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スレンダーマン?がダンジョンに潜るのは間違っているだろうか

作者:蟹泰
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第四話

両断、寸断、みじん切り。飛び掛ってくるコボルトを次々と解体してゆく。
本日もククリ刀と日用刃物達の切れ味は良好である。
現在地はダンジョン四階層。やや離れたところから集団で動くコボルトやらゴブリンやらを見つけ、気づかれる前に後方へ瞬間移動、それからの不意打ちという戦法は中々に有効だった。
余裕だ。余裕過ぎる。手数が多いとこんなにも一対多数が楽にこなせるのか。
こんな便利なものがあるなら青春時代に生えて欲しかったものだ。囲まれたときは面倒だったし。

集団の最後の一匹を鉈の錆びに変え、魔石を拾い始める。中々に多い。今日の換金が楽しみだ。
魔石を拾い終わったら手ごろな石に腰掛け一休憩。この戦法の弱点はかなり疲れることだろうか。
振り回すものが増えた分疲れやすいようだ。
もう少し集団を倒したら今日はもう上がるとしよう。無茶をするなとも言われたことだし。

そう考えヤスは腰を上げ再び集団を探し彷徨う。さながら怪物のようなその姿は、冒険者達の中で早くも噂になりつつあった。


──ダンジョンから出るともう日が傾き始めていた。私はそのままギルド本部を目指し歩き始める。ここのところずっと繰り返している動作に、会社員時代を思い出す。
ギルドまでの道のりにおいても、初日のように道が割れることは無くなった。それでもまだ物珍しげに見られることは多いが。
しばらくして白い柱の巨大な建物が見えてくる。いつ見てもこのギルドの佇まいには圧倒される。
その大きな建物の大きな入り口をくぐり、辺りを見回す。この時間はエイナさんかベルさんが割りとよく居て雑談なんぞをするものだが、生憎と今日は二人とも居ないようだ。さっさと換金を済ませるとしよう。

引き出しのような皿に魔石を出す。ここ数日で一番多い量だ。
皿が引っ込むと貨幣が載って戻ってくる。七〇〇〇ヴァリス、今までで一番多い。が、武器やら防具やらの手入れで半分以上は消えてしまう。さすがに日用刃物は正規品の武器よりは耐久性が低いようだ。
安物買いの銭失いとはよく言ったものだ。もうそろそろ買い換えるべきであろう。

思案しながらギルドを後にする。メインストリートはいつものように喧騒に包まれているが、数日前よりやや様子が変わってきていた。何でも怪物祭なるイベントが行われるらしい。字面からはどんな祭りか予想もつかないが市民の浮かれっぷりから見るに一大イベントなのであろう。
祭りは昔から大好きだ。それこそ浮かれすぎて暴走してしまうぐらいに。
見越しに飛び乗り幾つかの祭りで締め出されたのはいい思い出だ。
こちらの祭りはどのような感じなのだろうか、帰ったらヒルコ様に聞いてみるとしよう。

目的が出来るとやや足早になるのは人の性。ヤスは足早にホームへ向かった。



「ヒルコ様、怪物祭ってどんなお祭りなのでしょうか?」

うつ伏せのややこもった声で問う。ダンジョンにもぐった日は夕食の後にステイタスを更新することが当たり前になっていた。

「そうだなぁ・・・・・・一言で言えば憂さ晴らしのサンドバッグかな?」

「なんか物騒な例えですね、それ・・・・・・」

例えと字面がマッチしておぞましいイメージしか浮かばない。

「ほら、冒険者って結構荒くれ者が多いだろう?そうすると必然的に都市の治安は悪くなってしまうんだよ。すると一般市民にはどんどん不満が積もるんだ。」

喋りながらも手は滑らかに動き続ける。このこそばゆさにはいまだ慣れない。

「そうなるとどこかでガス抜きをしなきゃ一般市民が暴動を起こして都市の機能が麻痺してしまうのさ。魔石を効率よく集めたいギルドとしてはそんな事態になると困ってしまうだろう?だから大々的な見世物でごまかそうという考えなんじゃあないかなぁ。」

ヒルコ様は体を起こし紙に更新された情報を書き出す。片足が無いのにその動きは非常に違和感が無い。細い足でそんな芸当が出来るから人と神はやはりどこか違うのだろう。

「さあ、書けたよ。ここのところかなり伸びがいいようだね。」

紙を受け取りサッと見る

ヤス
Lv.1
力:H185→G225 耐久:H160→H190 器用:H185→G205 敏捷:H185→H195 魔力:I0
《魔法》【】
《スキル》【瞬間移動】
     【収束固定】
      ■■■■

たしかに初めてダンジョンにもぐった時ほどではないが順調に伸びている。かなりの量を倒しているからだろう。心なしかがたいもよくなってきている気がする。
紙を目で追うとスキル欄にインクの滲みがある。丁度【収束固定】の下の辺りだ。

「ああ、その滲みは少し手を滑らせてしまってね。気にしなくてもいいよ。」

聞こうとする前に一言。まあ確かにこんな短期間にそうポンポンスキルが発現するわけも無い。

「なかなか成長してるじゃないか。だが無茶はしてくれるなよ?スキルがあっても油断は大敵だからね。」

「大丈夫ですよヒルコ様。少しでも負担を感じたら退くようにしていますので。」

「そうかい。」

流れる沈黙。口数の少ないヒルコ様と二人きりだとわりとよくあることだ。しかし居心地はそう悪くは無い。

「そうだ、怪物祭に行ってみるとしよう。丁度私もその日は暇だからね、息抜きには丁度よさそうだ。」

「それに二人きりでどこかに行くのも楽しそうだしね。」

そう言い笑みを浮かべながらこちらを見てくる。美人と二人きりでお出掛け、そんな経験は生まれて初めてだ。そう考えると顔が上気してくる。

「おや、赤くなってるぞ。中々に初心だなぁ君は。」

「い、いえそ、そんなことは・・・・・・」

そんなこととは何なのだろうか、自分でもテンパって居るのがわかる。女性経験を積まなかったことが悔やまれる。

「も、もう寝ますっ。おやすみなさい!」

いたたまれない。こういうときは逃げるに限る。


スタコラと逃げるヤス、それを見るヒルコの目は優しげだった。
リビングにはヒルコのみが残される。その手には先ほどこっそりと別でメモ書きをした紙が握られていた。

《スキル》【瞬間移動】
     【収束固定】
      【怪異作用】

ヤスに渡した紙、その塗りつぶされた部分にはスキルが一つ入っていたのだ。説明はただ一言、知名度に応じて身体能力が上がるというもののみ。そこで切れていればいいのだが不気味なことに文はまだ続いている様子だった。異彩を放っていたから入れてみたはよいものの続きが読めないなんてものはみたことがない。

「さて、どうしたものか・・・・・・」

薄ら明るいリビングにヒルコの声がぽつりと響いた。



 
 

 
後書き
人物紹介──

ヒルコ
【ヒルコ・ファミリア】の主神。
長身でスレンダーな肢体、黒髪の短髪で中世的な美女である。
片足が無く杖を突いているが動きは非常に滑らかである。 
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