遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
ターン27 鉄砲水ともう1つの『真紅』(前)
前書き
前回のあらすじ:ヘルカイザーと化したカイザーにリスペクトの精神を取り戻させるべく、吹雪さんは(なぜかずっと持っていた)ダークネス解放を決意する。そのための予行演習を引き受けた清明は、さまざまな形で進化を見せる『可能性の竜』ことレッドアイズに健闘しつつも結果は相打ちとなった。
案の定今回ヘルカイザーの出番はなし。勝利のみをリスペクトした結果、先攻禁止令で真紅眼の黒竜宣言とかしちゃう展開にするかどうかちょっと迷ったけど。
ヘルカイザー、最初の対戦相手を天上院吹雪と宣言!
僕が吹雪さんとデュエルしてからものの数時間のうちに、この知らせはアカデミア中を駆け巡った。どうも吹雪さんがどうやったのか、本当にどうやったのかさっぱりわからないがカイザーがやってくる前に先手を打って確実に彼と勝負できる状況を作り出したらしい。いい加減何やっても驚かないぞと毎回思ってるのに、いつもあの人は僕らの想像を超えてくる。
「なにせ、こんなもんまで用意してんだから」
そう言いつつ、手元の紙を持ち上げる。そこには明日の日付と、とある一点に赤い丸が付けられたアカデミアの地図。そして上に挙げたアオリ文。
「さすがは師匠だな。することなすことスケールが違う」
万丈目はそう言って感心している。感心する方もされる方もどこか少し異常な気もするけど、その意見にも一理あると思うあたり僕も少しずれているのかもしれない。
「明日は絶対見に行こうぜ、多分学校中のデュエリストが集まるぜ」
十代にいたってはもうすっかり乗り気で、ピクニック気分なのか知らんがさっきは明日の弁当は外で立ち見でも困らないやつを作ってくれなどと言ってきた。もちろん僕も見に行くつもりだし、明日の弁当はおにぎりないしサンドイッチにする気だけど。
「お兄さん……一体どうしちゃったんだろう………」
僕らが自分たちのことで手いっぱいだった間も、翔は肉親ということもあってカイザーの動向については調べていて、ヘルカイザーのこともだいぶ前から知っていたらしい。ただこちらも色々あったせいで言い出すタイミングが掴めず、結局黙ったままなんだとか。友達なんだから次からちゃんと相談するように、と釘はさしておいたけど、翔の性格からいって本当にそうしてくれるかどうかは不安だ。
「まあ、カイザーだってきっと何か考えがあるはずだぜ。明日島に来るんだ、その時兄弟で話し合えばいいだろ?」
「アニキ……」
「さあ、俺はもう寝るぞ。お前の持ってきたアームド・ドラゴンもデッキに入れたし、今日のぶんのメダルも稼いだしな」
そう言って自分の部屋に行こうとする万丈目。本来なら万丈目は今朝僕に負けた時点でジェネックスの参加資格はないのだが、どうもあのあとそこらへんでひとり適当に捕まえてメダルをさも持っているかのようにふるまいつつ半ば強引にデュエルを挑んでの勝利。何食わぬ顔してその生徒のメダルを分捕ってきてメダル数1となったらしい。本来なら僕が止めるべきなんだろうけど、なにせ本人から聞いたところによるとその相手というのが適当な光の結社とのことなので黙認。負けた生徒には災難だけど、光の結社に対してはざまーみろとしか言いようがない。私怨?あーあー聞こえない聞こえない。
「うん、おやすみ……あれ?」
「どうした、清明?」
僕もそろそろ部屋に戻ろうとしてチラシを机の上に置いたところで、ちょっと引っかかるものを感じた。
「……いや、なんでも。また明日ー」
「おう」
「あ、おやすみッス」
そのまま違和感を無視して部屋に戻ろうとした途中、やっぱり無性に気になったので一度引き返してチラシを回収してから改めて2階の僕の部屋に戻る。
部屋に入ってから僕の机の上にもう一度チラシを広げ、改めて上から下までしげしげと見てみる。どうも気になってしょうがないのに、何がそんなに気になるのか自分でもわからない。多分この問題が解決しないうちは眠れないだろうな、とぼんやり思った。明日は朝からチラシに書いてある場所、ここからだとちょうど校舎を挟んで島の反対側まで行かなくちゃいけないってのに。
「なんなんだろ、日付も明日って言ってたから別におかしくないし、アオリも吹雪さんにしちゃ大人しいけど別におかしくないし、地図も間違ってないし………」
一つ一つ声に出して指さし確認。小学生みたいだけど、これくらいしないとこの違和感はぬぐえそうにない。日付、アオリ、地図………。
『どれマスター、少し見せてくれ』
「チャクチャルさん!」
するりと後ろからチャクチャルさんの気配が近づき、じっとのぞきこまれる感覚。数秒後、ぽつりと一言。
『妙だな』
「あ、やっぱり?でも、何がおかしいのかさっぱり……」
『この位置だ。確かこの地点は港もなければヘリポートがあるわけでもない。おまけに海底は岩場だらけでわざわざ外から近づいてくる物好きもそうはいまい。船で来るというのなら港のそばを指定すれば済む話だし、飛行機やヘリも同じことだ。なぜわざわざ、こんなかけ離れた位置に移動する必要がある?』
「な、なるほど」
言われてみれば確かにそうだ、これでようやく謎が解けた。でも、そうなると吹雪さんの意図がわからない。余計にこんがらがってきた僕を見かねたのか、ここでチャクチャルさんから2隻目の助け舟が出向する。
『そういう時はな、マスター。まずは前提から疑ってみることだ。そもそもこれは、本当にあの男が作ったものなのか?』
「……どゆこと?」
『私も五千年近く人間を見てきたから考えている大抵のことはその言動を見れば予想がつくが、あれだけ友人のため真剣になっていた人間がこんな馬鹿げた広告を作る余裕があるだろうか』
……ふむふむ。さすがは長生きしてるだけのことはある。言われてみれば、今日の吹雪さんは真剣だった。いつものウクレレアロハシャツだとか10JOINだとかが吹っ飛んで見えるぐらい真剣だった。こんなにエンターテインメント性の高いチラシなんて作るだろうか。それにそもそも、明日のデュエルはダークネスの力を解放する吹雪さんにとってもあまり観客に来てほしいようなものではないはずだ。僕を呼んでくれたのも、いわば練習台になったことに対するお礼といったたぐいのものだろう。
「じゃあ、この地図はブラフで本当は別の場所でやるってこと?野次馬を別の場所に引きつければ、その分落ち着いてデュエルできるし」
『いや、その線もないだろうな』
1つひらめいたことを言ってみるが、あっさり両断される。
「なんで?」
『マスターの個人的な話にあまり立ち入るのも気が引けたが、つい聞こえたから言わせてもらおう。あの吹雪という男、マスターに見に来いと言ったのだろう?正確な場所も教えていないのに偽の情報をばらまいていてはマスターがたどり着けないではないか』
な、なるほど。何から何まで筋が通っている。となると、この紙は一体誰が何のために?
「考えてわかるわけもなし、とりあえず見に行ってみようか、ここ」
『……この点は考えが分かれるかもしれないが、今はやめておいた方がいい。そもそも考えられることは2つあるが、まず1つは何らかの目的があって明日この場所に人を集めたい何者かがいる、ということだ』
「なら、今のうちに行けばその企みがわかるかもしんないんじゃ?」
『まあ聞け。もう1つの可能性は、この場所に人を集めることで、他の場所から人目をなくす。つまり目的はこの場所に人を集めることではなくて、まったく別の場所で安全に何かを行うこと。この場合たとえこの場所に行ってみたとしても、何も見つかるわけがない。マスターに見に来いと言った以上、少なくともあの男ではない何者かがな』
「どっちもあり得そうなもんだし、やっぱり今から見に行く分には問題ないんじゃ?」
『だから、ここは考えが分かれるといったんだ。恐らく後者だろうというのは、私の勘でしかない。それに夜間に独りで出歩くのは今の時期は推奨しないし、明日になって日が昇ってから何かしらの可能性を探せばいい。とりあえずマスターは少し休んでいてくれ、後は私が軽く当たってみる』
少しの間、チャクチャルさんに言われたことを噛み砕いてみる。
……ま、明日でいっか。今日はいろんなことが起きすぎていい加減疲れたし。
「明日のおべんと作ったら色々探ってみるから、みんなもそのつもりでね。おやすみー」
もぞもぞと呟いてから、布団に潜り込む。意識が消えるのはあっという間だった。
「よし、復活。おはよー、みんな」
すっきりと目覚めてデッキに声をかけ、顔を洗い、投網を打ち、畑に水をやり、ご飯を炊いたり味噌汁を作っているうちにすっかり日が昇ってしまった。まあ、これもいつものことだ。その後でまだ寝ている十代たちをたたき起こして朝ご飯を食べ、早速出発の準備に取り掛かる。
「悪いけど先に行ってるからねー。みんなのおべんとは台所に置いてあるから、あと適当にやっといて!」
「おーう。なあ万丈目、アイツなんであんなに急いでんだ?」
「万丈目さん、だ。あとそんなこと俺に聞くな、本人に聞けばいいだろう」
「……清明君、もう行っちゃったっスよ」
そんな会話がうっすいうちの安物ドアの向こうから聞こえたけど、いちいち戻るようなことはしなかった。こっちもそれなりに忙しいのだ。そのまましばらく走ったところで、一度声をかける。
「チャクチャルさんチャクチャルさん、どっから行けばいいかな?」
『まず結論から言うが、案の定あの地図はブラフだ。そこで考えてみろ、島のこちら半分で重要そうな場所と言えば?』
そんなこと急に言われても困る。えっと、大浴場……は向こう半分だし、港はちょうど中心あたりだし、そうだ、稲石さんの廃寮があった。そのほかに施設……あ、待てよ。廃寮といえば、確かあそこの地下にはアムナエルの錬金術の部屋があって、アムナエルといえば………
「も、もしかして三幻魔?」
『可能性は高いな』
仮にもあの三幻魔が大人しく言うことを聞くとは思えないけど、少なくとも光の結社の手に三沢が手に入れたウリアのカードがあることは間違いない。とすれば、他の2枚を自分のものにしようとしてもおかしくない、ってことか。冗談じゃない、あんな凄まじい力を持った奴らを、まだ1年もたってないのにまた解放するだなんて。せめてあと半年ぐらいはインターバルおいてほしいもんだ。
『どうする?あそこの封印もなかなか固いものだったはずだが』
「もちろん行くよ!少しでも早いうちに止めないと」
『了解した。場所は覚えて………ほう、これはこれは驚いた』
「え?」
さっきとは一転、急にチャクチャルさんの声の調子が変わる。いつも聞きなれた親しみのあるものから、『地縛神』としての不思議なプレッシャー溢れる声に。
『前言撤回だ、マスター。まさか向こうから来てくれるとはな』
「え?」
「あはは~、ばれちゃったー?でもしょうがないよね、僕悪くないもーん。下手に勘付かなけりゃ今頃こっちも誰にも迷惑かけずに仕事終われたんだからさー。だったらせめて、時間つぶしぐらいはしないとねー」
へらへらと笑いながら近づいてくるその金髪の男。年は僕と同じくらいに見えるけど、この学校では見たことない顔だし、こんな若いプロがいるのならいくらエドがいるといってもニュースにはなるだろう。
というか、チャクチャルさんのことを認識できて、しかもあの口ぶりからいって前から知っているというだけで怪しすぎるし。
「お初にお目にかかりまして……かなー、そっちの君、遊野清明だっけ?君そのものとはね。魂だけなら前に一回会ったんだけど、それもずいぶん昔の話だねー。それにしてもそっちの地縛神、つれないなー。なんでお前が生きてるんだー、とかさ、そういう感じの驚きを表現してもいいんだよー?」
「魂……?」
よくわからないワードに眉をひそめる。だが、チャクチャルさんには意味が通じたらしい。いっぺんに苛立った様子で、男に詰め寄る。
『なぜ生きている、などと聞く気はない。貴様、ここに何をしに来た?三幻魔はもっと奥地だぞ』
「だーから言ったでしょ、時間つぶしだよ時間つぶし。正直、今の僕のトップに対してはこっちも頭が上がんなくてねー、三幻魔は譲れないのよ」
危険だ。この二人が何を話しているのかは、正直よくわからない。つまりこいつは誰で、何が目的で三幻魔を集めたがっていて、チャクチャルさんとはどういう関係なのか。こういった特に知りたいところについては何ひとつわからないけど、この男の目は凄く危ない感じだ。何をしだすかわからない、近くにいては危険すぎるタイプだ。だけど、逃げ出すこともできないだろう。そんなへまするタイプには見えないし、そもそも僕だって尻尾巻いて逃げるなんて願い下げだ。
『時間つぶし?なるほど、読めてきた。お前の他に最低もう一人、封印を解きにかかっている存在がいるわけか。そうでもなければわざわざこちらを排除しに来るよりも全力で解放に力を注ぐだろうからな』
「ありゃりゃ、参ったねーこりゃー。全く鋭いもんだよ、ボロ出したつもりはないのにどんどんこっちの秘密がばれてっちゃう。でも、それでー?だったらどうするのー?」
独特な語尾を伸ばす調子のイントネーションを何度も聞いているうちに、これまで感じていた不気味さとは別に何か思い出してきた。この喋り方、それにこの声。確かにこいつの言うとおり、どこかで一度僕はこの男に会ったことがある。そしてその時なにか、すごい理不尽を感じたような。
『決まっている、貴様にはこの場でいつぞやの借りを返す。マスター、少し下がってくれ』
「やなこった。悪いねチャクチャルさん、僕も何となく思い出してきたんだ。お前が僕に何をしたのかまではまだ思い出せないけど、それでも受けた借りは返す。やられっぱなしは性に合わないんでね」
「ご立派ご立派~。いいよ、その勇気に免じてハンデをつけよう。今回僕は、エクストラデッキを使わない……ってのはどうかなー?ああ、答えなくていいよ。それぐらいしないと遊びにすらならなさそうだしねー。それと、僕の名前は遊。せっかくだから覚えておいてよー」
エクストラを使用する、つまり融合デッキか。だけど、それで融合を使わないとはどういうことなのか。融合素材のモンスターだけのデッキでやっと遊びとは、僕もずいぶん舐められたものだ。
『違うマスター、そういうことじゃなくて……』
「なんだっていいね!それじゃあ、デュエルと洒落込もうか!」
「「デュエル!」」
いつも通りにカードを引く。どんな不気味なデッキを使ってくるのか皆目見当もつかないけれど、僕はいつも通りやるだけだ。
「先攻は僕。モンスターをセットして永続魔法、水舞台装置を発動!」
僕の後ろにズズズ、と鈍い音を立てて簡易的な竜宮城が組みあがり、周りの風景もカラフルな水草や水車で彩られる。チャプン、と音がして、僕たちの周りがいつの間にやら水中に変わっていた。と言っても無論これはソリッドビジョン、どれほど目の前の水を掻き分けても一点たりとも濡れはしないのだが。
「元相棒に作ってもらったちっぽけな、偽りの平和に満ちた箱庭、かな?なるほど、君にはぴったりのステージだよ。ねえー、地縛神?」
『………』
何が言いたいのかはともかく、とりあえず馬鹿にされていることだけはわかった。それだけで十分だ。
「ああ、ごめんごめーん。僕のターン、神獣王バルバロスを攻撃力1900にして妥協召喚ー」
つい昨日もフランツが使っていたカードが、再び僕の前に現れる。2日連続で同じカードを、まったく違う相手から見るのも珍しい。
神獣王バルバロス 攻1900
「さらに装備魔法、レインボー・ヴェールを装備するよー」
バルバロスの持つ槍が虹色に輝き始める。だが、それ以上の変化はみられず攻守ともに元のままだ。
「バトル、トルネード・シェイバー!」
虹色の槍を掲げての突進を、素早く一振りされたシルクハットが受け止める。器用に片翼でそのシルクハットを支えたまま、紳士服を着たペンギンが挑発的に笑ってみせる。
神獣王バルバロス 攻1900→??? 守1800→2100
遊 LP4000→3800
「へえー」
「水舞台装置の効果で、僕のフィールドにいる水属性モンスターの攻守は常に300ポイントアップした状態になる。さらにペンギン・ナイトメアがリバースしたことで、相手のカード1枚をバウンスできる!吹き飛べ、バルバロス!」
僕の手札にはすでに、2回攻撃を行うことのできるツーヘッド・シャークのカードがある。このまま何もしてこなければ、次のターンで僕の勝ちだ。
だが、さすがにそう簡単にはいかないようだ。バルバロスが虹の槍を振り回すと、バウンスすべく飛び上がったペンギンが逆に風圧に弾き飛ばされて後ろの岩に突っ込んで目を回す。
「レインボー・ヴェールの装備モンスターがバトルするとき、その相手モンスターの効果は無効になるのさ~。何もないならカードを1枚セットして、ターンエンドさせてもらうよー」
ファーストバトルはダメージを稼げただけこっちの勝ち、と言ったところか。まずはいい調子だ、早いとこバルバロスを処理してしまおう。
清明 LP4000 手札:3
モンスター:ペンギン・ナイトメア(守)
魔法・罠:水舞台装置
遊 LP3800 手札:3
モンスター:神獣王バルバロス(攻・レインボー)
魔法・罠:レインボー・ヴェール(バ)
1(伏せ)
「僕のターン、ドロー!」
バルバロスの攻撃力は1900。ペンギン・ナイトメアにはフィールドにいる限り水属性の攻撃力を200ポイントアップさせる永続効果があるけれど、それを含めてもこのままツーヘッドを召喚するだけじゃあまだバルバロスを倒すには攻撃力が足りない。それにバルバロスは妥協召喚されて自身の効果で攻撃力の下がったモンスター、効果を無効にされれば攻撃力は一気に3000に跳ね上がる。それならこちらも大型モンスター、それもあちらの王よりももっとすごい魚の王で立ち向かうまでだ。
「魔法カード、スター・ブラスト発動!ライフポイントを500の倍数払って、その数値に応じて手札かばのモンスターのレベルを下げる!僕は1500のライフと引き換えに、手札のシーラカンスをレベル4にして召喚するよ」
清明 LP4000→2500
超古深海王シーラカンス 攻2800→3300 守2200→2500 ☆7→4
「さらにシーラカンスの効果発動、魚介王の咆哮!手札を1枚捨てて、デッキからレベル4以下の魚族を出せるだけ特殊召喚……おいで、みんな!」
フィッシュボーグ-アーチャー 守300→600
キラー・ラブカ 守1500→1800
シャクトパス 守800→1100
「はいはい、おきまりの流れご苦労様~」
「悪かったね、代わり映えしなくて。だけどこれはどう?今手札コストとして捨てたハリマンボウの効果発動、相手モンスターの攻撃力を500ポイントダウンさせる」
神獣王バルバロス 攻1900→1400
バルバロスの攻撃力がさらに下がった。ということは、もしあの伏せカードがバルバロスのお供として有名な禁じられた聖杯だとしてもその攻撃力は2900までしか上がらないということだ。もしあれが聖杯のカードだった場合、攻撃力3300のシーラカンスだとギリギリ100の差で負けちゃうからね。
「まだまだ行くよ、ペンギン・ナイトメアも攻撃表示に変更!」
ペンギン・ナイトメア 守2100→攻1400
このターンで終わらせる、とまではいかないものの、それでも攻撃が通れば大ダメージは間違いない。それだというのに、こちらがイライラするほど余裕ぶった態度を崩さない遊。完全に向こうのペースに乗せられてるな、と心では理解できているし、そもそもこういった心理合戦、つまり相手をイラつかせることに関しては僕も決してできないわけじゃないのだが、あの遊の言動の一つ一つがはやたらめったら見ているだけで癇に障る。もしあれがわざとやってるんだとすれば、とんでもない演技派だ。
「攻撃可能なモンスターの総攻撃力は4700、かー。まあ、頑張ってるんじゃなーい?」
「くっ……バトル!シーラカンスで……」
「おっと、その前によーーくフィールドを見てみたらー?」
その言葉につられ、言われたとおりにフィールドに目を向ける。なんとバルバロスの虹の槍が今度は緑色の炎に包まれ、それを持つ本体もまた緑色に薄く光っていた。
神獣王バルバロス 攻1400→3300
「攻撃力、3300?」
「イエースイエース。僕はメインフェイズ1の終了時に伏せカード、炎舞-「天権」のカードを発動したんだよねー。発動時に獣戦士族を1体選んでこのターンだけその効果を無効にし、さらにこのカード以外のカード効果を受けなくさせるのさー。それに天権はそれとは別に、フィールドにある限り獣戦士族の攻撃力を300ポイントアップさせる効果もあるのさー。これで水舞台装置のぶんの攻撃力アップは実質チャラだねー」
「……メイン2に移行、そのままターンエンド………」
今の場面では、相打ちに持ち込んだ方がよかったのだろう。このままだと次にペンギンが倒されればシーラカンスの攻撃力がバルバロスを下回り、なすすべなく一方的にやられてしまうのみになる。だけど、いくら戦術的に正しいことだとしてもやっぱり相打ちだとか自爆特攻だとかの指示は出したくない。そんなことばかり言ってるから、いつまでたってもパッとしないデュエリストなのかもしれないけど。
「あははー、やっぱりそこで攻撃してこなかったかー。結構結構、僕のターン。レスキューラビットを召喚して、効果発動ー。このカードを除外して、デッキからレベル4以下の通常同名モンスター2体を特殊召喚~……暗黒の竜王!」
暗黒の竜王 攻1500
暗黒の竜王 攻1500
緑色の皮膚を持つオーソドックスな見た目の竜が2体。特にこれといった特徴のあるモンスターではなく、なぜこの局面でわざわざ出してきたのかがさっぱりわからない。ドラゴン族じゃ天権の効果も得られないし、第一あれじゃあ次のターンにシーラカンスの餌食にしてくださいと言ってるようなものだ。
『いや、マスター。これはかなり危険だ。レスキューラビットで呼び出されたモンスターはエンドフェイズに破壊されるから、シャクトパスの効果を無視して攻撃ができる……!』
「そ、そうかっ!」
「相談かなー?まったく、仲がいいようで微笑ましいよー。遠慮はしないけどね、バトル!暗黒の竜王でペンギン・ナイトメアに攻撃、炎のブレス!」
先ほど虹色の槍から身を守ったシルクハットも、竜の炎の前には役に立たなかったようだ。そしてペンギン・ナイトメアからのブーストがなくなったことで、シーラカンスの攻撃力も200ポイントの修正を受けてしまう。
暗黒の竜王 攻1500→ペンギン・ナイトメア 攻1400(破壊)
清明 LP2500→2400
超古深海王シーラカンス 攻3300→3100
「シーラカンスももう怖くないねー。トルネード・シェイバー!」
神獣王バルバロス 攻3300→超古深海王シーラカンス 攻3100(破壊)
清明 LP2400→2200
「まだまだー。暗黒の竜王でシャクトパスに攻撃~、炎のブレス!」
暗黒の竜王 攻1500→シャクトパス 守1100(破壊)
「シャクトパスは戦闘破壊された時にそのモンスターの装備カードにできる、けどそれに意味はない、鮫の呪いは今回は使えない……」
「なるほどー、こっちとしても無駄は避けたいからねー、いい判断なんじゃなーい?メイン2、手札からDDD覇龍王ペンドラゴンの効果を発動~。手札とフィールドからドラゴン族と悪魔族を1体ずつリリースして、このカードを特殊召喚するよー。手札の絶対王 バック・ジャックと、場の暗黒の竜王をリリースー」
DDD覇龍王ペンドラゴン 攻2600
同じ『りゅうおう』の名がついていても、暗黒の竜王とは比べ物にならない迫力の黒い龍。なるほど、こっちが遊のエースモンスター、ってわけなのかな、多分。だとすれば、まだ次のドロー次第で光も見えてくる。
「ターンエンド~」
清明 LP2200 手札:1
モンスター:フィッシュボーグ-アーチャー(守)
キラー・ラブカ(守)
魔法・罠:水舞台装置
遊 LP3800 手札:1
モンスター:神獣王バルバロス(攻・レインボー)
DDD覇龍王ペンドラゴン(攻)
魔法・罠:レインボー・ヴェール(バ)
炎舞-「天権」
「僕のターン、ドロー!」
状況はかなり悪い。だけど、負けない。というより、負けられない。ここ最近闇のデュエルばーっかりやってたもんだからダメージのたびに痛みが発生するのが当然だなんて無意識のうちに考えてたけど、よくよく考えたらこれはおかしい。もはや日常になってたから今まで気づかなかったけど、このデュエルもまた命がけどころか魂まで賭けた闇のデュエルだ。
『ああ、だからあんな軽くデュエルを始めたのか……私が言うのもどうかとは思うが、マスター。命はもう少し大切に扱ってくれ』
「お互い様でしょ?チャクチャルさんだって替えはいないんだから」
もとより僕の命は、あってないようなものだ。なにせ本当なら去年、入学前のあの事故の段階で死んでるはずなんだから。僕にとってこうして今を生きている一瞬一瞬が奇跡そのもの、人生のエクストラターンだと思っている。だから、いつ終わったとしてもそれに文句を言う権利はない。
もっとも、だからといって自分から人生終わらせにかかる気はさらさらないけどね。
「だからなのかね、今だってデュエルそのものは全然怖くない。でも、それは勝負を諦めたからじゃないんだ。僕は、このままここで勝つ。アーチャー、ラブカをリリースしてアドバンス召喚!天をも焦がす神秘の炎よ、七つの海に栄光を!時械神メタイオン、降臨!」
時械神メタイオン 攻0
神の炎を巻き上げる、僕の第2の神。あの事故の後でもまだ生き続けている僕が見つけた、新しい可能性のカード。バルバロスには装備モンスターと戦闘する相手の効果を無効にする厄介な装備魔法、レインボー・ヴェールが仕掛けられている。だけど、ペンドラゴンを狙えばそんなことは気にしなくていい。この一撃で、勝負を振り出しに戻してやる。
「バトル、メタイオンでペンドラゴンに攻撃!」
「この瞬間、墓地から絶対王 バック・ジャックの効果発動ー!このカードを除外してデッキからカードを1枚確認、そのカードがトラップカードだった場合、フィールドにセットしてそのターン中に発動できるよー」
「相手ターンにデッキからトラップ!?だ、だけど、メタイオン先生は戦闘でも効果でも破壊できない!」
バックパックを背負ったロボットのような半透明のモンスターが浮かび上がると、その右手の肘から先のあたりがみるみるうちに赤熱していく。遊のデュエルディスクにその右手を置き、そこからカードを1枚引きぬく。そのカードを、ゆっくりとこちらに向けた。
「ドローカードは……強制脱出装置を発動!」
「なっ!?」
「この効果はわかってるよねー?破壊じゃないよ、メタイオンをバウンスさせてもらおうかなー」
さっきアドバンス召喚のリリースに使ってしまったため、僕のフィールドにはもうモンスターがいない。手札にもたった今戻されたメタイオン先生と、最初からいるツーヘッド・シャークしかない。これ以上できることは何一つないし、どうやらこんなところで年貢の納め時なようだ。
『マスター……』
「死にたくはないさ。ないけど……さすがに何にも思いつかない、かな」
「さあ、準備はいいかなー?僕のターン、一応カードを引いて~っと。バトル、ペンドラゴンでダイレクトアタックー」
まだバトルフェイズにも入っていないのに黒い龍が口を開くと、徐々にその口の中にエネルギーがたまっていくのがよくわかる。ああ、僕の人生のエクストラターンもここで終わりなのか。走馬灯みたいなものが見えてくるかと思ったけど、特にそういったものは見えてこなかった。
「結局、エクストラデッキなしでも遊びにすらなんなかったかー。もう一回言わせてもらうよ、バトル。ペンドラゴンでダイレクトアタックー」
……こりゃ、本気でダメだな。ここまでシャレにならない状況に追い込まれれば少しぐらいは僕も焦りだすかと思ったけど、むしろどんどん気持ちが落ち着いてくる。吐き出されるであろう炎から目を閉じようかと思ったけど、どうせならまっすぐ前を向いてとどめを刺されようと思い直して改めて前を見る。ちょうどペンドラゴンの溜めが終了したらしく、その体色に合った漆黒の炎を吐き出すべく大きく体をそらせたところだった。
そして、勢いよく炎が迫る。大人しくそれを受けようとして―――――
「その攻撃、ちょっと待った!手札からバトルフェーダーの効果発動、このターンのバトルフェイズを終わりにして、このカードを特殊召喚する!」
バトルフェーダー 守0
「へぇー。転生者……とはちょっと違うけど、この子を庇うなんてことするんだ。職務違反じゃないのかなー、富野くん?」
激しく不機嫌な顔をした別の乱入者が、突然現れた。
後書き
本当はこの次の話と合わせて前後篇にする予定でしたが、ちとリアルの予定が忙しいので急遽ここまでで一話に変更。ごめんね。
ページ上へ戻る