祈りは通じる
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第二章
「誘拐された人を見過ごすとかしたら駄目だろ」
「そうだね、けれどね」
「けれど?」
「どうやって取り戻したらいいんだろうね」
侑枝は夫に難しい顔で問うた。
「一体ね」
「まずは近高さんに会ってな」
「話を聞いてだね」
「それでだよ」
「それで?」
「何とか動かないとな」
拉致された人達、その近高さんの娘さんも取り返す為にというのだ。
「駄目だな」
「その辺りはまず近高さんに会ってからかね」
「そうなるな、他にも出来ることがあったらな」
「何でもしないとだね」
「駄目だろうな」
「じゃあね、色々動くんだね」
「人を攫われて黙っているなんて人のすることじゃない」
こう信じているからこそだった、正蔵は動くことを決めた。そして。
すぐにだ、彼は侑枝と共に近高さんの家に向かった、そこで。
夫婦でだ、まずは近高さん夫婦と詳しい話をした、近高さん夫婦は辛そうな顔で二人に話した。
「娘が生きていれば」
「本当にそう思っています」
「若しあの国に攫われているのなら」
「何とか助け出したいです」
「もう藁にすがる思いです」
「助けてくれる人がいれば有り難いです」
「そうなのですね」
正蔵は二人の言葉を聞いて呟く様にして言った。
「やはり。ご心中察します」
「いえ、お話を聞いて頂き有り難うございます」
「それだけでも嬉しいです」
「娘は何処にいるのか」
「そればかりが気掛かりです」
「あの国は本当にです」
「娘を攫ったのでしょうか」
近高さん夫婦はこうまで言う、とても人のよさそうな初老の夫婦だがその顔に刻まれている皺は多くしかも深い。
その夫婦がだ、俯き加減に言うのだった。
「そんなことをしていないと言う人も多いですが」
「どうなのでしょうか」
「それは」
正蔵は沈痛な顔でご夫婦に答えた。
「まだ確かなことは言えません」
「そうですか」
「やはり」
「ただ、調べてです」
そしてとだ、正蔵はご夫婦にこうも述べた。
「真相に近付くことは出来ます」
「娘のことにも」
「何故いなくなったか」
「そして今は何処にいるのか」
「そのことを確かめることをですね」
「はい、出来ると思います」
正蔵は淡々とだが切実な声でだ、ご夫婦に話した。そしてだった。
侑枝とだ、顔を見合わせてからだ。ご夫婦に尋ねた。
「あの、それでお二人を支援してくれている人達は」
「いてくれています」
ご主人が答えた。
「幸いにして」
「左様ですか」
「地元の人達、学者や経営者、与党の議員の方も」
「支援をして下さっていますか」
「探偵や興信所まで使ってです」
娘さんを探してくれているというのだ。
「日本全国で。そして」
「あの国のこともですね」
「調べてくれています」
「そうなのですね」
「それでとある議員の方から言われたのですが」
「あの国が、ですか」
「娘を攫った可能性は高いとのことです」
噂通りというのだ。
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