ファイナルファンタジーⅠ
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34話 ≪視えない心≫
前書き
《32話からの続き》
「異世界への入り口、輝く島への封印が解けた……! すぐにでも向かいたい所だけど、何があるか分からない場所だ。リンドブルムで体勢を整えて、翌日改めて出発しよう!」
ジタンがそう呼び掛けると、他のメンバーは力強く頷き返した。
「……ところでアナタ、元の世界に帰れる方法見つかったの? このままだとあたし達が目指してる所と同じ場所に行っちゃうだけな気がするけどっ」
「異世界へ通じるゲートとなる輝く島にて、事象の異なる次元の狭間とやらを見つけられればそこから別ルートを通してマゥスンは元居た世界へ戻れるようなのじゃが……それが見つからなかった場合は、どうするのじゃ?」
エーコとフライヤが気遣うように問い、マゥスンは至って冷静に答える。
「 ───別の手段を探るしかないが、これ以上そちらに迷惑を掛けるつもりはない。例えこのまま消える事になっても、自らの不始末でしかない」
「そーゆうこと云わないの! 無事に帰ってもらわないと後味わるいじゃないのっ」
「そうだな、消えねぇように俺が見張っといてやる」
エーコにサラマンダーが珍しく同感し、次いでビビとスタイナーも言葉を添える。
「待たせてるヒトが、いるんだよね。いなくなったりしちゃ、ダメだよ」
「案ずるより産むが易し! 何とかなるのだ!」
「そうアルな~、カエルは帰るものアルよ」
「クイナ、それ云いたいだけじゃあ……。でもきっと戻れるわ、あなたの居るべき場所へ。そうでしょう、ジタン?」
「あぁ、ガーネットの云う通りだ。オレ達があきらめさせたりしないからな!」
「 ───── 」
皆の言葉を受け何を感じてか、マゥスンは無表情のままだが静かに頷き返した。
「ほんとはアナタって、記憶失ってたわけじゃないんでしょ? ……だったら元の世界に帰っちゃう前に、色々しゃべってもらうわよ! アナタのことほとんど何も知らないままお別れなんて、納得できないものっ」
「これエーコ、マゥスンはただでさえ<精神体>を維持するのに消耗しているのじゃから、輝く島へ出発する翌日までゆっくり休ませねば」
「えぇ~、だけどぉ……!」
「わがまま抜かすんじゃねぇ。……お前は村を出た一人前で、もうガキじゃねぇんだろ」
「そ、それとこれとは話が別よっ!」
フライヤとサラマンダーに諭され、きまりの悪くなるエーコだが当のマゥスンは若干間を置いて口を開く。
「………。話せる範囲でなら、私は構わないが」
「ほら! この人だってこう云ってるし、少しだけでもお話させてよ~っ」
「じゃあリンドブルムに戻ったら、エーコ達はすぐお城の客室に行くといいわ。わたしとスタイナー、ビビとクイナであなた達の代わりに城下町で色々と準備をしておくからね」
ガーネットが提案し、ジタンはそれに同意する。
「そういう事なら、オレとサラマンダー、フライヤとエーコでマゥスンに無理させない程度におしゃべりと行こうか!」
「何故俺まで、その中に入るんだ」
「サラマンダーよ、何か云いそびれた事があるなら今の内に聴いておかねば、後がないやもしれぬぞ?」
「……余計な世話だ、フライヤ」
────リンドブルムに着くと早速、広々とした城の客室でマゥスンをゆったりとした椅子に座らせたエーコは嬉しげに話を促す。
「ねえ、まずはアナタの"仲間"のこと聞かせて! "いない"だなんて、云わせないわよっ」
「………。白魔道士と黒魔道士が1人ずつ、あとはシーフが居る」
「へぇ、そうなのか! オレと同じっぽいのがいるな? 白魔と黒魔っていったら、オレ達の中でガーネットとビビみたいなもんだな!」
ジタンが面白そうに口を挟んだ。
「じゃあアナタには、三人の仲間がいるのね? ……って、それだけじゃよく分かんないわよ! もっと具体的に男か女か、どんな人なのか教えてちょーだいっ」
「 ───── 」
「マゥスンよ、話せぬ事なら無理に答えずとも良いぞ」
急かすエーコに、表情の読めない端正な顔立ちと共にうつむき加減で間を置いたまま、なかなか話そうとしないマゥスンを気遣うフライヤ。
「………思いやりのある白魔道士の少女に、内気な黒魔道士の少年。シーフはぶっきらぼうな男───といった所だろうか」
「ふぅん、白魔と黒魔の人はやっぱりガーネットとビビみたいな感じね? シーフの人はジタンっていうより……、サラマンダーに近いかしらっ?」
「俺に振るな」
「………。サラマンダーほど逞しくはないが、雰囲気は似ているかもしれない」
「ほ~らねぇ?」
「……知るか」
してやったりなエーコと、こちらを静かに見つめてくるマゥスンにサラマンダーは、立った姿勢で壁に背を寄り掛からせ腕を組んだまま、顔だけそっぽを向いた。
「う~ん、そうなるとアナタの場合はフライヤに似てるかしらねぇ? 髪の感じとか、雰囲気とか……」
「まぁそうだけど、マゥスンの方が何ていうか、感情が希薄だよなぁ。その点フライヤは怒る時怒ったりするし、感情はちゃんとある方だぜ?」
「ふむ……、ジタンの云うようにマゥスンはどうも、喜怒哀楽の感情が欠けている気はするのう」
「 ───── 」
そう指摘されても、本人は何も返さず黙っている。
「余計な事を云わねぇ分、付き合うには楽だと思うがな」
「え? サラマンダーってば、マゥスンと付き合いたいのっ?」
「そういう意味で云ってんじゃねぇ……、これだからガキは──── 」
エーコのイタズラっぽい云い回しに、サラマンダーは軽く舌打ちして再び顔を背けた。
「そういえば、男の人か女の人かハッキリしないって云えばク族のクイナと似たようなものよね!」
「お、おいエーコ、それ云っちゃあ……!」
何故か云われた本人より、ジタンが困惑している。
「だってそうじゃない? 髪は長くてパッと見女の人っぽいけど声が低めだし、だからって男の人の声って感じでもないし! 胸の辺りも特に膨らんでないでしょ? あたしはまだまだ成長過程だけどっ!」
「 ………… 」
相変わらず無表情のマゥスンは、楽しそうに話し続けるエーコを静かに見守っている。
「で、結局アナタって─── 」
「エーコ、それ以上追究するな」
サラマンダーが、いつも以上に声にドスを利かせてエーコを言葉で制した。
「え~? 何よサラマンダーってば! あたしが聞きたいのは、この人が仲間の人とちゃんとお話したことあるのかってことよっ!」
「な、何だ……肝心なとこ聞きたかったワケじゃないのかよ、エーコ……」
ジタンは少し、残念そうにうなだれた。
「肝心なことでしょ! どう見てもこの人、仲間の人と楽しくおしゃべりとかしてなさそうじゃないの! きっとアナタのその無愛想すぎる感じに、仲間の人はすっごく物足りなく思ってるはずなのよっ!」
「 ───── 」
「ほら! そのダンマリがいけないの! アナタってば、どこに感情おき忘れて来ちゃったのよっ?」
「エーコ、そのようにまくし立てるでない。人の性分というものは、そう簡単に変えられはしないものじゃ」
「でもフライヤ、この人このまま元の場所に戻っても仲間の人と仲良くなろうとしないわよ! だからこの際、徹底的にダメ出しして……! ひゃっ、ちょっと何するのジタン!?」
急に小さな体をヒョイっと横抱き上げられ、エーコは驚いた。
「マゥスンに無理させないって約束だろ? 云う事聞けない女の子は、オレがここから盗み出しちゃうぜ?」
「じ、ジタンにならいくらでも盗まれたいけど……っ。あ~もう、いいわよ! お・や・す・み・な・さ・いっ!!」
エーコはジタンから離れ降りると、一度名残惜しそうにマゥスンへ一瞥を向けてプンスカ部屋を出て行った。
「んじゃあオレも失礼するけど……、後はよろしくなフライヤ、サラマンダー! ゆっくり休んでくれよ、マゥスン?」
ジタンもエーコに続いて、部屋を後にした。
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