戦国異伝
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第二百十五話 母子の和その一
第二百十五話 母子の和
安土の信長の下に思わぬ者が来た、その者はというと。
「ほう、最上のか」
「あちらからの使者の方が来られています」
明智がこう信長に報をしていた。
「上様にお話があると」
「最上といえば伊達家とな」
「これまで長きに渡ってでしたな」
「争ってきた家じゃった」
このことをだ、信長は言った。
「実に長い間な」
「その伊達家は最早当家に降っていますが」
「ではあれじゃな」
ここで信長は笑ってこう明智に言った。
「その最上家もじゃ」
「では」
「ふむ、わかったな」
「はい、あの家もですjな」
明智は気付いた顔で信長に応えた。
「当家に降るのですな」
「最上義光は奸智に長けておるというが切れ者であることは確か」
信長は最上家の主である彼のこともわかっていた、それで言うのだった。
「だからな」
「はい、ですから」
「伊達家が降ったのならな」
「伊達家の後ろには当家がついたので」
「伊達家が若しもな」
「はい、最上家と揉めれば」
「これまでの様にはいかぬ」
ただ伊達家と争うだけではない、さらに織田家とも争うことになる。天下の殆どを制している織田家とだ。
「だからな」
「それで、ですな」
「自分達も入ればな」
「それで、ですな」
「領地も守れる」
「そして戦をせずに済む」
「悪いことはない」
むしろ降らぬ方が悪い、その場合は伊達と揉めれば織田家との戦になる恐れがかなりあるからである。
「もう伊達と揉めても仕方ないしのう」
「天下も定まろうとしていますし」
「だからじゃ」
「織田家と戦うよりも降って」
「そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「穏やかに過ごすのを選んだわ」
「では」
「会おう」
笑って明智に告げた言葉だった。
「その使者をここへ呼ぶのじゃ」
「では」
こうして信長は最上家の使者と会った、そしてその使者から直接織田家に降りたいとの言葉を受けて笑ってこう言った。
「よい」
「では」
「うむ、義光殿にお伝えせよ」
余裕を持った顔で言うの信長だった。
「この安土で待っておるとな」
「では殿にお伝えします」
「そこで詳しく話しようぞ」
こうして義光の使に贈りものを渡して帰らせてだった、信長は鋭い目の長い口ひげを生やした恰幅のいい男が来た時にこう告げた、その最上義光に。
「領地はそのままとする」
「有り難きお言葉」
義光は信長に平伏して応えた。
「さすれば」
「しかしな」
「はい、戦はですな」
「わしの許可なくは許さぬ」
このことは強く言うのだった。
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