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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第八十二話

『――人を殺した時のことでも思い出してたの?』

 あの踊り子はそう言って笑った。こちらを見透かしたようにして……本当に、その時のことを知っているかのように。デスゲームと化したあの浮遊城で、俺は人を殺したことが……ある。

 忘れていた感覚――いや、意図的に記憶の底に封じ込めていた感覚が、手の平に蘇ってきた。そのまま身体中に広がろうとするソレを、何とか手の平にまで抑えつける。

「嫌な感覚を……思い出させて……」

 その手の平を強く握りしめ、思いきり壁にぶち当てる。その拳が麻痺するかのような感覚に、脳の奥から記憶が蘇えるのを阻止する。……ずいぶんオカルトな表現だったが、結果的に、トラウマとして封じ込められた記憶は戻らない。

 ……ただ。どうしてか分からない嫌な感覚が、手の平に残っているのは、とてつもなく気持ちが悪い。

 そして灰色のマントをした死神。得体の知れない奴もまた、デスゲームのことを知っていた。俺に殺された者の怨念でも、このVR空間に残っていて復讐しにきたか――などと、脳裏によぎった全く訳の分からないことに、つい自分で自分を苦笑してしまう。我ながら、そんなことを考えるほど錯乱してしまっていたか。

 ……そのままその通路に立ち尽くしていたが、今はBoBの大会中。ずっとそうしているわけにもいかず、俺はルールに従って対戦相手とともに、新たなフィールドへと転送される。敵の名前を見ることすらしていないが、今は……どうしようと負ける気はしない。珍しく殺気立って行動を起こすと、視界の端に敵の欠片が映る。敵はすぐさま近くの壁に隠れ、そこからピクリとも動かない。

 ……どうやら、まだ見つかっていないと思っているらしい。俺が付近を探索している隙に、背後からでも強襲する腹積もりか。……もちろん、そんな思い通りに行動する訳もない。

「ナイスじゃない展開ばっかで……俺は今、気分が悪いぞ……!」

 そうして敵が隠れている場所に対し、俺はAA-12を構え――

 ――そうして、俺は決勝戦まで歩を進めた。……ここまでで少し頭も冷えた。もう一度落ち着くという意味も込めて、AA-12の様子を整備ついでに確認していると、こちらに歩み寄ってくる影が見える。小柄な少女のような――いや、小柄な少女そのものの、華美な装飾を込めた服の影。

「決勝進出おめでとう、ショウキくん!」

 《死銃》の調査に来た俺の前に現れた、謎の踊り子、リーベ。彼女は会った時と同じように、屈託のない笑顔で話しかけていた。俺をこの予選に参加させてくれた人物であり、あの灰マントの男同様にデスゲームのことを知っている人物であり……俺は何も知らない人物だ。

「まさか決勝まで残るとは思わなかったよ! この調子で頑張って、いきなり予選を一位で突破しちゃったり?」

 その謎もこの予選で終わりだ。予選が始まるより早く、リーベは俺にそう語っていた。――BoBでウチを楽しませてくれた人には、もしかして何でも喋っちゃったり……して? ――彼女が約束を守るとも思えないが、今はそれしかない。

「それじゃ、楽しもうね!」

 BoB予選決勝戦、対戦相手。表示される名前を見るまでもなく……目の前にいる銃の世界の踊り子、リーベだ。

 そして決勝戦は始まり。俺は転移した時の感覚から目を覚ます。対戦ステージは湖畔のコテージ――中央に大きい湖があり、それを囲むように宿泊施設や娯楽施設だったものがある。湖に架かる橋や古びたホテルなど、どうやらいつかは観光名所であったらしいが、例によって例のごとく壊滅状態ではある。……湖畔だけが美しいままというのは、デザイナーの皮肉か何かだろうが。

 アインクラッドでのキリトとアスナの家があった、第二十二層に雰囲気が似ている――デスゲームの話をしている時に、タイミングが良いのか悪いのか――と思いつつ、出現地点である廃墟から外に出る。木々から虫と鳥の音が鳴っており、湖畔から気持ちのいい風が吹いている。

 ――その風や音に混じって……歌声が聞こえてくる。町中を歩いていた時に歌っていた、彼女の踊りを伴った歌声だ。自分はここにいるよ、と誘っている。

「…………」

 罠だ。考えるまでもなく――普通ならば。あの踊り子に見せかけた愉快犯に限っては、何を考えているかは分からないが……唯一分かることは、その歌声の向こうには、彼女がいるということだ。

「ナイスな展開……じゃないが。誘われたからにはな……!」

 踊らされているようでいい気はしないが、その歌声に従って歩いていく。罠なら正面から打ち破るのみ……という心持ちのまま、木々の間を通り抜けていく。そしていつしか開けた場所に到着し、歌声もそこから聞こえてきて、リーベもそこに――

 ――いなかった。

「なっ……?」

 歌声は聞こえ辛いものの、確かにこの開けた場所から聞こえる。されどリーベの姿は見えない……どこかに隠れているのか、とも思ったその時、足に何かが引っかかる。

 ……ラジカセ。

『歌声で誘い込んでるでも思った? 残念でした!』

「あの踊り子……っ!」

 今まで歌声が聞こえていたであろうラジカセが、その音声を最後に足下で爆発する。とっさに飛び退いたものの靴に焦げ跡がつき、次はどこから来るか警戒する。今の状況は、いいようにおびき寄せられたのと同義だ、必ず何か手を取ってくる筈――と、近くの木々から大量に、歌声が響いているラジカセが落ちてくる。

 ……近くまで来ていたにもかかわらず、歌声がどこから響いているか分からなかったのは、これが原因か。そのラジカセから煽るように歌声が響き渡ると、それぞれが煙をあげて爆発する。視界が煙一色となって木々も見えない程になり、AA-12を構えて視覚以外の感覚を研ぎ澄ませる。

 自分以外の誰かの感覚。腐葉土を踏む自分以外の足音。遠い。少なくとも自分の銃の射程圏ではない。そちらから何かが投げられる音。拳大ほどの大きさ。AA-12をそちらに発砲する――

 すると、AA-12から放たれた弾丸がその拳大のものを撃ち落とし、それが爆発四散し視界の煙を弾き飛ばす……手榴弾か何かだったのか。ともかく煙が晴れて視界を確保できた、手榴弾が投げられた方向に走っていく。今度こそ、この先にリーベがいる……!

 ……と、走りだした俺の腕に何かが引っかかる。それがワイヤー――だと気づいた瞬間には、すぐに俺の腕の向こうでまたも爆発が起きる。すぐさま横に飛んで転がることで何とか事なきを得たが、恐らくこの木々には、今のワイヤートラップがひしめいている。……偶然遠くのワイヤーに反応したから良かったが、見えないワイヤーをいつまでも避けてはいられない。

「なら……」

 とは言っても回り道をしては、リーベに逃げられ位置が分からなくなってしまう。ならばすることはただ一つ、ワイヤートラップを破壊するのみだ、とAA-12を構える。リーベではなく木々にめがけて引き金を引く。銃声が鳴る度に木々が破裂していき、木々が倒れる度にワイヤートラップが爆発していく。フルオートのままAA-12を撃ち続けると、弾丸と爆発からすっかり木々は見る影もない。

「……よし」

 AA-12の弾倉が空になったのと同時に、木々に対しての自然破壊は終わる。弾が切れた弾倉を適当に捨てると、新たにAA-12に弾倉を装填する。焦げた木々を蹴りつけてワイヤートラップが残ってるかを確認しながら、再びリーベへの歩みを進めていく。

 ……こんな短時間に、よくもこんな罠を仕掛けたものだと思いつつ、リーベが使う銃に関して思索を巡らす。俺のこのAA-12は、銃に詳しくない自分がリーベにお勧めされたものだが……俺はリーベの銃や戦術を知らない。せいぜい今の爆弾による小細工と、街中での鬼ごっこのみ……肝心の《銃》に関しては、全く情報はない。

 爆煙漂う森だった場所を抜け、湖がよく見える高台へとたどり着く。以前は穴場スポットだったであろうその場所は、今も変わらず雄大な景色を見せつけており、そこに――踊り子が気ままに踊っていた。薄いヴェールが夕日に照らされて光り輝き、幻想的な雰囲気を醸し出している。

「あ! 早かったね、ショウキくん!」

 油断なくAA-12を構える俺に対して、あくまでリーベは余裕げにこちらに笑いかける。……いや、余裕というより……楽しげに、か。踊るのを止めてこちらを向く。

「それじゃ……一緒に楽しも!」

 リーベがそう言うのと同時に――つまり、何か行動を起こそうとする前に、狙いをつけてAA-12の引き金を引き絞る。フルオートのショットガンが全てリーベに迫っていくが、リーベは特に意に返すことなく、それこそ踊るように避けてみせる。……《弾道予測線》があるため、それに関しては驚くことはない。

 それでも弾倉の中にある弾を切らすまで撃ちきり、空になった弾倉を排出し、弾幕を切らしてリーベから少し下がる。もちろんそれは大きな隙となるが、何を使うのか、どう使うのか――見定めるための故意の隙。わざとリロードミスをして隙を見せ、リーベが使う銃を見極める……!

 リーベが手を振るうと、魔法のようにどこからか黒い物体が握られる。しかし銃とはまるで思えず、その形状は球体をしていて――爆弾。

「くっ!」

 リーベから投げられた爆弾と思われる球体に、空になった弾倉を投げつける。円形をしていた弾倉はブーメランのように放たれ、その隙に新たな弾倉をAA-12へと装着する。弾倉と爆弾は空中で正面衝突し、俺とリーベの中間地点で爆発する――かと思いきや、何も起きることはなく。

 ダミーか……と判断し、リーベに向けて神経を集中し直すと、それが失策だったことを一瞬後に思い知らされる。

「――――!?」

 リーベが投げた球体は確かに爆発こそ起こさなかったが、代わりにそこから発生する高周波――俗に言う《音爆弾》。そのつんざく音に、俺の身体は反射的に耳を塞いでしまい、AA-12を取り落とさんとしないようにするのが精一杯となる。

「ふっふっふ~」

 高周波によって身動きが取れない俺に対し、リーベは特に何の影響もないようにしている。またもやマジックのように、その手の中に球体の物――今度はどう見ても手榴弾だ――を出現させると、俺に見せつけるようにそのピンを抜く。

「み・み・せ・ん」

 リーベが自分の耳に手を当てながら何かを言っている。耳を塞いでいるこちらには、何を言っているか分からないが――とにかく。リーベは少し離れた距離から、ピンを外した手榴弾をこちらに向けて放り投げた。投げつけた、ではなく放り投げた、というのがまたナメられているようだが――確かに自分は、未だリーベの手の平の上で踊っているのみ。

「…………のっ!」

 AA-12を手から取り落としながら、放り投げられた手榴弾を蹴り返す。リーベに蹴り返したいところだったが、位置の問題から今なお高周波を撒き散らす音爆弾へ蹴りつけると、爆音とともに高周波がかき消される。耳から自然と手が放れ、取り落としたAA-12を拾って爆煙の中に紛れていく。

「これなら……どうだ……!」

 そのまま煙に紛れて近くにいながらに姿を隠すと、リーベがいた場所へAA-12を構え、その気配を探りながら発砲する。このゲームの生命線ともいえる《弾道予測線》は、相手を視界に捉えていなければ発揮されず、今は文字通り煙に巻かれている。この状態ならば――という思いは、風で爆煙がなくなった時に、その風に紛れる歌声に否定される。

「…………」

「うーん、今ので何回爆死しそこねたかな、ねぇショウキくん?」

 知るか――と言い返そうとするも、爆煙を吸い込んだ影響で咳き込み、上手く言葉に出来ない。そう言っているリーベの手には、やはり銃などは影も形もない。そんな俺の不審な視線を感じ取ったのか、リーベは無造作に何も持っていない手をブラブラと揺らす。

「ウチは銃なんて持ってないよ? ドッカンと爆発させた方が楽しいしね! あー、でも今はちょっと違うのかな……」

 『銃なんて持ってない』――あの踊り子はそう語る。この銃と硝煙の世界で何を言っているんだ、とは思ったが……モニターで見たキリトの戦いを思い返し、そんなことは関係ないのだと考え直す。それより、その後に言った『今はちょっと違う』の方が重要な話だ。

「種も仕掛けもありまっせん、っと! 今はこんな銃を持ってたり……なんかしちゃったりして?」

 リーベはやはり手品師のように、その何も持っていない手に、突如として銃を出現させてみせる。そこに現れた銃は、銃に詳しくないどころか、全く知らないと言っていい自分ですら……知っている銃。何故ならあの銃は、俺とキリトがこの世界に来るきっかけになった、始まりの銃とでも呼ぶべきモノ。踊り子の片手に握られた黒い銃――

「《黒星》……!」

 トカレフという名前の方が有名か、身体の小さいリーベでも問題ないような、何の変哲もない簡素な拳銃。メインウェポンにするほどの威力はなく、サブウェポンとしての運用となるが……それにしても旧型の銃で、このBoBという大会にはあまり似つかわしくない。もちろん自分もそのような銃の存在など知らなかったが、この世界に来る前に調べていた――あの《死銃》が持っていた銃として。わざわざあの銃を持っているということは、あの銃とリーベが《死銃》……?

「ばぁん!」

 《黒星》を構えてこちらに撃つ振りをするリーベ。《弾道予測線》が出なかったことから、撃たれることはなかったが……撃った人間をゲーム内から殺傷する、という得体の知れない銃に、身体が自然と萎縮してしま――いや、そんなことがある訳がない。もうあのデスゲームは終わり、今更ゲーム内で殺人なんてことはないのだ、と言い聞かせる。

「ビビったビビった? それとも驚いた?」

 そう言いながらリーベは《黒星》をどこかにしまい込むと、またもやその手を空にする。ただ《死銃》と思われる銃が彼女の手にあると思うと……やはり、こちらの行動は大きく縛られる。頭ではありえないと分かっているし、《死銃》が実際に何であろうと、やはり撃たれる訳にはいかない。

「ごめんごめん、ちょっと休憩になっちゃったね! それじゃ再開……の前に、上手く決まれば拍手喝采!」

 そう言ってリーベがパチンと指を鳴らすと、俺とリーベの間の土が爆散する。地雷か――と思ったがむしろ逆。空中から爆弾が降り注いでいる……!

「くっ!」

 その正体は、空を埋め尽くさんほどの風船にくくりつけられた……爆弾。風船の浮力がなくなった順に、俺とリーベのいる崖に爆弾が降り注ぐ。いつの間にやら飛ばしていた風船爆弾の爆撃に、撃ち落としている暇もリーベを撃つ暇もなく、俺はとにかく爆撃がこない場所にまで避難する。

 ……が、風船爆弾を防げる木々は、先程AA-12で俺が薙ぎ倒している。他の場所に逃げ込もうにも、恐らく先のワイヤートラップが仕掛けられている……上を見つつ裂けるしか方法はない。

「あはははは!」

 ただ重力に従って落下しているだけのため、もちろん風船爆弾はリーベにも降り注ぐ。それでも笑いながら彼女は踊り、自殺行為にもかかわらず楽しそうに。必死に風船爆弾を避ける俺の耳に、爆音に混じって笑い声が聞こえてくる。

 銃を持たず、爆弾とともに笑う踊り子――彼女の正体はソレだ。《死銃》の件も含め狂っているとしか言いようがなく、俺にはまるで理解も出来ない――だが。

「ナイスな展開じゃないか……!」

 その狂っている領域に踏み込まねば、俺は彼女に勝てない。無意識に怖がっていた俺の身体に鞭打ち、風船爆弾の絨毯爆撃で踊るリーベへと狙いをつける。この爆撃の中で彼女へと決着をつける……!

「いくぞ!」

 爆音の中で自身を鼓舞するようにそう叫ぶと、リーベがいる崖っぷちへと走りだす。……その瞬間、自分の背後で爆撃が落ちるが、特に頓着することもなく。地平に映る影を頼りに風船爆弾を避けながら、爆散する崖のつぶてに耐えながら、踊るリーベへと接近する。

「――来たねショウキくん!」

 爆音に混じる彼女の声にコクリと頷いて応えると、空中から飛来した風船爆弾を避けながら、AA-12を構えてリーベへと斉射する。フルオートで発射する暇も気もないが、充分な量の弾丸がリーベに吸い込まれていくが……落ちる風船爆弾に当たり、その爆発で弾丸が吹き飛ばされてしまい、肝心のリーベにまで届かない。むしろリーベへの風船爆弾を排除しただけだ。

「…………!」

 ならば銃の出番は後だ。AA-12を空中に向けて放ち、未だ降り注ぐ風船爆弾を可能な限り排除した後、接近していたリーベに跳び蹴りを放つ。しゃがむことで蹴りを避けた踊り子に対し、そのまま追撃のかかと落としを放つが、近くに落ちた風船爆弾の風圧で位置がズレてしまう。リーベは俺から離れながら手に手榴弾を出現させると、ピンを抜きながら俺の肩に向かって投げつける。

 その手榴弾はAA-12から放った弾丸で撃ち落とし、弾丸はそのままリーベへと向かっていくが、弾道予測線からかまるで当たらない。もちろんそのことは分かっており、AA-12を放ちながらも俺は再びリーベに接近していた。大きく足を動かした中段蹴り――と見せかけて、風船爆弾で破裂していた石つぶてを蹴り上げ、即席の飛び道具としてリーベに放つ。

「やだやだ、やることがちっちゃ――消えた!?」

 ただし、それはあくまでただの石つぶて程度。当たっても特にダメージはなく、現にリーベは特に気にする様子の欠片もない。……しかしその隙に高速移動術《縮地》を発動、風船爆弾に当たらないようにリーベの死角へと回り込み、AA-12の弾倉を入れ替えて彼女に構える。

「それは……どうかな!」

 入れ替えた弾倉の中に入っているのは、AA-12専用の特殊弾倉《FRAG-12》。小型のグレネード弾とも言えるソレが、例外なくフルオートでリーベに放たれる。風船爆弾以上の爆薬がリーベに放たれ、彼女の驚愕する表情を最後に見ると、あとはその場所は爆発に包まれていき……爆風が止んだそこには、もはや何もなく。

 ――なっていたのならば、俺の勝利で終わっていたのだが。そこには焦げた装甲板と、笑う踊り子の姿が変わらずそこにあった。

「惜しい惜しい! ……一回見てなかったら、危なかったかな?」

 ……町での鬼ごっこの際、リーベにはこの《縮地》を一度見せている。それによって反応し、出現させたあの装甲板で防ぎきったのか。

「炸裂装甲って知ってる? コレ、それなんだけどさ」

 炸裂装甲。……確か戦車の装甲板に使われている物で、敵からの攻撃を受けた際に自らの爆薬を爆発させることで、敵の攻撃を相殺させるものだったか。先の爆発は《FRAG-12》の爆発だけではなく、その炸裂装甲の爆発もあったということらしい。……《FRAG-12》の弾倉から通常弾の弾倉に戻し、炸裂装甲の裏に半身を隠れているリーベに構える。

「だが、もう打ち止めだ」

 小型とはいえ《FRAG-12》とて伊達ではない。もはやアレは炸裂装甲ではなくただの鉄クズであり、ただの鉄クズならばAA-12の弾丸は容易く貫通する。加えて風船爆弾も全て落ちきったらしく、空中からの攻撃はもうない。

「確かに、もうこの子はガラクタだね! だけどさ、まだこんなのもあるんだよ!」

 リーベがそう言い終わるより早く、AA-12が火を噴きフルオートの弾丸がリーベを襲う。リーベはわざとらしく悲鳴を上げながら、全身を素早く炸裂装甲に隠れる。役目を終えたとはいえ数発程度ならば防いでみせ、隠れるリーベが最後にその手に持っていたのは――スイッチ。

「じゃあね! ショウキくん!」

 何のスイッチだと思索を巡らすより早く、その異変は形となってこの世界に現出した。炸裂装甲をAA-12が撃ち破る音。一際大きい爆音。……俺が立っていた大地が崩れていく音。

「なっ……!?」

 崩れていく大地の中で何とかバランスを取りながら、リーベがやったことを悟る。彼女が押したスイッチは、どこかに仕込まれていた爆弾のスイッチで、その爆弾は俺たちの崖を壊すほどの威力だった。……要するに、爆弾で崖を吹き飛ばし、俺の足場を崩したのだ。それもリーベの足場には何の影響もない、と、完全に俺は誘い込まれていた。

 ――だが、自身の不覚を後悔するのは後だ。今自分がやるべきことは、足場が完全に崩れ落ちるより早く、防御を失ったリーベにAA-12の弾丸を叩き込むことだ……!

 リーベが立つ無事な足場へと復帰すべく、崩れ落ちる足場を飛び回り、比較的大きい足場に着地する。一瞬だけその足場で安定すると、AA-12を構えて狙いをつけ――俺の身体を一筋の赤い線が貫いた。この戦いに入って感じていなかった、《弾道予測線》……リーベが持っている銃は、本人の申告通りならば一つしかない。

「言ったでしょ? ……さーよーなーら、だってさ!」

 リーベが崖から離れなかったのは、決して俺が落ちるところを見物したかった訳ではなく。……ただ、自らの手でトドメを刺す為だけに。

 リーベは故人を悼むような似合わぬ十字を切る動作をした後、彼女が持つ唯一の銃……《黒星》を俺に構えていた。それと同時にこちらの射線も通り、飛来する石つぶてや破片などAA-12の前では障害物にすらなりはしない。落下中の最後のチャンス……だが、俺はAA-12を撃つことは出来なかった。

 ――あの銃が放つ弾に当たるわけにはいかない!

 けたたましく警鐘を鳴らす脳裏に従い、俺はAA-12を撃つことよりその攻撃を避けることを優先し、その足場から飛び移る。弾丸は弾道予測線に忠実に従い、俺が今までいた足場に当たり、もちろん追尾したり爆発したりはしない。何の変哲もない拳銃の弾だ。

「くそ、位置が悪い……!」

 追撃といきたいところだったが、飛び出した方向が悪くリーベの姿も見えないため、ここからの追撃は不可能。乗れるような破片も既になく、俺はそのまま湖へ落ちていく。少しでも落ちた際の衝撃を減らそうと、崖に向かって力づくで手甲を突き出すと、ガリガリと耳障りな音をたてながら勢いを緩和していく。

 ……あとは何の抵抗も出来ず、俺は崖だった場所から湖へと落下する。高所からの落下ダメージがかなり炸裂するが、勢いを減らしたおかげか何とかHPの全損は免れる。AA-12も何とか無事で、早く湖から脱出しなくては――と考えた俺を、何かが取り囲んでいた。逃げ場をなくすように。

 ――恐らく、水中用の機雷だ。

「――――」

 それに気づいた時にはもう遅く。機雷は次々と炸裂していき、俺の身体を飲み込んでいった。

 ――この瞬間、ショウキたちが参加していたEブロックの勝者が決定するとともに、BoBの全ブロックの予選が終了する。
 
 

 
後書き
ガンアクション(水落ち) 水落ちは生存フラグだって誰が決めたんだ 
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