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英雄は誰がために立つ

作者:昼猫
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Life10 防衛戦

 特訓???日目

 ある森の中に、とある甲冑姿の騎士がいた。
 白銀8割赤2割で構成された、TVゲームの敵側で現れそうな重装な魔剣士の姿をしていた。
 そんな魔剣士が、先程からピクリとも動かない。

 「―――――zzzzzzz」

 瞑想中なのかと思いきや、甲冑から僅かな声――――いや、いびきが聞こえて来た。
 如何やら寝ている様だ。
 そんな時、魔剣士の近くにある魔法陣が輝きだした。
 そしてそこから姿を現したのは士郎だった。
 士郎は、一目で魔剣士が寝ていることに気付き、溜息を吐く。

 「予想はしていたが、見事なまでに寝てるな。おい、起きろ?飯の時間だぞ?」
 「zzzzzz・・・・・・・・・・・・んあ?――――ハッ!?寝てねぇ、寝てねぇぞ!?」
 「思いっきり寝てたろ?別に責める気は無い。どうせ寝てると踏んでたからな」

 腰に手を突きながら呆れる様にポーズを取る。

 「うぐっ!?――――けど、仕方ねぇだろ!オレにじっとしてる作業なんてできると思うか!?」
 「わかってる。無理だと理解しながらも、保険策として頼んだ事だからな。それよりも昨日の要望通り、ハンバーガーを作って来たぞ?」
 「マジか!!?」

 士郎が袋を差し出すや、魔剣士はあっさりと兜を脱ぎ置いて、袋の中から士郎特製ハンバーガーを取り出し齧り付く。

 「ウッ――――」
 「大声を上げるな!」

 旨いと、大声で叫びそうになった金髪の魔剣士の口を瞬時に塞ぎながら、小声で注意する。

 「全部お前のモノだし、取りゃあしないから大声を上げるな」
 「解った(ふぁふぁっふぁ)それにしても(ほへひふへへほ)こんなことし続ける必要あんのか(ろんらふぉふぉりふふへりゅひふほうらんろふぁ)士郎(りほう)
 「何度も言うが、あくまでも保険だ。何もないなら越したことはない。と言うか、喰いながら喋るな・・・」
 「ぷはっ!だけどよ?士郎の知り合いの魔王?に、報告すればそれで済むはずじゃねぇか?如何してしねぇんだ?物分りのいい傑物なんだろ?あーーむ、はむはむ」

 士郎の指摘に、半分ほど喰ったハンバーガーを口から取り出して質問する。
 しかし、また頬張る。

 「あの人にはこれ以上迷惑――――と言うか、借りを作る訳にはいかない。いざという時、向かい合えるか自信が無くなる」
 「・・・・・・・・・むしゃむしゃ。――――アザゼルって奴と同じく警戒してるのか?いや、違うか。最悪敵対した時の事を考えた時の処置か。お前の家族が、悪魔のお偉いさんとかに無理矢理転生悪魔にさせられた時とかの・・・。相変わらず心配性だな」
 「・・・・・・・・・・・・」

 一つ目をもう完食し終えた魔剣士は、二つ目に行こうと袋を漁りながら、今更ながらの士郎の性格たる慎重さに呆れる。

 「ま・・・・・・いいけどな。だが多分、この保険策は無駄にならねぇぞ?」
 「・・・・・・何か根拠があるのか?」
 「いんや、オレの勘だ。けど、昨日位から空気が変わった気がするからな。タイミングには気を付けろよ?士郎」
 「・・・・・・参考にさせてもらう」

 その言葉を最後に、士郎は魔法陣を出現させて消える。
 因みに、この転移術式もフィリップが作成したものだ。
 
 士郎を見送った魔剣士は、少し離れた護衛対象である少女を見やった。
 喰いながら。

 「はぐはぐ。――――筋も悪くねぇし(ふひろらるふれへし)中々じゃねぇか(らふぁらふぁられーふぁ)あー(ふぁー)暇だ(ふらふぁ)

 士郎がいないのを良い事に、食べるながら感想を口にする。
 そして、矢張り暇を持て余していた。


 -Interlude-


 特訓10日目

 グレモリー家本邸前防衛戦では、戦闘は激しかったがヴェネラナとグレイフィアの指揮の下、収束は時間の問題だった。
 しかし――――。

 「家令!奥様!!」
 「如何したのです?そんなに慌てなさって」

 執事の必死な態度に、グレイフィアが取り合う。

 「北東部にいた者達が、いきなり現れた謎の者に一瞬でやられました!」
 「全滅させられたと?」
 「いえ、一番傷が深い者達でも辛うじて生きています。城内に居るお嬢様の、眷属様方のお力をお借りさせてもらえれば、何とか・・・!」
 「アーシアさんの事ね・・・。私の名前を出して頼みなさい。きっと力になってくれるでしょうから」

 ヴェネラナの言葉に肯くが、そん場から何故か動こうとしない執事。

 「何をしているの?早く行きなさい――――」
 「重々承知しているのですが、如何か奥様も城内にお戻りください!先程報告した、謎の者がこちらに迫ってきているので――――」
 「もう来ている」
 「!?」

 後ろから聞きなれない声を聴いた執事は、咄嗟に振り向く。
 そこには、負傷した部下の報告通り、日本の昔の侍を沸騰させる人物が居た。
 その執事の反応で察したのか、ヴェネラナとグレイフィアは怨敵を見るような眼つきと冷ややかな目の色になる。

 「そう。貴方がこの騒動の主犯格で、私の可愛い下部(しもべ)達に傷を負わせたのね」
 「それは違うな」
 「今更、取り繕――――」
 「主犯格は私では無い。私は、いや我らはライダー()に導かれ従う者だ。お前達の様な人間を食い物にする様な化け物共を駆逐して、真の太平の世をか弱き人々に齎さんがために!」

 腰に携えていた日本刀を抜き放ち、突き付ける様に刃の矛先をヴェネラナ達に向けながら、侍は力強くそして真剣な目つきで睨んでいた。
 しかしそれは、ヴェネラナ達からすれば正しく自分達のセリフだった。

 「此処までの事をやらかしといて、よく言いますね?」
 「事実だ、人食い共が・・・!」
 「・・・・・・・・・・・・」

 何所まで往っても会話が噛みあわない上に、平行線状態。
 そして、そんな無駄な会話を続けている程、今のヴェネラナとグレイフィアの沸点は決して高くはなかった。

 「茶番は此処までにしましょう。そうね?グレイフィア」
 「はい。それに何やら、組織立っての行動の様な言葉も聞きましたから、拘束しだい拷問にかけて吐かせましょう」
 「そうね。可愛い下部たちを苦しめたのですもの、それぐらいは覚悟は出来ているのでしょう?――――下郎・・・!!」

 2人から発せられるオーラに恐怖し、執事は思わず引き気味になる。
 しかし、殺気を受けている当の侍は余裕そうとまでは往かなくとも、全く臆した様子は見られなかった。

 「ほざけっと言いたいところだが、流石は化け物共の中でも上位に位置する畜生どもだ。流石に私1人では手に余るか」

 侍は、ヴェネラナ達の実力だけは決して軽んじてはいなかった。
 そんな侮辱の言葉を吐く侍に2人も、決して相手を舐めてはいないが、見た処相手の得物は日本刀ただ一本だけだった。
 そんな状態であれば、遠距離と中距離のレンジ攻撃が出来る自分達が有利と踏み、2人揃って侍に魔弾の雨を降らせる。
 それをバク転で難なく躱した侍は、右手に掴んでいた日本刀を水平線上に右横に向けた。

 「この地に顕現せよ!我が友よ!伝説の同胞(温羅討伐隊)!!」
 『?』

 いきなり、誰に言うでもなく叫ぶ侍に、2人揃って怪訝そうになる。
 しかし、変化は直に表れた。
 侍の後ろには、一目でわかるくらいの手練れの侍たちが3人出現した。

 「よくぞ導きに応えてくれた。我が信頼に値する同胞たちよ!」

 ヴェネラナ達を警戒してか、後ろに居る3人の侍に振り向きもせずに労う。

 「何を言いますか、若!」
 「我らは若の手足も同然!」
 「何所までもお供しますぞ!」

 否。ヴェネラナ達への警戒では無く、絶対的信頼への表れだった。
 無論、それなりには警戒もあっただろうが。

 「礼を言う、我が同胞たちよ。――――では征くぞ!今日より、真の太平への世直しの偉大な一歩にして見せようぞ!!」
 「「「はっ!!」」」

 侍はヴェネラナ達に突っ込み、後に現れた部下3人もそれに続いた。

 「奥様!如何か、油断なさらない様・・・!」
 「承知しているわよ?グレイフィア!けれど見せてあげましょう。我らグレモリー家の力と畏怖と絢爛さを!!」
 「はい・・・!」

 最強の『女王(クイーン)』&『亜麻髪の絶滅淑女(あまがみのマダム・ザ・エクスティンクト)』対敵セイバーと伝説の温羅狩りの3体の従者との戦いが此処に火ぶたが切られた。
 この場の両者の頭と頭の激突により、グレモリー家本邸前防衛戦はさらに激化していった。


 -Interlude-


 旧首都ルシファードでは、東西南北の4つ全ての門前で防衛戦が行われていた。

 東門
 ここでは祐斗とサーゼクス・ルシファーの眷属『騎士(ナイト)』の沖田総司が、門を潜らせまいと一進一退の攻防を繰り広げていた。

 「クッ、ヤッ、ハッ!」
 「フッ!」

 祐斗は前回遭遇した経験を活かして、関節部などを狙った上で3合で瓦礫に変えていた。
 それと比べて沖田総司は、関節部を狙わずに胴を横薙ぎにするように、或いは嵩切りで振り下ろすようにゴーレムを1合で切り伏せて、瓦礫に変えていた。
 この差は得物では無く、剣士としての腕の差だ。
 現に、沖田総司の得物は業物ではあるが、それ以上に特別なモノでは無い。
 翻って祐斗のは属性を付加させず、ただ一番切れ味がよく頑丈なイメージのある魔剣を、神器(セイクリッド・ギア)で創り出した物だ。切れ味は勿論頑丈さも、沖田総司の業物よりも確実に上だ。
 にも拘らずこの結果の違いは、腕の差としか言いようがない。

 「やっぱりすごい!僕などでは足元にも及びませんよ、沖田総司(お師匠様)!」
 「そんな事は今、如何でもいいでしょう。それよりも、このゴーレムが会談襲撃時に現れたゴーレムと同じと言うのであれば、何処かに術者がいるはずです。その者を見つけなければ、何時までもこの軍勢の攻勢を止める手段など有りません。術者の風貌は判りますか?祐斗」
 「すいません。あの日、ゴーレムを操っていた術者を見た者は誰もいないんです」

 祐斗の答えに、そうですかと短く返事をする沖田。

 「ですが、ルシファー様を始めとする方々の予想では、全体をほぼ見渡させる場所に居たのではないかと仰られていましたよ?」
 「なるほど。この辺りなら小高い丘或いは崖の先、と言った所でしょうね。でしたら祐斗、貴方は術者がいるであろう小高い丘或いは崖の先(その当たり)の捜索を命じます」
 「なっ!?」

 沖田総司の提案に、祐斗は思わず驚く。
 なにせ、他の者或いはサーゼクスにこの情報を伝えるだけで、判断を任せるつもりだと思っていたからだ。それを、自分に捜索を命じるなどと・・・。

 「祐斗。貴方なら、このゴーレム達をすり抜けて行けますね?」
 「それは出来ますが、無茶です、お師匠様!この数を一人で相手しながら門の防衛をするなんて!」 
 「私を舐めないで頂きたい」

 そう言うや、祐斗の目の前に居た沖田の姿一瞬だけぶれた。

 ガラガラガラッッ!!

 「!?」

 後ろ――――いや、周り全体を見ますと、囲むように迫っていた一番前側のゴーレム達が一瞬にして瓦礫に変わった。
 その目の前の現象や沖田の動きから察して、あの一瞬だけでゴーレム達を切り伏せていたようだ。

 「これで安心してくれましたか?祐斗。それに私の中には、魑魅魍魎達がいます。いざとなればそれらを解き放ち、足止めなりなんなりに使えます。納得できたなら行きなさい」
 「お師匠様・・・。――――判りました。如何か、ご無事で!」

 沖田の武運を祈りながら、祐斗はゴーレムの軍勢の隙間を抜けていった。
 それを見送った沖田は、ゴーレムの軍勢に向けて構える。

 「木偶の坊の造物主よ。ここから先には一歩たりとも行かせんぞっ!」

 怒声を合図に、門に一番近いゴーレムから切り伏せていく。
 そんな沖田の奮闘中に、対となる西門でも戦闘は激化していた。

 「オォォォオオオラッァァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 逆立ったオレンジ色の髪の毛と分厚いコートが特徴的な2メートル以上の背丈のある巨漢が、掌にあった炎を爆発的に広げて、門に近づこうとするゴーレム達を高熱により溶かしつくす。
 その巨漢の名はスルト・セカンド。
 北欧神話に出て来るスルトのコピー体で、紆余曲折経て今ではサーゼクスの眷属の『戦車(ルーク)』の2人の内の1人となっている。
 通称セカンド。

 「アッチ、アッチ!ちょっとセカンドさん!?周りをもう少し俯瞰しながら戦ってくださいよ!これじゃあ俺、あのゴーレム達と一緒に昇天逝きっすよ!?」

 その巨漢スルト・セカンドに抗議をする二十代中頃に見える茶髪の青年の名はベオウルフ。
 英雄ベオウルフの子孫で、その血統のせいか傲慢になり、サーゼクスに1対1の決闘を挑むも手傷をちょっと負わせた後にボロボロにされて、その強さに惚れ込み懇願の末にサーゼクスの眷属の『兵士(ポーン)』の2人のうちの1人となったのだ。
 通称ベオ。

 「知るかっ!そん位根性で避けろっ!根性で!!」
 「んな無茶な!?」

 セカンドの理不尽に、何時もの事ながらベオは抗議する。

 「だいたい何だ?そのアロハシャツは!」

 セカンドの指摘通り、ベオはアロハシャツに短パンと、およそ戦場に相応しくなさ過ぎるラフな格好だった。

 「今日、ホントはオフだったんすよ!それがこんな事に成って、こんな恰好のまま非戦闘員の避難誘導もやって、その果てには通信からセカンドさんのサポートに回ってくれって言うサーゼクス様の命令を頂いて来たんですよ!」
 「なら運が無かったと思って諦めろ。序でに逝き方も・・・・・・な!」
 「ちょっと!?何物騒な事、のたまわってるんすか!」
 「こいつらいい加減、めんどうだな。一気に勝負を決めるか!」
 「無視しないで下さい!――――って言うか、やめて下さい!セカンドさんが勝手に、一気に勝負を決めそうになったら止めろと言われてるんすよ!それに、祐斗の奴に術者の捜索を命じったって、通信に今着てるんですから!!」

 ぎゃあぎゃあと喚き合う2人。
 その間にもゴーレムは達は門に近づこうとするが、変な連携ながらも最低限の防衛は熟していく2人だった。

 そんな2人は放っておいて、南門では魔王直々の防衛がなされていた。
 しかしながら、ゴーレムが一体もいなかった。
 いや、出て来るには出て来るが、サーゼクスの滅びの魔力によって少しでも出現すれば消されると言うのが、先ほどから繰り返し状態だった。
 そんなサーゼクスの後ろに控える様に眷属の『兵士(ポーン)』もう1人、中国神話に現れる伝説の霊獣である麒麟の姿をした転生悪魔、名を炎駒と言う。

 「お見事で御座います。我が主よ。これでは当初の想像通り、私の護衛など形だけですな」

 傍から見れば、ヒヒーンと聞こえそうに炎駒が笑う。

 「結果的にはね?けど炎駒。君が後ろに居てくれるだけで、私は心強いのだよ?」
 「無用な気遣い、痛み入ります。我が主よ」

 サーゼクスの褒め言葉にも敢えて謙遜で返す。

 「・・・・・・・・・ならば、主として命ずる。祐斗君を援護してこのゴーレムの術者を見つけ出してくれ。出来るなら拘束してほしいけど、無理ならこれ以上の被害を抑えるための追い払う程度でいいよ?」
 「――――承りました。主よ。しかしながら、主を1人残してこのまま行くワケにもいきませんので、軍人を数名寄越すように要請しておきますよ」

 炎駒の言葉に、仕方がないなと溜息を零す。
 そしてさっそくテレパシーで要請した。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ではその様に。今連絡が付きましたので、捜索に加わります」
 「頼んだよ。誇らしきわが眷属よ」

 サーゼクスの期待を背に、瞬時にその場から去る炎駒。
 そんな炎駒と入れ替わるように、北門を防衛していた駐在軍人の一部――――数名が、応援として駆けつけて来た。
 何時までも受け身ではいられない。
 旧首都ルシファード防衛戦線の反撃の狼煙が、今(あが)った。


 -Interlude-


 此処は冥界の堕天使領。
 ここでの戦闘開始から、光の槍は効果が薄くても神器(セイクリッド・ギア)の攻撃は有効だとアザゼル自身が証明したため、出来る限りの持ちえる全ての神器(セイクリッド・ギア)を駆使して反撃に切り返す事により一気に戦況は逆転した。
 先程まではだが。

 「てめぇ、一体何なんだ!」
 (コイツの風貌は何処かで・・・)

 アザゼルが睨み返す先には、黒いローブに仮面が特徴的な怪人がいた。

 「リリンの孫にして恩知らずの白蜥蜴から何も聞いていないのか?鴉の頭よ」
 「!?――――コカビエルがやらかした日にヴァ―リの奴を邪魔したって奴か!あの話はアイツの作り話じゃなかったのか!?」

 コカビエルが駒王町に襲来した日、ヴァ―リが手ぶらで帰還したので訳を聞くと、妨害が入ったと聞き風貌と名前を下に情報収集及び捜索をしたのだが会談襲撃の折、白龍皇の裏切りにより駒王町襲撃の日の説明は虚偽と判断されて、情報収集及び捜索の一切を辞めていたのだった。

 「その口ぶりは・・・・・・奴の報告を裏切りを境に、虚偽と判断したと言った所か」
 「ああ、その通りだよ。Kra・・・だったか?」

 アザゼルは、吐き捨てるように言葉を返しながらも名前の確認をする。

 「取りあえずはな。無論、偽名だが」
 「取りあえずに偽名って、どんだけふざけてんだよ!――――まぁ、そんな事はいい。それよりもテメェは此処に何しに来たんだ?折角戦況が好転してたのに、邪魔してくれやがって・・・!」

 アザゼルは吐き捨てる様に口を開くが、戦況は傾くどころか、謎の機械兵器の軍勢の残党狩りに近い状況だった。
 そんな時にKraが来たものだから、皮肉を大いに込めた当て付けのような言葉だった。

 「この作戦を立てたのがレヴェルかライダー(どちら)か知らんが、穴だらけだな。とは言え、片方側はそう言う風(・・・・・)にしたのだから無理も無いか」
 「てめぇ、、俺の質問に答える気があるのか?」
 「無い」
 「・・・・・・・・・っ!」

 斬新な皮肉は、Kraのマイペースさで見事に流されてしまった。

 「それよりも見えるか?悪魔領の方で多数の箇所から煙が上がっているのを」
 「何?」

 自分の質問には答えないにも拘らず、問いかけて来るので無視しようとしたが、出来ない言葉――――いや、内容だった。
 それを近くに居た堕天使が飛び上がり、悪魔領の方角側を見た。

 『ホ、本当です!ここから見える限りでも相当数の地点から煙が立ち上っています!』

 堕天使は、自分の見たモノを大声でアザゼルたちに報告する。

 「なっ!?如何いう事だ!」
 「如何いう事もそう言う事だ。先の兵器の軍勢も、今此処に居る私もお前たちの足止め役だ。とは言っても、勝手に援護してるのだがな」

 アザゼル達の驚愕にも、何気なく返す怪人。

 「因みに、あの煙が上がっている処で私が把握している限り、旧首都ルシファードにそこから一番近い軍事施設、グレモリー家本邸にシトリー家本邸、そして煙に気付いて援護するために向かって来るだろうタンニーンと赤龍帝の修業地の山中も含まれているぞ?」
 「テメェ・・・!!」

 アザゼルがKraに対して濃密な殺気を放つ。
 これを放たれたのが下級の人外などであれば、心肺停止する恐れすら在る程の凶悪さだった。

 「早く助けに行った方が良いかもしれんぞ?でなければ、そこの『雷光』の娘を始め、多くの若者たちが息を引き取るやも――――」
 「フン!!!」

 Kraが言い切る前に、バラキエルの雷光が直撃した。

 「バラキエル!」
 「悪いがアザゼル、俺はこれ以上奴言葉を耳に入れていたくなかったのだ!」

 アザゼルの言葉に返しながら、バラキエルは自分が放った雷光の直撃地点を睨み殺すような眼つきで観察し続ける。
 そうして煙が晴れた所には、何事も無かった様にKraが立っていた。

 「無傷だとっ!?」
 「馬鹿なっ!直撃の筈だぞ!?」
 「――――それで、話の続きだが。早く救援に向かった方が良いぞ?」
 「・・・・・・だったらそこで立ちふさがる様にいないで、とっとと消えてくんねぇか?」

 周りが驚いている中でアザゼルとKraだけは会話を続ける。
 方や平素に、方や苛つきながら。

 「こう言う場合は、力ずくがセオリーでは?この場には神の子を見張る者(グリゴリ)の幹部がほぼ全員と、そこの黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)の保有者もいるのだからな」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 隠れていた訳では無いが、幾瀬鳶雄は指摘されながらも黙りながら見ていた。

 「俺達全員を相手取れるってか?」
 「能書きはいい。来るのか来ないのかはっきりしろ、穢れた鳥類共」
 「上等だぁああっ!行くぞ、野郎ども!!」
 『はっ!!』

 挑発に乗ったように開始される戦い。
 此処に、神の子を見張る者(グリゴリ)対Kraの強大な力と力が激突した。


 -Interlude-


 グレモリー領の一誠のために用意された修業地である山中。

 「グググググググッッッ!!!」
 「痛死苦痛死苦痛痛死苦痛死苦痛(オオオオオオオオッ)!!」

 魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)のタンニーンと、白銀の鎧で全身を覆った“何か”が両手で組みあい、互いを押し出すような形を取っていた。
 しかし、自力で押されていると判断したタンニーンは、一瞬だけ力をさらに強めてから瞬時に後方まで跳ぶ。

 「これでも喰らえ(オオオオオオオオオオッッッ)!!!」

 そして間髪入れずに、離れる前から口内にて溜めていた特大の火の息吹を、不意打つ形で“何か”に向けて放った。

 (今度こそ!?)

 タンニーンの攻撃が当たる事を背中の上で祈る一誠だったが、そんな思いも空しく今迄通り(・・・・)に“何か”が口を大きく開きタンニーンの攻撃を呑み込むように食べた。
 そんな驚天動地の戦闘を続けているせいで、此処一帯はすっかり更地状態だ。
 無慈悲な現実を見せつけられて、一誠は“何か”の上に素知らぬ顔で跨り続けている人物――――ライダーに毒づく。

 「クソッ!何なんだよっ!お前らはッッ!!?」
 「先に告げた。余は――――」
 「んなこと聞いてんじゃねえんだよ!退けよっ!そうじゃないと、部長が、朱乃さんが、小猫ちゃんが、アーシアが、ギャスパーが、グレモリー家の人たちがっっ!!」

 此処から見える情報などたかが知れているが、目の前の敵のヤバさと止まるどころか今も延々と立ち上り続けている煙の多さに、一誠は焦らずにはいられなかった。
 しかし、それを下からタンニーンが窘める。

 「落ち着け、兵藤一誠。グレモリー家本邸には、最強の女王(クイーン)と名高いグレイフィア・ルキフグスやドライグの奴が認めた規格外の人間魔術師もいるのだろう?」
 「そ、それは・・・」
 「それにグレモリー家の執事給仕達も手練れ揃いと聞いている。だから、今は信じてやれ」
 「――――分かった。アリガト、タンニーンのおっさん」

 タンニーンの言葉に少し冷静さを取り戻した一誠と、一誠のお礼の返事にまさか自分が感謝される日が来るとはなとでも思っているのか、タンニーンは思わず苦笑する。

 「話は済んだようだな?」

 その会話に、口も挟まず水も差さなかったライダーに問われたタンニーンは、素っ気なく返す。

 「――――ああ。それで貴様の“何か”(それ)は何だ?」
 「それを貴公ら――――悪魔たちに教えると思うか?」
 「(掴まっていろ、小僧)(いい、やっっ!!)

 言い切ると同時に空へ飛びあがるタンニーン。
 それに続くように、ライダーの意思をくみ取ったのかまでは判別できなかったが、“何か”も続くように4枚の常闇の羽の様なモノを生やして宙へ飛び上がる。

 巨大対巨大の戦闘が、陸から空中に切り替わった瞬間だった。


 -Interlude-


 グレモリー家本邸の城内で避難していたリアス達は、ある重大な事実を忘れていた様で、広間にて慌てていた。

 「私は『王』として失格だわ」

 そしてリアスは頭を垂れていた。

 「そんな事は無いわ、リアス!」
 「そうですぅぅぅ!こんなに混乱してるから仕方ないと思いますぅぅぅ!!」
 「いいえ、こんな時だからこそ『王』の資質が試されているんだと思うモノ・・・!」

 朱乃とギャスパーの慰めも、如何やら焼け石に水の様だ。

 「よりによって、自分のゼノヴィア(下僕の1人)の事を忘れていたなんて・・・・・・!」

 この緊急時に限って、ゼノヴィアが戻ってきていない事につい先ほど気付いたばかりだったのだ。
 しかし、なら連絡して連れ戻せばいいのだが、何かの要因によって通信妨害されている上に、城内のある一室とゼノヴィアの修業地付近と繋がっていた転移魔法陣が何故か消滅していた。

 「兎に角、連れ戻しに行きましょうよ、リアス!(わたくし)達の体力や魔力もある程度回復したでしょう!」
 「・・・・・・そうね。行きま――――」

 ギリリリリリリリリリリリリリリリッッッ!!!

 ゼノヴィアを迎えに行こうとした時に、この広間の一角から激しい金切音が鳴り響いた。

 「な、何!?」
 「あれは、士郎がお母様とお父様に送った盾・・・?」

 この金切音の激しさに耳を塞ぎながらも、何故音が鳴っているのか疑問を呈する。

 「そういえば士郎は確か、あの盾は持ち主に危険が迫ると金切音が鳴り警告するって・・・!」
 「と、言う事は・・・」
 「お母様が・・・・・・危ない!?」

 金切音の警告により、動揺と不安が入り混じった感情がリアスを掻き立てた。
 ヴェネラナ・グレモリー及びゼノヴィア・クァルタに不気味な魔の手が迫っていた。 
 

 
後書き
 士郎の事も含めて、何故英霊の方が強いのかについては理由があります。
 と言うか、第1章のラスト辺りから考えていましたけどね。
 それでは次回も機会がありましたらお会いしましょう。
 ではでは。 
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