遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~
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ターン28 鉄砲水ともう1つの『真紅』(後)
前書き
もう公式でポスターも張り出されてるし、いまさらネタバレにはならないよね?ということで新レモンの話。あいつ傷だらけなのにこれまでより守備力上がってるのは、敵1人倒すごとに傷が1個増えて1万パワー上がる七人の悪魔超人時代のバッファローマンみたいなことになってるからだと個人的には解釈してます。
前回のあらすじ:元転生者狩り・遊の圧倒的デュエルタクティクスの前になすすべなくライフが削られていく清明。絶体絶命のピンチに表れたのは、なんとターンEXの常連、レッド・デーモンズ使いの富野だった!
「その攻撃、ちょっと待った!手札からバトルフェーダーの効果発動、このターンのバトルフェイズを終わりにして、このカードを特殊召喚する!」
バトルフェーダー 守0
突然現れた、第三のデュエリスト。その男の視線は僕ではなく、遊の方へ注がれていた。
「へぇー。転生者……とはちょっと違うけど、この子を庇うなんてことするんだー。職務違反じゃないのかなー、富野くん?」
「けっ。勘違いすんじゃねえ、こいつを潰すのは俺の仕事だ。なにせユーノの奴には負けっぱなしだからな、ここで器の方に消えられたら勝ち逃げされちまう」
「男のツンデレは誰得だよー?」
「野郎のぶりっ子も誰得だろうが」
遊の相手に慣れているのか、敵意を隠しもせず適当に軽口に返事を返す彼……富野。突然のことにしばらく言葉を失っていたけど、そんなこと言ってる場合じゃないことを思い出した。これが誰なのか、なんでユーノのことを知っているのか。余計に謎は深まったけど、とりあえず今この人は敵じゃない。なら、とことんまで利用するまでだ。
「(だからチャクチャルさん、喧嘩売らないでね)」
微妙に不機嫌そうな気配を感じて、先に釘を刺しておく。いつ死んでも構わないのと自殺志願者は別物なのだよ。するとその心の声が聞こえたかのようなタイミングの良さで、富野がこちらを向く。
『……わかっている。これもマスターのためだからな』
「よお、ユーノんとこの地縛神。話はあらかた知ってるぜ、何やってんだお前ら」
『それはむしろこちらの台詞だがな。なぜここまで来た?』
「何回も言わせんな恥ずかしい。気に食わねえが仕方ねえ、今回ばかりは助けてやんよ」
それだけ言ってまた遊の方に向き直る富野。デュエルディスクを構えなおし、吐き捨てるようにして言葉を放つ。
「つー訳でこのデュエル、俺も参戦させてもらうぜ」
「ふーん、それでー?僕のメリットはなにかな?」
「せっかくだ、GX風に行こうぜ……って言いたいところだがな、俺だって暇じゃねえから多少妥協させてもらうぜ。俺はライフ2000で初期手札3枚、バトルフェーダーを使ったから実質2枚でスタートするから、そのかわりお前も2000ライフ回復と手札3枚ドロー。もしお前が勝てば、俺も闇のデュエルのルールには抗えないからここで消え、お前がまだ生きていやがることを知る奴は誰もいなくなる。これはお前にとっても十分なメリットだと思うぜ?」
へえ、と言いたげな顔で富野を見る遊。数秒ほど思案気にしていたが、やがて口を開いた。
「本当なら不利な賭けはしない主義なんだけどねー、いいよー。君みたいな直情タイプが僕の意表をつけたんだから、それに敬意を表して乗ってあげようかなー」
軽くデュエルディスクを操作し、自身のライフ回復とバトルロイヤルルールへの移行を設定する遊。僕も設定を直し、3人目の乱入者を迎え入れる。
遊 LP3800→5800 手札:2→5
富野 LP2000 手札:2
「さーて、まだ僕のターンだったね。メインフェイズ2にいってー、ターンエンドー」
「次は俺のターンだ!行くぜ、魔法発動モンスターゲート!自分のモンスターを1体リリースして、デッキから通常召喚可能なモンスターが出るまでカードをめくる。そして出たモンスターを特殊召喚して、残りのカードを墓地へ。1枚目、ハーフorストップ。2枚目、コール・リゾネーター。3枚目、融合。4枚目……よし、バイス・ドラゴンを特殊召喚するぜ」
バイス・ドラゴン 攻2000
「ふーん?でもペンドラゴンの攻撃力は2600だよー?」
「わかってらい。バイス・ドラゴンをリリースして、ストロング・ウィンド・ドラゴンをアドバンス召喚!このカードはドラゴン族を素材にアドバンス召喚した時、その攻撃力の半分を自身に加えることができる」
ストロング・ウィンド・ドラゴン 攻2400→3400
「バトルだ、ペンドラゴンに攻撃!ストロング・ハリケーン!」
ストロング・ウィンド・ドラゴン 攻3400→DDD覇龍王ペンドラゴン 攻2600(破壊)
遊 LP5800→5000
「ヒュー、強い強ーい。さすがに大きなこと言ってきただけのことはあるねー」
「舐めた口ききやがって……カードを伏せてターンエンド。そこのお前、後のことなんか考えんな。俺がなんとかするから全力でダメージ稼げ!」
全力で稼げ、か。なら、このカードが適任だろう。初期手札からずっと手札にいたこのカードの力を見せてやる。
「僕のターン、ドロー!ツーヘッド・シャークを召喚!さらに水舞台装置の効果で、ツーヘッドの攻守は300ポイント上昇する……!」
「ハイハイ」
ツーヘッド・シャーク 攻1200→1500 守1600→1900
「ツーヘッドの能力は2回攻撃!バトル、ダイレクトアタック2連打!」
ツーヘッド・シャーク 攻1500→遊(直接攻撃)
遊 LP5000→3500
ツーヘッド・シャーク 攻1500→遊(直接攻撃)
遊 LP3500→2000
途中で妨害してくるかとも思ったけど、別にそんなこともなく一気に3000のライフを削りきった。普段なら喜べるのに、さっきまで手も足も出ずにやられていたことを思うと逆に不気味だ。
「タ、ターンエンド」
清明 LP2200 手札:1
モンスター:ツーヘッド・シャーク(攻)
魔法・罠:水舞台装置
遊 LP2000 手札:4
モンスター:なし
魔法・罠:炎舞-「天権」
富野 LP2000 手札:0
モンスター:ストロング・ウィンド・ドラゴン(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
「僕のターン、ドロー。ふんふん、2人がかりで3800ダメージかー。しかも攻撃力3400の貫通持ちと攻撃力1500だけど墓地にキラー・ラブカが落ちてる状態での2回攻撃持ち。ふーん………」
追い詰められているはずなのに、まるで緊張感の感じられない態度。そこで一度言葉を切り、心底つまらなそうな顔をした。
「ま、こんなもんかー。君たちのレベルにしちゃ、それなりに頑張ったんじゃないかなー?僕のターン、ドロー。墓地の獣戦士族、神獣王バルバロスと手札の神機王ウルをゲームから除外してー、手札からもっとも神に近いモンスター、獣神機王バルバロスUrを特殊召喚ー!さらに天権の効果で攻撃力アーップ」
バルバロスの体色が灰色になり、手に持つ武器が大型の槍から2本の盾のようなものに変化する。これが真のエースモンスター、ということなのだろう。
獣神機王バルバロスUr 攻3800→4100
「たかだか1体ぐらい、俺のターンですぐに処理して……」
「そんなことできるのかなー?速攻魔法、異次元からの埋葬を発動。除外されたモンスターカードを合計3枚まで選んで持ち主の墓地に戻すこの効果でー、僕はバック・ジャックとバルバロスとウルを墓地にー。そして今戻したバルバロスとウルの2体を繰り返し除外して、同じ手順でバルバロスUrを特殊しょうかーん」
「嘘!?」
攻撃力3800もの超大型モンスターが、こんなに簡単にポンポン湧いてきていいのだろうか。そんな思いをよそに、もう1体の機械と獣の王がひとつになった姿が僕らの前に立ちふさがる。
獣神機王バルバロスUr 攻3800→4100
「そんなもんでこの転生者狩りの富野様がビビるかよ、そのモンスターは相手に戦闘ダメージを与えられねえ!おいそこの、確かお前の手札にはまだ時械神のカードがあったよな?」
富野の言葉で我に返る。そうだ、僕の手札にはまださっき強制脱出装置で手札に戻されたメタイオン先生がいるんだ。しかもあの大型モンスターを並べるために、遊の手札はわずか1枚まで減っている。おまけに、あのモンスターは高い戦闘能力と引き換えにダメージを与える力を失っているらしい。見かけの数字に騙されず、落ち着いて対処すればどうってことはない。
「またそうやって粋がっちゃってー。僕はね富野君、その仕事やってた時からずっと君にだけは、そういう態度の相手にだけは負ける気がしなかったんだよー。装備魔法、ニトロユニットをストロング・ウィンド・ドラゴンに装備ー」
「なにっ!?」
緑色の筋骨隆々なドラゴンの背中あたりに、ガシリと重そうな爆弾が食い込む。苦痛の呻き声をあげてなんとか振り払おうとするも、自身の翼が邪魔になり腕が届かない。その姿に、バルバロスUrのうち片方が手にした武器の狙いを静かにつけた。最初僕が盾だと思ったその武器の先端がかすかな機械音とともに開き、そこから2本の砲台がのぞく。
「バルバロスUrでストロング・ウィンドに攻撃、閃光烈破弾ー……まったく、物々しく出てきた割には早い退場だことで。しばらくそこで眠ってな、富野くん」
バルバロスUrの持つ砲台に少しずつ光が集まり、一定の力が溜まったところで目の眩むような光線が放たれる。その光を忌々しげに見つめてから軽くため息をつき、富野がこちらを向く。
「なあ、おい」
「僕?」
「ああ。俺は駄目だ、ここまでだ。せめて最後に一撃だけ入れてやるから、後はお前が何とかしろよ」
「え、ちょっと……」
それだけ言うと僕との話は終わりだとばかりに遊の方へ向き直り、ふてぶてしく笑って伏せカードに手をかける。遊が眉をひそめたのを見て若干満足げに、そのカードを発動させた。
「リバースカード、プライドの咆哮を発動!攻撃モンスターとの攻撃力の差のぶんだけライフを支払い、その数値プラス300だけストロング・ウィンドの攻撃力を上昇させる!」
「またそうやって粋がってー……ほんっとうに邪魔くさいったらありゃしないよー?」
「うるせえ!迎え撃て、ストロング・ウィンド!ストロング・ハリケーン!!」
富野 LP2000→1300
獣神機王バルバロスUr 攻4100(破壊)
→ストロング・ウィンド・ドラゴン 攻3400→4400
遊 LP2000→1700
「くっ……だけど、これで伏せカードも打ち止めだねー?バルバロスUrはまだ残ってるから、そっちで攻撃ー、閃光烈破弾ー」
戦闘ダメージを与えることのできない破壊の光が、ストロング・ウィンドの岩のように固く盛り上がった皮膚を貫通して背中についたままのニトロユニットごと撃ちぬく。一瞬の沈黙ののち、本体ではなくニトロユニットの方が大爆発を起こした。
獣神機王バルバロスUr 攻4100→ストロング・ウィンド・ドラゴン 攻3400(破壊)
「もう説明もいらないだろうけど、ニトロユニットを装備したモンスターが破壊された時、そのモンスターのもとの攻撃力ぶんのダメージがコントローラーに降りかかるんだよー」
「うおおおおっ!!」
富野 LP1300→0
富野は転生する前の命を生きていた時、いわゆるヒーローものが好きな少年だった。小学校に入る前は、毎日のように将来の夢はヒーローになることだと話していた。そんな彼もある程度大きくなり、テレビの中のヒーローがあくまでもテレビの中だけの存在なことに気づいてしまった。それがいいことなのかどうかは、彼にはわからない。ただ、そこに気がつかないまま生きていけるほど、世界が優しくなかったというだけだ。
世界で生きていくために現実を受け入れ、それでもどこかぽっかりと空いた彼の心。そんな時に偶然出会ったのが、とある漫画雑誌に付録としてついてきた1枚の白いカードだった。
当時デュエルモンスターズ……その世界では遊戯王と呼ばれていたカードゲームについては名前程度しか知らなかった彼だが、漫画が読みづらいと雑誌からカードを切り離し、特に意識せずに袋とじを開ける。その瞬間、彼の人生は大きな転機を迎えることとなる。書いてある効果は素人以下のレベルである当時の彼にはまるで意味が分からなかったが、そのイラストにどこか心惹かれた彼はそれを保管し、そのモンスターが動くところが見られるという話を聞きつけて当時放送していた遊戯王のアニメを見るようになる。その世界観にすっかり取り込まれた彼が自らもデッキを作るようになるまで、そう時間はかからなかった。彼にとってすべてのきっかけになったそのカードの名を、レッド・デーモンズ・ドラゴンという。
彼は吹き飛ばされながら、朦朧とした意識の中でそんな走馬灯を見ていた。若いうちに死んだ後、諦めたつもりで諦めきれなかった夢、ヒーローになれると思って転生したこと。レッド・デーモンズ・ドラゴンを生で見たかったからというのもあるけれど、それぐらいの役得は許されると思っていたこと。なのに、世界は廃墟になったこと。その世界の遊星が、クロウが、アキが、龍亞が、龍可が、そして他のさまざまな仲間たちが傷つき倒れていく中で嫌というほど思い知った、自分ではジャック・アトラスの代わりに、キングの代わりになることなど不可能であったこと。そしてもう2度とあんな思いを味あわないために、誰もあんな目に合わせないために転生者狩りとしての道を選んだこと。
彼は思う。結局、俺はヒーローの器じゃなかったのだと。今の馬鹿みたいな様子はどうだ。強い力を持っていたにもかかわらず救えたはずの世界ひとつ救えず、今だってせっかく出てきたのに当初の目的を果たすどころか逆に軽くあしらわれ、ただただ道化として終わっただけだ。せめて最後にカッコつけられたことだけが救いといえなくもないが、それにしたってただの自己満足なんじゃないか、と。
ああ、ちくしょう。地面に頭を打ち付けて衝撃が走った時、彼はなぜ自分がこのデュエルに参戦したのかという真の理由に気づき、ひそかに心の中で皮肉に思った。自分をはじめとした世界の行く末を知る転生者たちとは違い何も知らないうちに、どうなるのかもわからずにそれに巻き込まれている清明は、言ってみればただの被害者だ。なのに誰のことも恨まず、人外の存在へ変わりながらも前向きに生きる清明の姿は、彼にとってどこか眩しいものだったのだ。転生者が自分のような悲劇を見る前に始末をつける、その思いに偽りはない。だが、彼は何も悪くない。若干の迷いを抱えた彼は、その答えをユーノとのデュエルの中に見出そうとした。だから何度返り討ちにされても、彼はユーノのもとに姿を見せるのだった。
今でも彼は迷っている。その途中なのに、ここでその清明を失うわけにはいかない。だからこそ、自分よりもはるかに格上のデュエリストである遊………ユーノと2人がかりで挑んでさえ敗北を覚悟するほどの相手のデュエルに割って入るという自殺行為に踏み込んだのだ。
ちくしょう。彼の意識が闇に飲み込まれていく寸前、もう1度その言葉を繰り返した。今更気づいて、一体それがなんになるってんだ。せいぜい勝てよ、ヒーロー。
「富野っ!」
地面に打ち付けられたっきりぐったりした富野の体を見て、一瞬もう魂が抜かれたのかと思った。だが、かすかに胸が上下しているのが見えてひとまずはホッとする。少なくとも、呼吸はまだしてる。
「さあ、負け犬は放っておこうよー。続き、ねー?さ、さ、まだ終わってないんだからさー、早いとこ終わろうよー」
そうだ。まだ、デュエルは終わっていない。僕がここで勝つ。富野が繋いでくれたこのライフ、ただ散らせるわけにはいかない。
「ターンエンド~」
「僕のターン……ドロー!」
手札にいるのはさっき強制脱出装置で戻されたメタイオン先生のみ。フィールドにはツーヘッド・シャーク。モンスターがいるからこのままメタイオン先生を出すことはできないし、仮にできたとしてもそれは手札から特殊召喚できるバルバロスUrに対してはコストになるモンスターを引くまでの一時しのぎにしかならない。
なら、どうにかなるまでドローすればいいだけだ。
「魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地のアーチャー、シャクトパス、ペンギン、シーラカンス、ハリマンボウの5体をデッキに戻してシャッフル、その後2枚をドロー」
これで手札は3枚。これで効率よく遊のライフを削るには……よし、デッキが僕に応えてくれた。この手札なら、勝てる。
「来い、ドリル・バーニカル!このカードは水属性だから、水舞台装置の効力を受ける」
ドリル・バーニカル 攻300→600 守0→300
「なるほどー、バルバロスUrを打点で越えられないから、倒すのを諦めてダイレクトアタッカーで僕を直接狙おうっていうんだねー?何を見せてくれるのかと思ったら、随分卑怯な手だねー」
「あいにくだけど、搦め手は水属性の十八番なんでね。バーニカル、そこのデカいのは無視してプレイヤーに直接攻撃、ドリルアタック!」
ドリル・バーニカル 攻600→遊(直接攻撃)
遊 LP2000→1400
ドリル状になった棘を飛ばしたフジツボが、めりめりと音を立てて急激に成長していく。
「バーニカルは相手に直接攻撃で戦闘ダメージを与えた時、攻撃力が1000ポイントアップする。これでさらにパワーアップして、次のターンに攻撃を決めれば僕の勝ちだ!」
ドリル・バーニカル 攻600→1600
「さらに墓地にキラー・ラブカがいるから攻撃を1度は凌げる、そう言いたいのかなー?それはちょっと、いくらなんでも甘いんじゃなーい?」
「生憎だけど、その心配をするのはこっちの役目なんでね。次のターンの攻撃で決めるさ、カードをセットして、ツーヘッドを守備表示に変更。ターンエンド」
ツーヘッド・シャーク 攻1500→守1900
清明 LP2200 手札:1
モンスター:ツーヘッド・シャーク(守)
ドリル・バーニカル(攻)
魔法・罠:水舞台装置
1(伏せ)
遊 LP1400 手札:0
モンスター:獣神機王バルバロスUr(攻)
魔法・罠:炎舞-「天権」
次のターンの攻撃で決める、僕は今そう言った。その言葉自体に嘘はない。だけど僕の真の狙いは、バーニカルの直接攻撃ではない。文字通りの意味での次のターン、つまり遊の攻撃だ。僕の伏せたカードは、ポセイドン・ウェーブ。今僕のフィールドには魚族のツーヘッドと水族のバーニカルがいる。つまり、遊が攻撃を仕掛けてきた瞬間にこのカードを発動すれば1600のバーンダメージが発生し、その時点で僕の勝ちが決定する。だからこそ、わざと次の僕の攻撃で終わらせる、といったようなことを繰り返し言ったのだ。僕が狙っているのは、次は次でも次の相手ターン。さあ、攻撃して来い!
「……僕のターン。絶対王 バック・ジャックの効果発動!」
「しまった、忘れてた……!」
さっき異次元からの埋葬で除外ゾーンから墓地に戻されたバック・ジャックの効果。デッキトップがトラップならそれをセットし、そのターンでも発動できるようになるというものだ。この効果で、一体何をめくるだろうか。再び半透明の人型ロボットのようなモンスターが現れ、その右手を赤熱させて遊のディスクからカードをドローする。
「……ちっ」
「残念だったねー。トラップカード、停戦協定をセットして発動!」
フィールドの効果モンスター1体につき500のダメージをこちらに与えるカード、停戦協定。モンスターを並べてポセイドン・ウェーブのダメージを倍増させるつもりだったのが裏目に出てしまったが、せっかく富野に繋いでもらったこのライフが残っている限り諦めたりするもんか。僕のモンスターが消えたわけじゃない、この後バルバロスUrで攻撃してくるだろうから、そこをポセイドン・ウェーブで返り討ちにして勝つというプラン自体に変更はない。
「バルバロスUr、ツーヘッド、バーニカルの3体でダメージは1500ー。もうだいぶ虫の息だねー」
「ま、まだまだ……!」
清明 LP2000→500
大丈夫。墓地にはキラー・ラブカがいて、場にはポセイドン・ウェーブのカードがある。このターン戦闘ダメージを受ける可能性は0、といってもいい。
その瞬間、足元の地面から太い鉄格子が生えてきた。と思ったらそれは鉄格子なんかではなく、僕の体を完全に包囲する檻になった。そしてあたりに響きだしたジュウゥ、と何か高温の物を水に投げ入れたかのような音に嫌な予感がして僕のモンスターの方を見ると、水舞台装置の水中にあってなおも赤く溶ける溶岩の腕にわしづかみにされたツーヘッドとバーニカルが僕の頭上にいつの間にかいた怪物の口元へと運ばれていくところだった。思わず手を伸ばすけど、その手は檻に邪魔されて届かない。
「悪いねー、おおかた伏せカードは魔法の筒とかそんな感じのカードかな?………もう、終わりさ。相手フィールドのモンスター2体を生贄にして、こいつは相手のしもべとして召喚される……」
「嘘、でしょ……」
「溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム!」
溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 攻3000
「もう、攻撃する必要もないねー。ターンエンド」
ラヴァ・ゴーレム。プレイヤー……つまり僕のスタンバイフェイズごとに灼熱の体が溶け出し、ダメージを与えるという恐ろしい効果を持つ大型モンスター。そのダメージ数は、僕のライフ500を上回る数値の1000。僕のデッキには手札から捨てて効果ダメージを防げるようなカードはないから、どうあがいたところで次のドローに賭けることすらできない。
「僕の、負け……」
「その通りさー。ささ、最後のカードを引いちゃってよー」
自分の死の宣告となる、デッキトップを見る。このカードを引いた時、僕のライフは0になる。もう1回死ぬこと自体には諦めもつく、というか覚悟もできているけど、僕だけならともかく見ず知らずの富野まで巻き込んでおいてあげくの果てに負けるなんて、ただただ無念すぎる。
「ねえねえ、まだかなー?それとも遅延かなー?」
「僕の、ターン………ドロー……」
ドローフェイズが終わり、お互いに発動できるカードがないことから自動的にスタンバイフェイズに移行する。その瞬間、ラヴァ・ゴーレムの体から溶岩が垂れてきて、檻の隙間を通して僕に降りかかる。それを避けるための隙間も、身を守るためのカードもない。今度こそ、終わりだ。
清明 LP500→0
ライフが0になると同時に体中の力が抜けていき、立っていられなくなってその場に倒れこむ。その様子を満足げに見て頷いた遊が、くるりと背を向けて三幻魔の封印地に向けて歩き出す。その途中で一度立ち止まり、誰に言うともなく口を開いた。
「今回は、見逃してあげるよー。全身の力は抜かれただろうけど、しばらく大人しくしてれば夕方頃には歩けるようにはなるはずだしー。本当はさっさととどめさしておきたいんだけどねー、そういう約束だからしょうがないんだよ」
「や……く、そく?」
ゆっくりと口を動かし、どうにか言葉を絞り出す。そう、と頷き、また歩き出しながら遊がそれに答える。
「ユーノとの約束でね、まあちょっとした取引だよー。彼は君と一蓮托生だから、君に死なれちゃ困る。僕は三幻魔の力が訳あって必要なんだけど、1人じゃあの封印は解けなかった。光の結社のために、とか言って同じく三幻魔を欲しがってた彼とは、少なくとも封印が解けるまでは利害が一致してるからねー。こっそり手を組んだのさー」
「………!」
「露払いも済んだことだし、もう失礼させてもらうよー。これから封印がどうなったか見にいって、その結果によっては彼と三幻魔について『話し合い』してこなくちゃいけないからねー」
そして、今度こそ振り返らずに歩き去って行った遊の後姿を、ただ見つめていることしかできなかった。
『マスター、どうする?私が追うか?』
「……いや、いいよ。それより十代たちに連絡しよ、みんな心配してるだろうし」
そう言いながら、僕の後ろで倒れてるはずの富野の方を見て、一瞬自分の目を疑った。さっきまでそこに倒れていたはずの体は既にどこにもおらず、まるで最初から夢か幻かのようだった。
「どうなってんの、これ」
『私も見ていなかったからな。それより、マスター。こんなことを聞くのもなんだが、なぜそんなに元気なのだ?思ったよりもずっと回復が早い』
「あれ、チャクチャルさんが何かしてくれたんじゃないの?」
それに関しては僕も不思議だった。遊はついさっき、夕方ぐらいまでは動けないといった。にもかかわらず僕はもうぴんぴんしてる。てっきりチャクチャルさんがパワー補給してくれたのかと思ったけど、違うらしい。
『いや………ああ、そういうことか』
「え?」
『私からも礼を言わせてもらおう。マスターも彼らには感謝しておくといい』
そう言って、僕の胸ポケットを示すチャクチャルさん。そこからかすかな光が漏れていたので慌てて中身を引っ張り出してみると、光っていたのは2枚のカードだった。表面が完全に真っ白な、ちょっと見ただけだとエラーカードにしか見えないカード。ペガサス氏からもらった、世界の誰もが中身を知らないカードだ。ちょいちょい取り出しては眺めてみたり話しかけたりしてみたときには何の反応もなかったから実はちょっと不安だったけど、やっぱりこの中にはまだ『何か』がいるらしい。今回は僕に力を貸してくれた、ということだろう。
「ありがとう。いつか君たちにも会いたいもんだよ」
指で軽く撫でてから、2枚ともポケットに戻す。さてと、早いところ吹雪さんの試合を見に行こう。十代よりも、ここは夢想あたりに聞いてみるか。
「あ、もしもし夢想?」
『清明?今どこにいるの、って。もうとっくに試合始まってるよ、場所は………』
夢想に教えられた場所にようやくたどり着いた時、すでにそこには何人もの観戦者が来ていた。半ば押しのけるようにして前に行くと、ずいぶん久しぶりに聞くカイザー、いやヘルカイザーの声がした。だが彼が従えていたのは、これまでおなじみだったサイバー・ドラゴンでもツインでもエンドでもない。見たこともない闇の機械龍が、まるで下にいるドラゴンに寄生しているかのような格好で合体して、というよりもむしろ取り込んでいた。
「終わりだ、吹雪!鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴンで真紅眼の闇竜を攻撃、フル・ダークネス・バースト!」
「うわあああああっっ!!」
吹雪 LP0
「吹雪さんっ!」
ダークネスマスクが、吹き飛んだ衝撃で吹雪さんの顔から外れる。あの力を解放しても、まだ今のカイザーには勝てなかったっていうのか。
「や、やあ、清明君……亮は、やはり強いよ……」
「喋ってないで、とりあえず医務室行きましょ。誰か、手ぇかして!」
肩を貸してどうにか吹雪さんを立ち上がらせ、こちらに冷たい視線を送っていたヘルカイザーを見る。あの目つき、こうやって実際に見てはっきり分かった。何があったのか、細かいところまでは知らないしわからない。だけど、きっと何かものすごく大きな変化があったに違いない。
「さらばだ、吹雪。俺はもうしばらくこの島にいる、挑戦者がいるというのならば受けて立とう」
そう一言だけ呟き、たった一人で去っていくヘルカイザー。誰も、その後ろ姿を止められなかった。
後書き
2週間も待たせておいてデュエル的には結局完敗、我ながら何しに出てきたんだ富野。
それだけ相手が悪かったってことですが、どうもターンEX-2の描写だけだと今一つ遊の強さが伝わらなかったらしいですね。一応タイマンならユーノも富野も倒されてるように注意して書いたつもりだったので少しショックだったり。
ちなみに、書いてる側としては遊は夢想の次ぐらいに強いイメージです。
それと最後に、いつぞやのアバター回でミスがありました。わりと直せないような場所なので詳しくは活報を読んでください。
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