ファイナルファンタジーⅠ
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32話 ≪火のガーディアン≫
前書き
《30話からの続き》
「じゃあエーコとガーネットは、レディファーストで先に行くけど………アナタ、ぜっったい無理しちゃダメだからねっ!」
「他のみんなも、気をつけて……!」
────異世界への鍵の1つ、[水面の鏡]の縁に記された、"我が力は、大地に囲まれし水の底にて守られる"……というイプセンの古城壁画の世界地図に示されていた場所に、飛空艇ヒルダガルデ3号から降り立つ際、小さな召喚士の女の子エーコは赤魔道士マゥスンの置かれた状況を盗み聞きで知った故に念を押しておき、黒髪で気品のある少女ガーネットと共に"水の祠"の攻略に向かった。
「……次のポイントの"火の祠"には、フライヤとサラマンダーに行ってもらうけど、マゥスンはどうする? 無理せず、オレ達がそれぞれの場所で用事を済ますまで飛空艇で待っててくれてもいいんだぜ」
盗賊の少年ジタンの気遣いに、マゥスンは表情ひとつ変えずに答える。
「 ────面倒を掛けるのは承知の上、自らの目で確かめなければならない事がある為、火の祠に同行させて欲しい」
「分かった、君の意志を尊重するよ。フライヤとサラマンダーも、それでいいか?」
「無論じゃ、サポートは任せると良い」
快く承諾してくれる竜騎士のフライヤ。
「……何故俺が、この二人と一緒なんだ」
「何だサラマンダー、不満なのか? "両手に花"のクセに、文句は無しだぜ! それとも何か、エーコかクイナと一緒がよかったのかよ?」
「 ………… 」
逞しい体つきの大男サラマンダーは、ジタンにそれ以上云い返す気にならない。
「ワタシはジタンと行く事になってるアルが、誰とでも構わないアルよ?」
「ボクは、スタイナーのおじちゃんとなら大丈夫………だと思う」
「自分は魔法が使えんので、ビビ殿がいれば心強いというもの!」
ク族のクイナ、黒魔道士の男の子ビビ、中年騎士スタイナーはグループ分けに不満はないらしい。
「……ジタンさん! 次のポイントまで来ましたが、これ以上近づくと危険です! 火山の熱で、エンジンがオーバーヒートしてしまいますよ!?」
警告を呼び掛ける飛空艇の女性操縦士エリン。
「"我が力は、高き山の熱き場所にて守られる"……。火の祠は、雪山に囲まれた活火山にあるわけか……!」
ブリッジの強化ガラス越しに見下ろした白銀の雪山の頂きにぽっかりと紅く煮えたぎる火口が覗き、その山頂付近に祠への入口らしき空洞が認められた。
「ギリギリまで接近したら、縄梯子で降りて祠に向かってくれ!」
「……では、私から行くとしよう」
フライヤは縄梯子を使わずに、多少の高さからでも難なく雪山に降り立ち、その足場には問題ないらしく後の二人に降りて来るよう片手を上げて合図した。
「フライヤは竜騎士で脚力が並じゃないから平気だけど、マゥスンとサラマンダーは縄梯子で降りた方がいいぜ!」
「……俺は後でいい、お前が先に行け」
マゥスンを促すサラマンダー。
「降りる時、気をつけてな? 先にフライヤがいるから、万一の事があっても大丈夫だとは思うけどさ!」
気に掛けてくれるジタンだが、当のマゥスンは躊躇いなく飛空艇から降ろされた縄梯子を伝って下りてゆき、途中強風に煽られるが問題なく降り立って白銀の雪山に赤マント姿が映える。
「……調子、悪くないみたいだな。サラマンダー、二人の事頼むぜ? 特にマゥスン……、エーコとビビから話は聞いけど、無理させないようにな!」
「お前に云われるまでもねぇ」
「へ~ぇ……、結構気になってるんだな?」
「 ………… 」
ニヤリとしたジタンが気に食わなかったのか、サラマンダーは縄梯子を使わず一気に雪山へ降りて行ったが、その勢いで雪の深みにはまり逞しい胸部まで埋まり込んでしまった。
「ふふ……、何をしておるのじゃサラマンダー?」
「 ───── 」
フライヤは苦笑するが、マゥスンは呆れる訳でもなく一切表情を崩さなかった。
……火の祠の入口らしき空洞を少し進んだ先は、見るからに赤々と熱気を放った鋼鉄の扉に閉ざされていた。
「ふむ……、素手では開けられそうにないの」
「一瞬でぶち抜けば、問題ねぇだろ」
フライヤに云うなりサラマンダーは片手の拳に気を溜めて扉にぶち込み、入口は見事に開かれるがそこから凄まじい熱気が溢れ出て来る。
「何という暑さじゃ……! 奥まで向かうより先に、こちらが参ってしまいそうじゃの」
「弱音吐いてるヒマあったらさっさと行くぜ」
灼熱の暑さに構わずサラマンダーが先行しようとした時、マゥスンが後ろから呼び止めた。
「待て。……ある程度熱を凌ぐ魔法を掛けておいた方がいい」
そう述べたマゥスンは、フライヤとサラマンダーに補助魔法の<バファイ>を掛け、二人はほの赤いヴェールに包まれた。
「有難い、これならば無難に探索できよう」
「……お前自身は、掛けねぇのか」
「 ────自分には必要性を感じない」
「その赤マント自体、熱避けにでもなってるのか? 見てるこっちが暑いくらいだがな」
「………もう一度、魔法を掛けた方がいいか」
気を悪くしたでもなく、再び同じ魔法を掛けるべきか聞いてきたマゥスンにサラマンダーの方がきまりが悪くなる。
「いや、二度手間するな。本気でお前の見た目が暑苦しいとか云った訳じゃねぇぞ」
「サラマンダー、何を弁解しておるのじゃ? ……とにかく、この先何が待ち受けているか判らぬ。慎重に進むとしよう」
フライヤが声を掛け、3人は火の祠の探索に入る。
────内部はそれほど複雑ではなく、モンスターもほぼいない代わりにそれなりの仕掛けが施されていたが、3人にとっては大した障害にはならず吹き抜けの開けた場所まで行き着くと、何かを納める為の台座のようなものが奥の方に鎮座しており周囲は静まり返っていた。
「案外、楽な行程であったが………ここが異世界への封印を解く場所の1つとなるようじゃの」
「……こんな事なら、独りで来ても充分だったな」
「それもここまで行き着かねば判らぬ事じゃ。後は、この台座に"鍵となる鏡"を置けば………」
物足りなさげなサラマンダーを横目に、フライヤが赤い縁取りの[猛火の鏡]を手に台座へと歩み寄る。
「 ────下がれ!」
咄嗟に赤魔道士のマゥスンが放った一声でフライヤは身を引き、直後台座の前に忽然と姿を現したのは床下まで蛇のようにとぐろを巻いた長く紅い頭部に身体は妖艶な女、蛇眼の瞳を持つ人ならざる存在が3人をねめつけた。
『ネズミ共が迷い込んだか……? 退屈しのぎには丁度良いな』
「何者じゃ、おぬし……!」
槍を構えるフライヤ。
『ほう……? この気配、やはりキサマだったか』
「 ………… 」
ふとその蛇眼は、マゥスンに据えられた。
『あらゆる世界の混沌の記憶は共有している………。かつて我が、火のカオスであったように。今ここでは、火のガーディアンなどというものに成り下がっているが』
「お前……、まさか知り合いか?」
サラマンダーに問われるが、マゥスンは答えない。
『しがらみから開放してやったというのに、懲りない奴め。────カオスの根源へ還れ、彼の者もそれを望んでいよう。何故、抗う? あの世界のキサマ達の役目など、矛盾でしかないだろうに』
「 ───── 」
「……何の因縁か知ったこっちゃねぇが、相手は1人だと思わねぇこったな」
「その通りじゃ……、悪いが異世界への封印は解かせてもらおう」
マゥスンの前に出て、戦闘態勢をとるサラマンダーとフライヤ。
『ほぅ、既にナカマを得たというのか。キサマには不必要な"もの"だった筈だが。ネズミ共が何匹集った所で同じ事……少しは楽しませてもらおうか』
火のガーディアンが炎を伴った二刀の剣を手に襲いかかって来たのを竜騎士のフライヤが槍で受け止め、その隙にサラマンダーが拳に嵌めた鉤爪で鋭いダメージを与え、一度身を引いた火のガーディアンは蛇のように裂けた口から火炎を吐き出し、マゥスンはそれに対して冷気属性の黒魔法を放ち炎と冷気がせめぎ合い白い蒸気となって辺りを包み、一時標的を見失った火のガーディアンの背後をすかさずとったマゥスンは剣で斬撃を浴びせた。
『 ────ぬるいな、[精神体]では所詮その程度か』
次の瞬間、幾つもの剣を象った炎が頭上に出現し広範囲に及んで鋭く降り注ぎ、防ぎようのない火のガーディアンの猛攻に大きくダメージを受けた3人は倒れ伏す。
『つまらん、退屈しのぎにもならんな』
「く……、<レーゼの風>よ……!」
何とか立ち上がったフライヤは清らかな風を巻き起こし、体力を徐々に回復する竜技を使いサラマンダーとマゥスンにもその効果を及ぼす。
「……これしきでやられてりゃ、世話ねぇな」
サラマンダーも立ち上がるが、マゥスンは倒れ伏したままだった。
「 ────! 身体が透けてきておる、精神体の維持がままならぬようじゃ……!」
「ち……、俺が直接"気"を注いで──── 」
『そうはゆかん、その者を不必要な世界に戻すわけにはいかぬからな。────そのまま混沌の淵に眠らせてくれる』
再び頭上から炎剣の雨を降らせようとする火のガーディアン。
「させるかよ……!」
その時、トランス化したサラマンダーの全身が紫の闘気に包まれ、一気に火のガーディアンの懐に入り強烈な秘孔拳を叩き込み、その拳は胴体を貫いた。
『やる……ではないか、キサマ。良いだろう……ここは、引いてやる。だが混沌の輪廻は、止められはしない────キサマ達の成そうとしている事は、矛盾でしかないのだ』
火のガーディアンは石のように硬化していき、遂にはボロボロと崩れ去った。
「サラマンダー、マゥスンが……!」
フライヤの悲痛な声に振り向くと、横たわったマゥスンの存在は今にも消滅しかねないほど全身が透けていた。
────サラマンダーはトランス化したまま強力な<オーラ>をマゥスンに注ぎ込み、何とか存在を留めた。
「 …………!」
「気が、ついたか? 余計な手間、掛けさせるな────」
紫の闘気に包まれていたトランス化は解かれ、サラマンダーは身を屈め抱き締めていたマゥスンをふと手放し仰向けに倒れ込んだ。
「サラマンダー、おぬしこそ大丈夫か……!」
「……"気"を注ぎ過ぎて、自分がヘバッただけだ。心配するな」
案じたフライヤにそう云って上体を起こしたサラマンダーに、存在を取り戻し先に立ち上がっていた赤魔道士マゥスンが手を差しのべる。
「すまない、サラマンダー。……私の為に」
「そういう時は謝るんじゃねぇってのを、誰かに教わらなかったか?」
「 ─────ありがとう」
召喚士の女の子、エーコから教わっていた言葉を口にして、僅かに微笑むマゥスン。
「……では、改めて[猛火の鏡]を台座に置いてみるとしよう」
フライヤが赤い縁取りの鏡を台座に立て掛けると、それまで曇っていた鏡にこれまでにない紅い光が宿った。
「他の皆も、それぞれの祠に鏡を納めておれば封印は解かれているはずじゃが………」
「ここにはもう用はねぇだろ、さっさと出るぞ」
サラマンダーが声を掛け、3人は火の祠の入口に戻り、迎えが来るはずの飛空艇を待つ。
「 お前……、この際聞いておきてぇんだが」
「………何だろうか」
ふとマゥスンに話し掛けたサラマンダーは、若干躊躇しているようだった。
「お前は一体、どっちなん──── 」
ちょうどその時、上空から飛空艇の飛来音がしてきた。
「 ────迎えが来たようだ」
サラマンダーが聞き出そうとした事を気にも掛けず、マゥスンは迎えの飛空艇から降ろされた縄梯子を先に上って行った。
「聞きそびれたようじゃな、サラマンダー?」
「勘違いするな、俺は別に……」
フライヤにそれ以上答えず、サラマンダーもさっさと縄梯子を上って行くのだった。
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