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寄生捕喰者とツインテール

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焔の陰には “固定” する腕

 
前書き
お待たせしました。

今回の展開は、主人公達に対して結構厳し目です。

今話はまだ障りですが、次の話は「二巻で出て来る様な敵じゃねぇだろテメェ!?」的な展開です。


では、本編をどうぞ。
 

 
 週末前の金曜日に位置するとある休日。



 テイルレッドこと観束総二、テイルブルーこと津辺愛香の『ツインテイルズ』両名は、とある工場跡地に来ていた。


 何でもトゥアールが幹部クラスのエレメーラ反応を基地のレーダーが察知し、その発信源は丁度このあたりであるからと、二人は急いでカタパルトにて跳び出して来たのである。


 テイルイエローこと神堂慧理那も仲間なのだからと促したが、以前の変態扱いの件が応えているのか首を横に振り、そのままツインテール部を出て行ってしまったのだ。
 故にこの場には居ない。


 もちろん総二は彼女を説得したし、それなりに回復した兆候はあった。だが、一朝一夕で切り替えられるモノではないと、第一被害者である愛香に言われ―――彼女の場合は自業自得とも言えるが―――渋々ながら二人で出撃した来た。


 ……だが、どうだろうか……現場に来てみれば、閑古鳥が鳴くぐらいもぬけの殻だった。



「なあトゥアール。レーダーの誤作動だったんじゃあないか?」

『勿論そのせんでも調べたのですが……履歴を見てみてもハッキリ先の時間にこの位置で観測したと、ちゃんと記録されているんですよ……』

「こんなとこに来たって事は、ドラグギルディみたいな決闘がどうたらって事でしょうけど……ソレにしたって何も居ないってのはねぇ」


 テイルブルーが溜息を吐いて辺りを見渡す。

 口調こそ呆れているが、声色には何処か安心の色が見える辺り、生き残っているであろうクラーケギルディがよっぽど嫌いと見える。

 触手に過剰なまでの苦手意識を抱いていると分かり、今回はテイルレッドがメインで戦闘する手はずになっていたが、やっぱり相まみえるのは辛い模様だ。


「有り得ないかもしれないけどさ、ちょっと調べてみようぜ」
「そうね。騙し打ちとかしてきたら……ううぅ、ちょっとブルって来た……」


 その後数分にわたって操作を続けるが、小鳥やら蜥蜴やら虫以外は何もおらず、柔らかな風が静かに頬を撫でて行くだけ。


 幹部級は愚か、戦闘員クラスのエレメリアンの気配すら、この場には欠片も存在していない。


 無駄足だったかと総二達は踵を返した。

 トゥアールも自信作であり生命線であるレーダーの故障は見逃せない、コレが無くてはエレメリアンの捜索もままならないと、通信器越しでも分かる機械音を立てて、通信を切らぬままあっちこっちをいじり始めた。


「やっぱりそれが無いとキツイわよね……グラトニーは目印には出来ないし」

『そうですよ! グラトニーちゃんの素敵な姿が保存―――勇士が保ぞ―――観賞できないなんて、災害レベルの冒涜です!』

「……言い直してるけど、言いなおせて無いぞトゥアール……」
「きっちりシメないとね、あとで」


 すっかりほのぼのムードで去っていくテイルレッド達は、もう一度テイルイエローである会長―――慧理那を説得できないかと、頭の中に策を巡らせるのであった。















「『―――――』」

「っ!? 総二っ!!」
「うおわっ!?」


 それは行き成りだった。

 唐突にタックルしてきたテイルブルーに対処できず、二人で絡み合ってゴロゴロと勢いよく転がった。


 文句を言おうとレッドが口を開く前に―――


「『Tas ir Tuvo (中々だ)cilvēku, šis spēks(この力は)……』」


 そんな聞き取れない言葉と共に、地面が派手な音を立てて爆ぜ飛び、廃工場の三分の一が瞬く間に炎上した。

 炎上しなかった部分も一部は消し飛び、近くにはクレーターまで出来ている。



 驚きのあまり声が出ない彼等をしり目に、何時の間にそこにあったのか分からない『黒い穴』は徐々に広がり続け、テイルレッドとブルー二人を軽々飲み込める幅まで成長する。



 刹那、猛烈な熱量を放出しながら、ガーネット色の爆炎が上がった。



 かなりの高温を誇るソレは、炎を操るテイルレッドすらも目を閉じてしまうほどで、収まるまで一部始終すらうかがえない。

 漸く収まった頃に二人共は顔を上げて……再び驚愕で絶句する。


Hobby preferences būtu labi labi(趣味嗜好は些か好かないが)……bet nepatīk nedaudz(……まあ良いだろう)



 否、顔を上げる前にその圧倒的気迫を直に受けて、既に絶句していた。


 現れたその姿はどう見ても動物やら幻獣やらとはかけ離れており、一部一部を除けば人間に近い。
 宝石を削ったような骸骨のマスク、肘のブレスレット、そして足はガーネット色の輝きを放ち、黒い体なのも相まって一層目立つ。

 何よりデカイ。バスケット選手でも中々存在はしないだろう、三mに近い高身長だ。


 彼が又も意味不明な単語を口にしながら、大きく溜息を吐いたのを合図としたように、トゥアールから急ぎの通信が入る。


『そ、そいつです総二様! 愛香さん! 何故だか今はもう音沙汰もありませんが、数秒間鳴ったサイレンや、観測で来た波長から……レーダーに映った反応と一致します!』

「で、でもこいつ明らかにアルティメギルの奴じゃあ無いだろ!?」
「つまり単純感情種ってことね……よりにもよってこんな早く出会うなんて……!」


 最初こそを俄かに狼狽したが今は闘志を目に宿し『ブレイザーブレイド』を構えるテイルレッドと、焦りを強引に押し殺して飽くまで冷静に努めようと『ウェイブランス』の穂先を向けるテイルブルー。

 この行動や睨めつけに対し、アルティメギルのエレメリアン達でも、彼女等の容姿が可憐な為か怯えこそしなかったが……それを抜きにしたって彼女等の敵意籠る視線を受けて尚、相手は言葉も発さず身じろぎ一つしない。
 余所見をする余裕を見せられる始末だ。

 つまり……それ程までに力の差があり、彼女らなど最早自分の眼中に入れるまでもないと言う事なのか。


「くっ……やってみなけりゃ分かんねぇだろ!!」
「ええ! 行くわよ!!」


 お互いの得物を掲げ手加減抜きのフルスロットルで、焔の大剣と激流の槍をぶつける。

 棒立ちだったのが災いし、相手のエレメリアンは真正面から喰らってしまう。


 得物に込めた力を示すように、赤と青の大爆発が巻き起こり、辺りを砂煙で覆い尽くした。すぐに風が吹き、砂を散らして目の前に齎した結果を見せて来る。




Es apgalvojot reiz(一応なのろう)……Mans vārds ir Shinji『Ureg』(自分の名前はウージだ)


 焔の手の指先でつままれた、彼女等の刃を。



Šķiet nozīmē mudināt(“衝動” を意味するらしい)



 次の言葉を聞いた直後、テイルレッド達は猛烈な火炎の渦をくらい、宙空高々に吹き飛んだ。

















 数分前。


 雲が晴れ渡る空を流れゆく平和な陽気漂う中、瀧馬は周囲の人物と同様家の中に居るのはもったいないと思ったか、ナップザックを手に外へと出かけていた。

 例外に属する者もいるだろうが、少なくとも学生にとっては紛う事無き休日であり、普段は呼び込みの声が偶に響くだけの商店街も、今は従業員だけでなく老若男女で溢れかえり、人の波を遠方まで形作っている。



 強くは無く、寧ろ心地よいと感じる日の光を受けながら、瀧馬は出店で物を買い口に入れつつ、ずんずんと歩き続ける。

 しかもその足取りは賑やかな人通りの多い場所から、閑散とした殆ど人の居ない場所へと向かっている様で、用事でもあるのか迷うことなく脚を進めて行く。



 やがて地面からアスファルトが無くなり、舗装されていないむき出しの地面ばかりが続く、すぐそこに森林地帯が広がる場所まで来たときだろうか。
 不意に……虚空へ視線を向けた。


 そして、躊躇う事無く言葉を紡ぐ。


「ラース、此処まで来りゃあいいだろ……教えてくれ」
『あイヨ、相棒(バディ)


 どうやら瀧馬はただ遊びに外へ足を運んだのではなく、ラースと話をする為に此処まで来たようだ。だがしかし、それなら人の居ない場所など態々選ばず、誰も居ない我が屋ですれば良いだけの話。


 つまり人気の無いこんな所に来る事と、ラースが話すべき事柄は繋がりがあるのだろう。


『まずはあっち―――じゃねぇ斜め右方向10m辺りマデ、取りあえず進んでくれクレ』
「ああ」


 そんな律儀に距離など分かるのかと、普通ならば不安に思うが瀧馬は大して表情も変えず、ゆっくりと一歩一歩進んで行く。


 ちょうど10mとはいかずとも、10m弱ぐらいの地点まで来た頃、ラースが静かに声を出した。


『やっぱリダ……あん時の“腕”の奴の残り香がありやガル……生きてやがったノカ』
「! 腕の奴って……」
『アア、柿色の奴ダヨ、覚えてんダロ』 


 特徴をあらわす単語である “腕” 、そして言わずもがな色彩名である“柿色” 、幾らなんでも数日前に出会ったばかりであり、瀧馬も忘れている筈が無かった。


 属性力(エレメーラ)を流しこみ、物体を強化し固定化する能力を持った、腕で体を支える上半身のみしか無い、単純感情種のエレメリアン。

 楽々ではないものの、サーストと比べれば―――比べる対象が可笑しいのだが―――かなり容易い部類に入る敵だった。

 シチュエーションが平凡であれば、まず覚えていなかっただろう。


 もしかすると、ラースがここ数日違和感を覚えていたのは、“腕” のエレメリアンの事だったのかもしれない。


 しかしその件の化物は、グラトニーの『風砲暴(ふうほあかしま)』により粉々となり、腕一本を残して消滅した筈。

 ラース曰く趣味趣向が凝り固まった、アルティメギルの変態的エレメリアンとは違い、単純感情種のエレメリアンは属性玉(エレメーラオーブ)が残らない。
 なので、何も残さず消え去るのが普通なのだとか。


 だからこそ瀧馬にラースの両者とも、“腕”エレメリアンがまさか生きているとは夢にも思わなかったのだが、だとすればどうやってあの嵐から逃げのびたのか。


「此処暫くのペットの行方不明事件は、奴の仕業だって事か」
『まさかとは思ったガナ。手口も多様化した昨今ダ、そう言う犯罪を働く奴だと俺も思っテタ』
「だが、此処に来てみて違うことが分かった、と」
『……っタク、嫌な予感が当たりやがっタヨ』


 彼等もTVに映るニュースを、最初こそ怪しいと思ったが……考えてみれば瀧馬達は、自らが異形の存在であるエレメリアン(化物)だからこそ、そういた考えに至ってしまったのだと思った。

 有り得ない可能性を捨てて言った為に、単なる誘拐事件だとアテを付けていた。


 が、蓋を開けてみれば異形による仕業である。

 己の思考が甘かった事を悟り、瀧馬の表情がゆがんだ。


『俺らからしてみリャ、人間だろうが動物だろうが食い物に変わりネェ。だから人間が一人もやられてねぇノハ、かなりラッキーだってこッタ』
「逆に言えば、これから喰われる可能性もある……って事だけどな」
『これから残り香を辿ル。そうそう不祥事は起こさせねェヨ』


 言いながら《残り香》の解析を続けていたラースは、数秒程沈黙した後に見えぬ口を開く。


『相棒、念の為グラトニーになっとこウゼ。けっこう近くに居るかラヨ』
「……なんだ時間掛かるかと思ったが、好都合だな」


 瀧馬としては安堵の意味を含めた言葉であったのだが、傍から聞いて居ればどう考えても好戦的に受け取ったようにしか聞こえず、ラースは両方の意味で取ったのか嬉しそうに笑い声を上げる。


『ヒヒッ、中々言うじゃあねェカ! それじゃあいくゼェ―――【コネクト】!』
「【コールズセンス】!」


 変身ヒロインもののお約束をガン無視した如く、ほぼ一瞬の間に変身―――もとい細胞の丸ごと取っ替えを行い、瀧馬はグラトニーの姿となった。


 先程まで嫌に真剣な表情だったのに、どことなくポヤ~っとしたモノへ変わっているのは、グラトニー故のご愛敬と言った所だろうか。
 まあ初見なら、その愛らしさを次元の彼方にブン投げるぐらい、異様な左腕と右足が付いているのだが……。


 今でこそアクセントになって(しまって)いるものの、初めて見た者の心境は言うに及ばずだ。


「今度こそ、食べきる……宣言した」
『あイヨ、宣言されましター。そんじゃ行こウゼ、まずは南西……イヤ、南東に向かって走レ。奴サン、移動を始めやがッタ』
「……りょーかい」


 右手の親指を人差し指の第二関節に当て、首を傾けると同時にポキリと音をならす。それを合図として様に、右足の噴射口から空気を吹きださせて、猛烈なスピードで走り始めた。


 逃げているのかそれとも気まぐれか、ラースの誘導はグネグネと曲がる軌道を取らせており、岩を飛び越え、自然のアーチをくぐり、川の水面を蹴り、驚異的な身体能力による一種の障害物競争を繰り広げている。


 流石に向こうも生物なので延々に続かず、その移動の幅も段々と短くなってきた。


『躊躇うな相棒! ダッシュしてヤレ!』
「ん!」


 何度目かの高速蛇行モドキの後、ラースはグラトニーに一直線にスパートをかける様、それなりに大きな声で指令を出した。





 ―――刹那、空間が歪む。




『来タゼ!』


 ラースの計画とほぼ同時に、柿色の腕が黒い模様の棚引く空間から突き出、グラトニーへ向けてストレートをお見舞いしてきた。

 彼女の化物たる左腕と同等以上のそれに対し、無言で左手を添えて肘打ちをかまそうとして……目を見開き咄嗟に後ろへ飛び退いた。


 尖った瓦礫の欠片が、柿色のオーラを纏って突っ込んできたのだから。


「フッ! やっ!!」


 避け切れない分に噴出させた爆風を使って受け流し、器用に空気の流れを作り出して、水により脆くなっている地面擦れ擦れで停止する。


 上へと目を向けてみれば、そこには穴のあいた空間に一回り小さい右腕を突っ込んでいる、あの時の “腕” のエレメリアンが、此方へと上半分のない顔を向けていた。


「〔ジョオオォォォオ……!〕」

「やっぱり……いた」
『逃げる気はねぇ見てぇダナ。自身があるノカ、怒りに身を任せたバカカ……』


 少なくとも、以前よりは強くなっている事を、グラトニーは先の攻防で悟っていた。


 今し方右腕は一回り小さいとそう描写したが、しかしそれは決して右腕が小さくなった訳ではない。
 それどころか、右腕は以前と同等のサイズのモノが生えている……即ち、残っていた左腕が一回り肥大化しているのだ。


 どこぞの漫画の如く過剰に線を書き入れられたような筋肉を持つ、より一層太くなった網目模様の掘られた柿色の腕。


 強くなっているかもしれない……前回と同じ感覚では戦えない。



「〔ジョオオオオッ!!〕」


 懐疑的な思考をひれ気て居た彼等に、それが正解だと言う事をを確信付けさせるかの様に、“腕” のエレメリアンは水面の上にさも当然かの如く『着地』し、大量の泥を掬うと思い切り投げつけてきた。


 ……単なる土くれや泥では無い。粒一つ一つが強化されて固定化された、一種の散弾である。


「セイラアアアッ!!」


 それでも突風で叩き落とし爆風で瞬間的に回避しながら、グラトニーは柿色の散弾をキッチリやり過ごして見せた。


 隙を見つけて接近し、大きな一撃を叩き込んでダメージを与えるべく、グラトニーは緩やかに誘う様に、泥沼の地を移動し始めた。


 遠距離攻撃が主である “腕” のエレメリアンには、例え彼自身が強化されてようと素のままであろうと、やはり前回と同じ対処法が有効であろう。


 だが向こうは知能も上がっているらしく、険しいモノを口もとに浮かべながらも、牽制の球を投げ続けて隙を窺っている。


 ……驚愕に値する出来事は、正にこの直後、泥を再び掬った後に起きた。

 より一層柿色のオーラを濃く纏い、“腕” のエレメリアンが右腕を振りかぶったかと思うと―――


「《ブレーク=ショット》!」

「『へっ?』」



 何と普通に喋った。それどころか技名まで叫んだのだ。


 放たれた後に叫ばれた所為で反応が遅れ、グラトニーは真正面から思い切り喰らってしまう。

 泥まみれになりながらも風で強引に停止させて、未だ信じられないモノを見る目で『固定』された泥の上に立つ、“腕” のエレメリアンを見た。



「……喋れるようになってる……」
『マア、別に動物食べたらその言葉しか口に出来ネェ、なんて構造はしてないんだガヨ……どんだけ食ったんだアイツ』

「《ブレーク=スナイプ》!」

「! 《風砲暴(ふうほあかしま)》!!」


 言いながらも螺旋回転を加えた弾丸が、“腕” のエレメリアンより投げ放たれてくる。

 対処すべく突発的に放たれる《風砲暴》ではあるが、充分に威力が活かせる距離では無い事と、チャージ量が足りなかったせいで、相手の貫通力もあり普通に穿たれてきた。


「《風刃松濤(ふうばしょうとう)》!」


 慌てることなくカマイタチで一刀両断し、足を降ろすと同時に……柿色の塊が弾け飛んでくる。


「〔ジョオオオオオアアアアッ!!〕」
「……喋るか叫ぶかどっちかにしろ……!」
「《ブレーク=マグナム》!!」
「《風撃颯(ふうげきはやて)》!!」


 右方からは振り出した際の威力を『固定』し、強化分の威力が更に乗っかる柿色の拳が―――
 左方からは形を持っている上に、柔らかくまた堅い不可思議な暴風を纏った紫色の拳が―――

 丁度お互いの真ん中にあった大岩を粉々に粉砕し、轟音を立てて勢いよくぶつかり合った。


 肝心の威力で勝ったのはグラトニー……しかし硬度で勝ったのは “腕” のエレメリアンの方で、お互いに大なり小なりダメージを負い、後方へと吹き飛ぶ様に退避する。


 『固定』など出来ないグラトニーは、その所為で所々泥をかぶってしまった。


「〔ジョオアアアアア! ラララアアアアアアア!!〕」

「はあああああっ!!」


 次に行われるのは、片方は咆哮の如く、片方は獣の如く、マシンガンやらミニガンもかくやの乱射で繰り広げられる弾幕戦。


 明らかに以前よりも密度が濃く、威力も上がった柿色の弾幕無いを進みながら、グラトニーは球に邪魔され直撃こそしないものの、左腕を掲げて確実に相手へ風の弾を命中させる。


 しかし、大きく開いた弾幕の隙間を通ろうものなら、そこへ待ってましたと大きな岩塊がすっ飛んでくる為、中々近づけないでいた。
 だからといって慎重なままで居ても、弾幕らを後押ししながら同じくドデカイ塊が飛来し、均衡状態は続いて行く。


 やはりと言うべきか、今更と言うべきか、優勢に運べてはいれど一戦目よりも確実に苦戦している。
 
 消耗戦と洒落込むにしたって、このままでは不確定要素で逆転される可能性も少なくない。


「ここは……風の流れを変える……!」


 風の弾丸を撃ち続けるサポートの為に使っていた右足を一時停止させ、立ち止まったままに左腕のみで風の銃弾を連続で撃ちこみ始めた。


 発砲音を更に鈍重にしたモノが途切れることなく何度も響き、風を切る音とは明らかに不釣り合いなサイズの瓦礫が飛び交い、到達する前に次から次へと落とされていく。


 それでも射出場所が一定の位置から変わらなくなった為か、“腕” のエレメリアンへの被弾数は、ダメージと共に減っていた。


「〔ジョジョジョジョジョジョジョジョオオオオオオオオオ!!!〕


 皮肉にも己の弾幕の所為でグラトニーが見えていない彼は、警戒こそしながらもただただ柿色のオーラを染み込ませ、形も不揃いな岩塊に建物の名残である古びた鉄塊を投げ続ける。

 その弾幕を無言で冷静に撃激していく中、グラトニーはある一つの偶然が重なるのを待つ。




 そして……時は訪れる。



『未だ相棒! 斜め右に突撃シナ!』
「ん!」


 僅かに弾幕が薄くなったその隙を逃さず、グラトニーはラースの声に従い落ちた岩を利用すると、脚力のみで体を傾け突撃した。

 飛んでくる大岩の陰に隠れ、一度軌道を少しばかり変える。


 “腕” のエレメリアンは何も言わぬまま……吠え続けて口が開いているのとはまた違う、普通に驚愕したと言った感じで、大口を開けたまま一瞬固まった。


 紛れもないチャンスだった。


 空中で何度も何度も後方宙返りをし、やがて縦回転する紫色の円盤にしか見えなくなった……刹那、嘘の様にピタリと止まる。


「《風刃松濤》!!」
「〔ジョオ!?〕」


 右足を休憩させ為に溜めた空気と、回転してしこたま取り込んだ空気、そして行き過ぎた勢いづけによりより鋭くより大きくなったカマイタチが、“腕” のエレメリアンへと襲いかかった。


「〔ジョギアアアアアア!〕」


 不快切り傷を負わせられて吹き飛び二三度バウンドし、退避した際のお返しか今度は彼が泥まみれになって、眼のない顔でグラトニーを睨みつけてきた。

 続けて再び弾幕を張ってくるが……グラトニーの策はこれだけでは無い。


「溜めてたの、足だけじゃ……ないよ」


 グバン! と左腕の装甲がせり上がり、更なる力を求めて大気を吸引し始める―――――かと思えば猛烈な勢いで吹きださせて、弾幕を吹き散らしていく。


 “腕” のエレメリアンも単なる遠距離では埒が明かないと見たか、自身の腕に更なるエネルギーのオーラをみなぎらせ、より一層柿色の腕が鮮やかに光る。



 どちらの策がはまるか、睨み合いは僅か数秒……そして、勝者を決める一戦の中の一戦が幕を開けた。










 ――――筈だった。



「!?」
『こいツハ!?』

「〔ジョオォォ……〕」



 突如感じた、すぐそこに『炎』が現れたと錯覚させる熱量と、サーストの時よりは数段低くとも向いの “腕” のエレメリアンとは明らかに核が違う、余りに『重苦しい』圧力が、グラトニーの体をなぜたのだ。


 “腕” のエレメリアンも一瞬ビクついたが、すぐに落ち着きを取り戻して、遥か遠くを無い目で見やっている。


 これは言わずもがな―――目の前のこいつよりも格上の単純感情種が、この付近に現れたと言う事に他ならない。

 目的など、考える事でもなかろう。


「不味い……早くしないと―――」

「〔ジョオオオッ!!〕」

「……っ! 邪魔!!」


 “腕”のエレメリアンは左腕を支点に右ストレートからジャブを繰り出し、外れるや否や倒れ込みながらのタックル、そして太い左腕での薙ぎ払い。
 グラトニーは叩きつける様にして、全ての攻撃を弾いて行くが、体格差と『固定と強化』の能力で溜めていた力を利用され、今居る位置から後ろへ飛ばされる。


 そのまま相手が腕を背後に叩きつけてみれば、巨大な柱がバネ仕掛けの如く跳ねあがり、“腕” のエレメリアンはその柱にも腕にも濃い柿色のエネルギーを注入し始める。


 何をするか考えるなど愚問、普通に……しかし遠慮なしに投げてきた。


「ジョオオオオ―――《ブレーク=キャノン》!!」
「邪魔なんだっ……! 《風砲暴(ふうほあかしま)》ああぁぁっ!!」


 お互いの遠方最大攻撃が、またも中央でぶつかり合った。

 
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