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英雄は誰がために立つ

作者:昼猫
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Life6 湯けむり

 あれから上手く逃げとおせた士郎は、人間界のある街角の、藤村組が贔屓にしている隠れ名店の個室に来ていた。

 「・・・・・・・・・」

 腕の立つ友人の5人の内の1人と、待ち合わせていたのだが、かれこれ1時間以上士郎は待ち続けていた。
 そんな時に扉が開き、漸く待ち人が訪れた。

 「いやぁ、わりぃわりぃ!ちょっと信号待ちしてた婆さんを助けてたら、遅れちまったよ!」
 「1時間以上もか?」
 「いやそれにしても、ここら辺だいぶ変わったんじゃねえか?オレが前に来た時より美味そうな料理店とか、ファーストフード店とか増えたしなぁ」

 士郎の追及に応えず、周辺の都市開発への感想を述べる人物。

 「つまり、食べ歩きしていたと・・・?」
 「だってよぉ。美味そうな店が新しく出来たのに、食べないで素通りするなんて失礼だろう?」
 「・・・・・・・・・・・・ハァ」
 「そう睨むんじゃねえよ、士郎。眉間にしわが寄り過ぎると、老けるぜ?それに溜息ばっかしてると幸薄くなるとも聞いたぜ?」

 士郎の追及に対して、全く悪びれる様子を見せない人物。

 「誰のせいだ、誰の・・・!」
 「そう怒んなよ、士郎!つうか、時間に遅れたのは確かに悪かったけどよ?それが人に頼む態度なのかよ?」

 更には開き直り、頼まれる側と言う立場から随分と上からの物言いだ。

 「・・・・・・確かに、頼むと言うのにこんな態度は頂けなかったな」
 「そうだろう♪」
 「だがそれにしても、随分と上から目線だな。何もしない奴が毎月、俺のポケットマネーから小遣い制で生きてるひも(穀潰し)風情の分際で」
 「なっ!?」

 士郎からの罵言に怯む人物。

 「それとこれとは、今は関係ないだろ!それに恩着せがましくする気かよ、今更!」
 「そんな気は無いが、自らの無礼も恥じず、反省に色も見られないとなれば、今後の対応を変えようと考えたくもなるな?」

 露骨な嫌見に対して唇を噛みしめるも、彼女(・・)らしさと言うべきか『往生際』が悪く反論する。

 「そもそもオレは、子供なんだぞ!」
 「書類上はもう、働ける年齢のはずだが?それに、こんな時だけそんな逃げ口上を使うとは、何時もは子ども扱いされるのを嫌っていた様だが?」
 「ぐぬぬぬぅっ!そ、それにアレは見聞を広める事で、今後のためにもなるんだ!オレは王になるべき存在なんだぞ!」
 「知らないのなら教えてやる。全てが全てとはいかないが、最近の王は仕事だってするし、時間もきちんと守るぞ?」
 「け――――」
 「――――それに加えて、自身に非がある時は謝罪もする。それに比べてどこぞの未来の王様は、働けるのに働かず、時間も守らず自分に非があっても謝罪の言葉の一つも無いどころか、開き直って上から目線と来たものだ。随分とご立派な帝王学だな!」
 「・・・・・・・・・・・・っっ!!」

 言葉を畳掛けられてしまい、反論の術を失った“彼女”は、非常に悔しそうに睨み付けるしか出来なかった。

 (ぐうの音も出ない時に悔しそうにする顔つきとか、本当に・・・・・・・・・によく似てるなぁ)

 何も言ってこないのに嘆息しつつ、促すために士郎から口火を切った。

 「それで?何か言う事は無いのかね?」
 「・・・・・・悪かったよ。これでいいか?」
 「何で嫌々なのかね?謝罪の意思がないのなら、別に無理して謝る必要はあるまい。ただ単に、今後の対応を考えるだけだからな?」

 ふて腐れたぞんざいな謝罪を指摘する士郎。

 「す・い・ま・せ・ん!悪かった、オレが悪かったよ!だからもう、勘弁してくれよぉ。なぁ!」

 そして追い込まれた“彼女”は、先程とは違い、意思のある謝罪をした。駄々を捏ねながら地団駄を踏んでいる感が強かったが。

 「まったく・・・。最初から素直に謝ってれば済んだと言うのに」
 「小姑みてぇに、グチグチうるせぇぞぉ(ボソッ)」
 「ん?」
 「・・・・・・すまなかった」

 “彼女”からすれば愚痴を呟いた程度だったのだろうが、士郎に聞きとられてしまい、泣く泣くまた謝った。

 「ふむ?謝罪の意思があるなら、勿論頼みも聞いてくれるよな?」
 「好きにしろよ!」
 「ん?」
 「・・・・・・喜んでっ・・・やらせてもらいますっ・・・!」

 堂々巡りの悪循環だった。


 -Interlude-


 “彼女”との密会と言うほどのモノでもない話し合いを終えてから、士郎は特別性の転移魔法陣を使用して、冥界のグレモリー城に戻って来ていた。

 「ただいま帰還し――――」
 「士郎さんっ!!」
 「ゼ、ゼノヴィアか。如何したんだ?」

 城に入るやゼノヴィアに抱き付かれる士郎。

 「士郎さんは私の嫁――――って間違えた!士郎さんは明日からずっと私の監督をして下さい!」
 「ソーナとのレーティングゲームに向けてか?」
 「如何して、知ってるんですか?」
 「椿姫から連絡があったからな」

 此方に転移してくる前に、士郎の携帯に椿姫から、特訓に付き合ってほしいと頼み事をされたのだ。

 「っ!先を越されただと!?そ、それで、引き受けたんですか?」

 信じたくない思いから、懇願の眼を向けるゼノヴィア。

 「ああ」
 「そ、そんなっ!?どうしてですか!私と言う(モノ)がいながら!!」
 「如何しても何も、強く成りたいという強い思いを、携帯越しからも感じられたからだぞ?」

 それに応える事の何が悪い事なんだ?と言われている気がしたゼノヴィアは、一歩下がる。

 「それに別にずっとじゃないしな」
 「え?」
 「何を驚いているんだ?当たり前だろ。椿姫は、人の予定を自分のためだけに消化させる、勝手な奴じゃないからな」

 ゼノヴィアは先ほどの自分発言を振り返って、居心地が悪そうに士郎から離れた。
 しかし、当の本人である士郎は、何の含みも嫌味があった訳では無い()の発言であった。

 「部長の座は交代済みとはいえ、未だに俺は立派な弓道部員だからな。秋の大会に向けて夏休みの間、弓道部の練習での指導役も頼まれてるし、他にもやらなきゃならない事もあるから、ゼノヴィアに開けてやれる時間は2日3日程度だな」
 「そ、そうですか。そうですよね。それじゃあ、それでお願いします」

 士郎の発言に罪悪感を感じ取ったようで、特に意見せずに提案を受け入れたゼノヴィア。

 「――――如何やら、話はまとまった様だな」

 そこにアザゼルが士郎に近づいて来た。

 「ええ、まぁ」

 そんなアザゼルに対して素っ気なく答える士郎。

 「ずいぶんと俺に関心がねぇな?つうか、俺が来てから会うの初めてだよな?」
 「ええ、そうですね」
 「何だ、その感情の籠っていない返事は?こっちきてから思ってたが、お前さん。俺の事避けてねぇか?」
 「気のせいです」
 「だから、如何して俺との会話を、一言で済ませようとするんだよ」
 「気のせいです」
 「・・・・・・・・・・・・」

 士郎からの感情の籠っていない対応に、何とも微妙な空気が満ちるリビング。
 そこで、扉が開いてグレイフィアが入室してくる。

 「皆様、温泉のご用意が出来ました」
 「グッドタイミングよ、グレイフィア!」
 「え、ええ、そうですわね」

 只の報告に来ただけのグレイフィアは、縋りついてくるように瞬時に近づいてきたリアスと朱乃のアクションに、顔には出さずに軽く困惑した。
 しかし、それ以上の大きな反応も無かったので、グレモリー城付近の庭の一角にある、日本の文化をまねて作らせた温泉に案内するのだった。


 -Interlude-


 「良~い湯~だな♪」

 アザゼルは十二枚の黒翼を全開にして鼻歌を歌っている。
 先程の何とも言えない気分を紛らわす為か、純粋に温泉の湯加減が良いからなのかは判らないが、兎に角気分がよさそうだ。
 そんな堕天使総督殿と共に、一誠と祐斗も頭の上に手拭いを載せて肩まで浸かっていた。

 「先生随分と気分いいな?」
 「まぁ、グレモリー領の温泉地は、冥界内でも名泉中の名泉だからね?気分が善くなるのも判るよ」
 「やっぱりそうなのか?道理で気持ちがいいなぁ~」

 蒸気で頬を赤く染めて、体の芯まで癒される感覚に酔いしれそうになる一誠。

 「そういやぁ、ギャスパーは?」
 「僕なら此処ですぅぅ」
 「うおっ!?」

 お探しのギャスパーは何と、祐斗とは逆の位置に居た。

 「何時の間に来てたんだ?」
 「ギャスパー君は最初から一緒にいたよ?」
 「そうだったか?全然気づけなかったぜ・・・」
 「あんまりですぅぅ」

 存在感を感知されなかったことに落ち込むギャスパー。
 そんなギャスパーにある疑問を感じた一誠は、じっと見る。

 「・・・・・・・・・」
 「な、なんですかぁぁぁ?」
 「ちょっと立ってみてくれねぇか?」
 「?わ、わかりましたぁぁ」

 一誠に言われて湯の中で立ち上がると、少々マナー違反であったが、腰にタオルを巻いていたギャスパーがいた。

 「・・・・・・・・・・・・」
 「な、なんですかぁぁぁ?そんな目で見ないで下さいぃぃ!イッセー先輩のエッチィィィ!!」
 「は、はぁあああ!!?べ、別にそんなつもりは――――」
 『イッセー駄目よーーー!ギャスパーにエッチなことしちゃー』

 ギャスパーに言い返そうとした処で、隣の女湯に居るであろうリアスから、からかいの言葉を投げかけられてしまった一誠。

 クッソーと毒づきながら、ギャスパーを視界から外す。
 たんに一誠は確認を取りたかっただけだった。
 しょっちゅう女装をしているギャスパーが、今回も同じような系統のまま女性と同じように真似をして、胸の位置までタオルを巻いていると思ったからだ。
 
 (兎も角普通だっあな・・・。最近段ボール離れもしてきてるし、コイツなりに頑張ってるんだな・・・)

 またも過剰反応されては堪ったモノでは無いので、チラ見程度でギャスパーに感心する。
 そんな時にふと見れば、真横に居た筈の木場が士郎に近づいて楽しそうに談笑していた。

 (木場の奴、随分士郎さんに懐いてるなぁ。それにしても――――)

 一緒に入って来てよく解ったが、高校生離れした鍛えられすぎたを士郎の肉体を見た時には、ぎょっとしたものだ。

 (背丈だって、男の俺から見ても長身だし、サーゼクス様とあそこまでの戦いを繰り広げられる男となれば、木場の奴も憧れるように見てるのも無理ねぇか)
 「ところで、イッセー。リアスの胸を見たか?」
 「は、はいぃいい!?見たと言うか揉みましたけど・・・」

 士郎達を注視していたので、アザゼルの突然な質問に過剰反応する一誠。

 「よし、そうか。じゃあ――――」

 そんな堕天使総督殿と一誠の会話を、今度は士郎と祐斗、それに避難してきたギャスパーが視線を送っていた。

 「アザゼル先生は、イッセー君の事が気に入ったんですかね?」
 「さぁ、如何だろうな」
 「やっぱり、アザゼル先生に関心が薄いんですねぇぇ。士郎さんんん!」
 「そう言うワケじゃないんだが・・・・・・」

 アザゼルとの会話に興奮する一誠を、眼を細めて見やる。

 「それにしてもイッセー君、興奮し過ぎだなー」
 「・・・・・・・・・祐斗は、あの手の話は苦手か?」
 「え?いえ、別にそういうワケじゃ――――」
 「誤魔化さなくてもいいんだぞ?一誠は少々、性に対して目覚め過ぎだが、祐斗たちの年齢を考えればおかしい事じゃないんだからな」
 (士郎さんもぉぉぉ、大して年齢変わらないのではぁぁぁ?)

 こういう発言が、度々士郎を年齢以上に歳がいっているのではないかと言う疑問を、周囲に蔓延させている原因になっていた。
 そんな3人の会話を耳に入れていたのか、アザゼルが士郎に言う。

 「お前さん、さぁ――――」
 「呼び捨てで構いませんよ」
 「じゃあ、藤村。質問させてもらうぜぇ」

 アザゼルの眼が、士郎を見ながら怪しく光っていた。


 -Interlude-


 士郎達が温泉を楽しんでいる頃、此方でもほとんどの美少女たちも、温泉の効能と芯から温めてくれる湯に浸りながら癒されていた。
 そんな時、男湯の方から一誠の興奮の声が収まったかと思えば、アザゼルの大きな声が聞こえた。アザゼルの声と言うだけで、朱乃のみが顔を若干しかめた様だが。

 『じゃあ、藤村。質問させてもらうぜぇ』
 『何でしょう?』
 「士郎とアザゼルが話ねぇ。またさっきの様な事に成らなければいいけれど」

 2人の声が聞こえてきてから、真っ先に反応したのはゼノヴィアであったが、声にして感情を露わにしたのはリアスだ。
 そんなリアスの言葉に、ゼノヴィアとアーシアは頷き、朱乃はよく解らないが不機嫌極まりないように顔をさらに顰め、小猫は元気な下げに顔半分まで湯船に浸かりながらボーっとしていた。

 『お前さぁ、この手の話に結構淡白だよなぁ』
 『?それが何か・・・』
 「そう言えばそうねぇ。ゼノヴィアと椿姫の色仕掛けも、悉くスルーされるんでしょう?」
 「ああ、未だ白星一つ挙げられていませんよ」

 部長の質問に、ゼノヴィアまでもが顔を顰める。

 『それにさっきのイッセーとの会話にも反応示してなかったし、お前、ひょっとして――――』
 『はい?』

 『――――女を抱いた事あるんじゃねぇか?』
 『は?』

 このアザゼルのあまりの爆弾発言に、全員の思考が停止した。

 アザゼルの口から、『女を抱いた』までで、ゼノヴィアの思考は停止した。
 『事ある』までで、彼女の思考が再起動した。
 『んじゃ』までで、彼女は瞬時にその言葉を受け止めて理解した。
 『ねぇか?』までで、彼女の脳はオーバーロードしたと言うのに、心は憤激に駆られる。
 そして――――。

 「ぬぅうぁああんんんづぅあつぅおぉおおおおぉおおお!!!?」

 鬼気極まるオーラを瞬時に発生させながら、彼女に纏わり付いていた近辺の湯だけを蒸発させた。

 『きゃあぁああ!?』

 その光景に驚く女性人たち。
 この事態には流石に、ボーっとしていた小猫も驚いていた。

 「くぉおおぬぉおおお!うわぁきぃぃもぬぅぉおおおああああ!!」

 湯ぶねから上がり、瞬時に駆けだしたゼノヴィアは、男湯と女湯を隔てる壁を登っていく。
 そして、憤激に彩られた顔を男湯に表して、そのまま越えようと上半身すらも曝け出そうとした処で、後ろから彼女の足を掴んだリアスと朱乃により妨害を受ける。

 「はぁあああなせぇええええ!!」
 「落ち着きなさい、ゼノヴィア!?」
 「今そのまま乗り越えたら、士郎君以外の男性にも、素肌を曝せる事に成りますわよ!?」
 「なっ!!?」

 リアスと朱乃の言葉に、漸く我に返るゼノヴィア。
 そしてリアスと朱乃は決してゼノヴィアのためにでは無く、この事を切っ掛けに、一誠の取り合いに参加するであろう女性を防ぐ打算的な行動だった。

 「くっ!」

 士郎に何も言わずに、渋々ながらリアス達の言葉を聞いて下がるゼノヴィアだった。

 『――――で?藤村。抱いた事あんのか、無いのか、どっちなん――――』
 「アザゼル!!」

 直も悪戯心で質問を辞めようとしなかった堕天使総督に、姿が見えないにを承知の上でリアスの叱咤が飛んだ。
 更には男湯の方で、アザゼルのこれ以上の横暴を辞めさせようと、祐斗と一誠の2人がかりで口を押えるのだった。
 因みにゼノヴィアは、浴場から上がるまで、こめかみをひくつかせていた。


 -Interlude-


 「士郎さんは何所だ!?祐斗、イッセー」

 温泉から上がったゼノヴィアは、女性人より先に上がった男子諸君に問い詰める。

 「あー、士郎さんはな・・・」
 「ちょっと、グレモリー領の庭を身の危険を感じた逃走(散歩)してくるって言ってたよ。もしかしたら朝まで帰らないかもって・・・」
 「フフフ、そうかそうか。なら正妻として、夫と同じように行動するのはもはや義務だろうな。私も行ってくるよ。何、士郎さん同様、私も朝まで帰らなくても心配するな!」

 鬼気としたオーラ再臨。
 そして、先ほどまで手ぶらだった筈の右手には、亜空間に仕舞ってあるはずのデュランダルを握っていた。
 幸い、一誠と祐斗には届いてはいないが、聖剣デュランダルから放出されている莫大な聖なるオーラが漂っていた事に気付く一誠と祐斗(2人)

 「ゼ、ゼノヴィア!?その右手にある――――」
 「ん?ああ、安心しろ。私も今やリアス・グレモリー眷属の立派な一員、どんな事があろうと、悪魔(・・)には振るう気は無い!」

 それ以外には振るうのか?と突っ込みを入れたかったようだが、そこは自粛した。
 ゼノヴィアから放たれて、彼女の周囲を包み込む、剣呑なプレッシャーに気圧されて。
 そのまま一誠達の返事を聞かぬまま、ゼノヴィアも庭――――と言っても森も含まれているが、士郎の後を追う為に追跡からの尋問(散歩)に出かけた。
 ここに、ゼノヴィアと士郎による鬼ごっこ&かくれんぼが始まる。


 -Interlude-


 深夜の藤村邸は静まり返っていた。
 士郎の家族は全員就寝中だ。
 そんな静寂なる帳に無粋ではあるが、黒子のように夜闇に溶け込んでいたらしい痩せ細り目元には白い骸骨の面をした3対の怪人――――アサシン達が、三方向からそれぞれ音を立てずに、塀の瓦に着地する。
 彼らは、群であり個、個であり群故、打ち合わせなど無くとも瞬時に互いに何を考えているか位出来る。
 そのため、アイコンタクトや示唆による合図も無しに、そのまま庭に着地した――――いや、着地する前に、圧倒的存在からの非情な濃密の殺気を受けて、一瞬にして魔力の滓となって消えて行った。
 そして今、間諜の英霊の一部を、雑魚同然に音も無く消し飛ばした存在は上機嫌に尾を振っている。

 【ナポリタン♪ナポリタン♪――――】

 彼の存在は頭の中で、そんなキーワードを連呼していた。
 今日の夕食時に、アイリから明日の夕食はナポリタン宣言を受けてから、ずっと上機嫌なのだ。
 この藤村邸に居候する様になってから、アイリの作るナポリタンは第5位に入る好物らしい。
 そんな圧倒的存在の、ささやかな楽しみを邪魔し得る侵入者などには、この結果は必然と言えた。
 この存在がいる限り、士郎が留守であろうと、この藤村邸は難攻不落も同然だった。

 【――――ナポリタン♪ナポリタン♪ナポリタン♪ナポリタン♪】


 -Interlude-


 「っ!?」
 「如何しました?アサシン」

 此処は何所ともいえぬ怪しい西洋風の屋敷の一室。
 そんな屋敷に、ベストマッチした隻眼の男レヴェルと、およそ合わなそうな風貌のアサシンの核と言える存在がいた。

 「かの地に放った我が一部が全員、一瞬にて同時に消滅しました・・・」

 内心では腸が煮えくり返る事態ではあるが、それを一切として表には出さずに報告するアサシン。

 「・・・・・・・・・おかしいですね。今あの家には、藤村士郎や転生悪魔たちの不在の確定情報を入手したからこその派遣だったのですが・・・」

 わざとらしく――――いや、本当に疑問に感じているようで、真剣に考えているレヴェル。

 「如何しましょう?ライダー()よ」

 傅くように王と呼んだ英霊に聞くレヴェル。
 その英霊には確かに、王と呼ばれるに相応しい、カリスマ性漂うオーラを纏わせていた。

 「よい、レヴェルよ。確かに今回の策において、かの地の防備の強力さには疑問点を投げかけたい処ではあるが、所詮は予備的なモノ。本命の策が上手くゆけば大事なかろう」

 頭にターバンを巻き、立派な口髭を擦りながら、今宵の策を咎めない様だ。

 「されど、本命が仕損ずれば、偉大なる祖の名を辱める禍の団(カオス・ブリゲード)の英雄派や、妄執と意地汚さに何所までも没している旧・魔王派と、本格的に手を結ばなければならなくなる。この策を何としても成功させて、我らの戦力を増強させた後に、世の裏で跋扈し続ける“魔”共を一日でも早く一掃するのだ」
 「お任せを」
 「了解だ、旦那」

 ライダーの力強く本心からのヴィジョンに、セイバー、次にアーチャーと返事をする。
 セイバーは額にはちまきをして髪を侍のようにマゲしているが、月代(さかやき)はしていない。そして袴装束に刀を腰に帯びている。
 アーチャーは、緑色の鎧の上から緑色の外套を羽織った青年だ。

 「アーチャー!王に対して無礼であろう!」
 「よい、セイバー。人には人の流儀があるのだ。そこを強制してしまえば、個性が消えてしまう。英霊であるなら全力を発揮できなくなる恐れもあろうからな」
 「さっすがは、旦那!話が判るお方で助かるぜ」
 「っ!」

 ライダー()からの許しがあったとはいえ、自分の想像上の英霊達の理想像とはかけ離れたアーチャーに、セイバーは表情に出さずとも不機嫌だった。

 「アーチャーよ。確かに我は許したが、今の様な小事で不和たる状況を作ってくれるな」
 「・・・・・・確かに、旦那の仰る通りですな。これからは少々自戒しますよ」

 王たるライダーの言葉に、多かれ少なかれ思うところがあったようで、反省の色を見せるアーチャー。されど、セイバーは睨み続けていた。
 勿論、セイバーの反応に気付いていたライダーは内心で溜息をつく。

 (国もクラスも祈りも違えば主義主張まで別々など、判り切っていたが難儀よな・・・)

 そこでライダーはある事に気付く。

 「時にレヴェルよ、ランサーは何処(いずこ)に?」
 「ランサーでしたら。召喚主の魔術師と一緒です。出来るならランサーのマスターを、キャスターの依頼品として使いたい(・・・・)所ですが、仕方ありません。契約ですからね」
 「しっかし、あのランサーも物好きだなぁ。召喚者とは言え、今生の願いをかなえるためにあの魔術師に忠を誓うとはよ。俺だったら断然旦那を選ぶぜ」

 ランサーの選択を見下すように皮肉るアーチャー。

 「その意見には概ね同意するが、口が過ぎるのではないか?アーチャー」
 「そうかい?だがよ、セイバー。たった一つの祈りを自らの選択で反故にしちまう奴なんぞ、物好きって言われてもおかしくはねぇだろうが」
 「如何いう意味だ?アーチャー」
 「判らねぇのかい?ランサーのマスターは“魔術師”だろ。“魔術師”つぅー人種は基本的に、この現代の一般論視点で言う凶悪な犯罪者すらも可愛く思える程の、自己中心的の下種外道なんだぜ?そしてランサーのマスターである魔術師も例に漏れてねぇ。そんな人種に、ランサーの祈りも届くはずねぇし、“信頼”と言う名の報いも返ってくるわけねぇだろう。つまり、俺の言った“物好き”と言う言葉も結果論ではあるが、かな~~~りオブラートに包まれてるっと思われても過言じゃねえ筈だがなぁ」
 「・・・・・・・・・・・・」

 今度のセイバーは、アーチャーの言葉に完全(・・)に同意してしまい、黙る事しか出来なかった。
 しかし、そんなアーチャーの言葉を完全に良しとしないのがライダーだった。

 「そこまでだ、アーチャー。如何にランサーの行為が時期尚早であったとしても、彼の選択だ。是ばかりは余人が立ち入っていい問題では無い」
 「そんな気は無かったんですがね。ま、旦那がそこまで仰られるなら、俺もこれ以上は口を噤むとしますよ」

 ライダーの言葉に素直に引くアーチャー。

 「さて、では私は此度の作戦において、キャスターと最後の打ち合わせをしてきますが・・・・・・アーチャー、共に来てください。地形把握の意味も込めて貴方の意見も聞きたいのですよ」
 「・・・・・・・・・・・・」

 アーチャーは二つ返事するかと思いきや、自分に頼むレヴェルでは無く、この陣営の王であるライダーに視線を送った。

 「よい。此度の策は緻密な連携が必要不可欠、気の済むまで軍議に勤しむがいい」
 「了解です、旦那」
 「全ては、真の太平の世の実現のために。アサシン、貴方も同行してください」
 「御意」

 そうして、転移陣の上に載った1人と2体はその部屋を後にした。

 「何が真の太平の世の実現だ。獅子身中の虫・・・・・死の商人風情がっ!」

 その部屋を後にしたレヴェルに対してセイバーは、吐き捨てるように罵る。

 「セイバーよ、口が過ぎるぞ?」
 「はっ・・・・・・申し訳ありません。しかし、戦争の扇動者風情から、真の太平の世の実現などと、胡散臭いにも程があるかと」
 「確かに一理あるが、時には大義を持たぬものを使わなければならない時と言うのは、必ず来るものだ。今は耐えよ、セイバー」
 「はい、王よ。全ては、大義――――悪魔共の支配を破壊して、虐げられている者達を救わんがために」

 セイバーからの本心であろう言葉に、頷くように力づく賛同する王がそこに居た。


 -Interlude-


 一誠達が寝静まった頃、グレモリー領の庭の一角では、士郎を遂に補足したゼノヴィアがデュランダルを振り続けていた。勿論、士郎に向けて。

 「ちょっ!?待て待て。待ってって、ゼノヴィア!」
 「問答無用ぉおおおおおお!!!」

 無論、すべて躱す士郎ではあったが、此処まで殺気立たれて襲われていては、気分がいいモノでは無いのは確かだった。

 「そもそも、如何してそんなに怒っているんだ!?」
 「理由が解らないのでしたら、如何して逃げたんです、かぁっっ!!」

 大ぶりの一撃、無論の事躱される。

 「それでも嫌な予感がしたんだ!いい加減にしてくれよっ!?」
 「私の気持ちも理解できずに、よくもそんな事を!士郎さんなんて、士郎さんなんて――――」

 目元に僅かな涙を蓄えていきながら、さらに大きな一撃を入れようと振りかぶるゼノヴィア。

 「――――大好きだぁあああああぁあああああ!!!」
 「ぬぅ、あぁぁああああああぁあああああ!?」

 行動と言動がまるで一致していなかった。

 ズォッッオオオンン!!!

 ゼノヴィアの一撃は大地を抉り、巨大なクレーターの形成するほどの轟音だった。
 しかし、この轟音を含めて、グレモリー城に居る者達にまで届く事は無かった。

 「なんでさぁあああああぁあああああああ!!?」

 士郎はそれからゼノヴィアに延々と追いかけられて、宣言通りに朝に漸く帰れたそうだ。 
 

 
後書き
 敵のライダーとセイバーはオリ鯖です。 
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