ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
忘れ去られた悪意
元六王の第三席《冥王》ことレンホウは、現在なんやかんやあってへたりこんでいた。ぜぇぜぇ、という荒い息に時折混じって聞こえてくる怨念めいた囁き声がなんか怖い。
それもこれも、少年にあてがわれる予選ステージのことごとくが面倒くさいことこの上ないような特色だったのだ。具体的に言えば――――
「……なんで僕のステージだけみんな戦争系なんだ…………」
まあこういうことだ。
予選二回戦の紛争ステージ(ドンパチやってるド真ん中にいきなり放り出された)から始まり、海戦ステージ(敵の飛行機がちょうど来襲したところ)に密林ゲリラステージ(どこまでもびっくりさせられた)と続き、その後もなんかそういう系統のステージが続いたのである。もう運営側が悪意の塊にしか見えない。
もちろんこれらのステージ特性は、あくまで《背景》という扱いになっているのであり、ステージの中に配置されている敵兵とか戦艦の大砲とか飛行機から落ちてくる爆弾に真正面からぶつかろうがHPに変動はない。進んでやろうとは思わないが。
だが、HPに影響はないとはいえ、かといって勝敗にはまったく関係がないのかと問われれば、その答えは否だ。
端的に言えばうるさすぎる。
レンは索敵をほとんどシステム外スキル――――それも環境音の中から敵由来のサウンドエフェクトのみを抽出して聞き分ける《聴音》を中心に組み込んでいる。《超感覚》も使うは使うが、それだとステージ上の障害物などの細かな凹凸は分からない。誰だって何のことはないとっかかりに足を取られて転倒とかはしたくないだろう。
しかし、この《聴音》だって《超感覚》とは違い、完璧とは程遠いスキルだ。これはそもそも、風鳴りとかが響く静かな場所で使用するものであって、決して兵隊の怒号とか頭上を爆撃機の編隊がスッ飛んでいく状況の中で使うものではない。
したがってレンはとりあえず目視で飛び交う銃弾やら落下してくる爆弾がまき散らす爆風―――厄介なことにHP減少判定はないが当たり判定はある―――を避けつつ、落ち着いた場所で《超感覚》を使って炙り出す作戦だったのだが。
―――ま、まさか全部その前に見つかるなんて……あの中で見つけるコツとかあるのかな…………。
銃声やら爆音やらにカモフラージュされて襲い来る銃弾に軽いトラウマを植え付けられそうになっている少年のような少女――――もとい少女のような少年。
ぷすぷすと白煙を上げて冷却ファンをブン回している頭を少しでも冷やそうとうちわ手で煽ぐが、久しぶりに極限までヒートアップした意識は全然収まるところを知らない。
仕方なく下向けていた視線を上に向けると、大きな六角形パネル状に浮かぶウインドウが視界に入った。
記された対戦相手の名前は【Saffron】――――サフランと読むのだろうそれには、もちろん聞き覚えもない。
だが彼または彼女に仮に負けても、レンにはもう直接的なデメリットはない。
なぜなら、次はもうCブロックの決勝戦だからだ。決勝まで勝ち進めれば勝ち負けに関係なく本戦に上がれるというルール上、厳密にこの決勝をやる意味はないのだが。
―――まあ、白黒つけたいってのがゲーマーの本音ってトコだね~。
のんびりと思考すると同時。
遅々とした速度でカウントを続けていた数字がゼロを刻むと同時、幾度も経験した転移光が身を包み込む。最後まで少年が念じていたのは、どうか次は平和なステージでありますように、ということのみだった。
Bブロック、決勝戦。
転送を経て目蓋を開けると、草木の一本さえ生えていない荒野の中にぽつんと乱立している西部劇みたいな街と、その隙間から今まさに沈まんとしている血の色の夕陽が眼に飛び込んだ。
ステージ名《西部の荒野街》――――なんだか気分までテンガロンハットを被って正々堂々勝負とかいう気分になってくるようなものだが、しかしユウキはまったくそんな思考を発することができなかった。
「…………………………」
こつん、と。
足元にあった小石を蹴る。
それ自体に意味はなかったのだが、少女はそれで何かの切り替えをするように頭を軽く振った。次いで、手近にある裏路地とも呼べないような家と家の隙間に身体をねじ込む。
手を伸ばし、腰に吊っている光剣の柄に触れる。金属質なひんやりと硬質な手触りから、冷たさ以外を感じるようにキツく目を閉じた。
―――今は色んなことがあってネガティブになってる。だけどそんなことじゃダメだ。全力でぶつからなきゃ、相手の人にも失礼だよね。
よし!と気合い一発。
ひゅうひゅう、というどこか寂しげな風鳴りをBGMに、よく映画で見かける、ボール状の草の塊がスッ飛んでいく。よくよく思うのだが、アレは本当にああいう植物があるのだろうか。
草の球体がコロコロと転がっていくのを視界の端に捉えながら、ユウキはにゅっと路地から顔を突き出して辺りを見回した。
まるで神様が―――この場合はGMか―――適当に上空から家を落っことしたみたいに整合性や機能性といったものをガン無視した家の並びは、視界の確保が異様に困難になっている。教科書で見た、敵に攻め込まれないようにわざと遠くを見渡せないようにしている昔の城下町のようだ。
まあこれはたぶん、そういうステージ特性なんだろうけど、と色々台無しな思考を胸中で呟きながら、少女はなるべく音を立てないように手足を左右の木壁に突っぱねた。
そのまま、どこかのクモ男よろしく上に登り、木製の屋根に足を掛ける。
西部劇に出てくる家々の建築方式は良い意味でフリーダムなので、屋根の形どころか家の形も様々だ。立方体の上に適当にデカい板を乗っけたような建築物もあるし、きちんとした三角屋根もある。
その中の、比較的足場の広い屋根の上によじ登ってユウキはカナビラから光剣の柄を引き抜いた。側面のスイッチを押すと、今はもう滅びたガス灯のような独特の音とともに紫がかったエネルギーブレードが一メートル強ほど伸長し、黄昏に照り輝く周囲を染め上げる。
ヴン、ヴヴン、と軽く素振りをしてから、何か得心を得たかのようにふんふんと頷く少女は、そこで目線を手元から周囲に向けた。
幾ばくか剣呑になった濡れ羽色の瞳が、さながらサーチライトのように辺りを睥睨する。
直後。
跳ね上がった右腕が自らの背後を薙ぎ払った。空気が焼け付く音とともに、ひときわ激しいエフェクトが舞い散る。
遠距離から飛来した弾丸を真っ二つにしたエネルギーブレードを払い、液化を飛び越えて軽く気化しようとしている鉛を飛ばした。次いで、一発目を撃ったことで場所が割れた次弾、次々弾の数瞬後の軌道を示す真紅の輝線が宙空に尾を引く。
―――狙撃手ってヤツかな。
予選からずっとマシンガンを繰る明らかなアタッカータイプばかりだったので、逆に後衛を務めていそうな狙撃手はかなり新鮮だ。そもそも剣の切っ先が容易に届かないような超遠距離から一方的に攻撃されること自体初めてである。
左右の光剣が翻り、致死のはずの弾丸がことごとく撃墜されていく。
五発を撃ったところで、狙撃は唐突に終わった。
「……よし」
とくに気負いのない声とともに現実よりも小柄な体躯がぐぐっとたわみ、足場の木屋根が悲鳴のような音を上げたのを皮切りとして疾駆を開始した。
道の整合性を無視してバラバラに配置された屋根。しかももともと雨の少ない西部アメリカの気候上の理由か、屋根の形すらも多様な種類が据えられているフィールドの大空をジグザグに切り裂いていく。
その間、進路を邪魔する看板などの障害物はそもそも回避すらしない。ブチ当たる寸前に大気を爆発させるような勢いで光の残像が幾重にも返され、金属や木製のそれらがちょうど人が通れるほどの大きさの大穴を開けてことごとく融解する。
「せい……ああああぁぁぁァァァァッッ!!」
裂帛の叫びとともに屋根の上からカタパルトのように飛び出した少女は、先刻予測線が見えた窓へと運動エネルギーのあらん限りをぶつけた。
これまでと同じように、モノを切った、という手応えはなかった。
ただ、重い空気の層を切ったような妙な感触とともにケイ素の塊が丸く白熱しながら融け、強引に入口を開く。
「……いな――――ィッ!!?」
トスッ、と。
軽い音とともに両腕が鈍い痺れがさざ波のように押し寄せ、それに眉をひそめるのも一瞬。熱い激痛が突き抜け、堪らず呻き声を上げてユウキは床に膝をついた。
「――――両の腕、ともに、二箇所を……ハァ、突いたのに、それでも剣を、落とさないのは…さすが、だな。絶剣」
しゅーしゅーと。
低く乾いた、それでいて金属質な響きのある声が、直接聴覚にねじ込まれる。
僅かに震える首筋を叱咤して振り返るのと、少女が突入した窓のすぐ脇――――彼女から見た死角の暗がりから揺らめくように一人の影が吐き出されたのはほぼ同時だった。
一件、人とは思えなかった。アバターの輪郭が奇妙にぼけているのだ。懸命に注視し、ようやくその理由を悟る。
全身を覆う濃い灰色のフードマントがぼろぼろに毛羽立っている上に、ユウキが突っ込んだことと、ユウキの持つ光剣のビームサーベル部が生み出す高熱によって生み出された風にマント全体が簡単になびき、まるで小動物の群れのように不規則に動いているように見えるからだ。スナイパーが背景に完全に同化するために身に着けるギリースーツというものを聞いたことがあるが、あれはそれのマント版――――《ギリーマント》とでも言うべきか。
だが――――
「……なん、で、絶剣の名前を…………」
小さな疑問が、無意識のうちに口から零れ落ちる。
その名はSAO――――今のALO上空に浮かぶ新生アインクラッドではなく、旧アインクラッドでしか流布していないものだ。SAO内での情報は一切が門外不出の機密扱いとなっているので、それを知っているということはこのボロマントは――――
「……SAO、生還者……なの……?」
答えはなかった。
ただ、不気味な沈黙が返された。
重い一拍を置き、再び金属質でどこか無機物的な印象を受ける陰々とした声が響く。
「生、還……だと?……は、は、笑わせる。俺は、還ってきてなど、いない。俺は、今でも、あの場所にいる」
ぞくり、と。
少女の背に得体のしれない悪寒が突き抜ける。
「何も、変わっていない。何も、終わっていない。イッツ・ショウ・タイム」
そのたどたどしい英語を聞いた瞬間、ユウキの脳裏に激震が走った。
この切れ切れな喋り方、そして相対した者に血を連想させる真っ赤な双眼。
「《赤眼の》……ザザ――――!!」
喘ぐような言葉が漏れた直後、ボロボロのマントの裾が勢いよく翻った。
後書き
なべさん「はいはい、始まりました。そーどあーとがき☆おんらいん」
レン「シリアスパート?」
なべさん「そだね。やっとこさと言ったところかな」
レン「本編じゃ本戦最後でよーやく名前バレしてた死銃ネームがいきなり出てくるのか」
なべさん「まぁユウキは優等生ですから。キリット先生がド忘れしてた部分も覚えてるのよ」
レン「うーん、いよいよ原作と離れてきたなぁ(びくびく」
なべさん「そうだよ!ようやく離してこれたぜ!(きらきら」
レン「ここからが怖い…」
なべさん「はい!自作キャラ、感想を送ってきてくださいね!」
――To be continued――
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