ローゼンリッター回想録 ~血塗られた薔薇と青春~
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第5章 極寒の雪原の中で ~ローゼンリッターの意地~
目の前には帝国軍兵士。
まだ、経験の浅い兵士だ。
胴ががら空きだ!!トマホークを振り下ろす!
・・・・
帝国軍基地のβⅢ司令部のポイントAからポイントHまでを制圧し、第2、機関銃小隊両小隊ともに敵守備隊に対して平行圧迫を強いていた。第3小隊は当初の目標を達成し、現状維持と降下部隊の管制誘導を行っている。
次のポイントIを制圧したら。第2小隊との接合点を軸にして敵の側面をつくのがいいだろう、と思い
「第2小隊応答せよ。」
第2小隊長クレメンツ予備役少尉から
「こちら第2小隊!
現在ポイントGまで制圧完了!
どうぞ!」
クレメンツはかなり興奮しているようだ。
「第2小隊!
現制圧ポイントを維持せよ。貴小隊とわが小隊との接合点を軸にして敵の側面をつく。」
「了解しました!
現ポイントを維持します!」
次に機関銃小隊を呼び出した。
「こちら機関銃小隊です。
現制圧ポイントはGポイントです。」
マリー予備役少尉のかなり落ち着いた声が聞こえてきた。
初陣のはずなのにこんなにも落ち着いているとはね、と感心したものだった。
「機関銃小隊は第2小隊との接合点を軸にして敵の側面をつけ。」
「了解しました。」
本当に落ち着いている。感心からか思わず口元が緩む。
そして、
「第1小隊!
このまま、敵の側面をつく。
次の9-4ポイントの角で右折。
その後敵守備隊に一撃を加える。
行くぞ!」
周囲には敵の死体しかなかった。
そのまま小隊の先頭に立ち突っ走る。
無機質な通路を通り、走りながらはむかってくる守備隊を切り殺す。
どの兵士も経験の浅いものばっかりで、今目の前にいる兵士も一番守らなくてはいけない首元の頸動脈部分の防御態勢がなっていない。
トマホークを斜めから振りおろす!
血しぶき。
ポイント9-4に到達。
右折路を見るが、敵はいないようだ。
2個斥候班を先頭に索敵しながら進撃する。
いきなり50mほど先を歩いていた斥候班のマック上等兵が倒れた!
全員がその場で通路の角に身を隠す。
そして、前方から現れたのは配備されていないと思っていた擲弾装甲兵であった!
敵の兵力は2個小隊ほどだ。
擲弾装甲兵は負傷したマック上等兵に目もくれずこっち走ってくる。
しかし、周囲を警戒しているのか来るのが遅い。
敵はこっちに気づいていない可能性が高い。
だったら、先制攻撃をかける以外に有効策はない。
と判断した私は目の前の通路の角にいるジェフリーズ軍曹にハンドサインでフラッシュパンの投擲を命じた。
ジェフリーズ軍曹からOKのサインを見るなり自分も投擲し、軍曹にも投擲を命じた。
爆発!
キーンという耳鳴りの中、次の瞬間に私たちはトマホークを持ち耳と目をふさいでいる擲弾装甲兵の無防備な背中に一撃を加えた。
それから5分間の苛烈な白兵戦のち、擲弾装甲兵2個小隊を全滅させた。
負傷したマック上等兵を拾い上げ、同行していた連隊衛生分遣隊のメイリン衛生伍長に任せ、後送したのち、
敵の側背攻撃を実行に移すためにポイント4-7に到達した。
第2、機関銃小隊へ現状確認を行ったが、
機関銃小隊が思った以上に守備隊の防御陣地に阻まれているようだ。
それにより、同時側面攻撃が不可能になった現在全力で敵の側面を第1小隊のみでたたき、その後第2小隊への急速前進を命じ第2小隊との合流後機関銃小隊の前進を阻む防御陣地の側背をつくことにした。
分隊に分けての攻撃も考えたが、現在戦力分散をするのは逆襲の可能性があるのでやめておいた。
電子タブレットで基地の地図を見ながら小隊に前進を命じ敵の側背に出た。
目の前には猛然と第2小隊と戦う敵の守備兵がいた。
第2分隊のマックス軍曹に援護射撃を命じ第1・3分隊とともに白兵戦に移行した。
もはや目の前の敵は白兵戦訓練用ロボット以外の何物でもなかった。
正確すぎる援護射撃で白兵戦という白兵戦ではなかったが、数十秒の白兵戦ののちに第2小隊と合流し機関銃小隊を阻む敵守備隊に接近した。
どうやら、この部隊は擲弾装甲兵集団のようだ。
一般の守備歩兵じゃない。
第2小隊に現状維持を命じ、敵部隊の後背をつくことに成功したものの敵の指揮官は優秀で我々の側背攻撃を見抜き防御機関銃陣地を各通路の角に設置していた。
当然ながら我々に対して猛然と攻撃と攻撃を仕掛けてきた。
フラッシュパン、手榴弾投擲にはいくらなんでも距離が遠すぎた。
こういったときは、
発煙手榴弾で敵の目をごまかす。発煙手榴弾の投擲を命じた。そして第1分隊にサーマル視覚装置の装着を命じた。
シュポン!
という音からいきなりあたりは白煙に包まれた。
私はトマホークをもって、敵に急接近した。敵はあたりかまわず撃ちまくっているが、パニック状態なのか匍匐前進すればあたるような低位置への射撃はしてこなかった。
匍匐前進し、敵の機関銃陣地に手榴弾を投擲!
手榴弾爆発の熱源で、サーマル視覚装置の画面が真っ白になる。
すぐさま、サーマル視覚装置を跳ね上げ、擲弾装甲兵の死体を乗り越えライフルを打とうとした2名の擲弾装甲兵の間合いに飛びむ。
トマホークでがら空きの胴に切り込む。
第2・3分隊に周囲の掃討を命じ、第1分隊を率いて前方のわが機関銃小隊を攻撃する擲弾装甲兵の無防備な背中に一撃を食らわす。
そこから、擲弾装甲兵1個中隊の増援が奥から来たのだ!
でも、ただ私はこのようにしか思っていなかったし、周囲にいた元ローゼンリッターの隊員にこう言った
「やってやろうじゃないか。ローゼンリッターの意地を見せてやる!
一人も生きて返すな!」
自分はローゼンリッターのなり損ないであったが、こう思わなきゃやってられなかったし、出撃前のあのくそ将官からの言葉が最悪であった。
今思い出すだけでもはきそうになるが話しておこう。
私たちは出撃前の最終演習でハイネセン首都防衛軍で名高い「第55白兵戦教導連隊」を相手に白兵戦演習を行った。
もちろん、結果はこっちの圧勝。
こっちの損害は戦死判定2、負傷判定5であったが向こうは戦死判定198名、負傷判定350名で参加した1個戦闘大隊戦闘団はほぼ全滅した。
これを評価したハイネセン首都防衛軍副司令官のトーマス・パウエル中将は
「たまたま、教導連隊が不調だっただけで
ローゼンリッターの寄せ集めのキャベツ集団に何ができる?
ローゼンリッターは幾分信用できん。何せ、連隊長が帝国にあんな理由で寝返るくらいの弱小集団なんだからな。
いくら武勲があってもそれは奴らの何人もの死体の上に成り立っているただの人海戦連隊だ」
などなど、言いたい放題言まくってローゼンリッター隊員で編成されたわが部隊のことをけなしにけなしまくった。
これに怒り心頭になったリンツ中尉は降下開始前にローゼンリッターたちを集めて
「今回の攻略戦の手土産は敵将の首ではなくパウエル中将にささげる帝国兵士の血で塗られたバラ束だ。」
という冗談か、本気かわからないような訓示を一言述べて出撃した。
ローゼンリッターのなり損ないとはいえ、自分はローゼンリッター隊員だ。という意識を持ち、この戦いで自己の武勲ではなく部隊としての武勲を上げようと思った。
ローゼンリッター復興のために。
全隊員が同じ気持ちで戦っていたのだ。
負けるわけがないし、負ける気もしない。
そんなことを思いながら、トマホークを振り下ろす!
ガキーン!
トマホークがぶつかる。
返し面で擲弾装甲兵の脳天を突き破る。
7人目。
擲弾装甲兵たちは後ずさりし始めた。
「さあ、さあ ローゼンリッターにかかってくるやつはいないのか!?
こなかったら俺たちが相手してやるぜ!」
と言って、ジェフリーズ軍曹が切り込みに行く。
周囲の隊員たちも切りかかる。
我々の連隊は本当は軍紀違反ものではあるが、左腕の部隊認識表示のパッチをローゼンリッターのパッチにしている。
ローゼンリッターじゃない隊員たちもローゼンリッターに敬意をこめてそれにしている。
・・・・・・
10分後、擲弾装甲兵2個小隊は全滅した。
リンツ中尉に
「こちら、シュナイダー少尉。
担当地区の制圧を完了。
目標地点に向かう。
どうぞ。」
中尉―「こちらリンツ中尉。
問題発生だ。
敵のR-45山岳地帯駐屯の帝国軍第77山岳猟兵装甲連隊1個大隊分の装甲擲弾兵と約70両の装甲車がこの基地に向かってきている。
至急、対戦車ミサイル陣地の構築かこの基地の対地迎撃火器管制室の制圧を行い敵部隊を迎撃してくれ。
どうぞ。」
私―「リンツ中尉。
了解しましたが、対地および対空迎撃火器管制室はすでにわが第3小隊が制圧済みです。
敵部隊の迎撃座標をくだされば、第3小隊に迎撃させますが。
どうぞ。」
リンツ中尉―「了解した。
座標をいう。敵の迎撃ポイントはR-33,58,12,90ここに弾幕射撃を。そして、R-88,11,22,77には対戦車ミサイル迎撃自動管制装置の照準を行うように言ってくれ。
では、貴中隊の第3小隊以外は目標地点へ急行せよ
どうぞ。」
私―「了解しました。
通信終わり。」
第3小隊にすぐさまリンツ中尉の言っていた座標に照準させた。
それと同時に、第2小隊を先頭に目標地点:敵基地総司令部に急行した。
その途中、かなりの守備歩兵部隊にぶち当たったが我々の敵ではなかった。
走ること、10分。
敵基地総司令部に到達した。
すでに、リンツ中尉達の部隊も到達していた。
工兵小隊が扉の爆破準備をしている。
再三の降伏勧告に応じず、基地司令官マーテル大佐が立てこもっているそうだ。
第2大隊第1中隊長デアデッケン中尉にそっちはどうだったか、と聞いてみると
思いのほか、擲弾装甲兵はいなくて歩兵ばっかりだったという。思いのほか楽だったそうだ。
笑いながらもかえり血で真っ赤に染まった装甲服を着た大男の彼を見ると、戦慣れした屈指の白兵戦士であることが一目瞭然であった。
工兵小隊による爆破準備作業が終わったようだ。
総司令部にある3つの扉すべてを吹き飛ばし、当時室内制圧を行うという作戦をとることになった。
わが第3中隊は一番端っこの扉からの突入を任された。
工兵小隊のレンツ・フォン・デュエット少尉が
「爆破用意!
爆破5秒前
5.4.3.・・・」
爆破でフラッシュパン投擲、突入だ
「2.1.爆破!!」
バコーン!!!!
すさまじい衝撃波とともに防弾鋼鉄製の扉が吹き飛んだ。
フラッシュパン投擲
フラッシュパンがはじけた!
リンツ中尉の
「突入!」
で3個中隊全隊員がだだっ広い総司令部に突入した。
そこには、一人の帝国軍人が頭から血を流して倒れていた。
デアデッケン中尉がその死体の身元確認をしようとすると
デュエット少尉が
「待ってください!
中尉!動かないでください!」
中尉の動きが止まる。
そして少尉がその死体の下から、ゆっくりと安全ピンの解除された手榴弾を取り出した。
少尉は
「帝国軍の常とう手段です。
死体の下に手榴弾を置くんです。
しかもこの手の類の破壊力のとてつもないやつをね。」
と言って、手榴弾の表示を見ると開いた口がもはやふさがらないどころの騒ぎではなかった。
そこには帝国語で
「ゼッフル粒子混合手榴弾」
と書いてあった。
この手榴弾1個で軽く10人はあの世行きにできる代物だ。
少尉はそれに転がっていた安全ピンを差し込むなり、工兵小隊の爆破物回収ボックスにそれを突っ込んだ。
ちなみにその死体は、基地司令官マーテル大佐であった。
自決したようだ。
リンツ中尉は
「この勇敢なる司令官に敬礼!」
といって、遺体に向かって敬礼をした。
その場にいた全員が、敬礼をした。
ちなみにこのマーテル大佐であるが、私の亡父エルビィン・フォン・シュナイダー帝国軍准将の元部下で、大佐がまだ少佐であった時に父の参謀将校を務めていたそうだ。
父が反逆の濡れ衣をかけられたのにたいして公然と抗議をしたためこの辺境基地に飛ばされたそうである。
もし、生存していたら公私混合であることは十分承知の上で父の話を聞いてみたかったと思った。
あとは、基地内の掃討作戦だけであったのでそれは第3次降下部隊の諸部隊に任せた。
敵の第77山岳猟兵装甲連隊の部隊は基地に到達する手前で、
基地上空を警戒飛行中の第2艦隊第191護衛空母群の空母「ケンタウルス」の第32空戦飛行隊と
第15空母打撃群の空母「アムリッツア」の第11空戦飛行隊のスパルタニアンに発見されその大半が
対地攻撃により撃滅され撃ち漏らした12両の装甲車と約2個小隊ほどの残存歩兵をわが中隊の第3小隊が撃滅したそうである。
こうして私の指揮官としての初陣であるβⅢ攻略戦はあっけなく幕を閉じてしまった。
わが中隊の戦死者は
機関銃小隊のカール・ブッシュ曹長(小隊先任曹長)、ケン・クライスト1等兵、第3小隊のアメリア・パックス兵長、第2小隊のマックス・カールセン伍長、ウォルフ・リューカス兵長、そして第1小隊のマック・コーヴィ上等兵の6名が戦死した。
マックス伍長とウォルフ兵長は敵基地への侵入で小型強襲機が撃墜され戦死。
カール曹長は敵から投擲された手榴弾から小隊を守るためにそれに覆いかぶさり戦死。
ケン1等兵とアメリア兵長は白兵戦で戦死。
マック上等兵は負傷がもとで後送中に大量出血で戦死。
負傷者は腕を失うなどの重傷の兵士が4名、中・軽傷は11名であった。
中隊の損失などという数を報告書作成のためにはじき出さなくてはいけなくなり、
泣きながら以下のような戦死報告書を作成した。
「第3中隊 損失数
戦死 6名 うち1名は負傷がもとで戦死
負傷者 15名 うち重傷者4名
・・・・」
といったものであった。
結局は政治家からすれば、作戦の結果なんて敵の基地を制圧したか、どれくらいの施設に損害を与えたのかとか、敵兵を殺傷したり捕虜にしたりした人数、敵の艦艇、航空機、装甲車の破壊・撃破件数なんて結局は「数」なんだ。
戦死したマック上等兵はまだたったの16歳であったし、カール曹長はあと2年で定年退役だったことなど誰がそんなことを知るだろうか。
私は父を殺し、家族を崩壊させた帝国そしてその帝国主義は恨んでいるが帝国人を恨んだことはない。
私は、民主主義のためとかそんなために戦っているのではない。
愛する人を守るために敵を殺し敵を撃破している。
しかし、それとは裏腹に結果として「自由惑星同盟」という巨大な「民主主義」を守っているのかもしれない。
なんていうことをぼやぼや考えているうちに、報告書は書き終わった。
そして、ハイネセン到着後に2つの朗報を知ることとなる。
1つめは
私の中尉への昇進及び、今回の攻略戦の戦功により第2級国防殊勲章と第1級戦功勲章とβⅢ攻略戦従軍章の3つの勲章が授与された。
そして、私にとって最も重要な朗報がもたらされた。
2つ目は
「ローゼンリッター連隊 再興す」
今回の元連隊メンバーの活躍により統合作戦本部がローゼンリッター連隊の戦力回復を打診、これを決定したのだ。
これは、ローゼンリッターたちを歓喜させるには十分すぎるほどであった。
しかし、連隊の再編には当分時間がかかるとされ実現には少々待つ必要があった。
それでも、まさにローゼンリッターの意地と根気を同盟軍全体に知らしめた瞬間だった。
宇宙歴791年 10月 私は「薔薇の騎士」として駆け出したばかりである。
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