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FAIRY TAIL 天使の軌道

作者:南の星
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第4話――二つに別れた道

ふぅ、と息を吐いてコハクは《灼爛孅鬼》を解除した。

巨大な戦斧は跡形もなく消えてしまった。

ふとコハクは自分の手を見てみる。

小さな子供の手。

けれどこの手は人を殺した手。

仕方がなかった。

殺らなければあの3人の大人はコハクを、コハクの仲間を傷つける。

もしかしたら殺すかもしれない。

だから、殺った。

ギュッと手を握る。

震えを誤魔化すために。

もう止まれない。止められない。

人を殺したのだから。

だから、進みだそう。

咎を背負い、それでも笑って進もう。

それが生きるということだから。

コハクは歩き出した。

怪我が完全に治ったわけではないからゆっくりと。

「エルザを助けなきゃ」

自分に言い聞かせるように言った。

特別懲罰房に入ってから時がどれほどたったかは分からないが、もしかしたらエルザはまだ懲罰房で拷問を受けてるかもしれない。

だから助けなければいけない。

場所は分からない。

それでも探さなければならない。

一人でも欠けたら皆ではなくなってしまうから。
のっそり、のっそりと歩く。

亀のように遅々として前に進まない。

もどかしい。

早く歩きたいのに歩けないから。

もう一度天使の力を顕現させられれば良かった。

けれど強大な力に代償があるのは世の常であり、天使の力もまた同じだった。

天使の力の代償。

共通の代償ならば、魔力の多量消費。

コハクは桁外れに保有魔力は多い。

けれど、それは子供にしてはという言葉がどうしてもついてしまう。

《灼爛孅鬼》の顕現、《灼爛孅鬼》の顕現中の常時効果である傷の再生、大人達を燃やし尽くした炎。

これらでコハクの魔力はすっからかんだ。

個々の代償なら、《灼爛孅鬼》は天使の顕現中に破壊衝動がおきること。

それと解除した後に糖分がどうしても欲しくなるといったところだ。

まぁ、後者は酷くならない限り堪えられる。

今も食べたいなくらいにしか思っていない。

だから、今は気にしないでおけばいい。

問題は迷子になってることだろう。

敵地で迷子。

冗談でも笑えない状況だ。

しかも魔力がすっからかん。

武器が無くしてどうやって戦えと言うのか。

状況は最悪。

今はただ運良く見つかってないだけ。

それでもコハクは足を進ませる。

十字の分かれ道についた。

一瞬考え、左へと足を進ませる。

何となく。勘で選んだだけだった。

「コハクーー!!ジェラールーー!!」

と声が聞こえた。

その声はコハクもよく知る女の子の声だった。

「……エルザ……?」

助け出そうとしてる相手の声が聞こえたことに疑問を持ったが、返事をした。

「エルザーー!!僕はここにいるよ!!」

「コハク!?よかった!!」

驚きの声が聞こえ、やがて走ってくる音が聞こえ、少したつと、コハクのもとに走ってくるエルザが見えた。

何故大人達が見張ってるのにエルザがここにいるのか、その疑問はエルザの姿を見れば一目瞭然だった。

剣と盾を持ち鎧を纏っていたのだから。

それら以外には右目に眼帯をしている、それがコハクの見ぬ間に起きた変化だった。

「エルザ……」

右目に眼帯をしているものの、一番心配していた仲間が目の前に現れてコハクは安堵の息をもらした。

「ジェラールが戦えって、だから私たち戦ったんだ!
でも、ジェラールが私の代わりに捕まって……」

走ってきたから息を整えながらエルザはコハクに教えた。

「……そんな……
エルザ、お願い!
ジェラールを、ジェラールを助けて!!
僕、走れない!
でも早く助けないとダメだから!!」

不安で顔を歪ませてエルザに懇願する。

コハクにとってジェラールはかけがえのない存在だ。

だから、助けたい。

でも、コハクは既に限界を向かえてる。

だからエルザに頼んだ。

「任せて!!」

声を上げてエルザは了承し、駆けていく。

身体がボロボロで、壁に手をついて歩くのがやっとなコハクでは出せない早さ。

そんなエルザの背をすがりつくような目で追いながらコハクも亀のような早さで歩きだした。

遅々として前に進まない自分の足を心の中で叱咤しながらコハクは前へと進む。

エルザと別れてどれくらいかたったころ、悲鳴が響いてきた。

断末魔の死に怯える叫びだ。

それが何度か続く。

ジェラールやエルザの声はなかった。

でも、次に聞こえてくるのは二人の声ではないかとコハクは怖くなった。

先程、人を殺した時よりも手が震え、拷問されていた時よりも心が痛む。

焦ってエルザを先に行かせてしまったことを後悔し、浅はかな自分に憤りを感じた。

急ぐ。急ぐ。自分の持てる力を尽くして歩く。

「はぁはぁはぁ」

息が荒くなり、足が縺れそうになる。

それでも早く歩いた。

途中で赤黒い何かの塊が目に入った。

心が受け付けなかった。

だからコハクは見て見ぬフリをした。

「きぁああっ!!」

悲鳴が聞こえた。女の子の悲鳴。

誰の声かはすぐにわかった。

「エルザぁぁああ!!」

喉が渇れんばかりに叫ぶ。

いてもたってもいられなくて身体に鞭を打ち走った。

けれど、数歩も走らぬうちに足が縺れ、転けてしまう。

「あぐぅっ」
凸凹の地面に身体を打ち付けた痛みに声を出した。

けれど、身体の痛みなんか気にしてる暇はなく、コハクは前へと進んだ。

立つこともままならず、四つん這いで無様でも懸命に前へと。前へと。

そして通路が途切れた。

そこから見えたのは今まで探していた兄と先に行かせてしまった友。

一瞬二人を見つけたことでコハクの顔に明るさが戻り掛けたがその顔はすぐに困惑で彩られた。

何故、何か分からない手でエルザは首をしめられているのか。

何故、ジェラールはそんなエルザを助けようともせず、岩山の上で立っているのか。

分からない。分からないが疑問を解消する前に口が動いた。
「ジェラール!?エルザ!?」

「コ……ハク……」

苦しそうに呻きコハクの名を呼ぶエルザ。

「やぁ、コハク」

そしてぐるり、とジェラールが身体ごとコハクへと振り返った。

そのジェラールをみた瞬間背筋が凍った。

ジェラールじゃないとはっきりと理解させられた。

目の前にいるのはジェラールだ。

だけどジェラールじゃない他のナニかだ。

「……ぁ……どうして…………」

コハクの目から涙が溢れ出す。

それでもコハクはジェラールを見続けた。

「ゼレフのためさ。皆もそのために働かせてやる。
そうすれば、おまえの好きな笑顔が溢れる楽園をつくれるんだからな」

「ちがう!ちがうよ!絶対にちがう!!」

何が違うのか、コハクには分からないがはっきりと違うことだけは分かった。

だから拒絶した。

「ふぅ……そうか。
なら、おまえもいらない。
エルザとともに島から出してやろう」

「なに――――あぐぅ!?」

なにを言ってるの!?と叫ぼうとして背後からの衝撃を受けて通路から転がり落ち、エルザから少し離れた所でようやく止まった。

そしてエルザのように地面から生えた手によって首を絞められる。

「……うっ…………」

「……コ……ハク……」

「ふたりでかりそめの自由を堪能してくるがいい。わかってると思うけどこの事は誰にも言うな。
楽園の塔の存在が政府に知られるとせっかくの計画が台無しだ。
バレた暁にはオレは証拠隠滅のため、この塔及びここにいる全員を消さねばならん。
おまえらがここに近づくのも禁止だ。
目撃情報があった時点でまず一人殺す」

「……ジェ……ラ……ル」

コハクは目から大粒の涙を流し、ただ名を呼ぶ。

それ以上は言わないでと目で、心で訴えかける。

けれど、ジェラールは言い放った。

「そうだな。まずはショウあたりを殺す」

仲間を殺すと。

「ジェラ……ル」

ポロポロとエルザも涙を流す。

ジェラールは変わってないとすがっていた希望が打ち砕かれてしまったから。

ジェラールは変わってしまった。

それが二人に突きつけられた現実だった。

「それがおまえらの自由だ!!!
仲間の命を背負って生きろ!エルザァァァ!コハクゥゥゥ!!
あははは!!」

最後に見たジェラールは嘲笑っていた。

その後の記憶はない。

二人は気がついたら名も知らない海岸にいた。

そして二人は泣いた。

お互いの存在を離さないように強く抱きあいながら声を上げて泣いた。

その内に秘めた思いはまだ幼い二人には複雑すぎて言葉にできなかった。

喪失感、無力感、悲愴感、憤怒、それ以外にも数多の負の感情が押し寄せてるのは確かだった。

まるで夜の海のような暗く冷たい。

1時間もたつと涙も渇れ、二人は支えあうように抱き合っていた。

ざぁざぁ、と波の音しか聞こえないそんな中でコハクは唐突に言った。

「僕は強くなるよ」

いきなりのことにエルザは抱き合ったまま上半身を少し離してコハクの顔を覗きこんだ。

赤く腫らした双眸にははっきりと意志が宿っていた。

その目でしっかりとエルザを見ていた。

そんなコハクを見てエルザは確信した。

コハクは逃げずに立ち向かおうとしていると。

兄のように慕っていた者に裏切られたにも関わらず。

エルザにはコハクが眩しく見えた。

あんな酷いめにあったんだから逃げてもいいじゃないか、まだ泣いてもいいじゃないか、塞ぎこんでもいいじゃないか。

それでもコハクは言った。

強くなると。

その強くなるという言葉には色々な意味が込められているのだろう。

ジェラールの目を覚まさせるため、仲間たちを救うため、エルザを守るため、そしてエルザは未だしることは無いが、コハクの使命のために。

そして今口にしたのは決意の現れでもあり、エルザに問うているのだ。

エルザはどうするのか、と。

だから答えよう。

「私もついていく」

例え泣くほど辛くても、例え鎧を心に纏おうとも、エルザはコハクについていくと決心した。

「ありがとう」

コハクはにこりと笑った。

いつもと同じような微笑み。

けれど、エルザには違って見えた。






時は刻々と過ぎ去って往く。

決意をした少年と少女は男と女に成った。

その道中に新たな出会い、新たな仲間、そして家と呼べる場所。

笑いあい、時には喧嘩しあう中で物語は始まる。

物語の中心は妖精の尻尾(フェアリーテイル)

そして紡ぐのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)のS級魔導士『熾天使(セラフ)のコハク』

どうかご覧あれ。

 
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