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K's-戦姫に添う3人の戦士-

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2期/ヨハン編
  K18 わからず屋にはいいオクスリを

 ――事は、“フロンティア”の封印解除のため、過日とは別の「方法」を用意して現地へ向かうエアキャリアの中で起きた。

 故あって今のエアキャリアにはステルス迷彩を施していない。そこを米国の哨戒艦艇に見つかってしまったのだ。

 ウェルは哨戒艦の撃破を提案し、マリアがそれに賛同した。

 ソロモンの杖によって呼び出されたノイズの大群に、哨戒艦の兵士たちが炭化させられていく様子が、モニターには不鮮明ながら映し出されている。

「こんなことが、マリアの、ヨハンの望んでることなの? 弱い人たちを守るために、本当に必要なことなの?」

 調に責める色はない。あるのはただ哀しみと憐れみ。

 答えられずにいると、調は唐突にツインテールとマフラーを翻して操舵室を出て行った。それを追って切歌も出て行った。

 ヨハンはとっさに立ち上がり、マリアと、調と切歌が出て行ったドアを交互に見た。

「――マリア、ごめん。少し外す」
「――お願い」

 マリアは「お願い」と言った。調たちを「お願い」と。ヨハンに調の処断を任せたのだ。

「すぐ戻るから!」

 ヨハンは操舵室を出て、ハッチまで走った。

「調ッ!」

 すでにハッチは開け放たれ、今にも調は飛び降りようとしている。
 調はヨハンをふり返り、慈母のように微笑んだ。

「言ったでしょう? わたしがヨハンのために戦ってあげるって」

 引き留める暇もなかった。伸ばした手が掴むより早く、調はハッチから身を投げた。
 やり場のない憤りに任せ、ヨハンはハッチ際の壁を殴った。

「連れ戻したいのなら、いい方法がありますよ」

 ふり返る。いつもの厭らしい笑みを浮かべるウェルが差し出したのは、携帯注射器だ。

「LiNKER……?」
「いいえ。これはAnti_LiNKER。適合係数を引き下げるために用います。その効果は折り紙付きですよ」

 忘れたくても忘れられない。ヨハンを実験台に開発されたあのガス。あれだけバックファイアの苦痛を味わったのだ。

 ――もういやだと泣いても、やめてと叫んでも、ならば他の装者を使うと研究者に言われてはヨハンに選択肢はなかった。
 痛みの大小を、種類を、休みなく体に刻まれ続けた開発実験。

(あんなシロモノを僕の調に投与しろと?)

 自身のトラウマ、そして研究者という人種への恨みが心で絡み合い、ついにヨハンの忍耐の糸を切った。

 ヨハンは携帯注射器を持つウェルの手を叩き返した。ウェルは軽く眉をひそめる。

「仲間を連れ戻すのに科学は要りません。調には、切歌と僕の言葉があればいい。――行こう、切歌。この人の話に聞く価値はない。調を連れ帰りさえすれば、それでいいんだから」

 踵を返し、空きっ放しのハッチに足をかけた。

 眼下には大空と大洋。
 生身の人間が落ちれば一溜りもないだろう。無事の保証があっても多少は躊躇うだろう。
 だがヨハンは躊躇なくそこから空へ海へ、我が身を投げた。


         「 ――Cerena tear Claiomh-Solais tron―― 」


 聖詠。一瞬の間を置いて、ヨハンの四肢と頭部にシンフォギアが装着された。

 空中に発生した新しい外敵に、ノイズの注意がいくらかヨハンに向いた。
 ノイズは跳んでヨハンに殺到する。ヨハンは慌てず、バスタードソードを構え揮った。

「 『フェアリーテイルも 仄かな恋も やっぱり蛇の食い物(エサ)で終わった』! 『小さな君はケージの中 可愛い顔をゆがめた』――っはあ!」

 群がってきた球形ノイズを、バスタードソードから放った炎の斬撃で炭化させる。

「 『ねえ、知ってるよ? 不幸(あじ)なら君が格別だ』 …」

 ダン!

 哨戒艦の外装を凹ませながらもヨハンは着地し、足場を確保した。足裏への衝撃で2フレーズ飛んだ。

「~~っ、『蛇の大・大・大好きな味』…ッ」

 空を見上げる。切歌が来る様子はない。何をしているかは、この甲板からではもう見えない。
 しかし切歌に専心する暇はヨハンには与えられない。すぐさま、小さな体でノイズを殲滅している調に向かって走り出した。

「 『恐慌、絶叫、噛み砕こう こいつはちょっと辛くてヤバイが』ぁ! はぁッ…『これでも舌は鍛えてるほうでね』――」

 ヨハンは最後のノイズをバスタードソードで斬り捨てた。

「 『見かねた小さな君の頬の涙を 荊が舐めた』 !」

 ようやく調の前に辿り着いた。


「ヨハン」
「調。ケガはない?」

 調は無言で首肯し、ヨハンに向けて淡く笑んでくれた。
 これだけでヨハンには組織の方針に逆らって飛び出した価値がある。ヨハンにとって月読調は、それほどに重い存在だ。

 笑み合っていた所で、ヨハンの背後からバーニアを噴かす音と着地音がした。調と共にふり返る。
 そこにいたのは、イガリマのギアを纏った切歌だった。

「きりちゃんっ」
「遅いよ、切歌ってば」

 冗談めかしてみれば、切歌も苦笑した。

 違和感がちらつく。――切歌はこれほど物静かな子だっただろうか。

 ヨハンは訝しむまま切歌に歩み寄った。切歌は動かない。
 切歌の細い両肩に手を置き、目線を合わせるために屈んだ。ここまではいつも通り。

「具合が悪いのかい。もしかして、まだオーバードーズの影響が残っ」


 ぷち


「え――?」

 鋭く小さなものが首の皮膚を貫通した。 
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