魔法少女なゼロ!
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本編
第一話
前書き
前回から大幅に時間が飛びます
具体的にはゼロ魔の本編が始まる一年くらい前まで
「帰って来たのね・・・」
ハルケギニアのトリステインのトリステイン魔法学院にほど近い草原に一人の少女が立っていた。ピンクブロンドの美しい髪でどこかの学校の制服のようなブレザーとスカートを身に纏い、首もとにはクリスタルのアクセサリーのようなものがついたネックレス、足元はニーソックスにローファーであった。そして、少女の前に美がついても可笑しくはない彼女の容貌には似合わない少し大き目の登山などで使うようなリュックを背負っていた。
「テゥース、魔力素の濃度に問題はないわね?」
「イエス、マスター。地球よりは若干濃いですが、リンカーコアへの影響はありません」
少女しかいない筈の草原に、少女以外の別の声が聞こえた。どこか機械のようなその声は少女の胸元のあたりから聞こえているようだった。
「よし、ならまずはここがどの辺りか調べて久しぶりの我が家を探しましょう。あ、魔法は無しよ、誰かに見られたら面倒だし」
「イエス、マスター」
と、そんな少女の様子を見ていたものがいた。その者はお伽話に出てくる魔法使いのローブのような者を羽織り長めの杖を持った老人だった。立派な白い髭を手でとかしながら少女にゆっくりと近づいてゆく。
「何かご用でしょうか、お髭の素敵なお爺さま?」
少女は後ろから近づいてきた老人に振り向くことなく声を掛けた。老人は自分がか気がつかれていたことに一瞬驚き、目を見開いたが、すぐに柔和な表情に戻った。
「ふぉっふぉっふぉっ、なに、学院の近くに何やら見慣れぬ麗しき少女の姿が見えたものでの。学院への入学希望の生徒かと思いましてな」
「あらお上手ですこと、学院には興味がありますが生憎今は長い旅から帰ってきたばかりですの。学院の見学はまたの機会にさせて下さい」
丁寧な言葉遣いとは裏腹に、少女は内心でバルタン笑いを実際にする人がいるなんて、流石ハルケギニア、なんて思ってたりする。
「それは残念じゃ。おっと儂としたことが名乗り忘れておりましたな、儂はオスマン、あそこに見える学校のしがない学院長ですな」
「これはご丁寧に、それでは私も名乗る必要がございますわね。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。しがない公爵家の三女です」
草原に立っていた少女ーールイズがそう名乗りあげると、オスマンはわざとらしく驚いたように言った。
「ほう、あのヴァリエール家のご息女でしたか。ところでそのヴァリエール家の三女ともあろう方がこのような辺鄙な場所にそれもお一人でいったい何をなさってらっしゃるのですかな?」
本来であれば、大貴族の子女とはいっても所詮は学院にいる生徒達と同じ年頃の小娘など、オスマンからしてみればあまり下手に出るようなものではなかった。しかし、後ろからこっそり近づいたり、先ほどから少し緊張しているような気配があるのには理由があった。
少し前に時間は遡る。
オスマンはトリステイン魔法学校の学院長室で遠見の鏡というマジックアイテムを使用していた。遠見の鏡とは離れた場所の景色を映し出すマジックアイテムであり、普段からオスマンはこの鏡を使い学院の周辺を見張っていた。学院の周囲は見晴しのよい草原でありオークなどの危険な生物も生息していないので安全であるが、世の中何が起こるか分からないので、念のために一度は周囲を見渡しておくのがオスマンの日課であった。
「今日も今日とて平和じゃのお、平和なのも悪くないがこうも平和過ぎると退屈でいかん」
と、一介の学院長としてはあまり誉められたらものではない独り言を呟きながら遠見の鏡を見ていたオスマンだった。
ぐるっと学院周りを一周見回し、二週目に突入したとき、オスマンはその異常に気がついた。一周目では誰もいなかった筈の草原に忽然と少女が立っているのを発見した。草原は見晴らしがよくどちらの方向から人が来たとしても、例えそれがメイジで空から飛んできたとしても、必ずオスマンの遠見の鏡に映る筈であった。しかし、その少女はまるで初めからそこにいたかのように突然そこに立っていたのだ。
それを見たオスマンは真面目な警戒心が半分と好奇心が半分とで少女と接触を図ることにしたのだった。
「先ほども言ったように、長い、とても長い旅から帰ってきたところですわ」
長い時を生きてきて様々な人を見てきたオスマンには、ルイズの瞳に大きな喜びと深い哀愁が見て取れた。旅先での思い出と故郷に帰ってきた喜び、そういった感情が確かに見て取れた。
「ふぉっふぉっふぉ、それはそれはさぞかしお疲れのことでしょう。失礼ですがご実家からお迎えなどは?」
「いえ、私が帰ったことはまだ誰も知らないでしょうからそういったものは…」
「なるほど、それでは学院の馬を御貸しいたしましょう」
「よろしいのですか!?」
ルイズの驚きももっともだった。貴族の子女が一人旅、それも家族に帰省の連絡もしてないとなれば、普通に考えれば怪しさ満点である。さらに言えば、ここで突然に話しかけられたということはもしかしたら自分が『転移』してきたところを見られてしまったかもしれない。突然に草原に現れた貴族を名乗る不審な小娘など、相手がメイジであったならまず杖を突き付けられてもおかしくはなかった。
「…自分でいうのものなんですが、ぶっちゃけ私、怪しさ満点だと思うのですが、本当によろしいのですか?」
「安心なされ、儂は見ての通りそれなりに長い月日をすごしておる、そうすると自然と人を見る目も鍛えられるというものじゃ。それに大貴族の子女に恩を売っておけば学院にとっても悪いこではないじゃろうて」
ふぉっふぉっふぉとバルタン笑いをしながらのその態度は露骨ではあったが、正直ともいえルイズには好感を与えた。ルイズはこっそり心の中でバルタン星人扱いしていたことを謝罪した。
「それでは着いてきなされ、馬小屋まで案内しよう」
「ッ、ありがとうございますッ!」
そうしてルイズは馬小屋まで案内してもらった。
「馬に乗るのも久しぶりね…」
「乗り心地はどうかの?」
「はい、問題ありません。なにからなにまで本当にありがとうございました」
馬にまたがり頭を下げるルイズは、そうだと思いつき背負っていたリュックサックをごそごそと漁り中から長方形の箱を取り出してオスマン渡した。
「今はあまり持ち合わせがございません、此度の旅行の土産物の一つですがお礼として受け取って下さい」
オスマンはそれを受け取ると、開く仕組みになっているそれを開けた。中には煌めく棒状のものが入っていた。オスマンはそれが素晴らしい精度のガラス細工であることは分かったが何に使うものかは分からなかった。
「ガラス製のペンです。先の尖った部分にインクを付けてお使いください」
ルイズはこういった精度は高いが高名な土メイジが集まれば作れないことはないような物をお土産としてかなり持って帰っていた。背中の大きなリュックにはそういったものが沢山あり、オスマンに渡したペンもその一つだった。
見た目だけで高価なものだと分かるが、大貴族の子女の土産であれば相応かとオスマンはありがたく受け取った。
「それでは失礼します。馬はなるべく早く返しに参ります」
「うむ達者での、よければまた学院をゆっくり下見でもしに来てくれるとうれしいのお」
「わかりました、また伺わせていただきます。では」
そしてルイズは馬を駆り颯爽と走り去った。ルイズが見えなくなるとオスマンは学院長室に戻り早速貰ったペンにインクを付けてみた。
「ふぉ!」
てっきり羽ペンのような構造なのかと思っていたオスマンだったが、インクがペンの内側の小さな溝に勢いよく吸い込まれたのをみて驚いた。果たしてこれほどの加工が出来るメイジとはどれほどのものなのかと思いを馳せた。
「ふむ、今年は平和そうじゃが来年辺りからは一波乱あるかもしれんの」
その日もふぉっふぉっふぉとバルタン笑いが学院には響いていた。
因みに、ルイズは久しぶりの乗馬でヴァりエール邸についたときには腰を痛めていた。
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