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英雄は誰がために立つ

作者:昼猫
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Life4 帰郷

 
前書き
 執事服の士郎は、Fate/EXTRAの執事服をきたアーチャー(赤)を、少し幼くした感じです。 

 
 リアス及びリアス・グレモリー眷属らは、現在、冥界行きのグレモリー家所有の列車内に居た。

 本来であれば初の冥界行きと言う事で、一誠もアーシアも興奮して楽しそうだったろうが、そうでは無かった。
 いや、実際には先程まで楽しんでいた。毎度のことながらの一誠の取り合いや、グレモリー家専用列車車掌のレイナルドへの挨拶やふれあい、それにリアス眷族の恩恵のグレモリー領の土地の一部の譲渡、そしてまた取り合いと楽しんでいたのだが、だんだんとゼノヴィアのみの機嫌が何故か傾いていき、空気が徐々に重くなっていった。

 「如何かしたんですか?ゼノヴィアさん・・・」

 そんな空気の中でアーシアが果敢にも質問――――と言うワケでは無く、純心から来る相手を労わる心からの心配だ。

 「あっ、いや、なんでも無いんだ。心配してくれてありがとう。アーシア」

 グレモリー眷族の1人となってからの生活を初めて、士郎の母親であるアイリスフィールと同じくらい仲がいいアーシアからの心配を受けて素直に感謝を述べるゼノヴィア。
 実際には機嫌が悪くなる原因があるのだが、アーシア自身に罪があるワケでは無いので、当たるワケにもいかった故の返事だった。

 「とても、そうは見えないぜ?」
 「何かあるんでしたら、言ってしまわれた方が良いですわよ?」

 アーシアの純心で、空気が少し軽くなったところで、朱乃と一誠が畳掛ける。

 「それはその・・・・・・」
 「言いづらそうにしてるけど大体予想つくわよ。士郎の事よね?祐斗」
 「はい、部長」

 リアスの疑問に肯定を表す祐斗。

 「木場!?」
 「別に隠し立てする事じゃないじゃないか。それにアーシアさんもさっきから、心配し続けてるし」
 「むぅ・・・」

 アーシアの事を引き合いに出されて、唸るゼノヴィア。

 「それじゃあ、説明させてもらいますけど、特別な事ではありません。ゼノヴィアは単に、この列車内で士郎さんとイチャイチャできることを楽しみにしていたのに、『用事がある』と言うメモが書き残されており、特殊転移魔法陣で先に冥界に行かれた事で不機嫌なんですよ。イッセー君達がいちゃついる姿を目の前で見ていたので余計に。そうなんでだろう?ゼノヴィア」
 「ああ、そうさ!真羅先輩も今はいないし、イリヤさんの眼もここには無いから、正直楽しみにしていたのに、本人がこれさ!!」

 祐斗の説明に全て的を得ている答え故、此処には居ない士郎に対して憤慨するゼノヴィア。

 「やっぱり、士郎君の事でしたのね?」
 「それにしても用事って何かしらね?お兄様と何か約束でもあったのかしら・・・」
 「いや、無かったはずだぞ?」
 『!?』

 リアスの疑問をチャッカリ聞いていたのか、先程まで完全に寝ていたと思われていたアザゼルが答える。

 「アザゼル!起きてたの?」
 「今さっき起きたんだがよ。ゼノヴィアの奴がピリピリしてたから、暫く静観してたんだよ」
 「だったら、起きて空気を和ましてくれてもいいじゃないっすか!」
 「アーシアの奴が和ませたんだから、いいじゃねぇか?」

 一誠の軽い非難にアザゼルは、手を振ってめんどくさそうに対応する。

 「それで、さっき口にしたことだが、如何いう意味だ?アザゼル――――先生」
 「お前もリアス同様に、『先生』を付ける事に慣れろ!・・・・・・で、質問の答えだが、確かに俺はこれからサーゼクスの奴から『お呼ばれ』されている。つまり会談があるが、藤村士郎(奴さん)が呼ばれてはいなかったはずだぜ・・・・・・っていうか、会談の出席に断られたらしいがな」
 「じゃあ、如何して士郎さんは先に行ったんだ・・・」

 皮肉な落ちを付けて説明するアザゼルに、敢えて皮肉をスルーするゼノヴィアは独り言ちる。

 「案外避けられてるんじゃねぇか?お前さん、奴さんの事に関すると暴走しがちだし・・・・・・って、な~んちゃって――――」
 「そ、そんな!?私が士郎さんに避けられてるだと!そんな事あってたまるモノか!!」

 アザゼルのジョークに、過剰なまでに反応したゼノヴィアは、亜空間からデュランダルを抜き放つ。

 「ちょ!?待て!俺はちょっとしたジョークをだな―――」
 「ジョークで済まされるモノと、無いモノがある事を知るがいいぃ!」
 「待って、ゼノヴィア!」
 「アーシア!ゼノヴィアを止めて頂戴!!」

 士郎を話題に、何時の間にか修羅場が展開してしまい、結局収まったのはグレモリー本邸前に着く直前だったらしい。


 -Interlude-


 時刻を少し遡る。
 リアス達がまだ、各自家を出る前の頃に、当の士郎はグレモリー公爵本邸前に居た。

 「矢張り、人間の貴族と悪魔の貴族では、年季も格も違うな」

 士郎は本邸――――と言うより、城を見上げていた。
 士郎自身は大小あれど、城に招待された事もあったので今更圧倒されてはいなかったが、凄いと言う感想位は持っていた。
 しかし、何時まで経ってもその状態のままでは目的を果たす事も出来ないので、早速訪問のベルを鳴らす。
 
 『どちら様でしょうか?』
 「お忙しいところ、申し訳ありません。私、藤村士郎と言う者なのですが、グレモリー公爵閣下に拝謁の栄を頂けないでしょうか?」
 『藤村士郎様!?』

 呼び鈴の相手は、士郎が訪問して来たと瞬時に理解すると、焦り出す。

 「あの――――」
 『エリス!緊急事態だ!?お嬢様方がもう到着為されたようだぞ!近くに居る者達を片っ端から集めて、歓迎の準備を速めろ!こちらは私の方で何とかする!!』
 「いえ、ですから――――」
 『奥様と旦那様を如何するかだと!?そんな事を一々聞く――――』

 本邸前の呼び鈴側と城内では、明らかにおかしい差異が進行していた。
 この事に士郎も焦る。

 (如何いう事だ!?俺の訪問は、グレイフィアさんを経由して話は済んでいるんじゃなかったのか!?)

 用件自体は話していないモノの、アポを取らないほど士郎は落ちぶれていなかった。
 例えそれが、家族ぐるみで親しい家の訪問だったとしてもだ。
 だがそこに、漸く話を収拾出来る人物が現れた。

 『アルデン、その必要あ有りませんよ』
 『家令!』

 呼び鈴越しの城内から、グレイフィアの声が聞こえて内心で安堵する士郎。
 そうして暫くそこで待たされていると、誤解が解けたようで、グレイフィアのみで士郎を出迎えた。


 -Interlude-


 「いや、すまなかったね。うちのサーゼクスの妙な小細工のせいで」
 「いえ、大事に至らずに済みましたので、問題等ありません。ですから、如何かお気になさらず」

 士郎が来たので、リアス達も帰って来たのだという誤解も解けたので、漸く士郎はグレモリー公爵並びにグレモリー夫人と面会で来ていた。

 そもそも、何故話が通っていなかったかと言うと、サーゼクスの要請した会談への出席を断られた上、自分では無くグレイフィアを頼ったグレモリー公爵とグレモリー夫人との面談に、へそを曲げた彼は、グレイフィアに自分が連絡しておいたと言う虚偽の報告をしたために、この様な騒ぎになったのだ。
 勿論、この騒ぎの原因の人物はアザゼルとの会談後に、グレイフィア直々の折檻が確定している。
 どの様な末路が待っているか等予想出来るだろうに、よくやるモノだ。

 「それで士郎君。今日は何故、リアス達とは別に訪ねて来たのだね?」

 グレモリー公爵は、不躾な客への対応では無く純粋に問う。

 「はい。それにつきましては、本来であればもっと早めに来るべきでした。本当に申し訳ありませんでした」
 「ふむ?如何して謝るんだい?私たちは士郎君に謝罪される事など無かったはずだが・・・」
 「いえ、今迄は正体を隠していたからこそ来れませんでしたが、素性を明らかにしたのですから迅速に行動に移すところだったのです。にも拘らず遅れた事、申し訳ありませんでした」

 士郎は謝り続けるが、グレモリー公爵には覚えが無く、訝しむだけだった。
 しかし、士郎の口にしたキーワードから、冷静な分析から大体の事情に勘付くグレモリー夫人。

 「なるほど、そう言う事ですか」
 「如何いう事だい?ヴェネラナ」
 「恐らく士郎さんは、ライザー・フェニックスとの婚姻を掛けたレーティングゲームの件についての謝罪よ。あなた」
 「お見受け通りです。サーゼクス様は、このままでは一方的に負けると思い、バランスを釣り合せるために私をスポット参入させようと考えたのでしょう。これは私見ですが、それでいい勝負になれば別の道もあったのではないかと愚考します。私が力を隠していた事で、グレモリー家並びにフェニックス家の皆様方に多大な迷惑をかけた事、深く謝罪いたします。本当に申し訳ありませんでした」

 確かに士郎の言にも一理あるが、そんなものはifの話に過ぎない。
 それに元々、サーゼクスからの相談が無ければ参入すらできなかった件を、自分にも責任が多分にあると謝罪しに来たことに驚きつつ、士郎の誠実さと真面目さに改めて触れたグレモリー公爵並びにグレモリー夫人(2人)だった。

 「解りました。ですから頭をお上げになって下さい、士郎さん。貴方の謝罪は受け入れますので」
 「士郎君に責任等があったとしても、ほんの一握りだと言うのに、良く謝罪にきてくれた。君の責任感は快く受け取らせてもらうよ!」

 2人の言葉に士郎は、垂らしていた頭を戻す。

 「そう言って頂けると、ありが――――」
 「・・・・・・ですが、謝罪のタイミングが少々狡猾ではありませんか?士郎さん」
 「何を言っているんだい?ヴェネラナ。士郎君にも事情があ――――」
 「あなたは黙っていてください」
 「・・・・・・・・・・・・・・・う、うむ・・・」

 実の妻の眼光に怯むグレモリー公爵。
 数年間の付き合いではあったが、目の前の2人と、この様な場面に陥った事が無かった士郎。

 (グレモリーさん。やっぱり、尻に敷かれてたんだな・・・)

 などと内心で失礼なこと思っていた。
 ヴェネラナは、そんな士郎を眼光で射貫く。実の夫ほどでは無いが。

 「話の続きですが、このタイミングでの謝罪は、私からリアスへの対応への緩和が目的ですね?」
 「・・・・・・・・・はい」

 ヴェネラナの疑問に正直に吐く士郎。恍け切れぬと観念したと言うか、最初からばれるとも思っていた様だ。

 「つまり、見抜かれる事を前提(・・・・・・・・・)とした面会ですね」
 「・・・・・・・・・はい」

 しかし、最初から予定通りの事だったとはいえ、ヴェネラナの眼光には色々来るものがあると、士郎は少々後悔した。

 「――――と言う事は、そのアタッシュケースがお詫びと無礼の謝罪の形と言う事ですか」
 「はい。全て、お察しの通りです。粗品ではありますが、お納めいただければ幸いです」

 机の上に置いてから、士郎がアタッシュケースを空けると、4本の黄金の角に4つの黄金の覆いが付いたひし形の盾が入っていた。

 「ほう・・・・・・!」
 「まぁ・・・・・・!」

 ヴェネラナの眼光により、縮こまっていたグレモリー公爵と、こういっては何だが、所詮は形だけの品と思っていたグレモリー夫人の2人は、純粋に驚きと関心の表現として、それぞれの反応をした。

 「なかなかの品に思えるが、良いのかね?士郎君。相当な値打ちモノだろうに」
 「いえ、そんな事は――――」
 「今は謙遜など要りませんよ?それの相当な魔力が籠っていますから、只の美術品(・・・)と言うようなモノでは無いのでしょう?」

 見目麗しいが流石は悪魔。
 一目で魔力が籠っていると見ぬいた様だが、実用品では無く美術品と称した。
 だが、無理も無い。
 この様な場で渡す金属製の品が実用品であるなど誰が想像できようか。

 「失礼を承知で申し上げますが、これは実用品(・・・)です。それに決して悪気があるのではないのですが、これは贋作なのです」

 士郎の言葉に二重に驚く2人。

 「実用品とな!?」
 「それに贋作とは・・・。それにしてもよく出来ていますが、流石に贋作だと理解して謝罪の品として差し出すには不適切ですわよ?士郎さん」
 「はい。それも重々承知の上ですが、それをこれから説明させて頂きます」

 士郎の魔術特性については、士郎の身内同然である『あの5人』と、駒王協定締結の日に出席した人物たちだけの機密事項扱いだったので、信頼の証としての理由も含めて説明した。

 「――――と言う事なんです」

 説明し終える士郎に、神妙な顔つきになる2人。

 「我々悪魔には使えない魔術には、確かに投影魔術と言うモノがある事は知っていたが、士郎君は規格外だな」
 「恐れ入ります」
 「けれど士郎さん。この楯の真価は貴方にしか使えないのではなくって?」
 「確かにおっしゃられる通りですが、これをこの城の蔵にでも暫く置いてくださっていれば、一応グレモリー公爵並びにグレモリー夫人(御2人)を、主と認識するでしょうから、御2人の危機が迫れば金切音が鳴り響きます。それに、相当な防御力もありますのでいざとなれば楯としても使えます」

 士郎の説明に一応の納得をする2人。
 そこで、呼び鈴を鳴らすと廊下からグレイフィアが入室して来た。

 「グレイフィア、この楯を広間の一画に飾っておきなさい」
 「畏まりました。奥様」

 ヴェネラナの指示により、アタッシュケースに近づくグレイフィア。
 それに焦る士郎。

 「え!?いいんですか?これは事前にもお伝えしたとおり贋作なのですが・・・」
 「勿論判っていますよ。ですが、士郎さんの創り出したこの楯は、ある意味本物以上なのでしょう?でしたら我が家で堂々と飾る価値があるのです。ねぇ、あたな」
 「うむ。例え贋作であろうと、士郎君の創り出した物だ。これを蔵に仕舞うなど、サーゼクスやリアスは勿論、ミリキャスにも顔向けのなど出来る筈も無い。何より、そんな判断をした自分を許せるかどうか、怪しいのだよ。だからと言う事ではないが、士郎君。君のあの楯を飾らせてもらうよ」

 自分の創り出した贋作に、そこまでの評価を堂々と言い放つグレモリー公爵並びにグレモリー夫人(御2人)に、嘗て『衛宮士郎』だった頃に仕えた貴族以上のものを感じっ取った藤村士郎は、此方こその感謝の念を覚えた様だ。

 「ありがとうございます。まさかその様に評価して頂けるとは、思ってもみませんでした。しかし、このままでは謝罪したことになるとも思えません」
 「生真面目すぎると思うが・・・」
 「――――旦那様、奥様、並びに士郎様。一つ、意見させてもよろしいでしょうか?」

 そこにグレイフィアが割ってはいる。

 「構いません。何かいい案があるのですね」
 「良案かは保証しかねますが、良ければご裁量の程よろしくお願いします」

 そうしてグレイフィアは、恭しく案を切り出していった。


 -Interlude-


 魔王領へ行くアザゼルと別れたリアス達は、グレイフィアや多くの従者たちに迎えられて馬車に乗り込んでから、本邸であるグレモリー公爵家の城の一つに着いた。
 この城に始めて来た一誠とアーシアにゼノヴィア(3人)は、圧倒されながら足を進めていく。
 そこで、まずは各自に用意された部屋で休めるとの事になり、一誠は安堵した。

 (よかった~。こんな豪勢な所の部屋だと、それはそれで落ち着かなそうだけど、少なくとも休憩は出来る~ぞ~)
 「あら、リアス。帰って来ていたのね」

 一誠が安堵に胸を撫で下ろしていたら、亜麻色髪ときつめな目元以外はリアスとうり二つに見える女性、グレモリー夫人ことヴェネラナ・グレモリーが階段から降りて来た。

 「ただいま帰りました、お母様」

 リアスの言葉に度肝を抜かれる一誠。
 露骨に驚き思った事を口に出す一誠に、ヴェネラナはクスリと笑いかける。

 「嬉しいことを仰ってくださいますね。女の子だなんて言われたのは幾年前だったかしら?」

 艶っぽい声や仕草に息をのむ一誠。

 「悪魔は歳を取れば、魔力で見た目を改変させることが出来るのよ。後、母様に熱視線を送り続けないの!」

 一誠の反応に焼きもちを焼いたリアスは、説明と注意喚起をした。
 その後に互いの自己紹介も済ませる。

 「お母様、一度私の下僕たちである皆を休ませたいのですが、そろそろよろしいでしょうか?」
 「あら?そんな事に気付かずに、ごめんなさいね。皆さん」

 ヴェネラナの態度に全員恐縮するリアス眷属ら。

 「では、貴方も皆さんを案内して御上げなさい」
 「御意」

 ヴェネラナの言葉に何時から居たのか、背後からすっと銀髪の執事が現れた。そう、銀髪の執事が現れたのだ。
 銀髪に黒縁眼鏡をかけた長身の執事、藤村士郎が現れたのである。

 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 そんな士郎の姿を見た時、リアス及びリアス・グレモリー眷族の皆は全員固まった。

 「本日より、明日の夕刻まで皆様のお世話をさせて頂きます、藤村士郎と申します。以後お見知りおきを」
 『え・・・えぇええええええええええええ!!?!!?』

 士郎の自己紹介により固まっていたメンバーは、時を動かし始めた。
 兎も角、リアス達はこうして帰郷したのだった。


 ーInterludeー


 「遠慮なく楽しんでくれたまえ」
 (楽しめないっすよ!?)

 外出から夕餉の席に間に合ったグレモリー公爵の言葉から、ほとんどのモノが行儀よくテーブルマナーを使いこなし食べていた。
 ゼノヴィアは士郎に教わっていたので、お手本の様とはまだ行かなかったが、それなりに苦戦しつつも形になっていた。
 アーシアもゼノヴィアと同じ環境ならと、いつの間にか士郎に教わっていたらしく、ゼノヴィアと同じように一生懸命にナイフとフォークを使っていた。

 しかし、この中で数少なく手が進んでいない2人の内の1人である一誠は、テーブルマナーの基礎も碌に知らずに、無茶ぶりされているので、全く手を進めずにいた。
 それに加え、周りの給仕に混じって何故か士郎が執事服に身を包みながら立っていた事に困惑しているのもあって、一誠の手を止めている現実に拍車をかけていた。
 まぁ、それを言ってしまえば1人を除いたリアス及びリアス・グレモリー眷属全員が気になっている様子だ。
 士郎の今の状態について、今だ一言も説明がないのだから当然ではあるが。

 (だけど、このまま手をこまねいてるワケにもいかないんだよな~。如何するか・・・・・って、あっ!?)

 つい手を空にした状態の内に、右手の薬指が一番右側のスプーンに当たり、落ちてしまった。
 それを慌てて拾うとしたら、既に落としたスプーンは見当たらず、代わりに士郎が横に居てスプーンを差し出してきていた。

 「恐れ入りますが、兵藤一誠様。あちらは既に落としてしまわれたので、こちらを代わりにお使いください」
 「は、はひ!」

 士郎からスプーンを受けっとた後には既に、士郎の姿は元の位置に戻って佇んでいた。

 (本当に一体何なんだ?それにしても、こ――――)
 (ナイフとフォーク、それにスプーンの使い方は、皿から見て全て外側から使うんだ一誠)
 「!?」

 テーブルマナーについてド素人も良い所なので、再び手に余る様に困惑している一誠の頭の中に、士郎の言葉――――念話が送り込まれた。

 (後ろを向くな一誠。リアスの手前で、グレモリー公爵並びにグレモリー夫人に、いい印象を付けたいんだろ?向けば気づかれる。それと質問も無しだ。これは特別な秘密用回線の念話術式なんだが、一方通行のため、お前の方から返されるとバレるんだ)

 士郎が今使用している術式は、フィリップ・アーレルス――――パラケルススが作成したモノなので、そんな中途半端な代物では無い。
 単に士郎が、その方面の魔術の才能が残念なだけだ。
 兎も角、一誠は士郎に念話からの指示に従い、ゼノヴィア達と同様にぎこちなくだが確実に料理を口に付け始められていた。

 (何とかなった・・・。ありがとう、士郎さん!・・・・・・って、あれ?)

 漸く手を付けられたため、余裕が出来たのか、小猫が料理に一切手を付けていなかった。

 (小猫ちゃん、如何したんだろう・・・――――)
 「ところで兵藤一誠君。ご両親は元気かね?」
 「は!?はいぃ!勿論元気ですぅ!!」

 突然のグレモリー公爵からの言葉に動揺したのか、若干、ギャスパー口調で返事をする一誠。
 そこから一誠が、冗談交じりで土産を要求されたましたと言うと、それを聞いたグレモリー公爵は手を親伊指と薬指で顎を掴むように触りながら考え込む。
 そして直に手元の鈴を鳴らすと、何故か士郎が近づいてきた。

 「御用でしょうか」
 「うむ。兵藤一誠君のご両親宛に館――――いや、城を一つ用意しろ」
 (城ぉおおおおおおおぉおおおお!!?)

 グレモリー公爵の突飛過ぎるアイデアに、今日一番の驚きを見せる一誠。
 しかし、そこで士郎はすかさず意見する。

 「お言葉ですが旦那様、兵藤一誠様のご両親は平民ですので、かえってご迷惑になるでしょう。最悪、良い御関係が続いている流れを壊して仕舞いかねませんので、如何かお考えを改めた方がよろしいのではないでしょうか?」
 「そ、そうです、お父様。一誠のご両親は、それ程物欲の強い方々ではありませんし、建てたと仮定しても良からぬ噂を立ててしまいます!」
 「なるほど」

 士郎とリアスの連携による反論の意図に納得がいった様で、城の建設を食い止められた。

 「兵藤一誠君」
 「は、はい!」
 「これからは、私の事をお義父さんと呼んで構わない」

 お土産の件は済んだと言うのに、グレモリー公爵の一誠への干渉は如何やらまだ続く様だ。
 しかし、その考えも妻のヴェネラナから却下された。
 この事に、自身は急すぎるきらいが有る様だなと、反省した。

 「兵藤一誠さん。一誠さんと呼んでも構わないかしら?」
 「は、はい!異論など有りません!」

 グレモリー公爵の次は如何やらグレモリー夫人の干渉が始まる様だ。
 飽和砲撃と言う奴だろうか。
 ヴェネラナは、一誠の今後の予定を聞くと、気持ちよさげに頷いた後に紳士的振る舞いとマナーをの勉強を希望した。
 一誠からすれば、何故自分がそんな事をしなければならないのかと不思議そうだった。
 そこでリアスが立ち上がる。

 「お父様、お母様!先程から私を置いて話を進めるなど、如何いう事なのでしょうか!!」
 「お黙りなさい、リアス。貴女は今はまだ、次期当主候補に過ぎないのですよ?にも拘らず、その口の利き方は何ですか!その上貴女は、ライザーとの婚約を解消しているのよ。それを私たちが許しただけでも破格の待遇と思いなさい。その件で、お父様とサーゼクスがどれだけ上級悪魔の方々への根回しをしたと思っているの?一部の貴族には未だ『グレモリー家の我儘娘が伝説の龍を使って婚約破壊した』と、言われているのですよ?本来の事実とは幾らか異なっている部分があるとはいえ、魔王の妹とは言え、限度があります」

 その事実に、一誠は何とも言えない顔をした。ゼノヴィア以外の他の眷属も同様だ。
 当の相手のリアスは反論しようとしたが、現実と立場などの責任も含んだ言葉で、ヴェネラナは封殺する。
 その事実にリアスは、悔しそうにしながら未だに納得しきれていない様子だが、反論の言葉を見つけられずに勢いよく椅子に座った。

 「――――それに本来であれば、この夕餉後の説教に加えて明日から私と共に、再度上級悪魔の方々にお騒がせしたことへの謝罪訪問をさせようと予定していたのよ?それも無かった事にしたのだから、これ以上のわがままは許しません」

 新たに事実に顔を歪めるのではなく、訝しむリアス。

 「如何いう事ですか?」
 「貴方が帰郷する前に、士郎君が謝罪とお詫びの品。それに加えて律儀に罰を要請して来たので、グレイフィアの発案により明日の夕刻まで執事として仕えさせているのよ。私から貴女への対応への緩和も狙っての行動として」
 「え!?」

 ヴェネラナの言葉にリアスが、眷属らが一斉に士郎へ向く。
 しかし士郎は、直立不動で佇んでいるだけだ。

 「し、士郎?如何して・・・」
 「・・・・・・・・・」
 「士郎君。今は普通の口調も許可するから、リアスの疑問に答えてあげて欲しい」
 「判りました」

 グレモリー公爵の許可が下りたので、姿勢を楽にしてリアスへ向く。

 「正直、俺が実力を隠していたせいであんな風に終わってしまったが、ゲームが拮抗していれば、他にも道があったんじゃないかと反省していたよ。だからこそ、謝罪はしたが後悔はしていない。少なくとも、幼馴染としてはな」
 「士郎・・・・・・」
 「そう、寂しそうな顔をするな?友達が困っているんだから、助けるのは当然だろ?」

 そこらの女の子にしたら、一撃で沈没させそうな笑顔に、流石のリアスも頬を赤らめる。

 「士郎、ごめんなさ――――ううん、ありがとう・・・」
 「感謝される事なんてしてないんだがな。それに美人は矢張り、笑顔が一番だ」

 歯に衣着せぬ言葉を平気そうに言うリアスは、ある事に気付いて溜息を吐く。

 「士郎。如何でもいいけれど、そんな言葉を軽々しく使ってはダメよ?」
 「ん?」
 「だって、ゼノヴィアがあなたを睨んでるわよ?」

 リアスの言葉に促されてゼノヴィアへ向くと、確かに彼女は眉間にしわを寄せて睨んでいた。

 「なんでさ?」

 士郎はこの理不尽?に頭をうなだれた。


 -Interlude-


 アザゼルとの会談を終えたサーゼクスは、魔王領ルシファードの執務室に戻って来ていた。

 「疲れたでしょう?サーゼクス。今、マッサージをしてあげるわね?」
 「ありがとう!グレイフィア!君が居てくれると助かるよ!」

 グレイフィアは、サーゼクスをマッサージする為だけに、グレモリー家本邸から此処にきていた。
 そうしてグレイフィアからのマッサージが防音設備が整った部屋で行われた。

 「あ~、う~ん。気持ちいいな・・・・・・って、グレイフィア!?ちょっ!?そこ違うよ!?そこは曲げられないって、ギ、ャァアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」

 如何やら、グレイフィアによる折檻が始まったらしい。
 結局、疲れの癒してもらうどころか、仕事に差し支え無くならないぎりぎりまで見極められた上での折檻が、1時間以上行われたそうだ。 
 

 
後書き
 ギャアアアでは無く、ギ、ャァアアアアにしてみました。 
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