| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第八十一話

 朽ち果てたショッピングモールでの戦いを終えた俺は、再び総督府の内部へと戻ってきていた。まだ他のEブロックでの戦いが終わっていないらしく、次の試合が始まるまではこの総督府の中で休憩でもする仕組みのようだ。電光掲示板に表示されている、他の出場者の戦いぶりを見ながら、俺は飲み物を注文すべくカウンターへと向かった。

「あら、早いのね」

 出来るだけ空いているカウンターへと足を延ばしてみると、何やら緑色をした飲み物を持った先客――シノンがいた。……なるほど、他の客は遠巻きにこちらを見てくるのみで、どうやらこの水色の髪の少女も、他のプレイヤーからの注目株といったところなのか。

「ああ……さっきはキリトがすまなかった」

「……別にいいわよ、気にしてないし。それに、あんたが謝ることでもないでしょ?」

 バーのマスターらしいNPCにコーヒー頼みながら、先の非礼を謝りつつシノンの隣に座る。そうしているうちにすぐさまコーヒーが用意され、一口飲んでみるとあまり美味しくなく閉口する。

「ここのコーヒー、ただの泥水よ」

「……先に言って欲しかったな……」

 『泥水』の発言に反応してか、マスターNPCが顔をしかめる。一息落ち着いて、もう一度電光掲示板をゆっくり見るものの……キリトとリーベの姿はどこにもない。もう終わってしまったのか、それとも画面に映っていないだけか。

「あなたの試合見せてもらったけど……なかなか良い銃使ってるのね」

 やはり美味くないコーヒーを顔をしかめながら飲んでいくと、同じく電光掲示板を見ていたシノンから声をかけられる。しっかりと見られていたかと思うと気恥ずかしいが、それ以上に目の前のシノンの腕前に舌を巻く。……俺の戦いを余裕を持って見ているとは、彼女はどれだけ早く対戦相手を撃ち殺したのか、ということだ。わざわざ俺の試合を見るために、急いでこのバーに来るわけでもなし、まさしく一瞬で終わらせてきたのだろう。

「でも、それだけじゃこの大会は勝ち抜けないわよ。棒立ちで強い銃を撃ってるだけじゃね」

「…………」

 ――シノンの指摘はまさしく的を射ていた。今回の戦いは、対戦相手であるザビーの戦い方と、偶然AA-12が相性が良かったということだけだ。あれでザビーが室内での戦いに持ち込むことなく、室外での撃ち合いを選択していれば、俺は勝てていたかどうか分からない。

「その顔を見る限り、分かってはいるみたいだけど。まあ、せいぜい頑張りなさい」

 それだけ言うと、シノンは飲み終えたコップをバーのマスターに返し、こちらを振り向くことなく去っていく。彼女も次の試合の準備があるのだろう。美味くないコーヒーを一気に飲み干すと、同じくバーのマスターに返して立ち上がる。

 ……刀のないこの世界で、俺に出来る戦いとは一体なんなのか。確かに素人目からしてもこのAA-12は強力な銃だし、自分が使うにあたっても使いやすい武器だ。先のザビーの時のように、室内でのフルオートショットガンは多大な制圧力を誇るだろう。

 だが、それはそんな環境に限っての話だ。室外で自由に動ける状況や、室内でも壁蹴りなどを活かすことが出来るのであれば、《弾道予測線》を使って避けきることも難しくはない。恐らくは自分にも出来る自信もあり、《弾道予測線》という存在に慣れたこの世界の住人たちは言わずもがな、だ。

「考えないとな……」

 と、独り言を呟いた瞬間。自分たちが参加しているEブロックの一回戦が終わった……という旨の連絡が総督府内部に響き渡り、俺は二回戦へと歩を進めるべく、出撃待機部屋へと向かうことにした。

 ……二回戦だろうとこの待機部屋は変わらず、相変わらず感覚のなくなりそうな暗闇の部屋だった。先と同じく、対戦相手の名前と戦う場所が表示されており、それだけが唯一の情報だった。……どのようなシステムになっているのか、自分と自分の装備だけははっきりと見えるが。

 対戦するステージはスタジアム。野球場のような場所か、闘技場のような場所か。……何にせよ、AA-12をフルに活かすことが出来る室内ではないことは確かだ。

 そして対戦相手の名前は――

「……ピース」

 ――この世界には、まるで似合わない名前だった。

 ……と、そうしていると俺の身体を転移の光が包み込み、程なくして新たなフィールドへと現れる。スタジアムという名前に違わず、今すぐにでも野球が始められそうな場所だった……例によって例のごとく、雨を防ぐドームが半壊していたり、人口の芝生が捲れてコンクリートが丸見えになっていたりするが。肝心のスタジアムにも、破壊された何かがゴロゴロと転がっている。

 ――何より、それらより遥かに重要なことが。

「…………!?」

 すぐ目の前に《ソレ》はいた。ショッキングピンクの髪の毛をサイドテールに纏めた、改造された制服を着たような少女。自分以外にここにいる人間ということは、目の前にいる彼女こそが《ピース》であるということに他ならない。

「あちゃー……正面に出るタイプですか。ボクがピースです、よろしくお願いします」

 油断なくAA-12を構える俺に対し、ピースと名乗る少女は予想に反し、穏やかに礼儀正しく話しかけてくる。その手には二丁の銃が構えられているが……そのデザインは銃というよりは、どことなくALOのようなファンタジー世界のものを思わせた。……個人的には、「またピンク髪か」と思わずにはいられなかったが。鍛冶屋といい、あの踊り子といい……

「あの……ボクの銃、気になりますか?」

「あ、ああ……」

 銃の方を見て考え事に没頭していただけなのだが、確かにあのファンタジーのような銃も気になるので、一応そういうことにしておく。彼女に向けていたAA-12を降ろしつつ、相手がいきなり撃ってきても対応出来るように身構える。

 ただ、対戦相手であるピースからは、そんな緊張感はまるで感じられなかったが。

「はい、ボクのこれは皆さんが使っているような実銃ではなく、光学銃です!」

「光学銃……?」

 ずずい、と乗りだして説明してくるピースに少し警戒しながらも、彼女が持っている《光学銃》とやらに思索する。確か事前に調べた情報によると、このGGOでは実銃だけではなく、未来的な光学銃もオリジナルとして配備されている……ものの、対人戦ではもっぱら使われることのない銃、とのことだが。

 かくいう俺の装備にも《光学銃偏光フィールド》という、光学銃の攻撃を防ぐシステムが装備されている。その程度しか光学銃のイメージがない自分に対し、ピースは語りだした。

「先進的かつ未来的なフォルムとか撃った時の何ともいえない安っぽさを感じられるエフェクトとか現実の銃とかに興味が出ちゃって出費することもないし、性能的な面で言えばめんどくさいリロードもなく弾丸より早いし色々応用も聞いたりと楽しい銃なんです! さらにボクが使うこのブラスターなんかは曲線! にこだわって改造されてまして凄く美しくなってるのが分かりませんか? 薬莢とかが落ちる瞬間が素敵なのは分かりますが、ボク個人としてはこの実銃では真似できないフォルムが好きでして、もっと運営も光学銃を増やしてくれればいいんですけど、やっぱりメッセ送ってみても実銃を優先的に実装してるみたいなんですよね……だからこうして、ボクがBoBで結果を出せばみんな光学銃の良さを分かってくれるんじゃないか、って思って出場したので、この二つが一番お気に入りの子たちなんですよ!」

 ……とにかく。自分の好きな光学銃を宣伝するために、お気に入りの二丁を持ってBoBに参戦した、ということらしい。もしかしたら光学銃について、戦いを優位に運べる有用な情報を喋っていたかもしれないが、残念ながら聞き取ることが出来たのはそれだけだった。

「……コホン。あとはこの《ピース》、って名前もちょっとお気に入りなんです。このゲームにはちょっと、似合わない名前……ですけど」

 苦笑するしか出来ないこちらの気持ちを知ってか知らずか、ピースが咳払いを一つ。その咳払いがスイッチだったかのように、彼女の纏う気配が変わっていく。自分の好きな光学銃のことを語る時では既になく、これからは撃ち合いだ――と言わんばかりに。

「実銃と違って、撃ち殺した感覚がありませんから……『平和』に終わるんですよ!」

 ――その台詞が戦闘開始の合図。自慢の光学銃を両手に、ピースはそのピンク色のサイドテールを翻しながら、忍者のように身を屈めて接近してくる。それに対して俺はAA-12をしっかりと肩に構えると、勢いよく引き金を引くとフルオートで弾丸が発射され、走ってくるピースに殺到していく。

「甘いです!」

 しかしピースはその走りを止めることなく、弾丸と弾丸の間をすり抜けるように避けていく。髪の毛や腕にカス当たりはするものの、その程度ではダメージにすらなりはしない。さらにピースの右手の銃がこちらに向けられたかと思えば、俺の視界を光が包み込んだ。

「うぐっ!?」

「弾道予測線なんて出ませんよ! なにせ、弾なんて出てないんですから!」

 我が意を得たり、というピースの言葉に納得しながらも、とにかく見えないながらもやたらめったらにAA-12を乱射する。俺を襲ったのは閃光弾のような衝撃であり、恐らくピースの右手の銃は敵の視界を封じる――動きが重い、どうやらこちらのステータスを低下させる――特性もあるらしい。徐々に回復してくる火力で辺りを見渡すと――

「頭部に光学バリアはありませんよねぇ!」

 ――零距離にピースと左手のブラスターがあった。

「くっ!」

 ブリッジをするように頭部に放たれたブラスターを避け、そのままゴロゴロと転がってピースから離れ、牽制にAA-12を撃ち込みながら壁に隠れる。避けることは出来る……とは言っても、AA-12の弾幕が厄介なことには違いないらしく、ピースもこちらへの追撃ではなく、どこかへ身を隠すことを選択する。

 その隙にまだしぱしぱする目を回復させると、新たなマガジンを取り出し古いマガジンと交換しながら、壁から壁へと移動していく。ピースの戦い方は右手の光学銃でこちらの視界を封じ、その隙に左手のブラスターを叩き込む、という戦術。恐らく、左手のブラスターを零距離でくらえば一撃必殺……という結果に終わるだろう。

 その作戦に対抗するにはどうするか。

 まずはピースが隠れている壁に対し、AA-12をまたもやフルオートで連射する。なかなか巨大な破片だったものの、AA-12の前では一瞬しか耐えることは出来ず、壁を破壊しその裏に隠れたピースに迫る。

「まだまだです!」

 ただしその一瞬でピースの逃げる隙を与えてしまい、ピースは破壊された壁から飛び出し、右手の目潰し光学銃を放つ。予測線が無かろうと種が分かれば、その光に当たらないように横っ飛びすると、再びAA-12を構えて狙いをつけると――

「っ!?」

 ――俺の視界を光が襲った。完璧に避けたはずだったが……その襲いかかってきた光の方向を見て、俺は何が起きたのかを悟った。

 反射だ。俺が避けた目潰し光学銃の光は、そのまま背後にあった何らかの偏光するものに当たり、再び俺に向かって襲いかかった。一度反射したからか、先の異常よりは視界は鮮明だが……肝心のピースの姿が、視界のどこにもない。彼女の姿を探す俺に対し、再び激しい光が目に襲いかかった。

「念のための二発目です!」

 その声が発された方向にAA-12を撃ち込むものの、当然ながら当たった感覚も試合終了の勧告もない。気配や足音で大まかな位置は分かるが、肝心のAA-12による攻撃がピースには当たらない。下手に動こうものなら、そこに待ち構えられてやられる……そんな状況だったが――

「……そこだ!」

 ――俺の視界に『ピンク色』が映り、そこに反射的に蹴りを放った。

「えっ……!?」

 銃よりも遥かに確信を持てる、蹴りが当たった際の鈍い感覚。ピースの驚愕と痛みと疑問の三つが交わったような声に、俺はさらに回し蹴りを加えていく。

「きゃっ!? ちょ、ちょっと待ってくだ……」

 どうやら、回し蹴りは頭をすれすれに掠ったのみで外れた……いや、避けられたらしい。だが、そのおかげでピースの位置を把握すると、避けられた回し蹴りの足でそのままかかと落としを繰り出す。……今度は改心の当たりだ。

「このぉ!」

「くっ……!」

 しかしピースもやられてばかりではなく、かかと落としで地面に蹴り伏せられながらも、左手に持った威力重視のブラスターを放つ。それを何とかバックステップで避け、回復してきた視界を頼りにAA-12を構えると、倒れたピースに向かって乱射する――より早く、ピースのブラスターの追撃が発生し、撃つよりも避けることを優先する。

「目ぇ潰したじゃないですか! 何で見れるんですか……!」

「……ピンク色なら目をつぶってても見れるもんでね……」

 ――流石にそれは嘘だが。そして横っ飛びを繰り返していき、タイミングを合わせて思いっきり前に踏み込む。避けきれなかったブラスターが服に当たりそうになるが、それは装備されている《光学銃偏光フィールド》により、俺に届くことなく消えていく。……一応リーベに感謝しながら、そのままの勢いで跳び蹴りをピースに当てていく。

「あーもう! 何のゲームですかそれは!」

 キレ気味に返されたピースの言葉に俺は、確かにそうだ――と苦笑する。ただ、俺は勘違いしていたのだ。刀のない銃の世界で、俺はどのように戦えばいいのか、と。

 答えは単純――今までと同じように戦えばいい話だ。相手の攻撃をいなしつつ相手の虚を突き、こちらの必殺の一撃を決める――その戦い方自体は、どこの世界に行こうが変わることはない……!

「ナイスな展開じゃないか……!」

 距離を詰めた俺に対し、カウンターのように放たれたブラスターを頭の動きだけで避けながら、腕甲が付いた腕を振るうことで、何処かへ吹き飛ばすことで使用不可とする。

「あっ、ボクの……!」

 愛用している銃が吹き飛ばされたことで、ピースの視線がどうしてもそちらに向いてしまう。この接近した距離では、慣れないAA-12を使うことは難しい……が、前方への蹴りが直撃すると、ピースの軽い身体は軽々と吹き飛んでいき、どこかの壁へと激突することで止まる。

「ううっ……!」

 俺がAA-12を構えるのを見ると、ピースはハッとして近くの厚い壁へと飛び込んでいく。それは先にAA-12の弾丸を防いだ壁より厚く、そこに隠れたピースのとっさの判断は流石といったところか。

 ……だが、正しい判断ということは、その分相手に読まれやすい判断、ということだ。俺は新たなマガジンを取り出すと、まだ残弾が残っている筈の古いマガジンを外すと、そのマガジンを新たにAA-12に装着する。そして先と同じく確実に構えると、ピースが隠れている壁にフルオートで発射していく。

 壁に着弾した直後、ピースがその壁から姿を見せ、その手には新たな光学銃が握られていた。俺がマガジンを換装している隙に、彼女も吹き飛ばされたブラスターの代わりに、新たな光学銃を用意していたのだろう。その光学銃から発されたレーザーポインターが俺を捉えると、ピースがニヤリと笑って引き金を引く――

「悪いが、もう終わりだ」

 ――前に。ピースが壁としていた鉄骨が、突如として大爆発を起こしていく。それに近づいていたどころか、それに隠れていたピースは逃げることすら出来ず、ただその爆発へと飲み込まれていく。まだAA-12のフルオート射撃は続いていき、さらにスタジアムに爆発が起きていき、ピースはその爆心地へと成り果てる。

 先程装備したマガジンが弾切れを起こし、俺がAA-12をピースがいたであろう場所から下ろすと、俺の前に勝者であることを示すメッセージが表示された。

 今のマガジンに装備されていた弾丸は、このAA-12の専用弾薬である《FRAG-12》と呼ばれている弾薬。当たった物の近くで爆発する弾丸――要するに、グレネード弾の対人用サイズである。対人用といえども、その威力は十二分に備えており、それらももちろんフルオート射撃による発射が可能となる。

 ただ弾丸を連射するだけではなく――もちろんそれだけでも驚異的だが――まだまだこの銃には可能性がある。あとは自分がどこまでやれるか……そう考えながら、俺はスタジアムから総督府へと、再び転移されていった。

 ……そして、再び総督府内部。Eブロックの次なる試合が始まるより先に、またどこかで休憩でもするか、と待機場所から歩きだす。やはり電光掲示板を見上げるものの、キリトやシノンの姿は簡単には見当たらない。

 どこかで落ち着くついでに、電光掲示板を見やすい場所を探そうとすると――

「…………っ!」

 ――《奴》とすれ違った。俺とは逆方向に歩いていく、マントを全身に被った長身の男。……いや、その顔には骸骨を模したマスクが被せられており、その顔までは伺い知れない。体格だけでそうだと判断しただけで、もしかしたら女かもしれない。

 何にせよ、不気味なほどに正体を隠した奴は……ただ一言、すれ違い様に小さく呟いた。

 ――『黒の剣士と、組んで、何を、する気だ、銀ノ月』と。

 《黒の剣士》に《銀ノ月》。そのどちらもが、俺にとっては馴染み深いと同時に、懐かしい名前だった。あの浮遊城《アインクラッド》において、キリトと俺に戦意向上の為に与えられたその名前。今プレイしているALOでも、キリトはその外見や俺の刀の名前から、そう呼ばれることがない訳ではないが……真の意味を知っている者は、一部の者に限られる。

 ……すなわち、元SAOプレイヤーしかありえない。

「……待て!」

 振り向いてそう叫んだ俺が見たのは、曲がり角を曲がっていくその灰色のマントの姿。待てといって待つ奴はいないとばかりに、俺の言葉などなかったかのように、そのマントはどこかへ去っていく。

 舌打ち一つ、俺はそのマントを追って曲がり角を走ると――

「わわっ!」

「っ……!」

 ――曲がり角の向こうから現れた、小さな人影にぶつかってしまう。相手の方が身体が小さかった為か、こちらは少し衝撃を受けただけで済んだが、相手側は結構な勢いで転んでしまう。謝ろうとそちらを向くと、そこには見知った顔が座っていた。

「すまな……リーベ?」

「ってて、あ! ショウキくん久しぶり!」

 ピンク色の踊り子は何事もなかったかのように立ち上がると、何やらアイドルのようなポーズを決めてみせる。大丈夫そうだと確認し、曲がり角の向こう側を見てはみるが……あの灰色マントの姿はどこにもなかった。

「なあリーベ。こっちにマント着た奴、来なかったか?」

「んー……来てないけど?」

 リーベはそう言って肩をすくめてみせる。ここは対戦場への待機場所の近く、リーベとあの灰色マントが入れ替わりになってしまったか。SAO生還者……死銃……その二つのことに共通することとして、俺の脳裏に一つの単語が横切った。

 ――笑う棺桶《ラフィン・コフィン》。

 SAOの世界で快楽のために人を殺害してきた殺人ギルドと、ゲーム内からプレイヤーを殺す死銃……『プレイヤーを殺す』という点しか繋がりはないが、どうしても俺にはその可能性を捨てることが出来なかった。あの灰色マントの禍々しい気配からか……はたまた、別の理由が原因か……それは分からない。

「どーしたの? ショウキくん?」

 顔を覆う俺の背後から、心配したようなリーベの声が聞こえてくる。彼女の前でこれ以上考えることではない――と、後ろを向いて大丈夫だ、と言おうとするより早く。銃の世界の踊り子は嗤いながらそう言った。

「――人を殺した時のことでも思い出してたの?」

「――お前……!」

 ただ、背後を見ても既に、踊り子の姿はそこにはいなかった。もしかしたら、まだ近くにいたかもしれなかったが……探す気力もなく、俺は壁を背に力なく座り込んだ。

「なんなんだよ……」

 ――どうすればいいんだよ。その問いに答える者は、もちろんそこにいることはなかった。

 
 

 
後書き
ガンアクション(銃撃ってる時は棒立ち)

追伸・謝辞

 今回の対戦相手、光学銃使いのピースは《ソードアート・オンライン 神速の人狼》(他遊戯王を三作)を執筆なさっている、《ざびー先生》考案のオリキャラでした。戦闘方法や外見、口調などは構築されていたので、あとは光学銃キチ……もとい光学銃好き、とするだけの簡単なお仕事。

 名前も指定されていなかったので、ついでに募集をかけてみましたところ、《SAO─戦士達の物語》の鳩麦さんの《ピース》という案を採用させていただきました。

 この場をお借りしまして、両先生にお礼を申し上げます。ありがとうございました!
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧