K's-戦姫に添う3人の戦士-
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1~2期/啓編
K12 啓と未来
夕飯の時、ばあちゃんは何の気なしだろう、「響ちゃんは元気してるかねえ」なんて言った。
飯終わってテレビ観ながらも、しばらくその台詞が離れなくて。
「母さん。ばあちゃん。ちょっと出かけてくるわ」
「はいはい。気をつけてね」
コンビニとかに行くとでも思ったんだろう。母さんは特に咎めなかった。
ので、おれは愛車ならぬ愛チャリで、リディアン音楽院へ向けて出発した。
リディアンの下町に当たる商店街は、夕方から自転車通行禁止なんで、チャリついて歩いてた。
「啓くん?」
「未来ちゃん」
アーケードを歩いてると、正面方向から歩いてきた未来ちゃんと鉢合わせた。
――未来ちゃんとは知らない仲じゃない。何せ未来ちゃんは中学時代からの響ちゃんの親友だ。おれが響ちゃんの教室に顔出した時はいっつも二人でいたし、未来ちゃんが我が家に遊びに来たこともたくさんある。
「どうしたの、こんなとこで」
「ちょっと響ちゃんの様子見に」
「……無理よ、それ」
何でさ。
「響、今日は放課後に、先輩の部屋に行く用事があるから」
先輩って、もしかして風鳴サン? そういやリディアンって全寮制だから、考えてみると響ちゃんと風鳴サンで一つ屋根の下の生活なんだよな。
「約束」したから、さすがにリンチのために呼び出しなんて物騒なことじゃないとは思いたいけど……
「ね。時間があるなら付き合ってくれない?」
未来ちゃんが指さしたのは、おれたちの真横。「ふらわー」って店。お好み焼き屋?
うーん……夕飯食った後だけど、お好み焼きくらいなら何とかなるか。これでも成長期の男子だし。財布持ってきといてよかった。
店の前にチャリ停めて、未来ちゃんと一緒に店に入った。
ちょうど店内に客はいなくて、カウンターの中におばちゃんが一人だけ。
「いらっしゃい。おや、彼氏かい? 隅に置けないねえ」
「違いますよ。友達の弟さん」
「――どうも」
未来ちゃんがカウンター席に座ったんで、おれも隣に失礼しまーす。
「いつも人の3倍は食べるあの子は一緒じゃないの?」
「今日は、ちょっと」
「――そうかい。じゃあ今日はそこの坊やに、あの子の分まで食べてもらうとしようかねえ」
「え? おれ?」
人の3倍……普通の女子が食べる分の3倍ってどんくらいだろ? ちょっとした大食い大会になりそうだ。
「わたしが食べるから焼いてください。おなか空いてるんです。今日はおばちゃんのお好み焼きを食べたくて、朝から何も食べてないから……」
未来ちゃん……?
「おなか空いたまま考え込むとね、イヤな答えばかり浮かんでくるもんだよ」
「――、そうかもしれない」
あー……これ、響ちゃん絡みだ。間違いない。フォロー入れといたほうがいいのか? フォロー……浮かばねえ。おれの左脳の役立たず。
お好み焼きを平らげて、おれはカウンターに突っ伏してる。
撃沈である。
何でさ。おれバスケ部現役で男子で、未来ちゃんは元陸上部だけど今はやってない女の子なのに。何で未来ちゃんはその量食べてケロッとしてんの。女子の胃袋って神秘。そもそもうら若きJKが放課後に粉モノってチョイスがどーよ。太るぞ。
「あー、おいしかった。おばちゃん、お会計。――あ、啓くんはいいよ。わたしが奢ったげる。無理に付き合わせたお詫び」
「はは……サンキュー」
もう夕方も終わって夜になる。時間も時間なんで、未来ちゃんに「送ってく」って言ったら、「ありがとう」って言ってくれた。
おれはチャリついて、未来ちゃんと並んで、リディアンの学生寮へ続く道を歩いた。
坂の途中にある緑林公園のとこに差しかかったとこで、未来ちゃんはおれから離れた。
「ここまででいいよ。送ってくれてありがとう」
「別に寮まで行ってもいいのに」
「一人で歩きたい気分なのっ」
言った未来ちゃんは明るい笑顔。なんか悩んでたっぽいけど、もういいみたいだ。よかった。
ピーピーピー
うわ、びびった! 二課からの通信かよ。まあ見た目ガラケーだし、ここで出ても大丈夫か。
「はいはい、啓です」
《ネフシュタンの鎧の少女が、今ちょうど君のいる場所へ接近している。至急、対応を頼む》
――す、と意識がクリアになった。
了解、とだけ返して通信機を切った。
服の下にはシンフォギアのペンダント。持ってきといてよかった。
「じゃあ未来ちゃん、気をつけて帰ってね」
「うん。じゃあ、また――あ」
ん? 坂の上?
「未来!? 啓!」
「響っ」
「響ちゃん……」
駆け下りてきてた響ちゃんが、呆然としたって顔でこっちを見てた。
最悪のタイミングだ。この世に神も仏もいねえと確信するくらい最悪だ。
ヤバイヤバイヤバイ。もう目視できる範囲に白い子が来てるじゃねえか!
「お前らはぁッ!!」
白い子が宝石の鞭で地面を抉った。近くにいたおれと未来ちゃんは当然吹っ飛ぶ。
未来ちゃんと一緒に道に叩きつけられた。
「っ、未来、ちゃん、大丈夫!?」
痛ぇけどすぐ起き上がって未来ちゃんに駆け寄った。
あいつ、一般人もお構いなしかよ! ならこっちも遠慮しねえ……
とか、思ってる間に、近くにあった車も一緒に吹っ飛んでたみたいで、落下地点はちょうどおれたちの上。
――ここで歌わず、いつ歌う。
「 ――Ezehyte Prytwen tron―― 」
伝説によるとプリトウェンは聖母の顔が描かれた盾らしい。
使う者に聖母の加護を与えるなら、おれにとっての聖女たちを守るために、今までの嘘を脱ぎ捨てる。
頭上に腕をかざした。バリアドーム形成、最大出力!
バリアドームが落ちてきた車を跳ね返して道路に転がした。
「啓くん……?」
いいんだ、これで。響ちゃんを未来ちゃんの前でギア装着させるよかよっぽどマシだ。
白い子をふり返った。
やり場のないこの気持ちは、てめえを捕まえて引きずり帰ることで発散してやる。
「 『ごめんね 何も言えなくて』 」
バリアドームを解除する。前を見れば――響ちゃんが泣きそうな顔でおれを見てた。
「 『やめよう 涙は似合わない』 」
上手く笑えたか分かんねえけど、響ちゃんに笑いかけてから、緑林公園に飛び込んだ。
ほら、付いて来いや! おれはこっちだ!
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