黒魔術師松本沙耶香 紫蝶篇
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7部分:第七章
第七章
「誰が何の目的でどうやって」
「一切がわかっていません」
「わかったら事件は解決だけれど」
「どうしますか?」
「夜ね」
沙耶香は述べてきた。
「夜になってからまた調べましょう」
「夜ですか」
「ええ。どうやら夜に出るようだし」
「それでは」
速水もそれに同意して頷く。
「そうしますか」
「そうね。そうしましょう」
またコーヒーを飲んで述べる。スペインのコーヒーは日本のものとはまた違う味であった。その味を楽しみながら述べるのであった。
「とりあえずは。それに」
「それに?」
「折角来たのよ。この街を楽しみたいわ」
口元に笑みを浮かべていた。今まで調べてばかりいたのでそんな余裕がなかったことを不満に思っているのである。それがわかる様子であった。
「そうでしょ」
「夜のマドリードですか」
「どうかしら」
速水を見て問う。
「それで」
「わかりました。それでは」
速水はそれに応えて頷く。既に彼のカップは空になりテーブルの上に置かれていた。コーヒーが白いカップに独特の模様を映し出していた。彼はそれを見て言う。
「そういえばこれで占いもできましたね」
「そうなの」
「はい。コーヒーカップ占いです」
そう沙耶香に言う。
「飲んだ後のコーヒーカップにできる模様を見て占うのです」
「面白い占いがあるのね」
「私のものではありませんがね」
薄く笑みを浮かべて応える。
「この占いは」
「何でも使えるというのではないのね」
「私の使うのはこれだけです」
そう言ってカードを見せる。タロットのカードであるのは言うまでもない。
「それは御存知の筈ですが」
「確かにね。それじゃあ」
彼の言葉に応えてから述べる。
「夜になればね」
「はい」
二人はまずは姿を消した。しかし気配を探ることは続けやがて沙耶香はシベレス広場にある中央郵便局の前に現われた。
シベレス広場は大地の女神シベレスから名前を取ったもので旧市街と新市街の接点にある。そこにはそのシベレスの石像もあり噴水の中にある。
中央郵便局はそこにあり左右対称の壮麗かつ豪壮な建物である。中央には塔が高く聳え立っておりそれはまるで宮殿のようである。沙耶香は闇の中に浮かぶその宮殿の前にやって来たのだ。黒い闇の中に白亜の宮殿が浮かび上がりその前に漆黒の堕天使がいるようであった。
「あら」
ここで彼女は気付いた。一旦別れた速水も前からやって来たのだ。
「貴方も来たのね」
「カードがここだと教えてくれましたので」
その手には小アルカナのカードが一枚あった。彼はカードを使って市内を探りここまで辿り着いたということであった。彼のいつもの探査方法であった。
「それでですよ」
「そう。私は感じたからね」
沙耶香はそう答える。
「ここにね」
「ええ。かなりの妖気を感じます」
速水は沙耶香の前まで来た。闇に浮かび上がる彼女の顔を見て笑う。その顔は白く夜の中で月の光のようにぼんやりと光っていたのだった。
「ここに」
「そういえばここでも一人失踪したらしいわよ」
「女性がですか」
「ええ」
沙耶香は答える。
「ロスアンヘルスさんの妹さんとは別の方がね」
「そうでしたか」
「しかも。かなり強いわね」
沙耶香は述べる。述べながら右手を見るとそこには宮殿の如き中央郵便局の建物が聳え立っている。その建物を横目で見ながら話をするのである。
「強くなってきているわ」
「そうですね。ほら」
速水も右手を見た。見た方向は同じだがそれは正反対であった。沙耶香も同じ正反対の方向でありながら同じものを見たのであった。
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