英雄は誰がために立つ
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Life5 紅の魔王と氷結の魔王
前書き
“あの人”は、現在進行形の夫持ちの人ですからね。立てません、建てませんよ!
“if”話も書く気は今のところ在りませんので、各皆様の妄想の中でお楽しみください!
今までを振り返って思いましたが、今回がドライグの初登場じゃね?
「まーったく、士郎さんは!」
ゼノヴィアは、自分に用意された部屋で、誰に聞かせるでもない言葉と共に憤慨していた。
勿論、士郎の何時もの天然ジゴロの女誑しについてだ。
「私と言う女がいながら、部長まで誑し込んで寝取ろうとするなんて!!」
ベットの前を、左に右へと往ったり来たりしながらも、興奮を抑えられない様だ。
「こうなったら、もう、士郎さんを押し倒す以外に道は無いな・・・」
何所を如何すれば、その選択肢に辿り着くのかは疑問だが、冷静さを取り戻し落ち着いて来た様だ。
「うっ・・・・・・」
そこで立ち眩むゼノヴィア。
だが、無理も無い。
今まで見た事も無い豪華な装飾が凝られた城に入り、馴れない視線に馴れないマナー。
普段と違いすぎる体験をこうも一気に味わえば、悪魔と言う肉体は得ても精神面はそのままな為、無理が来て疲れに襲われても仕方ないと言える。
「流石に疲れたな・・・。少し、休む・・・か」
嘗てない位の大きすぎるベットに、体の全体重を預けるように倒れ込む。
しかし、このタイミングでのベットインで、ゼノヴィアは朝まで起きる事は無かった。
そして、ゼノヴィアは最後まで気づくことは無かった。
自分を、窓を隔てた外から見やる、怪しい視線に。
-Interlude-
「機嫌直しなよ、ゼノヴィア」
翌日、リアス達はマナーの勉強中の一誠と、執事としての仕事のために残った士郎をグレモリー公爵家の本邸に残して、グレモリー領観光ツアーに参加していた。
「わかってるさ、木場。けど、執事でも同行する位いいと思うのにぃ」
ゼノヴィアは、昨夜そのまま熟睡してしまったのも合わせてか、周りの空気を重くしない位には抑制しつつも、表情自体は不機嫌そのものだった。
「ごめんなさいね、ゼノヴィア。士郎が私の事を、庇ってくれたばっかりに」
先程まで、アーシアに説明しながら同行中かつ案内を頼まれた正式な執事と共に、先頭を行っていたリアスが、ゼノヴィアの下に来て謝罪して来た。
「あっ、いや、そう言うつもりで言ってたわけじゃないんだが・・・」
リアスの謝罪から、空気は重くは無かったが、空気を悪くしていた事に気付くゼノヴィア。
「私こそすまない、部長」
「ううん、いいのよ。今日はお互いに、最愛の人が近くに居ないけれど楽しみましょう?」
ああ、と頷き、気分を変えて足取りを無理矢理軽くさせながら、表情を明るくしようと努めるゼノヴィア。
こうして、リアス達は帰宅まで、それぞれ大いに楽しんだらしい。
「ひぃいいい!皆さぁあああんん!置いてかないで下さぁあああいいい!!」
人ごみの中が不慣れだったため、時折ギャスパーはそんな懇願の悲鳴を訴えていたらしい。
因みに、リアスの眷属として恥ずかしくない様にと、女装では無い服装だ。女装では無い服装だ!
-Interlude-
その頃士郎は、ヴェネラナの私室にて紅茶を淹れていた。
「・・・・・・噂には聞いていましたが、これほどとは思いませんでしたよ、士郎さん。香り、色、何よりこの気持ちを安らぎに誘う味は、我がグレモリー家に仕える者達の誰にも出せないモノです」
「恐悦至極にございます」
紳士の中の紳士の様な振る舞いに、威風堂々とした佇まい。
まるで、王の中の王に使える完璧執事の様な熟練さを思わせる士郎にヴェネラナは、感心しつつも嘆息した。
「士郎さん。もうそろそろ時間でもありますし、今この部屋には私と貴方の2人だけですのよ?貴方の洗練された動きには、称賛を送りつつも名残惜しくありますが、そろそろその他人行儀さを解いて下さらない?」
「・・・・・・・・・判りました。ヴェネラナさんのお言葉に甘えて、楽にさせてもらいます」
ヴェネラナの言葉に、一瞬考えてから瞬時にその提案を了承した士郎は、対面に座った。
何時もの士郎なら、ヴェネラナの提案に対してやんわりと断るが、彼女の意思を否定する事は恥を掻かせるとともに侮辱するも同然だと理解できるので、受け入れた格好だった。
「それにしても、このシュークリームの生地の食感と控えめな甘さのクリームとも合って、私をこうも楽しませてくれるなんて・・・・・・。我が本邸の料理長が唸りながらも悔しそうでしたよ?何所で、これほどの料理の修業をなさったのかしら?」
「企業秘密です」
「あら?女主人である私の言葉が聞けないと?」
「?もう、俺の任は解かれたはずでは?」
士郎はやや皮肉気ではあるモノの、嫌見たらし過ぎない笑みでヴェネラナに言い放った。
それに眼を大きく開き、ぱちくりと開閉をした。
「・・・・・・ウフフフ、そうでしたわね。私としたことが、任を解くタイミングを逸するとは、我ながら抜かりましたわ」
そこから楽しい談笑をする2人。
「――――そろそろですね」
「そうですわね、っと!?」
士郎が立ち上がったので、続いてヴェネラナも立ち上がったが、気が緩んでいたのか、よろけてしまい足を挫いて倒れそうになる。
「大丈夫ですか?」
ヴェネラナをすかさず抱きしめる事で、倒れそうになることを防いだ士郎。
勿論、紳士らしく胸などに手を届かせてはいない。
しかし、抱きしめられたヴェネラナの心中は、決して平常では無かった。
逞しい男性の体に、力強くだが確実に自分を優しく抱き留める腕、そして年齢に不相応な程の男の色気。
何より、自分を本気で心配そうに見下ろす、殿方の真剣な眼差し。
これらの現実に頬を染めるヴェネラナ。
だが、バアル家史上最強の女性悪魔の誇りと、グレモリー家現当主の番たる女主人としての矜持が現在の自分の状況を許さずに、何とも言えない戸惑いも瞬時に蹂躙してから、士郎の片手を握り離れてから姿勢を整える。
「・・・・・・・・・有難う御座います、士郎さん。お陰で助かりました」
「いえ、どんな時でも女性を支えるなり壁になるなり助けるのは。男として当然の事ですから」
「・っ・・・・・・・・・・・」
自分の事を女性扱いする士郎に、またもやさっきの戸惑いにも似た感情が溢れ出しそうになるヴェネラナだが、今度は殴殺した。
そして、歯に衣を着せぬ士郎の発言に呆れ顔を向ける。
「あの・・・・・・、俺は何をしたんでしょうか?」
「解らないのでしたら努力なさい。そのままでは何時か・・・女性に刺されますわよ?」
ヴェネラナの忠告に対して、本気で首を傾げる士郎。
そんな様子に際して、内心では『重症ですわね』と呟きながら、一誠とミリキャスが勉強中の部屋へ向かうために、ほぼ同時ではあるが士郎よりも先に部屋を出た。
-Interlude-
――――俺は現在、悪戦苦闘中だった。
悪魔の世界の上級界流の件や、貴族とは何たるかについては勿論、悪魔文字から冥界の歴史までと、普段からさほど得意でもない事、机に向かい猛勉強中だった。
しかし、弱音を吐くわけにはいかない。
サーゼクス様の御子であるミリキャス様の前で、無様な真似をして、部長の顔に泥を塗るワケにはいかなかったからだ。
とは言え、如何して俺だけなんだろう?
本音を言えば、俺も部長達と一緒に、グレモリー観光ツアーに行きたかったぜぇ。
あっ、いや、部長を庇ってくれたから、執事としての業務として士郎さんも残っているんだっけ?
兎に角、如何して俺だけ勉強してるんだーーーー!?
そう、心中では愚痴を呟いている一誠と、懸命に勉強しているミリキャスの前に、ヴェネラナと、トレイに紅茶を淹れて持ってきた士郎が入室して来た。
「御婆様!」
それに瞬時に反応したのは、ミリキャスだった。
直にヴェネラナに寄って来て、彼女のドレスの腰部分に抱き付く。
そんなミリキャスの頭に、掌を優しく置いて撫でてから、一誠の下へ近づく。
「一誠さん。ミリキャスも、勉強は捗っているかしら?」
妖艶な笑みを携えながら、一誠のノートを覗き込むヴェネラナ。
「サーゼクスやグレイフィアの報告通りね。決して綺麗で達筆――――とはいかないようですけれど、何事においても懸命に向き合う姿勢は見て取れます」
「あ、ありがとうございます」
飾らず偽らずの言葉だったからこそ、一誠は憤る事も無く、素直に受け取れた様だ。
そんな時、何時の間にかに、一誠とミリキャスの勉強ノート付近に紅茶を淹れたティーカップがあった。
「疲れたろうから一息入れると言い、ミリキャスもな」
「・・・・・・・・・」
「ありがとうございます、士郎さん!」
士郎の言葉にミリキャスは敬語で受け止める。感情的には如何やら尊敬の念が混じっている様だが。
因みに、士郎からミリキャスの呼び方は本人からの希望であり、その逆もまた同じく、だ。
そして一誠は訝しむ――――と言うよりも、何かを疑うかのような視線を士郎に向けていた。
「何だ?」
何かを疑われるような謂れなど何も無い――――事は無いが、少なくとも一誠を怒らせる様な事に身に覚えがない士郎は、取りあえず聞く。
「昨日の夜から思っていたんですが、執事服をかなり着こなしているようですけど、今回が初めてですよね?」
「いや」
「そうですよね~。いくら士郎さんだからって、執事の経験なんてあるワケが・・・・・・って、えぇええ!?」
一誠にとっては、あまりの事だったらしく、大げさすぎと言われる位に驚いていた。
「やっぱりそうでしたか。執事業が板についていましたから、まさかとも考えていたんですが」
「流石にヴェネラナさんの目は誤魔化せませんか。と言っても半年ほどですよ?」
「ほう?それほどの短い期間であれほどの熟練者のように動けるとは、感心しますね」
如何やらヴェネラナは士郎の話に納得したようだが、嘘だった。
2人目の魔術師の師、遠坂凛と共に魔術協会の三つの内の一つ、時計塔に留学している時に金の工面に困り果てたので、士郎がルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの屋敷にて働く事に成った。
それに加えて、3人目の魔術師の師である、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグこと『宝石翁』や『万華鏡』と呼ばれた第2魔法の使い手の下で、師事最中に何故か『執事をやれ』と言われた歳月を合わせれば、最低でも3年間は執事業に勤しんでいた。
因みに、士郎は女性の押しに弱いので幾度もの強襲を受けて遂には、ルヴィアに押し倒され――――ゲフン!少々騒ぎになった。
兎も角、士郎がその辺ばかりか、公爵家や王族の執事長達と引けを取らぬ仕事を熟せることは、代えがたい事実である。
「完璧すぎだろ・・・」
「すごいです、士郎さん!」
あまりの事実に一誠は、驚きを通り越して最早呆れていた。
「そうは言うがな、昔の俺は一誠と大差なかったんだぞ?主に学力方面が」
「嘘でしょ?それは~」
「本当さ。俺の魔術師の師匠に仕込まれて、今みたいになったんだからな」
「あら?士郎さんの魔術師の師と言うからには、余程高名なんでしょうね?」
士郎の魔術師の師と言うキーワードに、興味を示したヴェネラナに対して、士郎は沈黙した。
「如何したのですか?」
「ああ、俺の師に興味が有ると言うのなら教えよう。ただ前提として言わせてもらうと、外道では無い!」
「は?」「え?」「あら?」
士郎の言葉に思わず、虚を突かれる。
「外道では有りませんが、理不尽と不条理の塊を人の皮で包んだ、精悍な顔つきでガタイの良い西洋老人を思い浮かべればいいですよ?」
「理不尽と不条理の塊なのに、外道さんでは無いんですか?」
「とんちっすか?」
「実在する人物だよ。ただし、遭遇したら、出来るだけ拘わらずに逃げろよ?基本的に厄介ごとしか持ってこないからな」
『俺はそのせいで何回死にかけた事か・・・!』と最後の士郎の呟きを確かに耳に入れた一誠は、息をのんでから素直に忠告通りにしようと肝に銘じた。
「つまり、近寄りがたき奇人と言う事かしら?」
「ニュアンス的にはそれで正解ですよ。兎に角、師匠の下に居たから俺は、今ぐらいの知識量を持つまでになったのさ」
「ど、どんな勉強法何ですか?」
士郎の先の説明に腰を引けながらも、ミリキャスは恐る恐る聞く。
そんなミリキャスの蛮勇に応える為に、士郎は話し出した。
簡略化で説明するならまず手始めに、本人からすれば優しい修業でふるい落としてから残った弟子たちに徐々に――――では無く、本人からすれば普通に一気にレベルを上げて次々と廃人を作成し続けて逝く内に、残りは1割どころか5分にも満たないらしい。
士郎は何とかその僅かの内の人数に見事に入り込んだらしいが、当時は『この人は俺の脳細胞をワザと死滅させる気なのでは?』と、本気で思ったらしい。
「――――って事なんだ」
士郎が話し終えた時には、ミリキャスは顔全体が蒼白状態で怯えていて、教師役の執事は戦慄しながらもミリキャスを必死に励ましていた。
一誠は、夏休み手前のテスト勉強時の事を僅かに思い出したのか、恐怖に打ち震えながらも『オチは?オチはまだなのか?』と話の間、ずっと呟いていた。
「で?如何する一誠。お前が望むなら、俺がその勉強法をお前――――」
「さ、さあ!部長達が帰ってくるまでしっかり、勉強頑張るぞ!!」
「そうですよ、一誠さん。リアスも、もう少しで帰ってきますから、ちょっとの辛抱ですよ?」
士郎が全てを言い終える前に一誠は、焦りながら机に向かって行った。
ヴェネラナは、大切な娘の眷属を見殺しになど出来ないと決意して、一誠の話に合わせ乍らミリキャスを奮い立たせた。
「・・・・・・まぁ、そうだろうな」
そんな反応をする彼らに息を突きながらも、当然の結果として予想通りだと言う意味合いを含んだ言葉を口にしたのだった。
-Interlude-
一誠は、帰ってきたリアス達と共に、正式にレーティングゲーム前の若手で有望な上級悪魔たちとお偉いさん方が集まる大切な集会があるので、魔王領に訪れた。
士郎は用があるとの事で、リアス達の到着前に1人で先に行った。
そこから会場に辿り着き、あるホール前でバアル家次期当主であり、リアスのいとこでもあるサイラオーグ・バアルと邂逅してから、多少の騒ぎに巻き込まれながらも、漸く一息つけそうなところで、隣の大きなホールで幾つもの爆発音と衝撃音が聞こえて来た。
「今度は何だぁ?」
「隣からね?」
「確認した方が良いのだろうな。次から次へと面倒な・・・」
サイラオーグは本当にめんどくさそうなに、毒づく。
そうして隣のホールの扉を開けたところで、先程からの爆発音と衝撃音を創り出している張本人達、魔王姿の正装に身を包んだサーゼクスと、以前のように素顔を隠していた幻想殺しの格好をした士郎と思われる人物が何故か対峙していた。
「何を成さっているのです!?お兄様!」
『リアスか!』
リアスの声に反応したようで、2人とも一斉に顔を向けた。
「リアス、君からも言ってくれ!士郎がこの大切な議会に今になって、出席したくないと駄々を捏ねて来たんだよ!」
「何を言ってるんです!?その様な約定、取り決めた覚えなど有りませんよ!」
「いい加減我儘を言うモノでは無いよ、士郎!それとも、親友の頼みが聞けないと言うのかい!!」
滅びの力を自らの手足のように扱い、士郎の周りを徐々に覆っていく。
士郎はそうはさせまいと、無銘の剣群を創り出し、サーゼクスの滅びの魔力を相殺させていく。
「誰が親友ですか!いい加減な幻想で、周囲に捏造するのはやめて頂きたい!!」
滅びの包囲を相殺しながら、時折サーゼクスに目掛けて鉄甲作用による黒鍵を放っていく。
しかしそれを、自身の目の前に楯のように滅びの力で遮り、それを防いでいる。
「如何してそんなに、頑なに拒むんだい!?」
「私と親友になっても、貴方にメリットなどないでしょうが!」
「メリット云々で君は友人の形成を決めるのか、士郎!見損なったよ!!」
今までの攻防の中で、少しづつ力を溜めていたのか、これまでとはレベルが違う滅びの力を士郎に向けて放つ。
「滅殺の煌耀!!」
非常に濃密な滅びの魔力の塊が、高速で士郎を消滅させんと迫っていく。
しかし、それを察知していたのか、はたまた出し抜こうと狙っていたのかまでの判別は出来ないが、士郎も名のある宝具にて対抗しようと、何時間にか黒塗りの洋弓を構えて、先端がドリルのような形状の凶悪な矢を放とうとしていた。
「I am the bone of my sword――――――偽・螺旋剣!!」
禍々しき弓矢は、空間を捻じり狂いながら、サーゼクスの巨大な魔弾に中心に的中した。
「壊れる幻想!」
そして止めの禁じ手を使って相殺しきる。
ズゥオッッン!!!
『っっっ!!?』
強大と凶悪のぶつかり合いによる相殺の余波たる豪風が、結果的に観戦状態になっていたリアス達を含む若手悪魔たちにも届いた。
その豪風により、ギャスパーの様にひ弱そうな眷属ら数人が、堪え切れずに倒れる。
「くっ!お兄様も士郎も此処までやるの!?普通じゃないわ!!」
全く以てその通りである。
別にお互い、全力で殺し合っているワケでもあるまいに・・・。
「見損なってくれて結構です!だからもう、私に干渉するのは控えて下さい!」
「断るよ!だからこそ君に、友人の何たるかを教示した上で、君を私の親友にする!!全力で」
「そんな事に全力を出さんで下さい!」
豪風を何とか凌ぎ切った、ギャラリー組の内の1人であるサイラオーグが呟く。
「それにしても、凄まじいな・・・。リアス、彼が例の魔術師なのか?」
「ええ、そうよ。名を藤村士郎。地位や名声なんかに興味が無かったと言う理由で私にも隠していた、幼馴染でもあるわ」
まるで頭痛に見舞われているかのように、頭を押さえながら質問に答えていくリアス。
因みに、今も戦闘は続いている。
「そうか。サーゼクス様とあそこまでやれるとは、大したものだな。機会があれば、是非とも手合わせ願いたいが、恐らく遊ばれるのが落ちだろうな」
「確かに士郎は規格外の魔術師だけど、サイラオーグから見ても格上なの?」
「戦ってみない事には判別出来んが、恐らくはな。現にサーゼクス様も彼の魔術師も本気ではないだろう」
「本気じゃないですって!?」
これで?と瞳で言うリアスに、何人か同意する。
「目を見ればわかる。恐らく、あの2人が本気だったのなら、とっくにこの会場は吹き飛んでいるだろうな。恐らくその余波で我々は全滅だな」
サイラオーグの言葉に息をのむ、若手悪魔たちとその眷属ら。
『フフ、確かにそうだろうな』
「ドライグ?」
戦いの余波を防ぐため、咄嗟に顕現させた赤龍帝の籠手から、ウエルシュ・ドラグオンことドライグの呟きに反応する一誠。
『士郎の奴は、人間でいうなら既に、英雄のカテゴリーになるだろう。そして、あのサーゼクスと言う奴は、称号だけでなく実力も魔王を名乗るにふさわしい。であるならば、あの2人が本気の殺し合いを繰り広げたなら、相棒も含めた此処に居るギャラリーたちの全滅も頷けると言うモノよ』
「マジかよ・・・。――――って、『士郎の奴』って、何でドライグが士郎さんの事に詳しいんだ?」
『オイオイ、相棒!俺達はもはや一心同体と言ってもいいんだぜ?意識の全てを共有してるとまでは往かないが、知っててもおかしい事なんてのは無いだろうに』
「そういやぁ、そうだな」
そんなことを話している最中にも、2人はぎゃあぎゃあ言いながら戦闘を続けていた。
「そもそも私が出席したら、上級悪魔の貴族の方々も、いい気はしないでしょう!その程度の事も解りませんか!?」
「世間の体裁なんて今は聞いてはいないよ!私は君の心――――いや、魂に呼びかけているんだ!」
「ええい!解らん人め!」
(このままではジリ貧だな。如何するか・・・)
剣群にて、牽制しながらも、この窮地の打開の策を考える。
(・・・・・・・・・一か八かこれにかけてみるか。正直他になさそうだしな)
と言いながらも、内心では非常に心配している。
「来るか!?」
士郎の何かしらの決意を感じ取ったのかまでの判別は出来ないが、今まで以上に構えるサーゼクス。
「ああっ!グレイフィアさんじゃありませんか!?サーゼクス様を如何にかしてください!」
リアス達、ギャラリー組のいる入口とは別の2つの内の1つに向けて、大声で言い放つ。
棒読みや態と過ぎないように必死になりながらもだ。
(((((いや、流石に引っかからないんじゃ?)))))
士郎のダメ元打開策に、ギャラリー組の半数以上が内心で突っ込む。
「な、なにぃいいい!?グ、ググググ、グレイフィアだってぇえええええええ!!?」
しかし、多くの者の確信を裏切り、過剰に反応して引っかかるサーゼクス。
彼にとってグレイフィアは、最高の従者であり最愛の妻であると同時に、最も恐ろしき存在でもあったのだ。
(((((え?引っかかるの?)))))
(思いのほか引っかかってくれたぞ!?今がチャンスだ!)
正直、此処まで効果抜群だとは思えなかった士郎も驚きつつ、3つの入り口の内の最後の一つに向かって行く。
(よし、これで・・・・・・っっっく!?」
しかし入口直前で、扉が爆発したと同時に士郎目掛けて“何か”が射ち放たれたが、士郎はそれを辛くも避ける。
「え~~~!?殺し損ねちゃった~☆」
扉の爆発後の煙から、何処かで聞いた事のある声だけが聞こえて来た。
「この声はまさか、お姉さ――――レヴィアタン様ですか!?」
「その通りだけど今はまだプライベートなんだし、レヴィアたん☆って呼んでほしかったな~☆ソーナちゃん」
ソーナの指摘通り、爆発の煙が晴れて来てから現れたのは、レヴィアタンの称号を受け継いでいる源四大魔王の1人である、セラフォルー・レヴィアタンである。
因みに、ちゃんと魔王の正装を着ていた。
「如何して士郎君を攻撃するんです!」
セラフォルーの要望を黙殺して、自身の質問を優先させるソーナ。
「その質問の答えはちょっと待ってね☆その前にぃ~」
「グレイフィア!?グレイフィアは何所に!?」
今だ士郎のはったりが継続しているようで、サーゼクスだけがパニックに陥っていた。
正直、威厳の欠片も無く。
そんなサーゼクスの頭上に、セラフォルーの魔力が圧縮されて、サッカーボール程の氷が形成される。
パチンッ!
「うわっ!?」
セラフォルーが指を鳴らすと同時に、その氷が砕け散り、サーゼクスのの頭に降り注がれた。
そこで、漸くパニックから抜け出して、落ち着きを少し取り戻していった。
「セラフォルー!?何時からそこに居たんだい?あ、あと、グレイフィアを知らないかい!?」
「ついさっきだよ~☆あと、グレイフィアちゃんについては、彼のはったりだよ☆」
セラフォルーの指の先に居た士郎は、外套と仮面の下では苦虫を噛み潰していた。
「な、なんだって!?士郎!幾らなんでも騙すなんて酷いじゃないか!」
「いやいや、アレに騙されるなんて、サーゼクスちゃんだけだと思うよ?」
(今の内に・・・・・・・・・って、無理か」
何とか強行突破をしようとした士郎の進行方向を、氷結の壁で遮るセラフォルー。
「行かせな~いよ☆」
笑顔で邪魔する、黒髪美女魔王様。
「如何して私の邪魔を?身に覚えがないのですが」
「身に覚えがない?嘘はいけないよ、士郎君☆」
「・・・・・・」
『っっ!?』
士郎の口にしたあるキーワードにより、少しだけ黒いオーラを纏わせるセラフォルー。
その現象に、ギャラリー組は過剰に反応する。
「いえ、本当に何のことなのでしょうか?」
士郎は一切とぼけて等いない。
「白を切るのかな?ソーナちゃんに手を出したくせにぃいい!プンプン!」
あくまでも、魔法少女のようなメルヘンチックに怒っている様だが、眼がまるで笑っていなかった。
「・・・・・・・・・・・・は?」
「えぇええ!!?」
「何だってぇえええええええ!!?」
そして士郎は当然の如く虚を突かれ、ソーナはらしくない位に驚き、一番度肝を抜かれたのが匙元士郎だった。
「ちょっと待ってください!俺はソーナに手を出すなんて・・・!」
「あくまでも白を切るのね?だったらソーナちゃんに聞くだけだよ~☆」
ソーナを中心に、視界に収めるように向き直るセラフォルー。
「ねぇ~?ソーナちゃん☆士郎君に手を出されたよね?」
「えっ、あっ、いや・・・」
何故かどもるソーナ。
彼女の後ろでは、眷族の内の1人である元士郎が、縋るように見ていた。
しかし、ソーナがどもったのは如何しようかと迷ったからだ。
此処で認めれば、事実無根であろうともある種の既成事実を形成することが出来るだろうが、そんな事に成れば士郎が実姉に殺されてしまうのではと言う危機感と、何よりも彼女自身が未だ士郎に対する好意を把握しきれていないからである。
なのでソーナは、こう返事する事が精いっぱいだった。
「じ、事実無根です!私と士郎君はそのような関係ではありません!」
(よっしゃぁあああああああ!!愛しています、会長ぉおおおおおお!!!)
ソーナの答えを後ろで聞いていた元士郎は、即座に内心でガッツポーズを取った。
しかし、正面に居たセラフォルーは勿論、彼女の横に居た者達から見たソーナの頬は赤らんでおり、如何見ても恥ずかしがっていた。
因みに士郎は、何故ソーナが頬を赤く染めている理由について、全く分かっていないようだった。
「よし!殺そう☆☆」
『ぶっ!!?』
「お姉様!?」
ソーナから士郎に向き直ったセラフォルーは、開口一番にそんな事をのたまわった。
しかしセラフォルーは周りの反応を無視して、今迄魔力を溜めていたのか、瞬時に自身の右手に魔力が濃密に内包された巨大な氷の槌を創り出した。
同時に左手には、巨大な風船のように渦を巻いている気流の中で、幾つもの鋭利な氷が往きかっていた。
そして左手の“それ”を放つ。
「危険で素敵な雨☆」
セラフォルーの左手から解放された“それ”は、鋭利な氷を気流で士郎目掛けて運んでいった。
それを士郎は、状況を理解できずにいたままではあるが、迎撃する。
「熾天覆う――――――七つの円環!」
前に突き出していた士郎の右手の目の前に、巨大な花弁が顕現した。
熾天覆う七つの円環。
ギリシャの英雄アイアスの盾。
結界宝具であり、投擲などの使用者の手元から放たれた武器の攻撃に対して、無敵の防御力を誇ると言う概念武装が内包されている盾だ。
しかし、緊急だったもので、7枚の内4枚だけだった。
「くっ!?」
(2枚破壊された!どれだけ殺気が練り込んであるんだ!?)
その様な思考に埋まったのが、士郎のらしくない迂闊さを招いた。
「ウフフフ☆☆」
「なっ!?」
セラフォルーは士郎の隙を突き、彼の頭上に瞬時に転移してから、氷の大槌を振りかぶりながら呟いた。
「巨大で綺麗に終わらせる☆☆☆」
槌の形状から、禍々しい程の鎌に変化して、士郎に襲い掛かる。
「突き貫く侵攻!!」
しかしそれを、サーゼクスが放った高速の魔弾が消滅させた。
「サーゼクスちゃん!何するの!?」
自分の攻撃を邪魔されたセラフォルーが、サーゼクスに向けて敵意を放つ。
「悪いけど、士郎を――――親友をヤラセルわけにはいかないんだ!」
「あくまでも私の邪魔をするんだね?サーゼクスちゃん!」
「ああ、私にも譲れないものがある!!」
「なら悲しいけれど、まずはサーゼクスちゃんの番、だねっ!!」
こうして、四大魔王の内の2人の激突が此処に始まった。
1人の男を巡って。
「今度はセラフォルー様なの!?」
「お姉様、お辞め下さい!」
遠くからの妹たちの制止も聞かずに、戦闘を辞めようとしない2人。
「ん?士郎さんは?」
ゼノヴィアがそこで士郎の姿が消えていることに気付いた。
しかし、彼女の疑問に答えられるものは誰もおらず、目の前の魔王同士の攻防をどうやって止めようかと四苦八苦している最中だった。
因みに士郎は今がチャンスと、少々無責任ながらも逃走に成功していた。
そして、その途中でグレイフィアに遭遇してから、事の次第を説明して士郎は、一旦人間界に帰った。自業自得面が大きいとはいえ、一応の命の恩人である、サーゼクスを売って。
その後、サーゼクスの末路など語るまでも無いだろう。
後書き
“これ”は、あくまでも原作に沿いますので、アニメとは違う流れです。
しかし、士郎の活躍の場は一応作っていますよ?理由もちゃんとあります。
サーゼクスとセラフォルーの技名については、アラビア語かイタリア語で迷ったのですが、イタリア語でルビをふる事にしました。
魔王の称号はどちらかと言うと、イタリア方面が発祥でしたので。
グレモリーは、ソロモン72柱の内ですから、アラビア語かも?と悩んだ末の決定です。
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