FAIRY TAIL 天使の軌道
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第5話――始まりのクエスト
カタ、カタ、カタ、と幌馬車が豊かな自然に囲まれた街道を進む。
ここはお金持ちの避暑地としてフィオーレ王国でも名高いエゼラメリナという町へと続く街道。
そんな街道を通る幌馬車に乗っているのは、御者以外に一人の男だった。
ならば、その男がセレブなのかと訊かれれば、そう言う訳でもなく、フード付きの白いコートに黒の無地のシャツ、紺のスラックスといった至って庶民的な格好。
ならば、お忍びでそんな格好をしているのかと訊かればそう言う訳でもなく、顔つきは優しさこそ溢れているものの、気品といったセレブさは持ち合わせていない。
どちらかと言われれば、町中にいる優しい青年といった風貌だ。
けれど彼は町人などではない。
彼の左手の甲には魔導士ギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマークが入れられているのだから。
すなわち、青年はフェアリーテイルの魔導士で、今から依頼を受けに行く最中なのだ。
カタ、カタ、カタと幌馬車が街道を進む。
町が見え、街道から町の中へと入る。
「お客さーん。エゼラメリナについたでー。
そろそろ起きてくんせー」
御者の男が青年に呼び掛ける。
その声で青年――コハク・ナナシが目を覚ました。
元々深く眠っていたわけではなかったし、街道と言っても必ずしも安全というわけでは無いので即応できるようにしていたので、素早く目を覚ますことができたのだ。
「おはようございます」
コハクは幌から顔を出して御者に挨拶をする。
「よく眠れたか?」
「はい。お陰様で」
「ガハハハッ、そりゃあ、よかっただ!」
コハクが笑いかけると御者の男は豪快に笑って言った。
「そんで、エゼラメリナに入ったら何処に向かえばいいだ?」
「いえ、荷下ろしする場所で結構ですよ?」
「いんや、アンタには荷を乗せる時に手伝って貰うたからええって」
「それなら、ご好意に甘えさせて頂きます。
町長さんの屋敷へお願いします」
「ひぇー、アンタ町長さの所に用があったんだか?」
「はい。町長さんから依頼を貰いましたので。
こう見えて魔導士なんですよ。僕」
「アンタ魔導士だったんだか!?
魔導士て荒っぽいのが多いから気づかなかっただよ」
魔導士は総じて荒くれ者が多い。
中には青い天馬(ブルーペガサス)のような(ホストやホステス的な意味で)例外もいるが、モンスター、盗賊、闇ギルドとの戦闘といった荒事などの仕事も多いから仕方がないのかもしれない。
「ははは。よく言われます」
壊すのが得意なフェアリーテイル所属だからこそ、壊さないよう気をつけるコハクは目立つ。
勿論良い意味で、だ。
「んじゃ、ブルーペガサス所属なんだな」
何故、御者がブルーペガサス所属か訊いたのはエゼラメリナがブルーペガサスによく依頼をするからだ。
セレブの避暑地であるエゼラメリナは景観が壊れてしまうのを極端に嫌がる。
だから、あまり破壊をしないブルーペガサスによく依頼を指定するのだ。
依頼を指定する分少し依頼額が割高になってしまうので、あまり使われない方法なのだが。
「いえ、フェアリーテイル所属です」
「フェアリーテイルあんの、物をよく壊すとこだが!?
なんでそげなとこから来るん?」
そげなとこ、つまりはそんなとこ、から来るってフェアリーテイル悪評たちすぎだなー。
フェアリーテイル=物を壊すって等式が成り立ってるんじゃないかと、コハクは苦笑いをする。
「はい。フェアリーテイルだって壊さないこともできるんですよ」
たぶん、きっと、できるといいなぁと心の中で付け足す。
「そうだったんだか。
おんら、勘違いしてただ」
「あははは」
コハクは苦笑する。
勘違いじゃないと指摘するのは止めておいた。
否定したら負けなような気がしたからだ。何に負けるかわからないが。
「町長さんの家についただよ」
幌馬車がゆっくりと停まる。
そしてコハクは必要なものが入ったリュックを持ち幌馬車から降りて、ノビをする。
コキコキっと軽い音が鳴った。
「乗せて頂きありがとうございます。
それでは僕はこれで」
「元気にするだよ~」
幌馬車から離れてペコリとお辞儀をすると幌馬車は再び進みだし、コハクは幌馬車が見えなくなるまで手を振った。
幌馬車が見えなくなるとコハクは町長が住む人が百人は入れそうな豪邸へと足を向け、歩く。
幌馬車は門のすぐ近くに止められたのでそれほど歩くまでもなく門までたどり着いた。
そこにはのんびりとした空気が流れていた。
時は暫くたち、コハクは家の応接室にいた。
待っていると、メイドらしき人が現れ、用件を伝えると、案内されたのだ。
落ちついていて華美でないインテリアがそこには置かれていた。
コハクは芸術に興味はないので価値は分からないが高価そう、とだけわかった。
メイドが淹れてくれた紅茶を一口。
茶葉自体が高価そうで、淹れ方も上手で、美味しいのだけれど飲み慣れないからか、違和感を感じる。
自分には勿体ない紅茶だな、と苦笑しつつ思うと扉が開いた。
そこから、少しポッチャリとした50くらいの男性が現れた。
質の良い服を着ているから、依頼人だろうと仮定する。
コハクは立ち上がり、頭を下げる。
「依頼を受けさせて頂いたフェアリーテイル所属のコハク・ナナシです」
「ほぉ、お初にお目にかかります。町長のランデルと申します。
いやぁ、コハクさんに会えるとは嬉しい限りですな。週刊ソーサラーで見て会ってみたいと常々思っておりましたとも」
乱暴者の集まるフェアリーテイルは良くも悪くも週刊ソーサラーで取り上げられる。
その中でも5人しかいないS級魔導士であり、異質なコハクは結構取り上げられる。
そのなかにはコハクにとって恥ずかしいことが沢山書かれているので困ったような笑みを浮かべる。
「あははは、それは……ありがとうございます……」
「こう言ったのは馴れませんでしたかな」
少し申し訳なさ気に町長は訊ねた。
どうやら、自分がどれほど膝を乗り出しているのか気づいたらしい。
「はい。まぁ……」
隠すこともないと思ったので、困ったような、照れたような笑みを浮かべる。
「これは申し訳ないことをしました。あぁ、どうぞ。お座り下さい」
「はい」
ランデルに促され座り、ランデルも腰を下ろす。
すると、部屋に控えていたメイドがランデルの分の紅茶とコハクへのお代わりを用意し、静静と部屋から下がっていった。
「どうぞ。お飲みになって下さいな。この辺りでとれた茶葉で作ってるんですよ」
「そうなんですか。茶畑まであるんですね」
流石はセレブの避暑地。
大抵のものは付近で揃えられるようだ。
「はい。私はこの紅茶の味が好きでしてね。1日に10杯は飲むんです。
特に夜寝る前に少し酒を混ぜて飲む1杯が格別なんですよ」
「そうなんですか?
僕も紅茶は少し嗜みますが、お酒をいれたことはありませんでした。
今度試してみようかな」
「お薦めですぞ。
まぁ、世間話はここまでにして依頼の話をさせて頂きます」
「はい。依頼書ではダイオウヒリュウバチの駆除でしたよね?」
ダイオウヒリュウバチとは兵隊バチですら体長約2メートルを超え、竜のような翼と鱗、蜂の腹のような尾を持ち雌だけでなく、雄でも毒針を持つ厄介なモンスターだ。
そして女王蜂を中心としたコミュニティーを形成し、雑食であるため、人や家畜、畑や森を食い尽くす本当に凶悪なモンスターである。
たった50匹のコミュニティーでも下位の魔導士ギルド一つ分くらいの戦力はある。
そして依頼書には最低でも400は超える規模のコミュニティーであると事前の調査で発覚していると書かれていた。
S級クエストを超えた文句なしのSS級クエスト相当である。
「はい。森の深くにいたらしく、発見がおくれまして……」
ランデルは苦々しく答える。
「かなりの規模らしいですね」
「はい……それで、本当にお一人でやられるつもりですか……?」
ランデルが感じてるのは不安。
ダイオウヒリュウバチの規模は大きく、最低の予想数ですらSS級クエストとなる。
それを有名で実績もあるとはいえ、たった一人の青年ができるのか。
もし、失敗でもして、コハクの将来有望な命が失われたら?
襲撃され、怒ったダイオウヒリュウバチが山を下り、畑や人を襲い始め町に被害がでたら?
物事に絶対はなく、だからこそ人は不安を感じる。
そんなランデルに、コハクは――
「大丈夫です。任せて下さい」
優しく笑いかけるのだった。
後書き
あまりオリキャラは出したくなかったのですが、今回だけでのお話なので堪忍してつかぁさい。
ちなみにオリキャラ(?)ダイオウヒリュウバチの由来は――
女王蜂がいるなら、王様も居ていいんじゃね?
だったら大王の方が偉そうだし強そうじゃね?
―ダイオウバチ。
なんか文字数的に物足りなくね。
―ダイオウスズメバチ
雀じゃサイズ的に合わないから鷲?
―ダイオウワシバチ
なんか読みづらい。却下。
じゃあ、やっぱ竜いっとく?
―ダイオウリュウバチ
漢字変換したら大王流蜂ってなりそう。
じゃあ、
―ダイオウヒリュウバチって感じです。
ランデルはふいと思いついた「病んでる」のヤをラに変えただけ。
何故「病んでる」が思いついたのかは不明。
以上がオリキャラ解説でしたー
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