黒魔術師松本沙耶香 妖霧篇
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2部分:第二章
第二章
「それで遅れたのですね」
「はい。まあその前にちょっと楽しんでいましたが」
霧の中の小競り合いの後で彼女はスコットランドヤードの本部に来ていた。もう夜だが警察だけはあり人は残っていた。そしてその応接室で話をしていたのである。
「時間はまだありましたので」
「時間のことはまあいいです」
向かいに座るスーツの男は彼女が遅れてきたことには特に不満はないようだった。だが言った。
「しかし。いきなり遭遇するとは」
「しかも生還されるとは」
そのスーツの男の横に立つ制服の男も驚いていた。見れば二人共まだ若い。スーツの男は二十代後半、制服の男は前半であろうか。二人共金髪で目の色がそれぞれ違っていた。スーツの男が青、制服の男が緑であった。顔の造詣もそれぞれ異なっているが彼女はまずその目の色で見分けることにした。
「どうやら今まで生きて帰って来た人はいないようですね、そのお話からすると」
「はい」
スーツの男が頷いた。
「残念なことに。それで捜査官も何人も姿を消しております」
「皆携帯でマザーグースの唄と霧が、と言い残して。そして今に至ります」
「それでは私が最初の目撃者ということになるのですか」
「はい」
二人は同時に頷いた。二人共高い声であったが制服の男の方がやや高かった。シャープ一つ分程高かった。
「ですが霧の中だったのが残念です」
「そうですか」
「それでマザーグースと子供の声以外には何かおわかりでしょうか」
「少なくともあれは人間ではありませんでした」
彼女は答えた。
「やはり」
「やはりといいますと」
「いえね。実は前から疑っていたのです」
スーツの男が言った。
「この一連の事件は。人間のものとは思えないと」
「つまり異形の者達の行動であると」
「はい。さもないと人が姿を完全に消すなぞ有り得ないですから」
彼はまた言った。
「それも全て。しかも霧の中で子供がマザーグースを唄う。これではそうとしか思えないのでしょう」
「そういうこともあり貴女を御呼びしたのです」
そして制服の男もこう述べた。
「松本沙耶香」
「はい」
彼女、松本沙耶香は自分の名を呼ばれて頷いた。
「日本、いえ世界でも有数の魔術師である貴女に今回の事件の解決をお願いする為に」
「こうして御呼びしたのです」
「つまり私にあの霧の中にいる異形の者を始末して欲しいと」
「はい。宜しいでしょうか」
「報酬はこちらで貴女が望まれるだけ差し上げますので」
「気前がいいですね」
沙耶香はそれを聞いて妖艶に笑った。
「流石は世界に名を知られたスコットランドヤードでしょうか」
「今ロンドンは恐怖に支配されていまして」
スーツの男の顔が沈痛なものとなった。ギリシア彫刻の様に彫の深い顔だが今その顔が悲劇を前にした英雄のそれに近いものとなった。
「女王陛下も心を痛めておられます」
「それは我が国にとって喜ばしいことではありません。一刻も早い解決をと思いまして」
「それで私を日本から呼んだと」
「そういうことになります」
二人は静かにそう答えた。
「宜しいでしょうか」
「既に一度会っていますし」
彼女はそれに対してまず返答するより先に先程の戦いのことについて言及した。
「私は誘いは断らない主義ですから」
「それでは」
「はい。快く受けさせて頂きます」
こうして彼女はこの事件の解決にあたることとなった。二人の警官はそれを聞いてそれまで強張っていた顔をほんの少し緩やかなものにさせた。
「それは何よりです」
「是非共あの異形の者を倒して下さい」
「はい。ところで御聞きしたいことがあるのですが」
「何でしょうか」
「御二人の御名前は。何というのでしょう」
「あっ」
沙耶香に言われて二人はハッとした。
「言いませんでしたっけ」
「いえ、まだですが」
沙耶香は笑いながらこう述べた。
「これから御一緒させて頂くのですし。是非御聞きしたいのですが」
「わかりました」
「失礼しました」
二人はあらためて姿勢を整えた。それから言った。
「ウィリアム=ハーネストです」
「ジョナサン=マクガイアです」
まずスーツの男が名乗り制服の男が名乗った。沙耶香はそれを聞き無言で頷いた。
「わかりました。それでは宜しくお願いします」
「はい」
三人はそれぞれ握手をした。イギリス式の軽い握手であったがそれで充分であった。そして三人はすぐに話に入った。だが何分情報が少なく話をしようにも碌に情報もなかった。三人は夜遅いこともあり今回はすぐに別れることとなった。
「続きはまた明日ですね」
「はい」
沙耶香はハーネストの言葉に頷いた。本部の前に立っていた。
「明日の朝ここで」
「お待ちしております」
マクガイヤも頷いた。どうやら二人は今日はここに泊まるらしい。
「宿はどうされますか」
「何なら手配致しますが」
「いえ、それには及びません」
だが沙耶香はそれをやんわりと断った。
「宿はもう見つけてあるので」
「左様ですか」
「それでは宜しいですね」
「はい」
彼女は頷いた。深く入り込んで来ないイギリス人気質にこの時は感謝した。
「丁度霧も晴れてきましたし。帰るにはいい頃でしょう」
「霧ですか」
それを聞いた沙耶香の切れ長の目に光が宿った。
「彼はもう自分の世界に帰ったということでしょうか」
「今日のところは、ですね」
マクガイヤはそれを聞いてこう言った。
「しかしまた出るでしょう。倒さない限り」
「でしょうね」
それは沙耶香もわかっていた。一言こう答えて頷く。
「おかげで今のロンドンは夜出歩く者がいなくなりました」
「毎日の様に誰かが消えていては。無理もないでしょう」
「信じられない話ですね」
「ですが本当の話です」
ハーネストの言葉は深刻さを増していく。
「このままではロンドンの夜が死んでしまいます」
「まるで。かって切り裂きジャックがいた時のようです」
「切り裂きジャックですか」
「はい。違うのは犠牲者の数です」
「それは。もう十人や二十人ではききません」
二人の声は深刻さを増してきた。
「犠牲者はもう何人なのか。わからない程です」
「そして手懸かりは霧とその中から聞こえるマザーグースを唄う子供の声。それだけなのです」
「ないに等しいですね」
「残念ながら」
それを否定できないのが口惜しかった。だが二人はそれを素直に認めた。
「ではまた明日」
「お休みなさい」
「ええ。ではこれで」
「はい」
こうして三人は別れた。沙耶香はそのままロンドンのとある高級ホテルに向かった。そこはかなり格式の高いホテルであり飛び入りのような形で、しかも一見が入られるようなホテルではなかったが彼女は入ることができた。そしてそこで宿をとった。
朝になった。彼女は絹のバスローブを羽織り天幕のベッドの中に休んでいた。朝が来たことを告げるモーニングコールがかかってきた。
「お早うございます」
「ええ、お早う」
それに応えながら起き上がる。起き上がるとバスローブを脱ぐ。その中から黒のブラとショーツを身に纏った美しい肢体が現われた。脚は長く、まるでギリシア彫刻の様な美しさを持っている。胸はそれ程大きくはないが非常によい形をしていた。それは下着の上からでもわかった。
その下着を脱ぐと浴室に向かった。そして身体を清める。それが終わると今まで着けていたものとは別のやはり黒の下着を身に着けガーターストッキングを履く。それから黒いスーツとズボンに身を包んだ。
着替え終わった時にベルが鳴った。それに出ると朝食の用意ができているというのだ。
「どうぞ」
彼女はホテルマンを招き入れた。するとよく手入れされた制服を着た若い男のホテルマンが入ってきた。その手にはゴートを運んでいる。
「朝食でございます」
「メニューは何かしら」
「はい」
彼はそれに従いゴートの上にある皿をテーブルの上に置いていった。そしてその銀の覆いを外した。
「こちらです」
そこにあったのはオートーミールとオムレツであった。そしてソーセージ。飲み物はミルクティーであった。よくあるイギリスの朝食であった。
「イングリッシュ=ブレイクファストね」
「はい」
彼は沙耶香の言葉に頷いた。
「残念ながら外国の方には今一つ評判が宜しくないですが」
そう言って残念そうに笑った。イギリスはお世辞にも料理がいいとは言われていないことを彼も知っているのだ。だからこそ言ったのである。
「ですがそれをわざわざ注文して頂けるとは。感謝します」
「私は好きですから」
沙耶香はホテルマンのあまりいいとは言えないジョークにも笑わなかったがその感謝の言葉には笑った。
「オートミールもね。そしてこのオムレツも」
「有り難うございます」
そして食べはじめた。優雅な、それでいて機敏な動きで食べる。それはまるで黒豹が食事を摂るかのようであった。
食事の間ホテルマンは彼女の側で立っていた。どうやらこの部屋、そして彼女の専属となっているらしい。
食べ終えると紅茶を飲んだ。それが済むとゴートに片付けられる。ホテルマンはそれが終わった後で彼女に尋ねてきた。
「如何でしたでしょうか」
「美味しかったわ」
沙耶香は不安そうに尋ねてきた彼にそう答えた。
「シェフに御苦労様と伝えて下さい」
「有り難うございます」
「最近ロンドンでもこうした料理が食べられるようになったのですね」
「はい、おかげさまで」
彼は笑顔で応えた。
「我が国もようやく味というものがわかってきたのです」
「あら、謙遜ね」
「いや、謙遜ではなく」
これはほぼ事実であった。イギリスといえばその料理の貧弱なことで知られている。これは元々この国の土地が痩せていたことも大いに関係があった。シェークスピアが美食家であったという話がないのもこれである。彼の作品には食べ物はあまり出て来ない。
「我がホテルのシェフも。イギリスの料理を知ってもらおうと躍起です」
「ではそれに乗らせてもらおうかしら」
「といいますと」
「夕食もお願いね」
沙耶香は優雅に笑ってこう言った。
「イギリスの豪華なディナーを頂きたいわ」
「畏まりました」
「お酒はスコッチを。それでお願いするわ」
「はい」
彼はまた頷いた。それから尋ねた。
「お帰りは何時頃になるでしょうか」
「それがわからないのよね」
彼女はここで苦笑した。
「何時になるか。けれどここで食べたいから」
「わかりました。それでは」
彼はそれを聞いて応えた。
「お望みの時間にお持ちしますので。楽しみにお待ち下さい」
「有り難う」
それを聞いて苦笑を微笑に変えた。そして身支度を整えてホテルを後にする。その脚でタクシーを捕まえた。
ロンドンのタクシーは古風な昔ながらの車を使っていることで知られている。彼女はそれに乗り込み車中の人となった。そんな彼女に綺麗な銀髪の初老の運転手が声をかけてきた。
「どちらまでですか」
「スコットランド=ヤードまで」
その機械的な声で答える。
「ヤードまでですか」
「ええ。お願いするわ」
「わかりました」
警察関係か、と思ったが声には出さなかった。そしてそのままスコットランド=ヤードまで向かう。程無くして到着した。
そしてタクシーを出た。高い帽子の警官達の敬礼を受けながら建物の中に入っていく。そして昨日の部屋に来た。そこにはもうハーネストとマクガイヤが待っていた。
「お早う御座います」
二人は沙耶香の姿を認めると挨拶をしてきた。彼女もそれに返す。
「はい、お早う御座います」
挨拶も返事もやはり英語である。彼女はロンドンに到着してから英語以外を話してはいなかった。だが日本の訛りを感じさせない見事な英語であった。それはネィティブのイギリス人のそれよりも綺麗な発音であった。
「それでは早速仕事に取り掛かりますか」
ハーネストは上着を着ながらこう言った。
「昨日貴女がその唄を聞かれた場所ですが」
「はい」
「まずはそちらに向かいたいと思います。宜しいでしょうか」
「はい。では案内致します」
「では」
マクガイヤも一緒であった。こうして三人は本部を出てマクガイヤの運転する車に乗り込んだ。そして沙耶香の案内で昨日の場所に向かうのであった。
「そういえば御二人のことは詳しく聞いていませんでしたね」
沙耶香は車の中でふとこう言った。
「ハーネストさんの方が年上に見えるのですが」
「ええ、その通りです」
助手席に座るハーネストが後部座席の沙耶香に応えた。そしてその顔を彼女に向けてきた。
「私の方が四つ程上でして」
「そうでしたか」
「階級も。私は警部です」
「警部にしてはお若いですね」
「まあ色々とありまして」
彼はここでは自分のことをあまり語ろうとはしなかった。だが何かあるようである。
「私は巡査部長です」
今度はマクガイヤが名乗った。
「私もこの若さで、とよく言われますね」
「そうでしょうね」
沙耶香もそれに頷いた。
「日本ではその御歳で巡査部長はそうそうおりませんから」
「日本でもですか」
「はい」
彼女は頷いた。
「どういうわけか巡査部長がなるのが一番難しいとさえ言われておりますし」
「ほう」
「イギリスでもそうでしたのね」
「まあ我が国はそちらの御国とは事情が違いますからね」
ハーネストがここでこう言った。
「我が国は。貴族社会ですから」
「はい」
それはもう知っていることであった。こくりと頷く。
「昇進にもそうしたことが影響したりするところがまだあるのですよ。まあ平等ではありません」
「それは我が国でも同じですが」
「明確には分かれていませんね、欧州みたいね」
「はい」
それは事実であった。今の日本ではそうした明確な階級というものはない。実情はどうあれ、だ。これは欧州とは全く違うことであった。
「そういうことですよ。これは非常に大きな差でして」
「民族が違うということですからね」
「御存知でしたか」
民族という言葉に反応してきた。イギリスでは平民と呼ばれる人々は所謂アングロ=サクソンやケルト系である。それに対して貴族はノルマン系である。ノルマン=コンクェスト以来のことである。
「世界史でよく言われておりますから」
「日本人は博識だ」
ハーネストはそれを聞いて素直に唸った。
「まさかこんなことまで知ってるとは思いませんでした」
「イギリスのことはね」
沙耶香はここで笑った。
「勉強しなければなりませんでしたから、職業柄」
「職業柄」
「はい。私は魔術師ですから」
「それは聞いていますが」
「ケルトのことも。知っておかなくてはなりませんでしたから」
「そうでしたか。ケルトのことも」
ケルトは魔術のルーツの一つである。北欧のルーン文字等と並ぶ欧州の魔術のもととなっているのである。かってはこれがキリスト教社会において異端とされてきたのである。
「それでイギリスのことも勉強しました。けれど学校の授業で習ったのも本当ですよ」
「高校でそこまで勉強するのですか」
「他にはローマや中国の歴代王朝のことも。同時に日本史も」
「多いですね」
「日本得意の詰め込み教育ですよ」
そう言って笑った。どうやら授業は減っていても今でも他の国から見れば多いらしい。
「おかげで勉強するのが大変で。学校は高校だけで一杯でした」
「はあ」
「それで大学には行かないで。魔術師になったのですよ」
「そうだったのですか」
「ええ」
そしてあらためて頷いた。
「イギリスにも。度々来ていました」
「ロンドンにも」
「何度か。ですから街のこともある程度知っています」
「ならこの道もわかりますね」
「はい」
マクガイヤの言葉に頷いた。
「前の仕事の時にも通りましたし」
「前の仕事」
「私の依頼人はスコットランド=ヤードだけではありませんから」
そう言いながら不思議な笑みを浮かべた。
「時には貴方達がお知りになられない方がいい方の依頼も引き受けますよ」
「今それについて御聞きすれば一介の警部がロンドンからいなくなるようですね」
ハーネストはそれを聞いて面白そうに苦笑いを浮かべた。
「怖い話だ」
「まあそれはお互い様ということで」
「守秘義務ということですな」
「ええ」
「それではお互いにそこには踏み入らないということで」
「はい」
そんな話をしながら現場までのドライブの時間を潰した。そして沙耶香の案内で昨日の現場に到着した。
そこはボンド=ストリートの一角であった。この街の中心部にある商店街でありブランド品や豪奢な品々を揃えた店が並んでいる。そこが昨夜の事故現場であった。
「魔物というのは無粋なものですね」
マクガイヤはそのボンド=ストリートを見回しながら言った。
「こんなところでレディーに襲い掛かるとは。何を考えているのか」
「魔物には人間の理屈は通用しないさ」
そんな彼にハーネストが言葉を述べる。
「彼等の世界と私達の世界は違うのだからね」
「そうなのですか」
「彼等のいるところは魔界だろう。魔界にボンド=ストリートはない」
「はあ」
「あそこにいる口の悪いおじさんもそれはわかっていると思うよ」
そう言ってニュー=ボンド=ストリートとの間にあるベンチに腰掛けている銅像の一つを手で指し示した。そこにはチャーチルがいた。
「まああの人も今は座っているだけだがね。魔物がいても何もできない」
「あの人だったら魔物に対して何をしたでしょうね」
「皮肉を山程ぶちまけたかもな」
チャーチルの性格と口の悪さを皮肉って言う。
「それから喧嘩だ。まあ元々軍人だし強いだろう」
「ですね」
彼は陸軍士官学校を出ている。なお出身は陸軍であったが後に海軍大臣にもなっている。ユニークと言えばユニークな経歴である。
「だが今は後世の我々に任せてくれている。思う存分やりたまえ、とな」
「そんなこと言うのなら隣にいるルーズベルトでもけしかければいいでしょうに」
「できたらいいがな。生憎彼も銅像だ」
「やれやれ」
「まあチャーチル卿には今は休んで頂きましょう」
それまで二人のジョークを黙って聞いていた沙耶香が口を開いた。
「私が仕事を引き受けましたから」
「ですね」
「それでその魔物が出た場所ですが」
「はい」
二人は沙耶香に顔を向けた。
「この辺りでした」
彼女はストリートのある場所に来た。そこはそのチャーチルとルーズベルトが座っている場所から少し離れた場所であった。
「ここで出て来ました」
「そこですか」
「はい。その時私はここを一人歩いていまして」
「それで」
「来たのです。やはり霧の中で」
「マザーグースの唄を歌いながらですね」
「曲はロンドン橋でした」
「今回はロンドン橋だったのですか」
「今回といいますと」
「いえね、実はその都度歌が変わっているのですよ」
ハーネストがそう説明をした。
「昨日もお話しましたが捜査官が何人も消えていまして」
「ええ」
「彼等が消える前に連絡した曲は。ロンドン橋だけではないのです」
「他にどんな曲が」
「オレンジとレモンの曲とか」
「他には」
「リング=リング=ローゼィーズとか。そういった曲ばかりです」
「そうですか」
「どれも可愛い曲ばかりですけれどね」
マクガイヤは困った顔をして言った。
「ところが実際の事件は。不気味なものばかりです」
「いえ、それはどうでしょうか」
だが沙耶香はそれには異議を呈した。
「といいますと」
「それは後で。ここは人目がありますし」
「おっと」
言われてすぐに気付いた。これは警官としては迂闊であった。
「これは失礼しました」
「まあここでの捜査が終わった後で」
「はい」
そして三人はこのボンド=ストリートで本格的な捜査に入った。だがここでは結局何も手懸かりは得られなかった。三人は早々とここでの捜査に見切りをつけこのストリートを後にした。そしてヤードの本部に戻った。
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