ファイナルファンタジーⅠ
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33話 『交錯する想い』
前書き
【31話からの続き】
「5人とも、無事だったか」
「お帰りなさい……!」
オンラクの町の波止場の海中から戻って来たランク、シファ、ビル、ルーネス、レフィアを出迎えるイングズとアルクゥ。
「嵐が治まって海が穏やかになったから、きっと元凶を倒せたんだと思ってたよ!」
「ハイっ、水のカオスを倒して人魚さん達を助けてあげられました…!」
アルクゥにビルが答え、レフィアが仲間の二人に声を掛ける。
「あたし達が[空気の水]で海底神殿に行ってる間、町の方は大丈夫だった? ……ってゆうかイングズ、何で忍者から吟遊詩人になってるわけ?」
「町の人々を勇気づける意味で吟遊詩人になり竪琴を手に歌った所、思いのほか好評で次々と歌を披露していたら襲撃して来た海魔逹を町の人々が、歌の効果も相まってかすぐ様返り討ちにしてしまった」
「イングズ、歌上手かったからね。町の人逹、かなり高潮してたもん」
「……いや、これもジョブの力のお陰だろう」
「ずっと荒れていた海が、ようやく穏やかになった……!」
「海魔が襲って来る心配も、無くなるのね!」
「これで美しい水の都を取り戻す事が出来る……!」
「旅人さん達に感謝して、今夜は宴といこうじゃないか!!」
「そりゃいいや! おれハラ減った~っ」
そう云って腹をぐうっと鳴らしたルーネスは、町の人々の笑いを誘った。
……しかしランクだけはどこか晴れない表情をしており、気に掛けたシファが話かける。
「どうしたのランク、水のカオスを倒して二つ目のクリスタルの輝きを取り戻せたんだから、少しは喜んだら?」
「ホントなら三つ目のはずだろ。……アイツが戻って来ねェと意味ねーよ」
────ひと通り宴の席で町の人々と交流したあと、アルクゥとビルの二人は噴水前のベンチに腰掛け暫し語らう。
「良かった、こうして町の人逹が元気になってくれて……」
「そうでスねぇ、あちこち壊れちゃってまスけど、きっと復興できまスよっ」
「ビル逹は、これからどうするの?」
「えぇっとでスね……、一度仲間のマゥスンさんが戻って来てるかどうか、確かめに行かなきゃならないと思いまス」
「そっか……、事情は知らないけど、もう一人の仲間とまた会えるといいね」
「アルクゥさん達は、どうされるんでスか?」
「う~ん、とりあえず僕達なりの旅は続けてくつもりだけど……ひとつ、聞いていいかな。君達は、"次元の狭間"っていうのを知ってる?」
「ふえ? 次元の狭間……でスか??」
「うん、何かこう……空間の裂け目みたいな」
「そう、でスねぇ……。見た事あるような、無いような───」
その時ビルの脳裏に、禍々しい黒水晶から発生した暗黒の裂け目のような映像がよぎり、思わず目眩がして前のめりそうになった。
「ビル、大丈夫? ごめん、おかしな事云っちゃったかな」
「い、いえっ、そんな事ないでス。見た事、あるような気がしまスけど、よく思い出せなくて……すみませんでス」
「謝る事ないよ、可能性があるって分かっただけでも───」
「あ、えっと……イングズ?」
「 ───ん? あぁ、君は……シファだったか」
宴の席から外れて木の幹に立ったまま背をもたれ掛け腕を組んでいた青年に躊躇いがちに声を掛け歩み寄るシファ。
「さっきまで皆の前で竪琴を奏でて歌ってたの、聞き惚れちゃいました。吟遊詩人でもあったなんて、すごいなぁ」
「まぁ、これはひとえにジョブの力であって……それより、何か用か?」
「えっと、確か聞きそびれてたと思うんだけど……あなた達は、どこから来たの?」
「それは────秘密、という事にしておいてくれないか」
「え? あ、うん……。通りすがりの、旅人みたいなものって云ってたけど、何の目的で旅してるかとかも聞いちゃいけない、かな」
「目的は……そうだな、還るべき場所を探している」
「還るべき、場所……?」
「あぁ、……何故だか還り方が判らなくてな」
「それって、記憶を失くしてるって事?」
「いや、そういう訳じゃない。どういう訳か、全く見知らぬ場所に来てしまったようで途方に暮れていた所、とりあえず近くの村か町に寄って考えをまとめようとしたら……このオンラクという町が、海魔に度々襲われていると知り手助けをしていたんだ」
「そう、なんだ……。わたし達の場合は、どこの出身なのか記憶が失くて……でも、役目を与えられて────4人で、旅をしている途中なの。今は1人、欠けちゃってるけどきっと、戻って来てくれるはずだから」
「そうか。……仲間と無事、再会できるといいな」
「うん、あなた達も還るべき場所が見つかるといいね」
「 ────波止場で1人黄昏ちゃって、どうしたの?」
「せっかくの宴会なんだし、みんなと楽しまないともったいないぜ~!」
1人波止場の先端に座り込み、穏やかな夜の海の水平線を眺めていたランクにレフィアとルーネスの二人が、後ろから声を掛けて来た。
「……うるせーな、用が無くなった町のヤツらと馴れ合う気ねェよ。明日になりゃ出てくンだしな」
「あなたってぶっきらぼうねぇ。……ちょっと聞いておきたいんだけど、あなた達のもう1人の仲間ってどんな人?」
「あ、そういや何でか知んないけど今は離れてるんだってな? 今のレフィアと同じ、赤魔だとか云ってなかったっけ??」
興味を抱いているらしいレフィアとルーネスに、ランクは少し間を置いて答える。
「………。よく分かンねーよ、アイツの事は」
「え、何よそれ、仲間なのに分からないの?」
背を向け座り込んだままボソリと云うランクに、レフィアは怪訝に感じる。
「あんましゃべんねェし、何考えてンのかサッパリで……ほとんど無表情だし、オトコかオンナかも分かったもンじゃねェ」
「何だそれっ、そいつどんな外見だよ?」
ランクの話から、ますます気になってくるルーネス。
「髪は……白くて長ェ。体は────普段赤マントに隠れてやがるけど細身で、胸はオンナみてェに突き出てるようには見えねーな……。声は、ハッキリした男って感じでも女っつう感じでもねェっつーか」
「あ~、ムネに関してはアレだぜ? マナ板同然に見える女ってのはいるもんだ! レフィアみたいにな~?」
「 ────ルーネス、あんたそんなにあたしに斬られたい?」
レフィアからただならぬ殺気をかんじてルーネスは思わず後退るが、ランクはお構い無しに独り言のように呟く。
「背は高ェ方だと思うが、オレと同じくらいか……? 何度か抱えた事あっけど、割と軽かった」
「抱えたって……、どんな状況だよそれ」
「そこまで話す気ねェよ。……もういいだろ、オレのこた放っとけ」
「 つまり、あなたとしてはもっとちゃんと知りたい訳ね、その人の事」
「否定は……しねェよ」
「ふぅん。だったら次に会った時、色々ハッキリさせてみたら? 強引すぎるのは良くないけど」
「云われなくても、そのつもりだっつの」
「う~ん、話聞いてたらおれも会ってみたくなったな? このままランク達に付いてくか!」
「あのねぇルーネス、あたし達は別にやる事あるでしょ。余計な事考えるんじゃないわよっ」
「オマエらには一応、感謝してるぜ。手伝ってくれてサンキューな」
仏頂面ではあるが、レフィアとルーネスに顔を向けて礼を云うランク。
「いいって別に、困った時はお互い様だろ!」
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