傭兵
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4部分:第四章
第四章
「まあ前払いならいいと言っておく」
「そういうことですね。じゃあ」
「撤収だ。いいな」
「了解です」
彼等はそのまま帰ってしまった。ロレンツォの部隊も同じだ。気付けばその日までの契約のイタリア人傭兵は皆帰ってしまった。それを見て皇帝軍も教皇軍も戦場を離脱するのだった。戦いはとりあえず引き分けという形で終わり後は外交交渉だった。むしろそちらの方が激しい応酬が行われ教皇側が流石と言うべき外交手段を駆使して皇帝を丸め込み多くの利益を得たのであった。しかもこの時にはジュリアーノとロレンツォはこぞって教皇の下におりそれでもかなりの収入を得たのであった。
「いや、これでいい」
「うむ、万事な」
ジュリアーノとロレンツォは今度はローマで楽しく飲んでいた。今回は教皇についていたので必然的にここになったのだ。そうしてそのローマの酒場で楽しくパスタを食べていた。
細長く平べったいパスタだ。そこに野菜やキノコがオリーブの油と共にパスタに混ぜられている。二人はそれを赤ワインと共に楽しんでいるのであった。
「おかげでマッケローニが食べられるようになった」
「そういえばだ」
ここでジュリアーノは二又のフォークをパスタに絡めさせつつロレンツォに尋ねてきた。
「今回の戦闘で何かあったか?」
「いや、別に」
ロレンツォは首を横に振ってジュリアーノに答えた。
「何もないな、特に」
「そうだな。こっちもだ」
ジュリアーノも答えながらパスタを口に入れる。大蒜がその中にありその辛味を楽しみつつ赤ワインを飲む。パスタに絶妙なまでに合っていた。
「いつも通りだ」
「皇帝陛下は今回かなりけちだったそうだな」
「ああ」
憮然とした顔でロレンツォに答えた。
「金がないそうだ」
「何だ、またか」
ロレンツォはそれを聞いて呆れたような声を出した。
「また金がないのか、あの皇帝陛下は」
「今ドイツは大変らしい」
「いつも大変だな、あそこは」
「それで今もだ」
このことをロレンツォに語るのだった。
「今中でかなりゴタゴタしていてな。何とかこっちに兵は出せたが」
「それで終わりってわけか」
「それでだ」
ジュリアーノはさらに話を進めていく。ロレンツォは聞く役に回っている。
「戦争をさっさと終わらせて外交に入ったが」
「どうせバチカンに足元見られたんだろう」
「そもそもバチカンがそのゴタゴタの原因さ」
ジュリアーノはシニカルに笑ってこう述べた。
「そのバチカンがな」
「何だ?司教様が皇帝陛下に文句でも垂れてるのか」
「それだよ」
ジュリアーノは人差し指を立てて指摘するように動かして語った。
「それなんだよ、実は」
「あそこじゃ司祭様が随分お偉いそうだな」
「こっちと同じさ」
ジュリアーノは口の左端を歪めさせていた。
「そこのところはな」
「一緒か」
「司祭様がお供えを独占しようとして皇帝陛下がそれに文句を言われた」
「それでそれが許せなくて一戦」
「しかしお金がない」
ジュリアーノはパスタを飲み込みついでにワインもまた飲んでから面白おかしく語ってみせる。当時の神聖ローマ帝国は領邦国家であったうえに教会の力が強く皇帝の力はさして強いとは言えなかったのだ。ドイツが中央集権的国家になった時期はナチスが政権を握った第三帝国の時だけだ。全体主義国家とはすべからく中央集権国家だからドイツのそうした地域性を消すことができたのだ。
「結局はそれで」
「中と外から教会にしてやられたってわけか」
「そういうことさ。教会は強かった」
ジュリアーノはまた楽しそうに言う。
「そしてわし等に気前よくお金を下さった」
「おいおい、お金ではないぞ」
ロレンツォも笑ってジュリアーノに言う。
「これはお恵みだ」
「お恵みか」
「そう、神が下されたお恵みだ」
心にもないことを平気な顔で言っていた。ロレンツォだけでなくジュリアーノも顔だけは神妙にはしてみせている。あくまで顔だけであるが。
「神の代理人がその使徒の働きに下されたものだからな」
「そうそう、そうだったな」
「そうだ。このパスタも」
まだパスタはある。その量の多さもまた楽しんでいるのだ。
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