束縛の口紅
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第五章
「どうしてもね」
「それがいいんですね」
「そうなの、だからうちの旦那もね」
由梨の夫もというのだ。
「最近アイドルのコンサート行かなくなったわ」
「そういえばうちの夫も」
「そうでしょ、アイドルの娘にでしょ」
「あまり観なくなりました」
「そうなのよ、夜にそういうの付けてあげると」
浮気心が収まるというのだ。
「だからいいのよ」
「そういうことですね」
「そうなの、ただね」
「ただ?」
「何かそれ向こうも考えてるみたいよ」
ここでだ、由梨は少し真剣な面持ちになって友香梨にこんなことを言った。
「どうやらね」
「っていいますと」
「いや、実は最近私ね」
ここでだ、由梨は自分の服の襟のところを友香梨に少し開いて見せてみた。その襟から出た首筋のところに。
歯形があった、由梨は友香梨にその歯形を見せつつ言った。
「これ、わかるわよね」
「ご主人にですね」
「そう、夜にね」
「噛まれてですか」
「付けられたのよ」
少し苦笑いになっての言葉だ。
「これがね」
「やっぱりそうですか」
「これってね」
「先輩も最近」
「実は昔からジャニーズの子好きだから」
「観てたら、ですか」
「旦那も同じこと思ったみたいなのよ」
由梨は少し苦笑いになってこうも言った。
「どうやらね」
「相手も考えること同じみたいですね」
「お尻も噛まれたし。太腿も肩もおっぱいもよ」
「それはまたかなりですね」
「お腹もだし」
とにかくあちこち噛まれてその跡が残っているというのだ。
「ちょっと人には見せられないわ」
「そんなことになってるんですか」
「いや、これじゃあね」
「いつもご主人を意識して」
「夜のこともね」
その時の夫婦生活で何があったかをだ。
「もうジャニーズの子にときめくことが出来なくなったわ」
「じゃあ私も」
「友香梨ちゃんもジャニーズ好きでしょ」
「はい、結構」
「気をつけてね、自分が気付くことは相手も気付くのよ」
同じ人間だからである。
「そうなるかも知れないから」
「いや、歯形を付けられても」
だが友香梨はだった、由梨のその忠告に笑って返した。
「それはそれでいいかなって」
「あっ、ご主人に愛されてるから」
「その証ですから」
そうした想い故に為されることだからだというのだ。
「むしろどんと来いです」
「そう言うと私もだけれどね」
「まんざらでないですね」
「もう昨日も下になったり上になったり跪いたりだから」
かなり露骨に言う由梨だった、その夫婦生活を。
「旦那も私もお互いにだったから」
「その結果ですよね」
「それもいいわよね」
「じゃあ私も歯形付けられたら」
「言ってきてね」
「そうさせてもらいます」
女同士の秘密の会話をにこりと話す友香梨だった、そして一ヶ月後だった。友香梨は由梨に自分のそれを見せた。彼女が付けられた愛の束縛を。
束縛の口紅 完
2015・1・17
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