寄生捕喰者とツインテール
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衝動の焔を鎮火せよ
前書き
別に最近気がついた訳じゃないんですが……敢えて言いましょう。
何なのこの展開!(オイ 『俺ツイ。』の世界観何処に行ったの、この二次!
……まあ元々計画していた事ですけどね。(エッ
それにしても見事に蚊帳の外になってますよね、ツインテイルズ。
彼等ってそこまでシリアス向きじゃあないし、やっぱこう言う展開だと動かしずらくなるのがなぁ……。
そして今話で30に到達! これからも宜しくお願いします。
では、本編をどうぞ。
地面に穿たれた小さなクレーターの中心部、そこに風をつかさどるかの如く、体の周りに滞留させている少女がいる―――――グラトニーだ。
よく見ればそれは周囲を取り囲んでいると言うより、放出と吸引を繰り返している際に発生した空気の流れと、そう言った方がしっくりくるものだった。
「ふぅ……」
『ギリギリってとこダナ。まだ嬢ちゃん達は生きてルカ、ボロボロだがヨォ』
間一髪の所で割り込んだグラトニーは、しかし風も纏わず防御体制でも無かったからか、軽く火傷を負っている。
髪の毛も先端が焦げており、体を覆う軽鎧相当のアーマーも、僅かにだが光が鈍い部分があり、そこが黒く焼き付いているらしい。
後ろにへたり込むテイルレッド等を見やった後、グラトニーはウージの方を向いた。
不意打ちに対処しきれず少し掠ったか、彼のガーネットの仮面は欠けている。
「……Tā ir diena, kad nāk arī no blakus nākamo」
「来るの当たり前……守りたいから」
テイルレッド達にはその言葉の意味がさっぱりだったが、同種であるグラトニーには伝わったらしく、ウージの好意的とは言い難い言葉に、同じく敵意を持った言葉で返している。
それでもウージの方はまだ余裕があり、グラトニーはもうは彼女等が普段目にする時よりも、一層濃い闘気を湛えていた。
グラトニーの腕と脚の吸気口が開いて、紫色の粒子を撒きながら空気を取り込み始め、ウージの腕も一旦本来の細い腕を出してから、徐々に徐々にガーネットの炎が燃え上がってくる。
ゆっくりとお互いに距離を測るよう歩き……戦いは唐突に始まった。
「やっ!」
「……!」
“紫色” の風纏う弾丸を “柘榴石” の大槌が迎撃し、爆風と熱風が辺りに吹き荒れる。
辛うじて立っていた木々は根こそぎ吹き飛ばされ、大部分が燃え残っている建物も駄目押しとばかりに再炎上。
暴意の嵐が吹き荒れるその中心地で、二人は接近戦にてぶつかり合っていた。
「……ッ!」
「う、ぐっ!」
グラトニーは上段からの炎椀を一瞬だけガッチリと受け止め、右手側に受け流すと加速させた左拳で反撃。
それはウージの肘から現れた『二本目の右腕』で防がれるも、彼女は左腕全体から爆風を噴出させて隙を作り、相手から見れば低いにも程があるローキックをかます。
対して、ウージは普通に跳びあがって蹴りを躱すと、『二本目の右腕と左腕』を地面に伸ばして、即座に着地し『一本目』の両手で作ったアームハンマーを叩きつけて来る。
まともに食らってなるモノかと、グラトニーは空気の噴出を活かし、前方へと跳んでやり過ごした。
「やっ!」
牽制程度の風の弾丸から、《風刃松濤》が無言で放たれる。
ウージはより肥大化した左腕で無造作に薙ぎ払い、“三つに増やした” 右腕で三連続のストレートパンチを穿ってきた。
「むん!」
「……Hmm……」
それをグラトニーは回転の勢いを乗せ、またも突風を使う力技で跳ねのけた。しかしパワー自体は上か、緩やかに回転してグラトニーも吹き飛ぶ。
この事から分かる……相手がある程度弱っていなければ、負けていたのは彼女の方だろうと。
負けじと右足で踏み出したグラトニーと、偶然にも思い切り蹴り出したウージの突進がぶつかり合い、両者ともまた飛び退き、一進一退の攻防は続いて行く。
「すげぇ……」
「別次元……ですわ」
『グラトニーちゃんも凄いですけど、やはり本気を出していませんでしたね、あのウージってエレメリアンは……!』
「……それを踏まえると、やっぱグラトニーが格上だって、理解させられるわね」
自分達とはパワーもスピードも違う戦いに、ツインテイルズの面々は驚きを隠せない。
自分達が対処できなかった力技とぶつかり合い、スピードにて見切れなかった攻撃を捌き、正面から堂々と一人でぶつかっている。
それはブルーの言うとおり、格の違いを再認識するには充分な事だった。
彼女達が体を引き摺りながら退避し、戦闘をただ見るだけしか出来ない中、『理性の強い』単純感情種同士のぶつかり合いは、まるでエンジンが掛かってきたかの様に……徐々に本格化してくる。
「……Un pieraduši oglēm―――《炎放叩》」
「うわっ……!」
左腕が引っ込んだかと思うと、辛うじて腕の形だけ留めている巨大な “炎腕” が猛烈な速度で伸びてきた。
それはさながら火炎放射器のごとしだが、威力も迫力も規模もアチラの比では無い。
予想外のスピードであったか、グラトニーは避け切れず彼方此方掠ってしまう。前転の要領で転げて、真っ芯だけは如何にか避ける。
猛風を使い、着火からの消火が一瞬ですんだものの、熱気は見事に体に残った。
「うにゃぁっ!? あああアチアチアチュチュ!!」
『落ちつけ相棒! 口調が変になってっカラ!』
グラトニーでも熱がっているその火炎放射に込められた高温は、やはりツインテイルズの時とは比べ物にならない。
同時に弱っているだけで、ウージもまたグラトニーと同格か一歩抜きんでているかの、実力者である事もうかがえた。
『さっきの腕野郎と同じつもりでやるかラダ! 気を引き締めたつもりじゃナク、マジで引き締めて行キナ!』
「……ん! ちょっと覚悟、足りなかった」
その言葉と同時にグラトニーから発せられる圧力が増し、それを受けてウージもまた己の威圧感を増幅させた。
「……最初から最高……! ―――だから《風砲暴》!!」
「Hmm……Medija cilvēki」
右足からの爆風で錯乱させ瞬時に跳躍、空中斜め後方に陣取り逆さになりながら、破壊の竜巻をウージめがけて放つグラトニー。
ウージは軽く体を傾けて見やり、此方も射出こそしないが腕と成る大火をより燃え上がらせ、仮面や足にまで伝わらせる。
片や必殺なる威力の一撃、片や攻撃でも防御でも無い対処、勝敗は明らかに見えた。
「……へっ……?」
だがその当たり前は、直前で竜巻が “有らぬ方向へ曲がった” 事により覆された。唐突に起きた不可思議な現象に、グラトニーの眼は丸くなる。
『止まるな相棒! 早く飛ベ!』
「あ……クッ!」
休ませる気なく飛び交ってきた、見た目か細く力は大きい10本以上の “炎腕” を、一直線にダッシュして地上へ墜落する事で逃れ、余りの勢いから岩が隆起する。
……と同時にズガァン! と岩石が爆発し紫の影が飛び出、グラトニーが弧を描いてウージに迫った。
「……も一発!」
近距離で向けた掌から、二度目の暴風が姿を現す。
「Uo Eh!!」
今度は逸らされず、しかしウージによる爆炎を利用した抵抗で、大きなダメージは与えられなかった。
『なるほどナ。相棒! 一旦壁!』
「おーけー……―――《壁風凩》!!」
叫び気による気合い入れと同時に……ただ堅さを、サイズの大きさだけを求めた、不定形な暴風域により形作られる “嵐の壁” が現れた。
ただ平面的に守るのではなく、軽いドーム状と成っているおかげで、少しの間なら多方面からでも攻撃をしのげそうだ。
その紫色に光る壁の中で、ラースはグラトニーへ話しかける。
『いイカ? コイツには接近戦じゃないと不利ダゼ』
「……何で?」
『力の性質の差ダ。相棒は空気を取り込んで性質を与えているダケ、でもアイツは力そのものが炎ダ。直接的な威力の優劣は知らンガ、単純にぶつけ合うとなるとアイツの方が有利ダゼ』
詰まる所、炎による気流の変化は属性力がかかわっていても尚反映されるらしい。
その所為で極端な高温を受けると、性質変化頼みで幾らかが『ただの空気』であるグラトニーの攻撃は、『特殊且つ属性力の割合が大きい』ウージの炎腕の能力にて、無効化とはいかずとも軌道を変えられてしまうのだ。
それでも完璧な優劣では無く、先の一撃が当たった様に、距離やら火力の大小もあるのだろう。
そんなラースの、大分噛み砕いた説明に……グラトニーは分かったのか分かっていないのか首を傾げている。
『ブン殴りゃいいんダヨ! 細かな事は俺が指示を出す! 力の譲渡も小出しでサポートするゼ!』
「ん、りょーかい……!」
《壁風凩》を解除すると、次の攻撃に備えるべく使っていた分の空気を幾らか腕で吸引し、いたん体を沈めて頭狙いの拳を回避。そしてサマーソルトキックから後方退避へつなげる。
利かないと分かっているからこそ、ある程度属性力を込めた風弾を投げつけた。
出鱈目に投げつけられた攻撃が地を砕いて炎とぶつかり、辺り一面に大量の煙を噴き上げる。
「Vai jūsnākt, lai……」
「……やああぁぁっ!」
「Pieņemsim, piecelties un ar saņemto」
紫の右フックを受け止め、ガーネットのアッパーが空を切り、体を捻って紫が左から、ガーネットが上から、またも紫が次はガーネットが。
紫、ガーネット、紫、ガーネット……余りにも鮮やかに、絶え間なく拳の引く光芒が飛び散る。
「一発―――《風撃颯》!」
「《火猿腕》……!」
身長差のある徒手空拳での殴り合いから、一転して互いの剛力宿る拳をぶつけ合い、威力から飛び退いた様に距離が離れる。
爆ぜるほどの力で地を蹴り、勢いを活かして空を駆り、ぶつかり合いが更に加速していく。
「らあっ!」
「……!」
中央で再び開始される、ショートレンジの応酬。
グラトニーの突進ストレートは、腰を低くし片手で受け止められる。
そこからウージは左腕と “第二の右腕” をクロスし、グラトニーめがけコンマ数秒間隔で右左と裏拳を繰り出す。
避けて跳び上がった彼女へ挟みこみを狙い、しかし空気噴出で空中で軸をずらされ一度目は空振り。
二度目に合わさった “第二の” 両手を足場として、グラトニーは後ろへ跳んだ。
「……Uo Eh……!」
「う、りゃっ!」
二度目。
火の粉舞う右ストレートが『憤怒』の力を宿せし右拳とぶつかり、風により加速する左ジャブが二撃とも火焔の拳に受け止められる。
ウージのガーネットの光芒を引く回し蹴りを、グラトニーは紫の髪を靡かせながら体を横倒しにして回避。
そのまま逆立ちして右足を振り降ろし、襲い来るソバットを迎撃する。
振り降ろされた腕と腕がぶつかり合い、ウージの腕が “分裂” し始めたのも束の間……爆風が巻き起こり距離を取らざるを得なくなった。
「むっ……はっ! たぁ!」
「vai nāk……!」
三度目。
両サイドから突き出されたウージノ掌の間を縫って、グラトニー懐へ進むがまたも “第二の両腕” が立ちふさがる。
両腕のラースから借りた力を微弱に纏わせ、ラースの指示なのか敢えて真正面から組み合う。上から体重込みで押されれば、グラトニーが不利なのは一目瞭然。
……そこを逆手に取った。そのまま一旦前方から下へ潜り込み、噴射で勢いをつけて今度は上へ。
後ろから来る炎腕達をカマイタチで次々払い、空中ブランコの要領で体勢を変えて、右脚を顔面に打ち込んだ。
それでも “第三” の手で勢いは減衰され、ウージは立て直すべく爆炎を起こして即座に移動し、着地からすぐ脚を曲げた。
「ッ!!!」
「うわ……あぐっ!」
四度目。
腕だけでなく体の各所から炎を吹き上げ突貫してくるウージに対し、グラトニーは加速と気流発生を両立させ、体ごと回転して受け流す。
だが、ウージは又も爆炎を熾し此方に戻ってくる。蹴り自体は避けたが上・中・下段と別れた炎椀の一つを捌き切れず、大きく吹き飛ばされた。
それでも、左腕が横に掲げられているのを見る辺り、防御には成功したらしい。
「やあああぁぁっ!!」
「Labs……labs!」
自分へ向けたグラトニーの疾走に、ウージが対応し又も両手を構え、五度目が始まる。
―――――そう思われた、その瞬間。
「……! Pazudušo……!?」
一瞬彼女の姿が揺らいだかと思うと、幻のように忽然と消え失せる。
―――と、後ろから岩の砕ける音が聞こえた。
「…………iztrūkstošs……?」
姿が無いのは当然、音は無く気配すらも断たれ、グラトニーがいた痕跡など、それこそ何も残ってはいない。
逃げ果せたとするにしても、理由のない突然の出来事の為、可能性には入らない。
ならば何処へ―――――
「!」
突如として気配を感じ、ウージはハッ! と上へと顔をやる。
「はああぁぁぁ……!」
静寂が嘘のように轟音を上げ、拳を後ろに引き絞り、既に構えた……グラトニーが落ちて来ていた。
忽然と姿を消し、突然に現れた彼女にもウージは反応するも距離が近い。
それでも構え、此方は両拳を後ろへ引き絞る。
「《風撃颯》!!」
「《熾焦連》……!」
憤怒と暴食の力が合わさりし鉄風の剛拳と、幾本にも枝分かれして飛ぶ煌炎の拳。それらは盛大に爆音を鳴らして衝突する。
今度は重力落下と突風推進、そして二つの力を合わせて叩きん込んでいるグラトニーが有利か、一撃一撃が軽いウージの攻撃はきっこうも出来ず押されていく。
重いモノでは対処しきれないと咄嗟に出した技が、何時の間にか自分の首を絞めていた。
「うぐぅぅ……やああああああっ!!」
「……!!」
凄絶な押し合いに勝ったのはグラトニー。
空気の塊ごとウージを地面に叩きつけ、猛烈な量の砂煙を辺りに巻き散らした。見えないウージを中心として、大きなクレーターまで刻まれている。
更に駄目押しか……ピシリ、とか細い音が鳴った。
「……maskēt……」
煙がはれて現れるのは、本来の骨の如く細い腕を露出させた、腕も仮面も脚も欠けているウージの姿だった。
『よっしャア! こっちが有利ダガ、気は抜くナヨ!』
「うん!」
再び打撃の打ち合いに持ち込むべくと、グラトニーはウージへ接近を試みる。一歩、二歩、三歩踏み出し、爆風によって即座に距離を詰めた。
「Ak…………Tiešām labs……labs……」
……残り数mまで近付いた、その時―――――今度はグラトニーが驚く番となる。
下げられていたウージの顔が上がれば、その目に映っているのは先までの静かな瞳では無く……燃え上がる何かを湛えた、闘魂収まらぬ猛々しい瞳。
ほんの一瞬、されど一瞬、“ゾクリ” としてグラトニーは動きを止めた。
止めてしまった。
「Go'll iet un mēs ejam! Meitene iet!!」
ダメージは与えた。
ツインテイルズとの闘いで少し、グラトニーとの打ち合いでそれなりに、そして先の《風撃颯》で重い一発すらぶち込んだ。
……それでも尚、相手はグラトニーに対して、『パワー』を温存していた。
「うぐぅぅぅうっ……」
「Flightless!!!」
「うわああああっ!?」
スピードは今まで通りで有り、受け止めること自体も出来たが……一段膨れ上がった怪力により、グラトニーは弾き飛ばされる。
地面についても勢いが殺せず、水切り石の要領で続けて跳ね飛んだ。
「こ、のぉっ!」
腕を地面にぶつけて体勢を立て直してみれば、此方を睨みつけしかし同時に笑う、ウージの姿が見える。
「Lol lol! Tas ir vēl joprojām!」
別人の如く楽しげに嬉しげに、瞳を歪めて声高に叫ぶ。だが……確かに嬉しげではある、されど何も無い、ただ動こうとしているかのようにも感じられる。
それはまるで何がおかしいのか、本人ですら分かって居ないかのように。
衝動に突き動かされるかのように。
「Ahahahahahahahahahahahahah!!」
「うらあぁぁっ! う、りゃああぁっ!!」
右手を出すのは危ない―――本能的にそう悟り、ラースも力を注ぎこみ、相手の小技抜きの連打を、猛撃を、ラッシュを尽く左腕で撃ち落としてく。
グラトニーの “風交じり” の迎撃を、ウージは何も考えず己の体に傷がつくのも厭わず、パワー任せに只管連檄を討ち放ってくる。
その姿は己が名前の【Urge(衝動)】を、正に行動で表していた。
度重なる炎の拳打に押され、押され、押し返されていくのは、先までの展開と違いグラトニーとなってしまう。
『相棒、後ろに回転シナ!』
「……《風刃松濤》!!」
「sāpīgs!?」
防御姿勢すら取ら無い今のウージでは防げず、風の刃で胸と顔面を抉られた。
グラトニーは掌からも空気を噴射し距離と取るも……爆音と共に三度ウージが攻め込んでくる。向きを変えても追撃は免れない。
「liesma! liesma!! 《火猿腕》!!!」
「うるさいよっ! 加速式っ―――《風撃颯》!!」
『俺も乗せるぜェッ!』
ならば自分もより前へ。
幾度ぶつかり合う、紫色の嵐とガーネットの大火により、最初に巻き起こったものとは、比べるのもおこがましい熱波の嵐が拡散した。
「apdegums……apdegumsーーー!!」
「負ける、かあああぁぁぁぁーっ!!」
五月蠅く吠えるウージ、負けじと雄叫びを上げるグラトニー、押しも押されもせぬ大技の衝突に、ピシリと音を鳴らて破片を上げ、一つの物理的な亀裂が生まれた。
『やっぱ野郎は傷ついてるンダ! この紫の破片が物語って―――――ハ?」
そう、紫の破片が飛び散って。
しかし傷ついているウージは、ガーネット色の体を持つ筈。
……つまりこの体は―――
「うぐっ!?」
「Flightless Flightless!!」
「あああああっ!!」
押し負けてしまった、グラトニーの物に、他ならない。大きなは快音を立て、派手に吹き飛んで行く。
武器である左腕は確かに彼女の体の一部でもあるが、痛みの元の体と同様に感じるとは、誰も言っていないし決まった事でもない。
加えてグラトニーとラースが一心同体とは言えど、お互いの体の状態まで細かに分かる訳ではない。
「ぎあ……ああああぁぁぁ!?」
『相棒!!』
痛みに悶え、転げまわるグラトニー。
右腕よりも一回りは大きな筈の彼女の左腕が、亀裂が走り一部砕け散り、所々右腕と同じ大きさになっている。
それは即ち、相手の力に打ちのめされ、欠けてしまっているのだ。
そこでラースはふと思い返す。
あの時確かにウージの体は欠けたが、だからといって “ピシリ” と音まで聞こえるのは正直おかしい。
至近距離にはおらず、少し離れていて相手の怪我も僅かとくれば、余計にだ。
つまりあの音は……グラトニーの体に罅が入った音だったのだ。
力を小出しにして行くだけならまだしも、ウージはパワーや体格ともに上。衝撃を逃がしきれなかった為に、ダメージを寧ろ左腕へ溜めてしまっていたのか。
(『色々有り得ルガ……連戦且つ慣れねぇ《風撃颯》に俺の力を掛け過ぎタカ……!? しかもアイツ、狙って攻撃してやがっタカ……!? けどやベエ……やべエヨ……!』)
常識的に考えて、ラースの力はもう左腕には使えない。かと言って右脚では決定力に欠けるし、負担が掛からないとも限らない。
優位から一転、逆転どころか最悪な窮地に立たされていた。
「う、ああ……うあああっ……! うぐぅっ……あぐぅっ……!」
痛みで碌に動けないグラトニーへ、更なる追撃が襲いかかる。
「Ahahahahah!!」
「こ、のっ……!」
それでも右手と左脚を支えにし、後ろ向きで右脚を振り上げ、炎腕の振り降ろしを迎え撃つ。
轟き渡る、ゴオン! という大音響。
されど……起こったモノが何であろうと、結果は再び宙を舞うのみ。
着地こそ普通に出来たが、戦力は大幅ダウンしている事態に変わりは無い。
ラースの助力は期待できない事は分かっているのか、グラトニーはダラリと下がった左腕をあえてかばわず、右腕だけでファイティングポーズを取った。
でも彼女は分かっている……右腕では受け止められても、三回が限度である……と。
「Ahahahahah!!!」
「負け……ないっ……!」
万事休すか……。
『左腕に力を込メナ! 振り上げろ相棒!!』
「!」
否、まだ道は途切れていない。
グラトニーの闘志は消えていない。
ラースが途切れさせない。
猛然と降りかかる二つの火柱を―――――
「やあっ!」
「……!!」
『網目模様な柿色の腕』が確かに受け止めた。
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