ダンジョンに復讐を求めるの間違っているだろうか
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神の宴――への道中
前書き
明後も予約投稿しているので、よければお読みください。
「何が『全員ではだめなのか?』なんじゃ!」
テュールはヒューマンやデミヒューマンでごった返す夜道を歩きながらプンスカと両手をあげて不満を爆発させていた。
テュールが着ているのは普段着の純白の飾りの一切ないワンピース。
それは、ノエルがヒューマンの服飾店で購入してくれた決して高価ではないが、テュールにとって宝物のワンピースだった。
そんな普段着のワンピースもテュールの容姿をもってすれば、外行きの上等なワンピースに見える。
「しかし、あれが一番無難な解答だと思いますが?」
テュールの傍で歩くノエルが主神の怒りを鎮めようとする。
ノエルの服装は長袖のタートルネックにジーンズというエルフ特有の肌を見せないカジュアルな服装だ。
ちなみにデイドラは現在ホームにいる。
あれから第三者委員会の猛反発が功を奏しデイドラの反省も考慮されて処罰は大幅に減刑され期間は二日間、場所はテュールの傍から本拠の謹慎となった。
つまり、減刑はデイドラと怪物祭に行きたい第三者委員会の面々の尽力によるところが大きい。
「無難かそうでないのかなど問題じゃないのじゃ。妾が言いたいのは、デイドラの度胸のなさじゃっ!!」
テュールは頭上で拳をぶんぶんと振りながら可愛い怒声を上げる。
テュールは気付いていないが、テュールはノエルの腰を少し超える背丈しかないので神威を発しないかぎり彼女の言動のひとつひとつが幼児の駄々っ子に見えて、周囲の微笑みを誘っていたりするのだが、言うに及ばず、それはいつものことだった。
「モンスター相手なら度胸どころか死さえ厭わぬというのに。それに加えて、あのリズという小娘、のこのことデイドラについて来おって!」
テュールは忌ま忌ましい小娘の顔を思い出して、憤慨した。
デイドラの減刑されて二日間の本拠謹慎となり怪物祭に全員で行くと決まった後、初めてリズの存在に気付いたテュールが再び神威をほとばしらせたのをノエルとデイドラで鎮めたのはほんの数分前の話だ。
「別に構わないでしょう。デイドラを二度も助けてくれたのですから、礼を言うことがあっても、陰口を言うのは筋違いというものです」
「それはわかっておるが、ノエル、汝は悔しくないのか!」
「何がですか?」
「いつもいつもデイドラが危機に陥ったときにデイドラの傍におるのは、妾でも汝でもなく、あの小娘じゃ!!」
「…………そうですが」
主神の指摘で生じた葛藤にノエルは言葉を詰まらせる。
確かに今回はデイドラに先にたどり着いたのは何故かリズで、そのことに何も感じないわけではなかった。
しかし、ここでリズを責めるのは自尊心が許さなかった。
「それに、本当にあの小娘がデイドラの命を助けたかはわからぬであろう?デイドラはその部分の記憶を失っておるのじゃからな」
「そうですが…………それよりもデイドラが気になります」
ノエルは意図的に話題を逸らす。
「…………デイドラの何が気になるのじゃ?」
その意図を見抜きながらテュールは先を促す。
「記憶を部分的になくしたこともそうですが、デイドラが目を覚ましたことも気になります。ミネロヴァさんは、当分は目を覚まさないと言っていたのにも拘わらずです」
「…………確かにそうじゃが、ミネロヴァの予想が百発百中であるわけでもなかろう」
「ですが、ミネロヴァさんの過去を鑑みれば、予想が違うことは滅多にないでしょうし、私の目から見ても、デイドラは血をかなり失っていました」
「つまり、何が言いたいのじゃ?」
すっかり怒気を収めたテュールが容姿に不似合いな真剣な面持ちでノエルに問う。
「これは私の勝手な想像ですが、誰かがデイドラの復讐心を煽っているのではと考えています」
ノエルは前もって用意していたように詰まることなく言った。
「それがデイドラがミネロヴァの予想に反して早く意識を取り戻したことにどう関係しているのじゃ?」
「荒唐無稽かもしれませんが、『誰か』が私とテュールに気付かれることなくデイドラを起こし、復讐心を駆り立ててダンジョンに潜らせたのではと」
「うぅーー、確かに荒唐無稽の感があるな。二階にいたとは言えど、ホームに入ればノエルなら気付くだろう?」
「同級の冒険者ならば気付くでしょう」
ノエルは含みを持たせて答える。
「しかし、第二級、第一級の冒険者なら汝もデイドラの傍にいた妾でさえも気付けぬ、ということかのう?」
「はい、あくまで一つの可能性ですが」
「うーーむ」
ノエルの推論を受けて、テュールは足を止めて目を瞑り考え込む。
「そうだとして、其奴に何の得があるんかのう?」
そして、しばらくして目を閉じたままノエルに問うた。
「それはわかりません――ですが、デイドラの…………村が全滅したことにも説明がつきます」
ノエルは途中で一度沈痛な顔で口をつぐんでから言葉を続けた。
「確か、村が全焼していて、様々な異なるモンスターの足跡が至る所にあった、じゃったか――すなわち、これを仕組んだ者が今回の犯人と同一人物であると言いたいのかのう?」
「はい、地上で多種大勢のモンスターが一カ所に集まって村を襲うなんて訊いたことがありません。しかし、誰かがおびき寄せて、もしくは調教して襲わせたとすれば」
「筋は通る、ということじゃな」
「ええ」
「うーーーーーむ」
テュールは少し顎を摩りながら唸なった末、
「筋は通るが証拠がない、じゃが切り捨てる気にもなれぬ。まあ、どちらにしてもデイドラを見守ることに変わりはないのじゃ。今どうこう考えても仕方あるまい」
と言ってテュールは再び歩きだした。
「わかりました」
「うむ、では行ってくるとする」
テュールは鷹揚に頷いて言ったが、
「はい、お気を付けください」
「…………う、うむ」
ノエルの何気なく言った言葉に図らずもトラウマを蘇らせ、言葉を詰まらせる。
テュールは歩きだすも、その足取りは小さく頼りないものだった。
後書き
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