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束縛の口紅

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第四章

「まあ人に肌を見せるとかね」
「ないわよね」
「そうした仕事でもないしね、けれど」
「それでもよね」
「こんなの見せられないよ」
 身体に妻の口紅の跡が付いた状態はだ。
「絶対にね」
「そうよね」
 朝にこうしたやり取りをした、そして夜には。
 今度は大輔からだ、寝ようとした友香梨にベッドの中から言った。
「あの、今日も」
「今日もって?」
 風呂上がりで乾かした長い髪をそのままにしてガウンを着た姿でだ、友香梨は寝巻き姿の大輔に対して言葉を返した。
「どうしたの?」
「いや、昨日みたいにね」
 今家にいるのは夫婦だけなので気兼ねがなかった。
「してくれるから」
「あら、いいの」
「友香梨ちゃん上手だったし普段よりも奇麗だったから」 
 それで、というのだ。
「お願い出来るかな」
「いいわよ」
 友香梨は夫に妖しい、魅惑的な笑みを浮かべて答えた。
「それじゃあね」
「うん、じゃあ」
「今日もね」 
 ここでだ、友香梨は。
 あえてだった、夫の前で自分の唇に紅のルージュを塗ってだった。それから。
 ガウンを脱ぎ純白の下着姿になったうえでベッドに入った、そしてこの時もだった。
 夫を虜にしそれ以上に印を付けた。それを夫が求める日は必ずした。
 そして由梨に会った時にだ、彼女にこのことを話したのだった。
「そうしてます」
「あっ、それはいいわね」
 由梨も友香梨のその話に気付いた様な顔で応えた。
「確かに」
「ただ。技を使うだけじゃなくて」
「印を付けるのね」
「口紅で」
 まさにそれで、というのだ。
「身体のあちこちに」
「それはいいわね」
「若し浮気心を起こしても」
 万が一だ、夫がそうした気持ちになってもというのだ。
「口紅が付いてると」
「それだけで、ですね」
「歯止めになるわ」
 妻に付けられたそれを意識してというのだ。 
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