遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~
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ターン29 鉄砲水と『D』
前書き
次回、もしかしたら1週ほど遅れるかもです。そうならないように気を付けますが。
前回のあらすじ:元転生者狩りの男、遊。存在自体が消えさったはずの彼はどっこい生きていて、光の結社のユーノとともになにやら三幻魔で良からぬことを企んでいた。それを阻止すべく清明は転生者狩りの富野と一時的に手を組むも、結局1対2の変則デュエルにもかかわらず惨敗。幸いにも三幻魔の封印は固く、少なくとも今は無事なようだが……?
「え!?」
あとから考えてみれば随分失礼な話ではあるが、僕の第一声はそれだった。でも、こればっかりは誰も文句は言えないと思う。翔がその日の夕食後、何となくゆったりしていた時間に漏らした一言には、これまでの彼を知る僕らにとってはそれほどの破壊力があった。
「だから清明君、僕がお兄さんに挑戦するんだってば」
「お兄さんってーと、ヘルカイザーの?」
他に誰がいるのさ、という顔でこちらを見てくる翔。いやま、そらそうなんだけど。あの翔が自分からデュエルしたいだなんて、それもカイザー時代からあれだけ苦手意識もってたヘルカイザーに対して。
「いいじゃないか、俺は応援してやるぜ、翔」
「アニキ……ありがとう」
「それで、なんで今なんだ?お前だって見ただろう、あの師匠ですらかなり手ひどくやられていたんだぞ」
そこで十代と万丈目も会話に参加してきた。十代はまあ、なんというか十代らしい激励だ。万丈目の言う師匠は吹雪さんのことだろう。そうか、僕は結局ラストしか見てないけどそんなにひどいやられっぷりだったのか。
「うん、わかってるよ万丈目」
「万丈目さん……貴様何をする!」
「今話し中なんだからちょーっと黙ってようねー。続けて、翔」
もはや癖なのか条件反射なのか知らんけど、とっさに名前を訂正しようとした万丈目を押さえつけて話を促す。いい加減慣れりゃいいのに、万丈目も。
「うまく言えないけど、僕が……僕がやらなきゃいけないんだって、そう思ったんだ。今のお兄さんのデュエルは間違ってる。僕の知っていた、優しくて尊敬できるお兄さんに戻って欲しいんだ」
「翔……」
「それに、僕だってこの間までの僕じゃない。見てよ、これ」
そういってジャラジャラとテーブルにぶちまけたのは、全てジェネックスのメダル。僕がやれ店だそれうさぎちゃんだとか言ってる間、ずっと人知れず修行を続けてきたのだろう。
「今日も、元オベリスクブルーのホワイトを1人倒してきたんだ」
「オベリスクブルーを?じゃあ翔、逆に聞くけどさ、なんでまだ迷ってるのさ?」
「え?」
「そりゃ、それだけ嬉しくなさそうな顔してれば嫌でも気づくって」
僕の言葉に、十代も真剣な顔で頷く。
「リスペクトデュエル、か」
「アニキ……」
「お前のデュエルも何回か見てたけどさ、どことなくやり方がカイザーに似てるんだよな。お前の中ではカイザーのリスペクトデュエルはまだ完成してないんだろ?」
「うん、実はそうなんだ。僕はまだお兄さんには遠く及ばないのに、どうすればお兄さんに近づけるのかがわからないんだ……」
何か言おうかと思ったけど、こういったことに部外者が口を出すのは逆効果かと思い直す。僕に言わせりゃ必要以上にカイザーの背中を追いかけすぎて自分のデュエルスタイルを見失ってるようにしか見えないけど、そもそも先代からのちょっかいがあったとはいえ怒りに任せてモンスターを捨て石にするデュエルをついこの間まで繰り返してた僕がそれを言っても説得力がないだろう。
「まあ、今日明日のうちにデュエルしにいくわけじゃないんでしょ?ジェネックスは続くんだし、まだまだのんびりやろうよ」
「う、うん」
「気の長い話だな。まあいい、俺はもう部屋に戻る」
万丈目がそう言ったのをきっかけに、その日はそれでお開きの流れになった。結局翔の悩みを解決することはできずにその表情は暗いままだったが、たぶん大丈夫だろう。翔だって案外精神力は強い方なのだ。もう翔の仲じゃ黒歴史だろうけど、なにせこのヒト偽ラブレターに引っかかってわざわざ男子禁制の女子寮まで忍び込む行動力があるんだから。
「大変だドン、カイザーがエド・フェニックスと正門前で鉢合わせて睨み合ってるザウルス!リベンジマッチが始まるんじゃないのかって学校中大騒ぎになってるから、アニキたちも早く来るドン!」
そんな知らせを剣山が持ち込んできたのが、その次の日。ったく、僕がいくらのんびりって言ってもヘルカイザーの方から何かやらかすんなら意味ないじゃないの。とはいえ、いくらアカデミアが広いとはいえ1つの島の中に本校プラス大会の時から帰らないノース校の皆さん方、それにプラスでわんさかやってくるプロデュエリストだ。これだけ人口密度が上がってれば、そりゃむしろ出会わない方がおかしいといえばその通りだけど。
「ぼ、僕」
「行こうぜ、翔!」
「センキュー剣山!」
僕と十代が走り出すと、若干遅れて翔も駆けだした。ま、これもいい機会といえばその通りか。あとは、これがいい方に転んでくれるのを祈るだけだ。
しばらく行くと、剣山の案内が無くてもすぐに分かった。なにせおなじみの白服軍団の他にも、今話題沸騰中のプロデュエリストかつ因縁の相手である2人のデュエルが見られるかもしれないと島の外から来たプロまで一緒になって人だかりを作っていたからだ。当然というかなんというか、クロノス先生とナポレオン教頭の姿もある。仮にも生徒と元生徒に対しその態度はどうかと思わなくもないが、それもあの先生たちらしい。
「お兄さん!」
翔もなんとかしてその人だかりの中に入っていこうとするものの、いかんせん背が低くて力も一般人並みにしかない翔ではデュエリストの中を割って入るのは難しいようだ。見ていても仕方がないので後ろから手を伸ばし、人だかりを片っ端から掴んではこじ開けていく。僕も見たいから自然と熱が入り、ついうっかりダークシグナーの力を使わないようにこらえながらの作業なので案外骨が折れる。慰謝料的な意味で怪我させたら大変だし。それでもどうにかヘルカイザーが見えるようになってくると、その間に割って入るように翔が飛び込んでいった。
「お兄さん、やめて!リベンジのデュエルなんて、そんなの間違ってるよ!」
「いいや、違うな」
「え……?」
ヘルカイザーは無視。代わりになのかなんなのか、エドが口を開く。
「あの眼を見ろ。どうやらこの男、僕へのリベンジなんかよりもっと上を目指しているらしい。僕だってそちらにやる気がないのならわざわざデュエルするつもりもない、集まってくれた観客には悪いが一度退かせてもらうよ」
それだけ言っていつもの余裕ぶった態度で一礼し、慌てて人だかりが道を開けた中を悠々と歩き去っていく。と思ったらかすかに、本当にかすかに僕のことを手招きしているのが見えた。そっちを見てた僕だからかろうじて気づけたけど、多分他の皆はヘルカイザーと翔に気を取られて全く見ていなかっただろう。一瞬ためらった後、無言で十代の肩を軽くたたいてエドが歩いて行った方向を指さし、そのままその後を追いかける。どうもこの場所では、このまま翔とヘルカイザーのデュエルが始まるらしい。あっちも見たかったのに。
「来たよー。何の用?」
人ごみから離れた海辺。こんなに波音がする場所にわざわざ連れ込むだなんて、盗聴でも警戒してんのか。
「ここまで来れば、もしマイクが仕掛けられているとしても気休め程度にはなるからな。お前もプロになればこれぐらい嫌でも身につく」
あ、本当に盗聴警戒だった。何かプロの世界の裏事情が垣間見えた気もしたが、本題ではないのでスルー。なにせこのエドのことだ、わざわざ僕相手にプロとしての心構えをレクチャーするためだけに呼びつけるわけがない。
「……単刀直入に聞こう。斎王について、お前はどこまで知っている?」
「と、いうと?」
こちらの目を覗き込むようにしながら、僕の返答をじっくりと考えるエド。たっぷり30秒ほどそうしてから、スッと視線を逸らした。
「どうやら何も知らなさそうだな。そうか、斎王め。僕と十代にはこんなものを渡しておいて、こいつには何もしなかったのか。まったく、新年度から妙に気にしていたからもしやと思っていたんだがな」
そうひとりで納得し、とんだ無駄足だったと1人ごちるエド。どうやら、まーた僕が蚊帳の外にいる間に何かあったらしい。もっとも、僕だって稲石さんのゴーストリック・フロストや古井戸のうさぎちゃん、それにペガサスさんからもらったカードのことは誰にも話してないからお互い様といえばその通りだけど。
だけど、それは全部僕の個人的なことだ。一方、光の結社並びに斎王は僕にとっても色々関係がある。おかしくなった三沢達だけでも元に戻してもらわないと、あの斎王様万歳なテンションと卒業するまで付き合っていけとか言われても困る。
「さて、することもないしもう一度斎王でも訪ねてみるかな。どうせ会わせてもらえないだろうが」
「いやいや、待って待って待って」
本気でその場から立ち去ろうとしたので、さすがにそりゃないだろうと慌てて呼び止める。すっごくめんどくさそうな顔で振り向いたエドに対し、ここでうやむやにしてなるものかと問い詰める。
「その話、もうちょっと僕にも教えてよ……ダメ?」
「ああ」
「あ、そ。だったら、悪いけど無理にでも聞きだすさ」
もうこの時点で、僕が何を言いたいのか分かったらしい。不敵な笑みを浮かべ、自分のデュエルディスクを起動させる。ここで断ったりしないあたり、やっぱりこの男も真正のデュエリストだ。
「いつかとは違って手加減はしない……本物のヒーローを見せてやる」
「「デュエル!」」
「先攻は僕、か。まあいいだろう、モンスターをセットしてカードを4枚伏せ、ターンエンドだ」
まずはセットからはいるエド。表側守備表示で出せばいいのにわざわざセットなんて、あのモンスターは恐らくリバースモンスター……それも他の手札をすべて伏せたところから察するに、かなり高い確率でメタモルポッドとみた。
「そうと決まれば、僕のターン!」
メタモルポッドへの対抗策はひとつ。徹底的にこちらの被害を減らし、逆に利用してやるのだ。とはいえ、残念ながらこちらの手札にはモンスターカードが3枚あるためどうしても2枚はそのまま捨てるしかない。とはいえ1枚は墓地にあってこそ力を発揮するキラー・ラブカのカードだ、そこまで痛いわけではない。
「シャクトパス、召喚!」
シャクトパス 攻1600
「さらにカードを2枚伏せて、バトルフェイズ。シャクトパスで……」
「トラップ発動、邪神の大災害!相手の攻撃宣言時、フィールドの魔法及びトラップをすべて破壊する!」
「へ?」
思わず間抜けな声が漏れるが、シャクトパスの攻撃はもう止まらない。モンスターゾーンの周りを不気味な風が吹き荒れ、今伏せた僕のカードとエドの場の伏せカードを消し去りにかかる。
「そうだ、そんなカード使ったらそっちだって……」
「おいおい、まさか策なしで僕が闇雲にカードを伏せたとでも思っているのか?それにチェーンして2枚の伏せカード、無謀な欲張りを発動!」
一時的な2枚のドローと引き換えにその後2回ものドローフェイズをスキップする大きなデメリットがあるカード、無謀な欲張り。だけどその効果も同名カードを2枚まとめて発動することで、4枚ドローして2回ドローフェイズを我慢するだけとなり大幅にお得なコンボになる……!
「そして今攻撃したカード、おおかたメタモルポッドあたりと読んだんだろうけど、その考えは浅すぎる」
シャクトパスが無数の触碗を伸ばして四方から伏せモンスターを締め落としにかかるが、カードの裏から2本の野太い岩石の腕が伸びて弾き返す。
シャクトパス 攻1600→??? 守2700
清明 LP4000→2900
「は、反射ダメージだけで1100持ってかれた!?」
「そう。守備力2700、ディフェンドガイだ」
ディフェンドの名が示す通り、リリースなしで召喚できるレベル4モンスターとは思えないほどの岩の巨体が生み出す質量感。この壁を突破するのは、並大抵ではなさそうだ。
「このターン、もう僕に手はない……ターンエンド」
エド LP4000 手札:4
モンスター:D―HERO ディフェンドガイ(守)
魔法・罠:なし
清明 LP2900 手札:2
モンスター:シャクトパス(攻)
魔法・罠:なし
「僕のターン、無謀な欲張りのデメリットでドローフェイズがスキップされるためドローはできない………だができる。魔法カード、デステニー・ドローを発動!手札からD-HEROを捨てることで、カードを2枚ドローする。さらにここで、セメタリーに落ちたディアボリックガイのエフェクト発動!墓地に存在するこのカードを除外することで、デッキから同名モンスターを特殊召喚する。カモン、ディアボリックガイ!」
「うわっ……って、あれ?」
おどろおどろしい筋骨隆々な悪魔のシルエットに、思わず身を固くする。だがそれに反して、正体を現した悪魔はとんだこけおどし程度の能力だった。
D-HERO ディアボリックガイ 攻800
「まあ慌てるな。このディアボリックガイをリリースし、ダブルガイをアドバンス召喚!」
次いで現れたのは、いかにも英国紳士といったたたずまいの黒服を着てシルクハットをかぶり、ステッキを手に持つ男。その攻撃力も見た目通りというかなんというか、ディアボリックガイよりはわずかに上だがぶっちゃけそんなに変わってない。
D-HERO ダブルガイ 攻1000
「そしてフィールド魔法、ダーク・シティを発動する」
周りから十代のスカイスクレイパーのような摩天楼とはまた少し違う、イギリス風の建物がニョキニョキと生えてくる。霧の町ロンドンということなのか、うすぼんやりと霧がかかってきたせいで細かいところはよくは見えないのだが。
「バトルだ、ダブルガイでシャクトパスに攻撃、デス・オーバーラップ!」
紳士が異様な跳躍力で近くの建物のてっぺんまで飛び上がり、帽子とマフラーの間にわずかに見える冷たい目でシャクトパスの位置を見下ろしてから手に持つステッキで串刺しにせんとばかりにジャンプして落下速度をつけながら迫る。とっさに触碗を伸ばして迎撃しようとするも、なんとダブルガイの背中から霧にまぎれてもう1対の腕が、それも紳士の方とはまるで違う緑色に光るたくましい腕が伸びて無造作にそれを引きちぎる。
D-HERO ダブルガイ 攻1000→2000→シャクトパス 攻1600(破壊)
清明 LP2900→2500
「まさか、このフィールドって」
スカイスクレイパーとよく似た構図の夜の町型フィールド魔法。そして今のダブルガイの攻撃力倍増。
「そう言えば、このカードを使った時にお前は倒れていたんだっけな。ご想像通り、このカードはディーヒーロー版のスカイスクレイパーとでもいうべきカードさ。もっとも、僕に言わせればこちらの方が本家だがね」
やっぱりか。1000ポイントの補正はなんだかんだいってかなり大きい。アクア・ジェット使いの僕が言うんだから間違いない。もっとも、僕のアクア・ジェットのカードはついさっき邪神の大災害に吹き飛ばされたけど。
だが、こちらだってやられてばかりはいられない。紳士の杖に貫かれたシャクトパスの触碗がぴくぴくと動き出し、勢いよくその体をがんじがらめにする。
D-HERO ダブルガイ 攻1000→0
「おや」
「シャクトパスが戦闘破壊された時、そのモンスターは鮫の呪いを受ける。攻撃力は0になって表示形式も変更不可、さらに攻撃宣言もできなくなるよ」
「なるほど、これならダブルガイの2回攻撃も使えないな。僕はこれでターンエンドだ」
「………ドロー!」
ディフェンドガイはともかく、その横には攻撃力0のモンスターが突っ立っているだけだという状況なのに、まるで真剣さを感じさせないエドの態度。嫌でも何か裏があるのかと勘繰らざるを得ないが、いい的がそこにいるのに戦わないというのも変な話である。
「スタンバイフェイズにディフェンドガイのエフェクトが発動する。このモンスターはリリースなしで召喚可能な中でも5本の指に入るほどの高守備力を持っているが、その代償として相手スタンバイフェイズごとに1枚のドローを許すというデメリットがある。さあ、どうぞ」
「そりゃどうも、っと。1枚ドローしてメインフェイズ、オイスターマイスターを召喚。そのままダブルガイに攻撃!オイスターショット!」
オイスターマイスター 攻1600→D-HERO ダブルガイ 攻0(破壊)
エド LP4000→2400
確かに攻撃は通った。ダメージも大きい。だけど、全然すかっとしないのはなぜだろう。むしろ、まんまと罠にかかったような気分になる。考えすぎ、だろうか。ダーク・シティの効果を考えるとオイスターマイスターの攻撃力じゃ不安だしブラフでもなんでも伏せカードを用意しておきたいところだけど、あいにく手札にはモンスターカードしかない。だけど、口ではそんなこと言わない。ここで隙を見せたり弱気になったりしたら、もう手はないですって自分からばらしてるようなものだ。
「これでターンエンド。さ、かかってきな」
エド LP2400 手札:2
モンスター:D―HERO ディフェンドガイ(守)
魔法・罠:なし
場:ダーク・シティ
清明 LP2500 手札:3
モンスター:オイスターマイスター(攻)
魔法・罠:なし
「僕のターン。まだ無謀な欲張りのデメリットでドローフェイズは行えずにそのままスタンバイフェイズ、ダブルガイのエフェクトが発動される。このカードは破壊された次のスタンバイフェイズ、ダブルガイ・トークンを2体場に残していくのさ」
エドの言葉に反応するかのように、霧の町を縫って2体の巨人が建物の影からやってくる。粗野な野人といっても過言ではない風体の2人はなんと驚くべきことに、ついさっきダブルガイの背中から一瞬見えたあの緑色の手と明らかに同一人物だった。
ダブルガイ・トークン 攻1000
ダブルガイ・トークン 攻1000
「それとドローできないぶん、このターンは代わりにこのカードでドローさせてもらう。魔法カード、闇の誘惑を発動!デッキからカードを2枚引き、手札の闇属性モンスターを1体除外する。今回は特に出番もなさそうだし、このドレッドガイを除外するとしよう」
ドローフェイズが行えないことをまるで感じさせない手札交換っぷりは、さすがにプロといったところか。それにしても前回の童実野町でのタッグで使用していた大型モンスター、ドレッドガイを除外してまで手札に残しておきたかったカードとは何だろうか。
「これで良し、だ。僕のフィールドに存在するディーヒーローを含む3体のモンスターをリリースし、このカードを特殊召喚!カモン、ドグマガイ!」
「3体リリース、かぁ……」
3体リリース。なんかこう、いつぞやのラビエルといいついこの間のラーだったりアバターだったりといい、どうもこの手の超大型モンスターにはいい思い出がない。きっと今回もろくでもないのが出てくるんだろうな、と半ば諦めていたら、それは現れた。十代のフレイム・ウィングマンがよくスカイスクレイパーのビルのてっぺんで満月をバックに立っているのとちょうど同じような構図で、霧の町を舞台に悪魔の羽を生やした闇のヒーローが威圧感たっぷりに、だけどどこか気品あふれる仕草で静かに僕らを見下ろす。
D―HERO ドグマガイ 攻3400
「攻撃力、3400………」
「その通り。そのエフェクトはもう少し後でのお楽しみだが、バトルは今からでもできる!オイスターマイスターを粉砕しろ、デス・クロニクル!」
ドグマガイの右腕に鎖で巻きつけられた剣が光を放ち、その体がオイスターマイスターに音すら立てず一瞬で迫る。回避も牡蠣での防御もままならないまま、上段からの斬り下ろしをまともに受けたオイスターマイスターの体が消え去った。
D―HERO ドグマガイ 攻3400→オイスターマイスター 攻1600(破壊)
清明 LP2500→700
向こうの方がはるかに攻撃力は上だったためダーク・シティによるバンプアップは無かったから、今の攻撃はぎりぎり耐えきれた。オイスターマイスターにはすまないことをしたけど。それはいいとしてあのモンスター、どうやって倒せばいい?
「僕のターンはこれで終了」
「僕のターン、ドロー」
カードを引いた瞬間、エドがかすかに笑みを浮かべた。その瞬間、ドグマガイが羽を広げてそこから黒い閃光が放たれる。僕の体をその闇が覆い、全身から力が抜き取られるような感覚がした。
清明 LP700→350
「僕のライフが!」
「そう、これこそがドグマガイのエフェクト、ライフ・アブソリュート。自身の特殊召喚に成功した次の相手ターンのスタンバイフェイズのみ発動される、ライフ半減効果。もっとも、元から少ないそのライフではあまり意味もないかな」
落ち着け、落ち着け。ライフ半減と聞けば確かにとんでもないことだけど、350バーンとして考えればぜんっぜんたいしたことない効果だ。おまけにあの効果は1回しか使えない、あとはもう目の前にいるのはただの火力馬鹿。まだ戦える!
「永続魔法、水舞台を発動!」
霧の街のあちらこちらに熱帯の海を思わせるカラフルな岩やイソギンチャクが生え、街並みが水没してさながら水中都市、というかぶっちゃけ廃墟のような有様になる。
「さらに、キラー・ラブカを守備表示で召喚。これでターンエンド」
キラー・ラブカ 守1500
今僕の使った水舞台は、フィールドに存在する限り僕の水属性モンスターが水属性以外には戦闘破壊されなくなるという強力な効果を持っている。とにかくこれで1ターンでも時間を稼いで、ディメンション・スライドや激流葬といったモンスター除去のカードを引けば……!
エド LP2400 手札:1
モンスター:D―HERO ドグマガイ(攻)
魔法・罠:なし
場:ダーク・シティ
清明 LP350 手札:2
モンスター:キラー・ラブカ(守)
魔法・罠:水舞台
「そんな消極的な手で時間稼ぎのつもりか?僕のターン、ここから僕もドローができるようになる。これで、お前はもう終わりだよ」
「なっ!?」
「確かに今、僕の手札にサイクロンなどの魔法・罠除去のカードはない。だが、もうそんなものは必要ない!カモン、ダンクガイ!」
D―HERO ダンクガイ 攻1200
どことなくバスケットボールのプレイヤーを思わせる出で立ちのディーヒーロー。彼が念を込めるとその右手に、光のボールが生まれた。それを持ったままこちらに突進してきて、ラブカの頭上高くにジャンプしてから僕に向けて叩き付ける。
「ダンクガイは手札からディーヒーローを1体捨てることで、相手プレイヤーに直接500のダメージを与えることができる。そして僕はこのエフェクトで、手札のディパーテッドガイを捨てる!」
「これは……」
清明 LP350→0
「まったく、てんで話にならないね。その程度の実力で、むしろよくこのジェネックスを生き延びてこれたものだ」
何も言い返せない。僕は負けた。それも見事なまでの完敗だ。唯一与えることができたオイスターマイスターの攻撃さえも、ダブルガイ・トークンを生み出すための罠として掌の上で踊らされていただけにすぎない。
「だいたい、本来ならばひとつ前のターンで攻撃力1000のディパーテッドガイを通常召喚していればドグマガイと合わせての攻撃でもっと早く勝負はついていたんだ。十代のようなドロー力でも見せてくれるのかと思ってわざわざ1ターン待ってやったというのに、できたことがあんなつまらない手での延命とはな」
「………」
「最後に1つだけ忠告しておこう。お前じゃ足手まといにしかならないから、斎王に正面切って刃向うのはやめておくことだな」
それだけ言って、今度こそ歩き去っていくエド。最後の一言は、彼なりの優しさのつもりなんだろう。この間タッグデュエルした時から思ってたけど、案外エドも最初のころの印象より悪い奴ではないのかもしれない。
だけど、その一言は僕にとっちゃ完全に逆効果だ。こんなところで立ち止まっていたら、何も取り戻せない。手放したくないものがあるなら、自分で掴み取ればいい。それができないと、それは自分のせいではないと自分に言い聞かせながら生きていくことになる………エドがあの時僕に向かって、そしておそらく自分に向けても言った言葉だ。そんな人生を送るのは、少なくとも僕はまっぴらごめんだ。年下相手に人生を教わるのも癪だけど、言ってることが正しいのなら反発することもない。確かに今はまだ僕も力不足だけど、これからもっともっと強くなる。なってみせようじゃないの。エドへのリターンマッチはその後でいい。
だけどとりあえず、今できることは自分の負けに対しけじめを示すことだろう。ポケットから僕が最初にもらったのとフランツから奪ったジェネックスのメダルを引っ張り出して、エドの後姿に投げつける。あ、くそ、当たんなかった。もうちょいしっかり頭狙って投げればよかった。
「覚えてなよ、次は勝つからね!」
何も言わないエド。だけど、ほんのわずかに彼が笑ったような気がした。
後書き
しかしよっわいなこの主人公。
ちなみに今回もサイバー・ダークの出番カットなのは、個人的にリスペクトする某GX二次書きさんの最新話が丁度ヘルカイザー回だったからです。ディーヒーローも書きたかった、というか修学旅行で出しきれなかったのが心残りだったからまあエド回にするのもそれはそれでいいかなと。
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