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K's-戦姫に添う3人の戦士-

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2期/ヨハン編
  K10 Dancing in the Midnight

 ――6年前に一度、機械装置を介して起動したアルビノ・ネフィリム。その代償はヨハンたちにとってあまりに大きかった。

 マリアの妹、セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。当時のF.I.S.でただ二人の適合者の内一人。

 セレナはアルビノ・ネフィリムの暴走に立ち会っても怖じず恐れず、それどころか、自ら絶唱を使うと宣言した。
 姉であるマリアは止めた。だがセレナは笑って、譲らなかった。


 “その時は、マリア姉さんとヨハンが何とかしてくれる”


 あの時、ヨハンはセレナから目を反らしてしまった。あの時の自分は本当に臆病者で、セレナに後を託されても受け止めきれなかった。

 争いがキライだと言うと、優しい子、とナスターシャは褒めてくれたが、幼いヨハンにとってそれらは「弱虫」の代替語でしかなかった。

 けれど、セレナはヨハンのそんな意気地なさまで受け容れた上で、ヨハンの手を取って言った。


 “ギアを纏う力は、あなたが望んだものじゃないかもしれない。けど、わたしはこの力でみんなを守りたいと望んだよ。あなたも同じ気持ちだって、わたしは信じてる”


 守りたいものならその時も確かにあった。月読調と暁切歌。レセプターチルドレンからの適合者輩出のため、別れ別れになった彼女たち。ずっと3人でいると約束したのに破ってしまった少女たち。

 セレナは大人びた笑みを浮かべてから、ネフィリムに挑みに行った。ヨハンの手を永遠にすり抜けて――逝った。

(絶唱。命を燃やす滅びの唄。それを奏でてなお、セレナは胸が痛むくらいに美しかった。美しかったんだ)

 ヨハンは安全な場所で、赤く落涙するセレナに怯え震えた。セレナはそうまでしてネフィリムを封じ、ヨハンたちを救ったのに。今もって情けない。コンプレックスの根とも言える。


 “マリア姉さんとマムをお願いね、ヨハン”


 それがヨハン・K・オスティナの覚えているセレナの最期の言葉。
 託されたものの重さも想いも今は理解しているし、受け止められると自負している。

(セレナはこんな僕を信じてくれた。だから僕は、調や切歌と一緒に、マリアを命懸けで守り通す。彼女の中の”フィーネ”こそが、世界の希望だから)

 誓いを新たに。
 ヨハンは武器を握るため、そのメロディを口にした。






 決闘にはお誂え向きのカ・ディンギル跡地に翼たちが着いた時、出迎えた人物はドクター・ウェルただ一人だった。

 ウェルはソロモンの杖を使ってノイズを呼び出し、月の落下という衝撃的な事実を告げた。

(対処法のない極大災厄。各国がひた隠しにするのは、まさか上流階級だけが助かろうという保身のため!?)

 第一陣のノイズを掃討し終えた。だが、ウェルは次のノイズを呼び出すことはしなかった。

「あなた方のお相手は『彼』にしていただきます」

 ウェルの言葉を待っていたかのように、岩で死角になっていた位置から一つの影が躍り出た。

「あいつ今朝のッ!」

 クリスが一番に影の正体を看破した。F.I.S.側の4人目の装者。

 すでに彼のギアはエレキギターとドラムの音で伴奏を鳴らし、彼の歌を待っている。
 クリスが砲弾を斉射した。彼が空中にいる内に落とそうという考えだろう。

「――『他人に食い物にされた人生が 本当に蛇の食い物(エサ)で終わった』 」

 まるで歩くように自然に、彼の歌は始まった。低音域のラップがおどろおどろしい。

 彼はバスタードソードを左から右へ一閃した。砲弾が空中で誘爆し、夜空を一瞬明るくする。

「 『小さな君はケージの中 可愛い顔をしかめた』 」

 彼は落下の勢いも乗せてまずクリスに斬りかかった。クリスが避ける。
 翼は入れ替わりに彼と切り結んだ。相手の得物も剣。ならば翼がぶつかるのが相応だ。

 圧し合って跳びずさると、彼は白金の大剣を居合のように左脇に隠した。

《波形パターン該当なし。あの少女たちと同様、二課のデータにない聖遺物のシンフォギアです》

 友里の解析に返事をする余裕はない。翼もブレードを正眼に構え直し、彼を観察する。
 ――おそらくはどの装者よりも軽装であろうギアの、モノクロのデザイン。バイザーで隠れた目。闇に溶けそうに思えて闇に浮いているのは、彼が右手に持つ白金のバスタードソードゆえか。

「 『でも、気づかない? 君の腹は満杯じゃないか』 『蛇の大・大・大好きな味』ッッ!!」

 白金の刀身と銀の刃がぶつかる。衝撃が、翼の腕に重く伝わった。

「 『消耗、啓蒙、呑み込もう こいつはちょっと臭いしマズイが』ッ! 」

 互いに刀身を折らんばかりに刀身をぶつけ合う。剣はぶつかるたびに火花を散らした。
 三合。十合。二十合を超えた時だった。

「 『これでも舌は肥えてるほうでね』……」
「くぅあ!」

 押し負けた。胴体が空いた。

「翼さん!」
「 『悪夢みたいに』……」

 響だ。彼女は翼と彼の間に割り込んで拳を突き出した。
 翼を斬るために上段に振り被った彼の胴体もまたガラ空きだ。ここで響の撃槍によるパンチを腹に食らえば一溜りもあるまい。

「 『素敵なメインディッシュ』 !!」

 彼はバスタードソードを振り下ろさなかった。
 代わりに、刀身の橙の模様が光り、響と翼を金光が焼いた。





 ナスターシャたちはエアキャリアの中から外の戦いを見守っていた。

「出たデス! ヨハンのアームドギアっ」

 切歌が歓声を上げた。

「ヨハンの炯剣のギアは、光と火を宿した剣。あのアームドギアは剣であると同時に火炎放射器にも閃光弾にもなりうる。初見の者は、ただの大剣がヨハンのアームドギアだと騙される」
「――さすが、わたしたちのヨハン」
「デスっ!」

 無邪気に喜ぶ調と切歌。

(そして何より――ヨハンは血に汚れる覚悟をしている。調と切歌を幸せにするために)

 モニターに、雪音クリスが再びミサイルを彼に向けて放つシーンが映し出される。だがヨハンは、迫った火薬の脅威を剣の炎で誘爆させて防いでいた。

 スピーカーからヨハンの歌声が流れる。


          Ah 人に食われて 蛇に食われて 蛇になる
           見かねた小さな君の指先の血 荊が吸った


 反感と諦観のぶつかり合いを詠うテノール。
 歌の中でしか表に出せない、人を傷つけたくないヨハンの真心。

「……あの子も稀なる才能を持つシンフォギア適合者。セレナには及ばずとも、自らのギアに習熟しています。勝負はありましたね」

 日本側の装者たちを充分に消耗させた上で、ヨハンが跳んで岩の上に下がった。
 そこをウェルが、待っていたと言わんばかりにネフィリムというトドメを投入した。 
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