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傭兵

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5部分:第五章


第五章

「そうではないか」
「そうだったな。いかんいかん」
「それでだ。今度はどうする?」
「今度か」
「次は何処で戦争だったかな」
 ロレンツォは視線を上にやって少し探る目になっていた。
「この戦いは終わったしな」
「何でもナポリらしいな」
「ナポリか」
「そこにスペイン軍が来ているらしいぞ」
 こうロレンツォに話すのだった。
「海からな」
「海か。トルコもいるのにか」
 当時オスマン=トルコはアジア、アフリカ、ヨーロッパを席巻し地中海も我がものとしようとしていた。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの超大国だった。イスラム教国家である彼等は欧州世界にとっては恐るべき脅威であったのだ。
「それでも来るのか」
「それでもイタリアが欲しいらしいな」
「欲深い話だ」
「それでだ」
 ジュリアーノはさらに言う。
「何かフランスも金がないのに来るようだしな」
「あの連中もか」
「それで教皇様はまずスペインと話をされ」
「うむ」
 ビジネスの話に本格的になってきた。ロレンツォは相変わらずパスタを食べながらであるが真剣な顔になってジュリアーノの話を聞いている。
「それでフランスに対するか」
「ついでに神聖ローマのその皇帝陛下に牽制も要請されるそうだな」
「今さっきまで戦った相手にもな」
「権益を少し譲ってな」
 笑いつつ声を小さくしてみせるジュリアーノだった。
「それでらしい」
「やれやれ。やっと守った権益をか」
「政治とはそういうものだ。それでだ」
 あらためてロレンツォに顔を向けて声をかけてきた。
「今度はどちらにつく?」
「それか」
「まずフランスは金がない」
 第一に問題となるのはこのことだった。
「支払いは悪いぞ」
「そうだな。それに兵も集まりそうにないな」
「スペインは多分教皇様と折り合いをつける」
 外交によってだ。
「しかも神聖ローマはフランスの宿敵。フランスは孤立無援だ」
「今フランスについたら死ぬようなものだな」
「負けるのは確実だな」
 ジュリアーノははっきりと言い切った。
「それはな」
「では止めだ」
 ロレンツォも決断を下した。
「フランスにはつかない」
「ではバチカンだな」
「わしはそうする」
 腕を組んでジュリアーノにはっきりと答えた。
「そっちはどうする?」
「わしも今回は最初からだ」
 ジュリアーノもそれは同じだった。
「今のフランスにつくなんてな。愚の骨頂だぞ」
「そうだな。では今から教皇様の下へ馳せ参じるか」
「ついでにだ」
 ジュリアーノはさらに言う。
「仕事仲間にも声をかけておくか」
「他の連中にもか」
「ああ。いつも通りな」
 楽しそうに笑ってロレンツォに述べる。
「ただ。今回は根回しではなく」
「そちらではないか」
 実はいつも仕事前にはこうした話を同業者の間でしているのだった。互いに戦場で敵味方になった時になあなあで終わらせる為だ。丁度先のジュリアーノとロレンツォの様にだ。
「全員がこっちにつくようにだ」
「イタリア人の団結だな」
 ロレンツォもまた楽しそうに述べる。
「侵略者フランスに対するな」
「そうだ、今度は大義ある戦いだ」
 ジュリアーノもこううそぶく。
「だからだ。お金はたんまりもらうぞ」
「そうだな。そして命を守って」
「楽しくやるとするか」
「よし、ではそろそろ」
 ロレンツォはここで二人のパスタとワインを見る。もうどちらも残り少ない。
「行くとするか」
「うむ」
 最後にこう言い合って席を立った。その時にジュリアーノは先の戦いで教皇軍において敵を討てと言っていた枢機卿に出会った。彼は悪びれずに一礼してこう言うのだった。
「暫く厄介になりますんで」
「頼みますよ」
「ええ、お支払いは」
「神は忠実な者への慈悲は忘れません」
 これが返答だった。全てはビジネスだった。戦いも何もかもが。ルネサンス期の話である。今となっては想像もつかない話であるがこの通りであった。


傭兵   完


                   2008・9・15
 
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