ダンジョンに復讐を求めるの間違っているだろうか
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神の宴
前書き
次の更新はできれば通常通り明後日にしたいと思いますが、どうなるかわかりません、すいません。
それと誤字脱字も多いです、すいません。
「しかし、今日はやけに混んでおるのう」
周りをキョロキョロしながら歩を進めるテュールが向かっているのは、胡座をかいている象の頭を持つ巨人の股間、もとい巨人像の股間だ。
これは、驚くこと勿れ、【ガネーシャ・ファミリア】のホームであり、今回の『神の宴』の会場でもある。
『神の宴』は神による神のための神による会合であるだけに、開きたい神が催し、行きたい神が来るという適当極まりない感じだ。
その会場となった【ガネーシャ・ファミリア】のホーム、『アイ・アム・ガネーシャ』の周りは神々の姿で溢れていて、彼等は平気な顔をして股間を潜って行く。
その股間と少し距離が残るところでテュールは立ち止まった。
「こ、股間を通るのか…………」
他の神とは違って、そして容姿通り純粋無垢なテュールはその股間を通ることに忌避感以外の何も抱かなかった。
「あれ?そこにいるのはテュールかい?」
そんな股間を潜るか否かで考えあぐねていたテュールに背後から声がかけられた。
その声に振り向くと、そこにいたのは、男神バルドルだった。
「おお、バルドルか!御主も来ておったか」
何週間かぶりとなる神友にテュールはパーッと笑顔を弾けさせて、彼にとととっと駆け寄った。
「うん、ちょっとね。それにしても、珍しいね。テュールがこんなに神が集まるところに来るなんて」
「まあな、会いたい神がいたのじゃ。そんなことより近況を話し合おうじゃないか。ファミリアはこの頃どうなんじゃ?」
「うーん、いつも通り、式君が色々してくれてるね」
バルドルが台詞とは裏腹に晴れやかな笑みを浮かべて言う。
神バルドルは男神の中で最も美しい男神の一柱で少女にも見える中性的な容姿で一部の女神から固い支持を得ている。
彼は自身の容姿にはコンプレックスがあるそうだが。
「そうか。それにしても、式君の活躍ぶりは目を見張るものがあるのう。それこそ、御主が良からぬことをしていないか勘繰ってしまう程に、のう?」
テュールがつぶらな瞳に鋭い眼光を帯びさせて訊く。
「あははっ、それはないよ」
それに対してバルドルは後ろめたいことなど微塵もないと言わんばかりに手を振って笑いながら答える。
「そうじゃろうな、御主に限ってそんな愚行はすまい」
テュールは初めから探りを入れるつもりなどなかったように、すっと眼光を引っ込めて言う。
「褒め言葉として受け取っておくよ。それで、そっちはどうなんだい?確か、新入の団員がいるって聞いたよ?」
「…………それがな、聞いてくれぬか?」
「えっ?い、いいけど、どうしたの?」
唐突に顔を陰らせて重々しい冷たい口調で言うテュールから発せられる目に見えないプレッシャーに気圧されてバルドルは僅かに後ずさる。
「…………それがな…………」
「うん、何?」
テュールの作る通常の十倍に感じる重力場に生唾を飲み込む。
「……彼奴は…………妾の言うことを一個も聞こうとせんのじゃ!!妾は主神じゃろう!」
そんな重力場を吹き飛ばすように愛らしい怒鳴り声が上がった
地面をけり付ける足から発せられる小気味のいい音がそのいじらしさに拍車をかける。
「あ、うん…………そうだよね」
それにバルドルは肩透かしを喰らったように薄い反応を返す。
「じゃろう?それなのに彼奴は――」
「やっぱりどこでもままならないものだよね、はははっ。それより、テュールは誰かに会いに来たんだよね?」
テュールの話がかなり長くなると敏感に感じ取ったバルドルは話題を逸らして、会話を切り上げようとする。
「おお、そうじゃった。大事な用事を忘れるところじゃった。礼を言う。話の途中ですまないが、ここで失礼するぞ」
そんな意図に露ほども気付かず、テュールは礼まで言うと、たたたっと小走りで巨像の股間の入口に姿を消した。
その背中を見送ったバルドルは僅かな罪悪感に苦笑しながら、頬をカリカリと掻いた。
◇
「見つからん」
会場内は外よりもごった返していて、背丈がそのほとんどの神の腰までしかないテュールの捜索は困難を極めていた。
テュールが探索を初めて既に一時間が経過していたが、目的の神物は一向に見つからなかった。
壇上のガネーシャの声が会場に響き渡る中、それを聞き流す神々はそれぞれが好きな神と談笑していて、足元をきょときょと歩き回る存在に気付いてすらいない。
「そこの子よ。ちと聞きたいことがあるんじゃが」
これではじり貧だと思ったテュールは給仕を務める【ガネーシャ・ファミリア】の構成員を呼び止めた。
「?」
しかし、給仕は、人込み――とテュールの身長――の所為もあって、テュールの姿を見つけられず、キョロキョロと首を回すだけだった。
「こっちじゃ、こっち」
「も、申し訳ありません!わ、私にどのような御用でしょうか?」
傍まで近づいて、ズボンを引っ張られてやっとテュールに気付いたヒューマンのウェイターは神に手間を取らせたことに恐縮して慌てて答えた。
「うむ。今日、ヘファイストスは来ておるかのう?」
特に気分を害したそぶりを見せず、テュールは訊いた。
「ヘファイストス様でございましたら、あちらにいらっしゃいます」
「む?見えん」
ちょっとした騒ぎになっているところにいるヘファイストスをウェイターはすぐに見付けられたが、テュールは、背丈の所為で、見付けられない。
「では、少し失礼しますね」
そのテュールを慮ってウェイターは善意からテュールの両脇に手を入れて持ち上げた。
「むっ!お、下ろせ、下ろすのだ!」
まるで自分が幼児のように扱われていることに怒ってじたばたした。
「あれ~、テュールも来てたの、私うれしいわー!!」
その所為で、テュールが他の神の視線の高さまで持ち上げられたこともあって、テュールは一番会いたくない神物に見付かってしまう。
「そ、その声はデメテル…………」
時間が止まったように停止したテュールはぎしぎしっと首を回して、声のしたほうに目を向けた。
そこにいたのは農耕神デメテルだった。
デメテルはテュールにない豊満な体つきをしていて、胸元が大胆に開いたドレスからは双丘の大峡谷が覗いていた。
目尻は垂れていて、
「こっちにいらっしゃい。本当にいつ見てもかわいいんだから~」
その声も柔らかいものだった。
デメテルはウェイターに持ち上げられていたテュールをひょいっと受け取ると、その胸に顔を押し付けた。
「むぐぅーー!」
押し付けられたテュールは呼吸困難に陥って暴れた。
まるで補食者の餌食になった獲物の図だった。
「デメテルー、テュールが来てるのー?」
「えー何々?我らが子猫ちゃんがいるのー?」
騒ぎを聞き付けて可愛いものに目がない一部の女神達が目を光らせて、獲物のニオイに引き寄せられるように周囲に集まりはじめた。
その危険な雰囲気にウェイターは既に逃げ出して姿を消していた。
「わーーっ本当だーーっ!次は私にちょうだい、デメテルぅー!!」
「ちょっと私が先に見つけたのよ!先に私が食べるの!くふふっ」
「あなたこそ、私より後に来たくせに!」
「いいじゃない、順番なんて。夜は長いんだから」
「「「そうねー」」」
「むぐむぐむむーーっ!!」
女神達が勝手に話を進めるていることにテュールは窒息しかけながら抗議の声をあげるが、勿論彼女達には一つも届いていない。
以降『神の宴』が終わるまでテュールが女神達の間をたらい回しにされたことは言わずもがなのことだ。
後書き
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