妖精の義兄妹の絆
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
王都へ
前書き
タクヤ視点で物語が進みます。
フードの男が去ってから数分後に食事が持ってこられた。
手錠をしては食べにくいだろうと言って兵士の一人が手錠を外してくれた。
もちろんタクヤはスキを突こうと動くが魔法の前にあっさり阻止された。
鉄格子が閉められタクヤ一人となるとすぐに空腹だった事を思い出し食事に手をつける。
何故手錠を外したのか考えたが、
アースランドの魔導士はエドラスでは魔法を使えない事を知っているのだろうという結論に至った。
「ふぅ…。地味に美味ェ…。」
食べ終わればたちまち暇になった。
おそらくこの飛行船は王都へ向かっているからスキを見てウェンディたちと合流すればいいかと思い、
タクヤはしばらく眠る事とした。
「おい、起きろ。」
「んあ?」
タクヤは目を覚ますと腕には再び手錠をかけられていた。
「これより城の牢屋に連行する。黙ってついてこい。」
という事は王都に到着したのか。タクヤは素直に立ち上がり、牢屋を出た。
すると、先程のフードの男が現れた。
「よう。よく眠れたか?」
「こんな所で熟睡できるわけないだろーが。」
本当は思いっきり熟睡していたがこの際そんな事は気にしていられない。
「とりあえず王都に着いたから降りようぜ。」
まるで友達感覚でタクヤと一緒に歩き出した。
外に出ると一瞬目をつぶりたくなるぐらい外が明るかった。
城の外壁から見える城下町は昼間にもかかわらずイルミネーションが色鮮やかに灯されている。
エドラスの魔力をこの王都に集中させているからだろうか街の人たちは笑顔に歩いている。
「オイオイ。エドラスは魔法がなくなってきて困ってんじゃねぇのかよ?
電気だって魔水晶で動いてんだろ?ずいぶん無駄遣いじゃねぇか。」
タクヤは皮肉たっぷりにフードの男に言ってやった。
エドルーシィの話によると火を使うにも魔水晶が必要で、
故にシッカやルーエンの街ではほとんど使われていなかった。
「まぁそう噛み付くなって。おまえ一応捕縛されてんの理解してる?」
「ぐ…。」
「それに後でたっぷり魔力を貰うからな。関係ねぇよ。」
「そうだ…!!みんなは、マグノリアのみんなはどこだ!!」
タクヤはフードの男に食いかかりそうになるとたちまち王国軍に止まられる。
「マグノリア?あぁ…アースランドの街の事か。それならあそこだ。」
フードの男は人差し指を上にやる。それを見てタクヤも上に顔を向けた。
「!!!」
上空には巨大な魔水晶が浮いていた。あれがマグノリアの人たちなのだ。
「待ってろよ…みんな。すぐに元に戻してやるからな。…ん?」
巨大魔水晶をよく見てみると一部分だけ切り取られた後があった。
「オイ、あそこ…何で切り取ってんだ。」
「今日、広場でファウスト王が演説をする事になっている。
切り取ったのはデモンストレーションに使うためだ。」
「!!…テメーら人の命をなんだと思ってる!!命は物じゃねぇんだぞ!!!」
「今は魔水晶だ。俺たちエドラス人のためのな。」
フードの男が不敵に笑う事でタクヤの怒りが上がっていく。
「テメーら…!!!」
「無駄話はここまでだ。すぐに牢屋に向かうぞ。」
「さぁ、ここだ。」
ドン
「うわっ。」
タクヤは牢屋の中に入れられる。フードの男は鍵を閉めその場を後にしようとする。
「じゃあな。また会おうぜ。」
「ここから出せぇ!!!」
フードの男は聞く耳を持たずその場を去った。
「くそっ…!!こんな所で油売ってる訳にはいかねーってのに!!」
その頃、ナツたちはエドナツの助けもあり無事王都に辿りついていた。
そして、街を散策していると広場にある巨大魔水晶の一部を見つけた。
そこではエドラス国王のファウストが演説をしている。
ファウストは高らかに笑い、エドラスの国民も歓喜に溢れていた。
唯一その人混みの中で怒りに震えていた者たちがいた事をファウストは知らない。
ナツたちは気を落ち着かせるため宿の一部屋を借りて待機していた。
だが、あんな光景を見てしまっては活力など沸かない。あるのは怒りや不安だった。
シャルルは紙に何かを書いているが誰も詮索しなかった。
日は次第に傾き夜が訪れようとしていた。
「やっぱりガマンできねー!!!オレァ城に乗り込むぞーっ!!!!」
ついにしびれを切らしたナツが単独で城に乗り込もうとする。
だが、それをシャルルが止めた。
「もう少し待ってちょうだい。」
「何でだよ。」
「ちゃんと作戦を立てなきゃみんなを元に戻せないわよ。」
ナツは仕方なくシャルルの言う事を聞く。
「みんな…あんな魔水晶にされちゃって…。どうやって元に戻せばいいんだろう。
それにお兄ちゃんも助けないと。」
「…それは王に直接聞くしかないわね。」
「教えてくれる訳ないよ。」
「殴ってやればいいんだ!!」
「!」
すると、ルーシィが何かを閃いたようでソファーから立ち上がった。
「王様はみんなを元に戻す方法を知ってるの?」
「おそらく知っていると思います。」
「いけるかもしれない。もしも、王様に近づく事ができたら…。」
ルーシィの言葉に全員が驚いた。
「本当か!?」
「ど、どういう事ですか?」
「ジェミニよ。ジェミニはふれた人に変身できるんだけど、その間その人の考えてる事までわかるの。
つまり、王様に変身できればみんなを助ける方法やタクヤが幽閉されてる所だってわかるかも。」
「「おお!!!」」
ただし、ルーシィはここで問題点がいくつかある事を説明した。
「一つは変身できるのは5分間だけ。変身できる人のストックは二人まで。
そして、どうやって王様に近づくか…だね。」
「流石に護衛が多すぎますよ。」
王様と言うだけあって護衛の数も今までとは比べ物にならないぐらい多い事は明らかだ。
「王に近づく方法はあるわ。」
ビラッ
シャルルが見せたのは先程まで書いていた城周辺の見取り図だった。
「「!!!」」
「元々は城から外への脱出用通路だったんだけど町外れの坑道から城の地下につながってるハズ。」
「すごい!!何で知ってるの!?」
ウェンディはシャルルに訪ねた。
「情報よ。断片的に浮かんでくるの。
エドラスに来てから少しずつ地理の情報が追加されるようになったわ。」
「オイラはぜんぜんだよ。」
「私もです…。」
どうやらハッピーとエマには情報は入ってきてないらしい。
「とにかくそこから城に潜入できれば何とかなるかも。」
「おし!!みんなを元に戻してタクヤも助けるぞ!!」
「出発は夜よ。今は少しでも休みましょ。」
一方その頃、王宮の牢屋では…
「さて…どうやって抜け出したものか。」
タクヤが今いる牢屋は簡易に作られたものらしく壁に穴が空いていた。
そこから抜け出そうと思ったがここは城の中にある塔の最上階。飛び降りるには高すぎる。
別の出口を探すが後は鍵がかかった鉄製の扉だけだった。
そんな時だった。
カチャ
「鍵があいた?」
鍵が開けられた扉が静かに開かれる。そこには数人の兵士と一人の老人がいた。
「ぐしゅぐしゅぐしゅ、さぁ出なさい。」
「どこに連れていく気だ。」
「あなたは捕虜なのですから黙ってついてくればいいのでしゅ。」
タクヤはしばらく老人を見つめるが手錠をかけられ魔法が使えない状況では分が悪い。
仕方なくタクヤは老人について行くことにした。
しばらく歩くと大きな門の前で止まった。
老人が扉を開けるとそこには岩が3つ並んだだけの質素な部屋だった。
「さぁ、あちらへ…。」
「…。」
タクヤは一つの岩の前に案内された。御丁寧に警戒体制のまま岩の手錠をかけられる。
「で、今から何すんだ?拷問とかされてもオレはこの世界の人間じゃねぇから意味無いぞ。」
「いえいえ…。私たちの目的はあなたでしゅよ。正確にはあなたたちドラゴンの魔導士ですが。」
「な、なんだと…!!」
「無駄話はこれくらいにして…始めましょうか。」
すると老人は部屋に置かれた機械の電源を起こした。
「まず手始めにあなたの魔力を吸収させてもらいますよ。」
グゥゥゥゥン
「!!」
機械はモーターを回転させ起動した。発射口から紫色の光線を浴びせられる。
「ぐぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!!!」
「おぉ!!これは素晴らしいなんという魔力だ。」
さらに質力を上げる。
グゥゥゥゥン
「がぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁっ。」
タクヤは痛みに耐え切れず声を荒げる。
(「な、なんだ…!!魔力が吸われ…!!!」)
タクヤは機械についているパラメータらしきものを見つける。
おそらくそれが魔力をどれだけ吸収したか計るものだろう。
まだそれは三割にも満たしていなかった。
「まだまだ質力を上げましゅよ。」
グゥゥゥゥン
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!!!!」
部屋中にタクヤの叫び声が響いた。
「お兄ちゃん?」
「どうしたんですか?ウェンディ。」
ウェンディたちは今町外れの坑道にやってきている。
シャルルの地図によればここから王宮内部に潜る込めるはずだ。
「ううん。なんでもない…。」
「それにしても松明持って歩くのって変な気分だな。」
「本当なら簡単に火出せるもんね。」
ナツたちは坑道に入る前近くにあった倉庫から松明を見つけ明かりがわりにしている。
「ここよ。」
シャルルがみんなに静止を促した。
「あれ?でもここ…行きどまりですよ。」
エマの言う通りそこは岩でがっちり塞がっている。
「ルーシィお願い。」
「…なるほど。分かったわ。」
ルーシィはシャルルの言った意味がわかり金牛宮のタウロスを召喚する。
タウロスは塞がった壁に正拳突きを決めると見事に壁は粉砕された。
さらにその先には奥へと繋がる道が表れた。
「すごいねシャルル。」
「本当に通路だわ。」
「ちゃんと城の地下につながってればいいけど。」
しばらく歩いている時、ナツがハッピーとエマが落ち込んでいるのがわかった。
「どうしたハッピー、エマ。」
「何でオイラたちには“情報”ってのが無いんだろう?
同じエドラスのネコで同じ“何か”の使命を与えられてアースランドに送られたんでしょ。」
「やっぱり不安になります…。」
「その話はしない約束でしょ?」
シャルルが歩を止めハッピーとエマに言った。
「あい。」
「そうですが。」
それでも不安は拭い捨てきれない。どんな使命を与えられたのか、どんな目的で使命を与えられたのか、
頭の中にはそう言った不安が渦巻いている。
「私にもわからないわ。アンタたちみたいなケースは。」
「「…。」」
重たい空気が漂っているのを感じたのかルーシィは先に進むよう促した。
進む度に坑道は老朽化が目に付く。もうずいぶんと使われていないのだろう。
「!」
ナツが坑道の壁に目をやった。
「どうしたのナツ!?なんかあった?」
「ルーシィ!!ちょっとこれ持ってろ。」
ナツはそう言って松明をルーシィに預けた。
「な、何よ何よぉ〜。」
「動くなよ。」
ナツは壁に近づき…
「ウホ…ウホホ。ここはオレ様のナワバリだぁ。」
影で遊び出した。
「遊んでる場合か!!」
ガポッ
「ぼごっ。」
当然怒ったルーシィはナツの口に松明を突っ込む。
「こっちよ。」
さらに奥に進み、やがて広い場所に出た。
「どうやらここから城の地下へとつながってそうね。」
「どういう原理かわからないけどシャルルがいて助かったわ。」
「私にもわからないわよ。次々と情報が浮かんでくるの。」
「ありがとうシャルル。」
「ありがとうございます。」
ハッピーとエマはシャルルに礼を言った。
「礼を言うならみんなを助けてからにして。ここからが大変なのよ。
気づかれず王の寝室へ行き、気づかれずに脱出するの。兵隊に見つかったら今の私たちに勝ち目はない。」
数で勝っている王国軍に対し、こちらはわずか6人。しかま魔法をまともに使えるのはルーシィだけだ。
「いざって時はあたしの魔法があるんだけどねー。」
「あまり期待できねーけどな。」
ナツはこれまでの経験上ルーシィが自信あり気な時は大抵失敗する。
「何言ってんのよ。この作戦だってあたしのジェミニあってなのよ。」
「はいはい。」
「行きましょ。」
「あい。」
ナツたちが歩き出したその時だった。
びゅる
「ひっ。」
ぎゅむっ
ルーシィの体に粘着質のゼリーがまとわりついた。
「ルーシィ!!」
「な、何コレ…。」
ギギギ
ルーシィの力ではこのゼリーは引き剥がせなかった。
「きゃあ。」
ぎゅむっ
次にウェンディがやられる。
「ウェンディ!!」
びゅっ
「ふぉぼ。」
ズチャ
ナツも捕まりハッピー、シャルル、エマ以外全員やられた。
「う、動けない…。」
ザッザッザッ
すると、奥の方から足跡が聞こえてきた。一人や二人ではなく多勢の足音だ。
「兵隊!!!?」
よく見てみるとゼリーを出していたのは王国兵であり、ナツたちを囲む形で展開している。
「何でこんな坑道にこれだけの…。」
「どうして見つかったんだ…。」
「シャルル…。」
エマはシャルルに聞こうとしたが顔から察するにシャルルもこれは想定外の出来事らしい。
「こいつらがアースランドの魔導士か。」
王国兵をかき分けて一人の女性が表れた。
「本当にそっくりだな。ナツ・ドラギオン、ルーシィ・アシュレイ…とは本当に別人なのか?」
そこに現れたのは王国軍第二魔戦部隊隊長エルザ・ナイトウォーカーだった。
「エルザ!!!」
「~〜~。」
エルザの登場に困惑するナツたち。ナイトウォーカーは静かに連行の指示を出した。
「〜~〜ー。」
「エルザ!!話を聞いて!!!ねぇ。」
「シャルル!!!エマ!!!」
「ウェンディ!!」
シャルルがウェンディの元に向かおうとするのをナイトウォーカーが阻止する。
「そこをどいてください!!」
「エクシード。」
「「え!?」」
すると王国兵たちは次々と地に足をつけていく。最後にナイトウォーカーもそうした。
「おかえりなさいませ、エクシード。」
「エクシード?」
「ハッピー、シャルル、エマ…あなたたち一体…。」
全員ハッピーたちにひれ伏している光景を見て驚くだけだった。
「侵入者の連行ご苦労様でした。」
(「「シャルル?」」)
「エクシードをお眠りさせてやれ。母国へ帰還させる。」
「はっ。」
王国兵の一人がハッピーたちに眠り粉をかけた。
「ちょっと!!何すん…。」
「離してく…。」
「シャルル!!エマ!!…ナツ…。」
バタッ
ハッピーたちは眠らされ別の場所へ移動する。
「〜~〜~。」
「ハッピー!!!シャルル!!!エマ!!!」
「シャルルたちをどこへ連れていくんですか!!!」
すると、ナイトウォーカーは静かにウェンディに言った。
「言っただろう。母国へ帰還させると。それにしてもよく似てる。
あの男もそうだったがまさか瓜二つとは…。」
「あの男…ってまさかタクヤの事!!?」
「ああ。まさか、連隊長とそっくりだったとは思わなかったが。」
エルザは鼻で笑いながらナツたちを見る。
「連隊長って…、まさか…!!」
「タクヤ•コキュートス連隊長。我ら魔戦部隊隊長らの長だ。」
「そんな…。」
「タクヤまで私たちの敵だなんて…。」
「それにアースランドのタクヤには今働いてもらっている。」
ナイトウォーカーは後の事をまかせてその場を後にした。
「お兄ちゃん…無事でいて…!!」
ウェンディはただそう願うことしかできなかった。
「…ウェンディ…。」
タクヤは項垂れながら口にした。
ページ上へ戻る