を吐いてからグラトニーは敵を見据えた。
「〔ジョッハアアアッ!〕
「うばっ!!」
『立ち止まる奴があるカァ!?』
そして出来てしまった隙を逃さず、柿色のエネルギーを纏って回転するエレメリアンの腕が、見事彼女へヒットし遠くへと吹っ飛ばした。
先の苛立ちからの悪循環ではあるが、逆に頭は冷えたかグラトニーは少しばかり落ち着いている。
“腕” のエレメリアンの胸に刻まれる、深手に値する斬り傷はあるのだ。
『言いかよく聞ケ―――――ダ、分かっタナ?』
「わかったよ……りょーかい」
『よっシャ! やってやリナ!』
ラースから作戦をスーパーボールもかくやと跳ねまわる “腕” のエレメリアンを、グラトニーは敢えて見ようとはせず目を閉じた。
左腕と右足の吸気口は開いたままに、グラトニーは舌を向いて猫背になり、その場に立ち続ける。
“腕” のエレメリアンが通る度に風が猛り狂い、柿色の光源が幾つも尾を引き、徐々に加速していくその敵を、普通は目でなどとても負えない。
「っ!」
何も変わらぬ状況の中でグラトニーはいきなりカッ! と目を見開き、腕と脚から爆風を巻き起こした。
その勢いは凄まじく、吹き上げられた泥は光を遮り雲一つ無い快晴を塗りつぶして、その人為的な嵐は台風でも来たかと錯覚させる。
しかし形状の内風の根元、そこ以外は紫色では無い……即ち『属性力』の含まれない単なる風で有り、攻撃になどならない筈。
「〔ジョ!?〕」
そう―――攻撃 “には” 到底なりえない。
だが、右腕と胴体を使った不規則な動きを再現する為に、体までは『固定』出来ない事を利用し……“空中での”勢いを落とす事にはなりえるのだ。
幾ら左手が『固定』されていても、投げられてくる岩とは違い攻撃可能なのは “左腕” のみ。
結果、“腕” のエレメリアンの速度が落ち、その体を投げ出さざるを得ない。
「そこだっ!」
「〔ジョオオオオッ!?〕」
一瞬周囲無差別に吹かせた嵐を、今度は “腕” のエレメリアンへと一点集中して放ち、空中へ巻き上げて無防備な状態を晒させた。
チャンスは逃さない―――グラトニーは腕の吸気口を限界まで開き、足からのエアージェットにより戦闘機もかくやのスピードにて空中へと躍りでる。
そのまま繰り出すは左手では無い。まだ溜めるとばかりに右足を振り上げた。
「《風刃松濤》――――― “ニ連” !!」
発射口が定められていない特性を活かし、振り上げから振り降ろしにつなげて二つのカマイタチを射出した。
一発こそ “腕” のエレメリアンの右腕で防がれるが、同時に打ち上げられた事で二発目が胸をより深く抉った。
その傷からは見た目に表すかのように、異色なる血が吹き出て来る。
……されど、ここで“腕”のエレメリアンは奇妙な動きを見せた。
「〔ジョゴッハアアア……ジョオオオアアアア!!〕」
「……! 何を……」
逃げるつもりなのか空間に黒い穴をあけた “腕” のエレメリアンだが、この距離ではグラトニーの攻撃の方が早く、加えて穴のサイズも少し足りない。
ならば何をする気なのか? ―――――その答えは数秒と経たず “姿” を現した。
「鉄柱……!?」
『しまってやがったノカ……!』
名のある由緒正しき古代神殿の、鉄造りにも似た質感たる巨大な柱が。
即ちこれから起こす動作は……ただ一つ。
「《ブレーク=……!!〕」
「くっ……《風砲―――」
『ストップだ相棒! 横に向ケロ!』
「!」
ラースからの唐突な発射停止が投げかけられた……相手の剛撃が発射されたのは、正にそれと同時のタイミングだった。
「《トレイン・キャノン》!!」
『よし、威力を押さえて発射ダァ!!』
「え……う、ああっ!!」
言われるがままに発動させた事で体は横に移動するが、向こうは既に小さい二つ目を用意している。これでは避けた意味など無いのではないか。
そう思いはじめる前に、ラースが次の言葉を紡いだ。
『左手で掴メ! 風を込めて思いっきリダ!』
「わかった……っ!」
視線だけは敵から外してなるものかと向けたまま、通り過ぎかける『ブレーク=トレイン・キャノン』を勢いに負けぬようにと必死に掴んだ。
「くうぅっ……うらあああぁぁ!!」
そこからは説明されなくとも理解しているのか、風による一時的な減速から、一気に加速させて大きな推進力を得、二発目めがけてぶん投げる。
果たして…………先の打ち合いの如く轟音を上げ、追撃の二射目が粉々になった。そのまま自分が放った一撃が己が腹に命中しソレは砕かれるも、更なる傷を負わせて “腕” のエレメリアンは吹き飛ばされる。
「〔ジョオオブゴハアアアオッ!?〕」
「今っ……ハアアアアッ!!」
左腕による前進と、体を捻る事による回転で、ジャイロボールの様にグラトニーは突貫。
ボシュッ……! と空気が抜けたような音が聞こえたかと思うと、彼女のすぐ目の前に内部で激しく渦を巻く『紫色の球体』が出現する。
回転の勢いそのままに足を一回振り抜けば―――――突撃時の猛回転の際に吸い込んだ空気と、今招き入れた高エネルギーが混ざりあい、右足が途轍もない力の奔流を宿していた。
「く、あああああぁぁぁ!」
此方の起こす行動も、また決まっている。
……猛烈な音を立てて振動する右脚にエレメーラと空気が集まり、血管が浮き出る程に筋力が高められた、そこから数秒と経たず殺意迸る目を向ける。
「《風刃松濤》オオオォォッ!!」
蹴りだけでも大気を切り裂かんばかりである、その一撃にて振り放たれし巨大なカマイタチは、 “腕” のエレメリアンの胸部を深く、ただ……より深く抉り斬り、
「〔ガブフウッ!!〕」
―――より一層高々に上がる異色の飛沫をまき散らし、見事なまでに体を真っ二つに割ってしまった。
それでもなけなしの防御を重ねたか、皮一枚で繋がり蝶番の如くパクパク蠢いている。……そこへ高速で迫る、爪を模したが如く曲げられる手を翳した、グラトニーの左腕。
無言で頭部を乱暴に掴み、慣らしか軽く縦にニ回転してから、三回転目に風による推進力を付ける。
「ウラアアアァァァッ!!」
「〔ジョボビギィィィィッ!!??〕」
鋭い指を突き立てた地面への投擲により、今度こそ “腕” のエレメリアンは真っ二つとなった。
広げた腕も相まってバレリーナの様にクルクル回りながら右斜めな半身が、レールでも敷いてあるのかまるで回転を見せない左斜め半身が、それぞれ別方向へ飛んで行く。
「う、ああぁぁああっ!!」
それでもまだグラトニーの攻撃は終わらない、いや終わらせない。
分かたれた半身の、頭部のある方めがけて地面に着地するや否や、未だ口を動かしている敵へとアイアンクロー。
握る手に力が込められた瞬間―――六本目の指が突き刺さり、一瞬で “腕” のエレメリアンの頭が三倍に膨れ上がる。
「……《握風科斗》……!」
「〔ジョオ―――〕
余りに地味な乾いた音が鳴り響き、“腕” のエレメリアンはまともな断末魔もあげられず―――頭部を握りつぶされた。
……不思議なまでに、先程までの災害にも似た大きな喧騒はピタリとやんで、辺りに不気味なまでの静寂を取り戻させていた。
『相棒、属性力を補給しトケ。終わったなら指定位置まで移動シロ』
「?」
『アイツの最後の抵抗って奴ダナ……何を貰っタカ、アイツクラスじゃあ出来ねえ筈ノ、ワープの邪魔をしてやガル……分かったらダッシュダゼ!』
「ん」
流れ出た靄を吸い込み、肉体へと喰らい付き、“腕” のエレメリアンが蓄えていたエネルギーを余すことなく自分の物へと変えて行く。
味わいもせずに即行でグラトニーは食事を終えると、斜め右後方へ振り向いて目を細め、その瞳に先程までと負けず劣らずの殺意を湛えて、遥か遠方を睨みつける。
「殺させない……私が、食べてやる……!」
その言葉を口にした直後、破裂音と共に彼女の体が掻き消えた。
・
・
・
・
・
ドロドロに溶けた鉄骨、真っ黒に焼け焦げたクレーター、太い塊から細い幾本の“何か”が生えている小さく不格好な “炭” ―――――ここが森の中にあった工場跡地だと言って、一体どれほどの人が信じるのだろうか。
断続的に鳴り響く爆発音と、残る緑を舐めるように焼いて行く炎が、この地をまるで別な物へと変貌させていた。
地形が大きく変わったのは、元々廃工場があった場所周辺に限られるが、それでも目まぐるしいという言葉でも足りない、目を疑う様な変化には違いない。
「Vājš, es vājš……」
「うわ、っわわ、わああっ!?」
「ちょ、危なっ……! うくっ!」
何処となく冷めた声色と、只管に慌てる高い声音。
ただ火焔の腕を振るい叩きつけているだけなのに、テイルレッドとテイルブルーにとってはその一撃一撃が、途轍もなく重い物に感じられる。
「《火猿腕》―――Vai AAK……!」
「「わああああっ!?」」
その攻撃は質量を持った火災の如し。見る間に雑草を焼き払うと極太の火柱が上がり、新たな黒いクレーターが穿たれた。
今放たれた一際大きな焔の腕は勿論の事、通常の攻撃でもテイルレッドの必殺技である『グランドブレイザー』に一歩劣るだけで、十二分に殺傷力を秘めた強力な攻撃だ。
もっと言うならただの攻撃が必殺技級と言う、とんでもない事実が目の前にて実際に繰り広げられている訳だが……。
「トゥアール! ワープは!?」
『駄目です! あのウージとかいうエレメリアンが吸い取っているのか、まったく機能しません!』
「ああもう! 少しぐらい妥協しなさいよ! 腹八分目とか無いのアイツ!!」
「ooo……!」
「ってまた来たあ!?」
今までの戦闘では通信の際幾ら隙が出来ようと、アルティメギルの者達が律儀に待っていてくれた事が災いし、巨体からは想像できないスピードで煌々と燃える大火の両掌が迫りくる。
「くぅっ!」
「はっ!」
体操選手の如く回転し身を翻して避ける二人だが……
「salds……《掌炎襲》」
「がっ!」
「きゃっ!?」
直前で輪郭が揺らいで、『巨大な炎の手』が炎腕の前に現れた事により、自発的な回転を攻撃で加速させられる羽目になる。
要らない火傷と打撲のオマケつきだ。
それでもダメージを我慢して何とか着地して見れば……又も振り下ろされた、爆炎の剛腕が眼前にあらわれる。
「あ、あ」
「……Flightless……《火猿腕》」
「うあああああっ!?」
「レッド!」
余りに鮮やかなガーネットの光を迸らせ、テイルレッドは爆破され砕け飛ぶ地面と共に、無残にも空中へと打ち上げられた。
追撃をさせてなるものかとテイルブルーは懐へ突貫、ウェイブランスを深く握り込むと、覚えたての槍術を精一杯駆使して刺突を次々入れいていく。
「はあッ! やっ! であっ!」
「……」
如何言った芸当なのかサイズの縮んだ炎の腕を穂先にぶつけ、青色の軌跡と残像が織りなすテイルブルーの連撃を確実に避け、そして隙あらば下から熱気を内包する蹴撃が迫りくる。
「ぐっ……おりゃあっ!」
「Huh……」
「こんのおおっ!」
血気盛んに攻め掛かり、格上相手に近距離で渡り合おうとせん気概を見せ、それでもテイルブルーとウージの実力の差は埋まらない。
右への突き、左への軽い払い、それを利用して更なる二連続の刺突。
そこから踏み込んで拳を打ち込み、槍で大きく払って回し蹴り。
攻撃させぬ為に例え拙くとも連続技を途切れさせないテイルブルー。だが、ウージは左腕で一旦弾き、右腕を振るって叩き落とそうとし、させるものかと槍が掲げられた……その瞬間に腕を肥大化させた。
「……」
「あ、ぐ―――うあああっ!?」
ギリギリ槍で防ぐ事が出来たお陰で怪我は軽いが、ウージに対して大きく距離が出来た。
だと言うのに、到底指すら届きそうもないそこすら、己の射程範囲だと言わんばかりに、彼は右拳を振りかぶる。
“まさか………!?” ―――と、テイルブルーの脳裏に嫌なモノが走る。
「《伸焔拳》……!」
「うそぉ……っ!?」
そのまさかだった。
進むにつれて段々段々と細くなるが、確実にテイルブルーの方へと火炎の拳が『伸びて』きたのだ。速度もそれなりでテイルレッドの援護は間に合わない。
テイルブルーは歯を食いしばり槍へとより力を込めて、技も減ったくれもなく腕力任せに槍で薙ぐ。
ガーネット色と青色の火花が飛び散り、重い衝撃がテイルブルーの腕へと一気に伝わってくる。落としそうになるのを懸命に堪えて、彼女は眼前の敵へと再度突撃した。
「やあああああっ!!」
「……」
「はああああっ!!」
「……」
ブルーのウェイブランスが当たるか当たらないか―――微妙な間を縫ってテイルレッドも突貫、タイミングをずらしてブレイザーブレイドを打ち込んだ。
それすらも両腕で受け止められるが、誤差が生じたからか若干ながらの怯みが生じる。
……彼女等が待っていたのは、正にその僅かな流れの撓みだった。
「「イエローッ!!」」
「ええ、了解しましたわ!」
「……!」
聞こえる筈の無い “彼女” の声、その言葉と同時に電撃を迸らせし弾丸が、雨霰の如くウージの身体へ降り注ぐ。
何とか健在である鉄骨の上……砲撃の主はそこに居た。
新たに加わった戦士、テイルイエローが。
「はあっ!」
更に連続で『ヴォルティックブラスター』の引き金を引き、ウージを力技で後退させて、テイルイエローはレッドとブルーへ声をかける。
「すみません……本当はもっと早く来ていたのですが、介入するタイミングが見つからず……」
「良いって事よ会長! 来てくれただけでもありがたいわ!」
「ああ! さっきのタイミングもナイス! 助かったぜ!」
テイルレッドとテイルブルー、先輩戦士二人の称賛とも激励とも取れる言葉で、テイルイエローの表情も少し和らいだ。
場の空気を読んだか数秒開けてから、トゥアールより通信が来る。
『エリナさん! 見ていたのだし分かっているとは思いますが、敵は単純感情種! 能力は恐らく【物理攻撃のできる炎を操る】ものだと思われます!
ただ例外無く腕の形から変わっていませんので、奇妙な搦め手は距離や幅のみにとどまりますよ!』
「ええ、中々に強敵そうですわね……」
「倒すなんて選択肢は省いた方がよさそうね」
『当たり前です! 防御に重点を置き、強力な一撃を入れて怯ませ、グラトニーちゃんが来てくれるまで耐える! コレが最善の策です!』
「耐えるっつっても……そこそこキツイんだけどな……!」
戦闘の続行自体は可能そうであるが、テイルレッドもテイルブルーも武器による攻撃が主体な所為で、それなりにダメージを負ってしまっていた。
今健在なのはテイルイエロー一人であり、遠距離特化の彼女の砲撃を主軸に行きたい所である。
「Huh…………tas bija jauki……」
顔面にぶち込んで尚、普通に立って歩いてくるウージが実力の開きを嫌と言うほど思い知らせてくるが、ここでひるんでは余計に事態を悪化させるだけ。
それをこの場に居る全員は承知しており、レッドは剣を、ブルーは槍を、イエローは銃をそれぞれ構えなおし、ウージを正面から睨み据える。
……どちらからともなく、戦闘は突発的に再開された。
「りゃあああっ! おらおらおら!」
「……」
低身長から繰り出されし破壊力満点の火炎剣を回避しつつ、遠くから飛んでくる雷弾を叩き落す。
下段の斬撃を踏みつけ両手を組み、飛来する銃弾を蹴散らしながらレッドの頭を打ちすえようとする。
しかし、そうはさせぬと上段めがけてブルーの槍撃が幾度となく突きこまれる。
赤き線の斬切に、青き点の刺突、そして黄色い面の弾丸が、美しい三色の光芒を引いて迫り、ガーネット色の火粉と炎光がそれらを上塗り撃ち消していく。
かと思えば色の三現象たる彼女等の攻撃が吹き返し、瞬く間にガーネットの大炎へと変えられていく。
一歩も引かぬ攻防が、三対一で繰り広げられていた。
「このっ! このっ!! このおっ!!」
「おりゃあっ! でらあっ!」
「……」
剣が大ぶりになれば槍が入り込み、突き込み過ぎれば刃が振るわれ、お互いの隙間をお互いで埋めて行く。
幼馴染だからこその息の合った連携プレイだ。
「やっ!」
「……!」
そして唸りを上げ飛び交う雷弾の援護も合わさって、それによりウージに食らいつく事が出来ている。
より大きな弾丸……否ミサイルが命中したのを見やり、チャンスとばかりに二人の武器の軌道が上下に分かたれ一致した。
実に鮮やかな二色の尾を引く、細腕に似合わぬ剛撃が空気ごと切り裂いてくる。
「「もう一発だっ!」」
「……!」
これもウージの掌底により正面から弾かれるが、二人同時にバラバラに飛びのき、爆破弾にレーザーに斬撃弾にミサイルが又も一斉発射されて、ウージの顔面にて炸裂。
敵の追撃は出来ずに終わる。
初戦闘のテイルイエローも、今はヒーロー的な展開よりも効率に連携を重視し、的確な援護を行えていた。
『ここにコレを入れてって……よし、こうすれば……瞬間的ならギリギリで使えます……!』
通信器越しにトゥアールが何やら準備をしており、如何やら込められるギリギリの属性力を行使して、来るかもしれない緊急事態に対しての策を用意しているらしい。
優秀なサポーターがいるからこそ、攻めに徹する事が出来るのかもしれない。
……だが、向こうも猛者。このまま押し切れる筈もなかった。
「おりゃあっ! ……は? うぶっ!」
「え? うわっ! ―――ってうがっ!?」
「レッド! ブルー!」
タイミング良く連携攻撃を何度も仕掛けていた最中、ウージの腕が少々細くなったかと思うと、気のせいかと思う程突然に『腕が生え』、思わぬ二段攻撃を受けてテイルレッドが距離を取らされる。
引っかかってなるものかと新たな搦め手にも慌てなかったブルーだが、右腕の肘関節が『右方向』に曲がり、異様な裏拳で此方も吹き飛ばされた。
炎を操ると言っても形そのものは、腕の状態に随時固定されている。
……のだが、腕の形状に限ると言う事は、例え人間としては有り得無くとも、関節の向きをかえたり生やしたりは可能なのだろう。
現に、本人の攻撃で実証しているのだから。
「よし! 気合い入れ直し―――っ!?」
相手も本気を出して来たかと褌をしめなおした―――刹那、ウージが突進して振り下ろすまで、テイルブルーは碌な反応が出来ず殴られた。
「ブ、ブルーーーッ!」
「先よりも速度が……!? ―――ッ! このっ!」
慌ててテイルイエローが援護するも、今まで弾いていた攻撃を何と柳の様な動きで避け、挑みかかってくるテイルレッドを脚刀にて蹴り飛ばし、水平な軌道でテイルブルーにぶち当てる。
「うぐぅ……!? ……くそ! やっぱ本気じゃなかったのかよ!」
「ぬぐ……ああもう! さっきまでだってギリギリだってのに……!」
よく見ると本気になったと言うのは比喩表現では無いらしく、今まで単なる宝石作りにしか見えなかった仮面や脚から、陽炎の様な揺らぎが見て取れる。
炎もより一層強さを増して煌々と燃えあがり、度々吹く風が熱風となってテイルレッド達の頬を焼いて行く。
それでも尚……名前にもなっていると言うのに、属性力を奪われる前の始めこそ機能していた、各語翻訳機器を介して知った“衝動” と言う言葉とは無縁とでも言わんばかりに、当人自体の放つ空気は冷たいモノだった。
「'Ll Ļaujiet gremdēšana……」
「来たっ!」
テイルレッドが裏拳の要領で打ち込まれる左腕を受け止めようと、剣を掲げた瞬間に関節があらぬ方へ曲がり、頭部を殴打されて声もあげられず宙を舞う。
彼女へ狙いを定めたかテイルブルーへとより強力なソバットを叩き込んで、地面を砕く威力で跳躍して追いついた。
攻勢に出るウージと応戦するテイルレッド、大刃と鈍器交える異質な音が響き渡り、三合目の打ち合いで行き成り合われた『二つ目の右腕』で地面に衝突させられる。
「がふっ……くそ、ダメージが……!」
呻くテイルレッドをウージが仮面越しに睨み、両の腕を大きく上げる。
更に腕を振り降ろし、細く長くのばして地面に食い込ませ、左脚を曲げて右足を突き出した。
次何が来るなど…………言わずもがな。
しかしそこに、黄色い閃光が割り込む。
「出し惜しみで最悪の結果など御免……ここで全段撃ち尽くしますわ!!」
「お願いイエロー!」
叫ぶと同時に倒れ込んだレッドを掻っ攫い、テイルブルーは大きく距離を取る。
空中に居るチャンスを逃してはならない―――決意を抱いた目でイエローは睨み、全身に仕込まれた武装を余すことなく展開する。
そして始まるは……雷鳴轟く集中砲火だった。
「はああああぁぁぁぁっ!!」
「《炎弧壁》……!」
降り注ぎし雷の兵器軍を前にしたウージは、円を描いて作りだされる炎の壁を使い、強引に全ての弾丸を吹き散らしてく。
だが……攻撃をしようと目論むのは、イエローだけでは無い。
地面を蹴る音が二つ聞こえ、ウージが後ろへ視線を向けるが、もう遅い。
「「でええぇやああああぁぁぁっ!!」」
「……!」
右へと振り斬られし焔の剣と、左へと振り斬られし水の槍が、ウージの背中を確かに切り裂いた。それと同時にイエローの銃弾も着き、全ての武装がパージされる。
このままではウージの手痛い反撃をくらってしまうが……しかし、彼女等の顔には笑みがあった。
その笑みを齎すモノが、今発動する。
『今です! 拘束します! 精一杯キツイのをぶち込んでやってくださいっ!!』
切羽詰まった声での通信が掛かり、トゥアールがこの土壇場で改造を完成させた機械を作動させ、ウージの動きをほんの数秒、されど数秒、がっしりと止めた。
重々しい音が鳴り、見ると捨てられた筈のイエローの武装が合体して、巨大な砲台を作り出している。
テイルレッドもテイルブルーも、全身全霊をぶち込むべく武器を高く振り上げる。
「「「オーラピラー!!」」」
三色の光の渦がウージへと纏わり付き、その巨体の動きを封じる。拘束機器が無くなっても、その力は彼をがんじがらめに縛り付ける。
「グランド……」
「エクゼキュート……」
「ヴォルティック……」
これで決める――――三人の心内が一つになった、正にその瞬間……レッドは宙を掛け、ブルーは大地を踏みしめ、イエローは空高く跳び上がり―――
「ブレイザーーーーーッ!!」
「ウェイブ!!」
「ジェッジメントオオォォォッ!!」
大焔の赤が、激流の青が、雷電の黄が……莫大な力の奔流達が中央で交差し、色の三原色で構成されしカラフルな大爆発を巻き起こした。
余りの威力からか嵐の到来とも取れる爆風で辺りは荒れ、廃工場の一部も吹き飛ばされ、地の掴みが甘くなっていた木々が根こそぎ空中へ放り出されて行く。
グラトニーですら技を使わねば防げなかった一撃、それが三発だ。幾ら単純感情種と言えど、何も無しで受けて無事ではいられないだろう。
「こ、これで……どうだぁっ!!」
「少しは痛い目見たでしょ……」
「三人の合わせ技……燃えますわ」
紛う事無き文字通り全力を注ぎこんだ一撃に、三人とも体力を使い果たしてフラフラになっている。その事からも、先の必殺技の威力の高さだ窺えた。
『大丈夫です! これだけやれば流石に動けない筈です!』
トゥアールの称賛もあり、されど油断はせずに砂煙の中を睨みつけ、もしもの時はなけなしの力を振り絞ってでも、と武器を構えるが……突撃はしてこない。
どうやら、本当に動けなくなったらしい。その証拠に音も聞こえず煙の向こうには影も形も無く…………
「え?」
と、そこでテイルレッドが素っ頓狂な声を上げた。
そう、影も形も『無い』……今までで一番強かったにもかかわらず、姿形が残っていないのだ。
「まさか、俺達で倒せちゃった?」
「みたい、ね……」
「嘘みたいですわ……あんな強敵に」
『やりました……やりましたね皆さん!』
何と結果はまさかの撃退では無く、討伐になっていたのだ。三人とも、嫌四人ともが腕を目一杯上げ、喜びの声を上げた。
感情が高ぶれば高ぶる程力が上昇するのが属性力、そしてテイルギアなのだ。ならば、この喧嘩も当然なのかもしれない。
かくして、予期せぬ実力発揮により、ツインテイルズの勝利に終わったのだった。
「Medium bija cilvēki………」
……できれば、そう終わっていれば、万々歳だったであろう。
「…………Ja pēc mazliet par vēlu, tad zaudējumi nebija saudzējuši……」
倒れた草木を掻き分けて、いや焼き潰して此方へ迫る、『ウージ』の姿が無ければ。
「そん……な……!?」
「なんでよ……なんで立っていられるのよ!?」
「……あ、う……う……」
ツインテイルズは恐怖と疲れでヘタリこみ、尻餅を吐いたままに後ずさる。
倒せたと思ったら生きていた、しかも怪我はあれども戦闘自体は出来る……そんな状況で、膝をつかない方が無理というものだ。
『何故っ……確かに三人の攻撃は当たった筈で――――――え? これ、は……?』
もうそれしか動かない映像記録装置を逆再生して見て、トゥアールは驚愕に見舞われる。
此方から全ては見えないが、三人の攻撃が当たるギリギリ……本当にギリギリのタイミングで『オーラピラー』が焼きつくされ、引きちぎったと同時に一瞬巨大な火焔の腕が見えた。
そして三色の輝きにも負けぬ、ガーネットの光が強く瞬いていた。
即ち……ウージはグラトニーの様に、必殺技と同等以上の威力の技を叩き込んで、ダメージを負いながらも威力を下げる事に成功していた……そう言う事に、他ならない。
消えていたのは、ただ後方へ吹き飛ばされていただけなのだ。
結果としてタフネスで受け切った訳ではない事が分かったが、しかしそれがこの状況を覆す手立てとなりえるのだろうか?
気休めにすら、なりはしないと言うのに。
「……Get outta」
逃げようと必死にもがく彼女等をしり目に、ウージの腕は後ろへ引き絞られ、業火なる剛撃がテイルレッドへと迫り―――――
「やあああぁぁっ!!」
「……!」
濃い紫色の疾風が、柘榴石な色の炎を吹き散らした。
後書き
次回、グラトニーVSウージ、開幕!
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