英雄は誰がために立つ
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Life9 広域陽動作戦
前書き
何時もより、前回よりも確実に短いです。
リアス・グレモリー眷族とソーナ・シトリー眷属の、特訓・修行を開始してから10日目の昼前。
魔王領の旧首都ルシファードの北門で門番2人の内の1人が、欠伸をしながら暇そうにしていた。
「すぁああーてぇとぉ、そろそろ昼休みだな。今日の昼食は何にスッかな?」
「オイ、いくらなんでもだらけ過ぎだぞ!」
相方の私語を注意する仲間の門番。
「お前はいいよなぁ~?綺麗な奥さんからの手作り弁当だし、毎日毎日昼食を何にするか決めなくていいんだもんなぁ~?」
「そ、それとこれとは今は関係ないだろ!?」
返答とは思えない僻みではあったが、図星を指摘されて怯む。
「まぁ、いいや。あと5分で昼しょ・・・く・・・だ――――」
「おい、如何した?」
「如何したって、前視えねぇのか!アレだよ、アレ!?」
先程まで注意していた門番は、指摘された方を注視する。
「ん?何だ、アレは?青白くて大きな人が・・・た・・・・・・!?」
そこで相方が何を言いたかったのかに漸く気付いた。
それは青白い鉱石で出来た巨人だった。
「ゴーレム!」
「しかもデカいし、何体居るんだ!?いや、それ以前にアイツら、こっちに向かって来てねぇか?」
この門番の指摘通り、ゴーレムの軍勢はルシファードの北門に向けて、真っすぐに進行中だった。
「あんなゴーレムが何かやるなんて聞いてねぇぞ?お前は!」
「俺だってそうだ!あん・・・・・・なっ!」
「ああ?如何した?」
今度は注意されていた奴が促されるように前方を注視すると、同じ鉱物で出来ているであろう青白い
首なし騎士が、馬型と思えるゴーレムに跨り槍を持って10体以上が先行して来たのだ。
それを見て片方がすぐに叫ぶ。
「オイ!すぐに緊急警報音を鳴らせ!こりゃあ、間違いなく非常時た――――」
ズッォォォォンンン!!!
言い切る前に、東門側から大きな衝撃音が響いた。
ブゥゥウウウウウーーーーーーーウーーーーウーーーーーーーーーン
その衝撃音に間髪入れずに、今度は西門側から緊急警報音が鳴った。
「まさか他の所も!?」
「ぼさっとしてないで、中に入って直に防備を固めるぞ!こりゃあ、恐らくテロだ!禍の団って奴らが攻めて来たんだ!」
「お、おう!」
反論など勿論せずに、中に入り防備を固める北門門番たち。
この緊急時に、魔王領の旧首都ルシファードは東西南北の門から全て襲撃に遭い、完全に孤立してしまった。
そんな光景を少し距離の離れた位置にある、それらの景色を一望できる丘にルシファードを攻めたてているゴーレムの軍勢の創作者キャスターが俯瞰していた。
「ルシファードには、魔王サーゼクス・ルシファーとその部下たちの足止め兼陽動が、僕に与えられた要請だ。出て来ると言うなら早く出て来るんだね?仕事はキッチリさせてもらうからさ」
金色の仮面をしているので表情など読み取れはしないが、恐らくその仮面の下には不敵な笑みを浮かべている事だろう。
-Interlude-
ほぼ同時刻。
ルシファードから一番近い軍事基地では、救援信号を受信したが未だに戦闘巡洋艦は勿論、軍車両も発進出来ぬほどの混乱の中に居た。
「ぐぁあああああ!!」
「衛生兵ー!衛生兵ーーー!!」
冥界が誇る悪魔界の軍人たちが、阿鼻叫喚の渦に叩き落されていた。
旧首都ルシファード同様に、奇襲を受けていたのだ。
数多の罠に見えざる敵に。
出入り口付近は勿論、戦闘巡洋艦と軍車両の発進口を始め、非常に厭らしい位置に多数の凶悪な罠が彼ら軍人に見境なく、苦痛と悲鳴を齎していた。
とは言え、彼らは仮にも軍人だ。如何に凶悪な罠であろうと、被害状況を見れば嫌でも慎重に事を運ぼうとするはずである。
では何故、そんな精鋭軍人が混乱から抜け出せずにいるのかと言えば・・・。
ドォッン!
ドンドン!!
「がふっ!?」
「ぎゅふ!?」
原因不明の爆発が彼ら自身の体内から起きて、悲惨な光景と状況が続いているからである。
即死の者から重症の者まで。次々に外に出ていこうとする軍人たちがタンカーで施設内に運ばれていくのだった。
なら、外に出なければいいのだが、車両などで外へ発進するためには罠を排除する必要がある、
しかし外に出る、或いは出ようとすれば、謎の爆発により死傷者が増えるばかりで、どうしようもない状況にあった。
そんな凶悪な罠を設置した上、謎の爆発を起こしている者は軍事基地の周りの森の一角に居た。
緑色の外套を羽織る英霊、アーチャーだ。
(此処は冥界だから濃度の違いあれ、俺のように毒防止のアミュレットを付けている奴がいない状況の上、敵は悪魔ばっかりだから体内にある程度の毒は有害になる事は無い。俺はそれを利用すればいいだけだ。その上、この軍事施設内の周りは森だ。つまりは俺の独壇場だろう?)
悪魔の中には、神器を宿したままの転生者もおり、神器の基本的な性質上、体内に入ってくる害が微弱であれば直に中和する効果が有る。
その為そんな悪魔には、アーチャーの持つ毒矢を中でてから爆発させると言う確実な戦法をとっていた。
(やろうと思えば施設内の悪魔たちも全滅できるが、必要以上にやんなくてもいいだろう。旦那の意向に反対する訳じゃ無いが、レヴェルの言葉を鵜呑みにし過ぎるのもなぁ)
アーチャーは、要請された足止めを確実に熟していった。
-Interlude-
ほぼ同時刻。
シトリー家本邸前では戦闘が起きていた。
「クッ、一体何なのだコイツらは!」
一見すれば和洋限らぬ魔物達だが、剣の心得のある執事に真っ二つに斬られたのは夥しい出血と共にグロイ内臓が断面から見える――――と言うワケでは無く、機械的な断面で切られた事によりパチパチとショートしていたり液体燃料が漏れ出ていた。
つまり魔物を装う機械人形と言うわけだが、そこまでは強くない。
しかしながら数だけは相当なもので、少なくともシトリー家本邸を取り囲むように押し寄せているにも拘らず、遠方を見る様に眼を細めて見ても魔物を装う機械人形の軍団しか見えなかったのだ。
「家令!東側が手薄なので増援が欲しいと言う救援がっ!」
「いいだろう。この場から10・・・・・・いや、30人連れて行け!」
「ありがとうございます!」
その言葉と共に給仕が離れていく。
そして残された家令は、言葉が返ってこないと理解した上で言い放つ。
「此処から先には何人たりとも通さん!旦那様も奥様も、ソーナ様も眷属の皆様方にも指一本触れさせんぞ。機械人形共!!」
言い切ると同時に機械人形の軍勢に飛び込んでいく家令。
此処に、シトリー家本邸防衛線が激化していった。
-Interlude-
ほぼ同時刻。
グレモリー家本邸前でもシトリー家同様、戦闘が起きていた。
しかし、シトリー家とは違い数は少ないが強かった。
その理由は魔物達が機械人形では無く、本物であったためだった。
「家令!何故このような事に成ったのでしょう?」
「判りませんが原因究明は後でしょう。今はこの状況を如何にかするのが先です」
そばにいる執事の疑問に返答しながら、両手から魔力弾を放ち魔獣たちを殲滅していくメイド服のグレイフィア・ルキフグス。
そんな時、後ろから門が開く音が聞こえて来たので振り向くと、中から現れたのはリアスに朱乃、小猫にアーシア、それにギャスパーだった。
「いけません、お嬢様!」
「非常事態なのよ!そんな事言っている場合じゃないでしょ!?」
グレイフィアの近くに居た執事の制止も振り切り、彼女の傍に来たリアス達。
「状況は?」
「見ての通りです。この近隣に居ない魔物達までいる上、何故か私たちを完全に敵視しています。それよりお嬢様、士郎殿は何処に?彼が戦線に加わってもらえれば助かるのですが・・・」
「それが・・・・・・。用事があるって言って、一旦人間界に帰ってしまったのよ・・・」
不安そうに言うリアス。
それに対してそうですかと、一言で完結させるグレイフィア。
「ではお嬢様。状況確認が御済みなら、城内にお戻りください」
「何を言っているの!?私たちも手伝うに決まっているじゃない!」
「そうですわ、グレイフィア様!」
「お嬢様も眷属の皆様方も、特訓のために体力も魔力も疲弊しているではありませんか。その様な皆様方を援護しながらの戦闘は遠慮したいのですが・・・」
特訓・修行による疲労を溜めこんでいて、昼になると同時に休憩しようかとそれぞれが思っていた所に、現在襲撃されたのだ。
その為にリアス達は、遠まわしに足手まといと言われた。
「――――けど!」
「グレイフィアの言う通りよ、リアス。貴女は朱乃達と共に城内に居なさい」
門から出てきたのはリアス達だけでは無かった。
リアスが後ろを振り向くと、彼女とほぼ瓜二つの亜麻色の髪をなびかせる女傑、ヴェネラナ・グレモリー夫人が近づいて来た。
「お母様!?」
「いい事リアス?これは命令です。全開状態なら兎も角、今の貴方たちではグレイフィア達の足手まといになるだけよ?さぁ、復唱なさい」
「っっ!」
「・・・・・・・・・・・・」
拒絶を許さない眼光に、リアスは渋々ながら、ハイと短い返事をしてから眷属達と城内に引き返す。
その光景を見送っていたグレイフィアは、心中で嘆息しながらヴェネラナに奏上する。
「出来ましたら、奥様も城内にお戻りいただけたいのですが・・・」
「中々、随分と言うようになったわね。でも、私を一体誰だと思っているのかしら?グレイフィア?」
「・・・・・・・・・・・・」
グレイフィアの前まで移動すると同時に、ヴェネラナは濃密な魔力が籠った魔弾を幾つも眼前に形成していく。そして、魔力が安定していくように留まると、それらを一斉に射出させていく。
「滅殺の魔弾群」
全ての魔弾が、目標の魔獣たちに当たると同時に爆ぜていった。
その爆発の威力を後光にして、翻りなら妖艶な微笑みでグレイフィアに告げる。
「亜麻髪の絶滅淑女と呼ばれている私は、グレモリー家に仇なす輩には勿論、若者にもまだまだ遅れを取るつもりは無くってよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ヴェネラナ・グレモリーの参戦によって、グレモリー家本邸前の攻防戦はより激化していった。
-Interlude-
ほぼ同時刻。
冥界の堕天使領でも戦闘が行われていた。
堕天使たちに襲い掛かるのは、下半身だけの機械兵器や腕だけ若しくは顔、或いは上半身だけの機械兵器に苦戦させられていた。
攻撃手段は単純でビーム系統なのだが、追跡弾のように曲がりつつ追って来るのだ。
さらに、動きは鈍重なので、堕天使達の攻撃は面白い位に当てることが出来るのだが、あまりに固いのかは不明だが、堕天使達の光の槍を受けてもびくともしないのだ。
「チッ!何なんだ、こいつ等は!」
それは、一時的に帰還していたアザゼルも同じようで、苦戦していた。
光の槍のダメージにあまり効果を得られないと理解したのか、一旦距離を離れる。
「禁手化!」
唱えると同時にアザゼルは、会談襲撃時にカテレアとの戦いで見せた黄金の鎧を纏った。
「行くぜ、ファーブニル!五大龍王の力を見せてやれ!」
黄金龍王の力を纏ったアザゼルは、正体不明の機械兵器に向かって行った。
-Interlude-
ほぼ同時刻。
冥界の各地では、堕天使領を襲っている謎の機械兵器らが多数出現して他の都市部にも出現していた。しかも、堕天使達の光の槍を受けた時と同じように効果が薄く、大したダメージを負わせられない様で焦っていた。
その為、彼らは自分たちの周りの防衛だけで精いっぱいだった、
しかし、これらも所詮は陽動に過ぎない。
蠢く者達の魔の手は、確実に本命に迫っていた。
-Interlude-
冥界の各地で戦端が開いていた頃、一誠はタンニーンを相手に過酷な戦闘訓練をしていた。
タンニーンの隕石の衝撃に匹敵すると言われる火の息吹と、その巨体からは予想しづらい俊敏な攻撃に一誠は、逃亡では無く何とか立ち向かっていた。
これも全ては、小猫や朱乃の姿勢に勇気をもらい、禁手に至るためだった。
そんな時、ふと気づいたのはドライグだった。
『相棒。山の麓から・・・・・・いや、それ以外からも煙が上がっているぞ?』
「あん?――――タンニーンのおっさん、ちょっとタイム!何かドライグが変だって!?」
「何?」
ドライグの示す方向を、一誠とタンニーン揃って見てみると、彼方此方から火の手が上がっていた。
「な、なんだこりゃ!?」
「ふむ。何やら戦っているな。しかもグレモリー家本邸手前の方もやっている様だな」
「んな!?」
龍の視力により得られた報告に、一誠は仰天する。
「部長達は大丈夫なのか?タンニーンのおっさん!?」
「此処からじゃよく解らんな。――――兎も角、特訓は一時中断してグレモリー家の救援に向かうぞ?背中に乗れ、小僧!」
有無を言わさぬ言葉だったが、一誠もそれには大いに賛同して言葉に従いタンニーンの背中に乗る。
「よし、振り落とされるなよ?」
「ああ、頼むよ。おっさん!」
「では、行くっぬお!?」
タンニーンは、飛び立とうとした処で体を逸らして“何か”を避ける。
それは良く見ると、鎖の様なモノだった。
そしてその先には、白銀の鎧を全身に纏う四足歩行の“何か”の上に跨る、一見人のように思える頭にターバンを巻く老人と思える人物が居た。
「だ、誰だ、アンタ!?」
「何者だ・・・!」
その人物は、只の人間とは思えぬようなオーラを発しているようで、一誠とタンニーンは警戒するように聞く。
「何者か?そうだな。簡潔に言えば、余はお前たちの敵だな」
その人物は淡々に言い放つ。
「死苦痛死苦痛死苦痛死苦痛死苦痛死苦痛死苦痛!!!」
そして、白銀の鎧を全身に纏う“何か”が、雄たけびを上げる。
まるで、冥界全体に対して宣戦布告するかのように・・・。
ここに、陰で蠢く者達と、大切な者達を守る悪魔との戦争が、正式に始まりを告げるような気がした。夢を叶えるために必死に努力している若者たちを、嘲笑うかのように。
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