ローゼンリッター回想録 ~血塗られた薔薇と青春~
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第5章 沈黙の休日
宇宙歴791年10月3日 私たち第2艦隊を中心とした「第99衛星群βⅢ攻略部隊」はハイネセンに帰還した。
翌日、勲章の授与式が行われた。
今回の攻略戦での管制室の制圧を先んじて行ったことなどの戦術面での評価による勲章の受章だった。
ヘンシェルでは、自らの命を顧みることなく勇敢に敵に攻撃を仕掛けたことから勲章をもらったが今回は、指揮官としての腕を認められたということかな、と思うと戦術指導をしてくれた中隊員たちには感謝感謝であった。
そこから、今回の攻略戦に従軍した第2艦隊には2週間の休暇が命じられた。
2週間の休暇で中隊長としてやらなくてはいけない仕事で一番やりたくないことをやらなくてはいけなかった。
それは、戦死した隊員の遺族への隊員の戦死報告である。
通常「メッセンジャー」と呼ばれる同盟軍統合参謀本部直轄部隊の一つで第00儀仗中隊と呼ばれる来賓などに対する儀仗を主任務とする部隊の隊員がこれを行う。
確かにそのときもわが中隊員の戦死から3日後には彼らが報告に上がっていたが、
それはとても冷たいもので
戦死日時、場所を伝えるだけで立ち去って行くのだ。
それでは戦死した隊員の遺族に申しかけないと思っていた私は彼らの戦死後に授与された勲章をもって各小隊長にその遺族の場所に向かわせた。
私は第1小隊長兼任であったのでマック伍長(戦死後2階級特進)の遺族のもとに向かうことにした。
実は、マック伍長の戦死に関しては遺族のほうに知らせていなかった。
彼の戦死は少なからず私の責任がでかいのだから、自分で行こうと思ったためであった。
しかし、私はその決断に後悔することになる
彼の両親は2人とも軍人であのヘンシェル星域会戦でスパルタニアンのパイロットとして出撃し、撃墜されて、彼の父であるシュルツ・コービィ少佐は戦死。母であるマリン・コービィ中尉もヘンシェル攻防戦の地上軍として従軍していたが最後のゼッフル粒子攻撃で戦死。
その後彼の家は叔母のエリー・パスカル准将の家となっていた。
士官学校ではいろいろとお世話になったので、士官学校に行ったときに話したいなーと思っていたが、まさかこんなことで話に行かなくなるとは夢にも思わなかった。
そして、3日後エリー准将の家にマックが受章した第1級戦功勲章、名誉負傷勲章、βⅢ攻略戦従軍章と伍長の階級章をもって訪ねた。
士官学校の教官宿舎で将官の宿舎となるとなかなかの豪邸であった。
警備兵に身分証を見せ、門をくぐりエリー准将の家の扉の前に立った。
コールキーを押す。
「はーい。」
という聞きなれた准将の声がして、扉が開く。
いつもの明るい笑顔の准将が扉を開けた。
「あら、シュナイダー中尉じゃない。
どうしたの?」
いきなり表情が暗くなったのがうかがえた。
私は敬礼をして
「准将閣下に報告いたします。
閣下の甥でいらっしゃる、マック・コービィ上等兵は宇宙歴791年 9月20日 戦死され、2階級特進し、伍長に任官されました。」
准将は、一瞬後ずさりをして
「嘘よ。嘘よ。
あの子が戦死するわけない。」
しばらくの沈黙の後
いきなり准将が
「お願い!嘘だといって。
あの子は生きてるって、言って!
シュナイダー中尉!」
するといきなり、右頬に衝撃
准将が私に平手打ちをしたのだ
すると准将は私の前で崩れるようにうずくまって
大声で泣き始めた。
表の警備兵が気の毒そうにこちらをうかがっているのが見えた。
そのまま10分近くたっていた気がする。
やがて、准将は起き上がって
「シュナイダー中尉。
とりあえず、上がって。
あの子の話を聞かせて頂戴。」
そして、准将の家に上がってマックの最期を看取ったメイリン衛生伍長からの話と彼の実戦で、訓練での活躍を話した。
准将は
「そう、あの子は必死に生きて義弟と妹の仇を取ろうとしていたのね。」
と言って、デスクの上に置いてあったエリー准将が中佐だった時とその隣に若い女性少尉が写った写真立てを手に取った。
「5年前の写真で、この右側の少尉が私の妹。
高射専科学校卒業して自力で幹部候補生養成所を卒業したての27歳の時。
当時私も戦艦の艦長として駆け出しの中佐で37歳だったわ。
彼女の夫は私の戦死した夫の元部下。
優秀で将来を期待されたスパルタニアンのパイロットだったわ。
まったくあのヘンシェル星域会戦がすべてを狂わせた。
彼女の夫は味方の艦艇の脱出のために敵を妨害している任務で、その最中に自分の飛行隊の離脱を援護しようとしたのよ。でも、燃料切れで速力が落ちていたところを敵の駆逐艦に撃たれたの。
私は味方の離脱部隊の殿を務めていたからそれを目の前で見たわ。
もう木端微塵。
助けられなかった。
そして、ヘンシェルの地上戦。
高射砲を対地攻撃砲にして彼女の小隊は戦っていたらしいけど最後のゼッフル粒子攻撃で大爆発を起こした陣地にいて、遺体すら見つからなかった。その代り見つかったのが彼女のヘルメットとこの写真。」
と言って見せてくださったのが、周囲が黒く焦げた家族写真だった。
「私たち夫婦には子供ができなかった。
だから、マックはどんなに甥っ子とはいっても会うたびにとてもかわいがっていたわ。
私の夫で第225空戦飛行団の司令官だったマーク・クリスチアン大佐はオリオン星系区での攻防戦で自分たちと10倍以上の帝国軍とスパルタニアンだけで戦ってケルン=テーベ3-3衛星の制宙・空権をめぐる空中戦で最後の1機まで戦って戦死したわ。
その足止めのおかげで、同盟軍はオリオンとヘンシェル両星域の同時2正面作戦を取らなくてすんだわ。
こうして、私はほとんどの親類そして愛する人を失ったのよ。
だからあれ以来、マックは私のすべてだった。
だけどね、あの子は母と父の仇をとるんだといって同盟軍一般志願兵訓練課程に入ってしまったわ。
そして・・・・・・
ああ、もうどうして・・・・・」
と言ってそのまま泣き出してしまった。
また10分後
准将はマックのもらった勲章を見ながら「でも、あなたのおかげで彼が無駄死にであったわけではないということは分かったわ。
ありがとう。」
その後、私は准将の家を去った。
一人の人が死ぬだけでこんなにも人が悲しむなんて、わかっていたのに本当は分かっていなかった自分に対して怒りを感じた。
そして、このもやもやした雰囲気を振り払うために私は1週間早めに軍務に復帰した。
結局私はただの軍人であり、骨の髄まで軍人なのだから軍務以外に自分を落ち着かせるものがなかったのであった。
そして、私は宇宙歴791年 11月25日
私の19歳の誕生日に同盟軍統合作戦本部へ出頭を命じられた。
そこにいたのはローゼンリッター連隊副連隊長 ワルター・フォン・シェーンコップ中佐がいた。
周囲には、ライナー・ブルームハルト中尉、デアデェッケン大尉、カスパー・リンツ大尉(全員、戦闘後1階級昇進)がいた。
「来たな、春キャベツ君」
と、いつものダンディーな中佐が歩み寄ってきた。
私は、その場でローゼンリッター連隊 第1大隊 第2中隊 中隊長に任命された。
現在ローゼンリッターは連隊規模まで戦力を回復し、現在第4艦隊の機動特殊白兵戦連隊として再出発を図っている。
私は中隊を訓練しながら早くこの真の最強「薔薇の騎士」として戦いたいと思った。
しかし、その期待は来年の宇宙歴792年 1月の「アルレスハイム星域会戦」でかなってしまうのだが…
こうして、私の宇宙歴791年は幕を閉じた。
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