英雄伝説~西風の絶剣~
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第5話 妖精との出会い
前書き
side:リィン
「はあッ!」
僕は鳥型魔獣オオライチョウに切りかかる、オオライチョウはそれをかわして僕に目掛けて翼から竜巻を放つ。
「リィン、避けろ!」
西風の旅団の男性団員であるカイトが僕に指示を出す、僕は一旦攻撃を中断して竜巻をかわす。竜巻を放ち無防備になったオオライチョウに女性団員のミリアが導力銃の一撃を浴びせた。
「キィィッ!?」
自身に攻撃したミリアに振り向くオオライチョウ、その隙に僕はオオライチョウ目掛けて跳躍した、刀を火花が出るほどの早さで抜刀する、すると刀から炎が燃え上がる。
「焔ノ太刀ッ!」
僕の放った一撃はオオライチョウを一刀両断にした
「やったなリィン!」
カイトが僕の側に駆け寄り労いの言葉をかける、ミリアが近くにある大きな巣のような物で何かを探していた、おそらくオオライチョウの巣だろう。
「あったよ、七耀石!」
ミリアが巣から見つけたのは大きな七耀石の塊だった。
七耀石とは鉱山等から採掘される天然資源の結晶体であり地・水・火・風・時・空・幻の七つの属性を持ち導力を生み出すためのエネルギー資源になる。
大体は欠片程度の大きさでそれはセピスと呼ばれているが偶に塊となった七耀石が採掘されることがあり貴重な物として扱われるんだ。
ちなみに魔獣はセピスを好むようで体内にセピスを持っている。
「これが依頼主の言っていた七耀石だよね」
「ああ、間違いないはずだ。さっそく届けに行こう」
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「おお、無事に取り戻してくれましたか。流石は西風の旅団だ」
貴族の男性が嬉しそうな笑みを浮かべて僕の手を握ってきた。
この男性が今回の依頼主だ。でもこういった依頼は普通は遊撃士に頼むらしいが、どうもこの七曜石は健全な手段で手に入れたものではないらしく所謂曰くつきの代物らしい。だから僕達に依頼したんだね。
「こちらでお間違いないでしょうか?」
「確かにこれは私が奪われた七耀石です」
僕は男性に七耀石を渡した。まあこれが盗品だったとしても僕達には関係ないからね、仕事に関係ない事には基本的に突っ込まないものだよ。
「それでは此方が約束の報酬です」
「200万ミラ、確かに受け取りました」
「それにしてもその若さで大した実力で……流石は〈猟兵王〉の息子ですね」
「いえ、自分などまだまだです」
「今後ともよろしくお願いしますよ」
「ええ、では」
僕達はその場を後にした。
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「は~、ようやく終わったね」
「そうだな、七耀石探すために魔獣を片っ端に倒してたら三日も掛かったからな」
「そうよね、リィンは大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。というかシャーリィと戦うよりは遥かにマシだよ……」
『ああ……』
僕が遠い目になり二人は同情するような視線を向けてきた。
赤い星座との接触から三ヶ月が過ぎ僕は戦場での実戦を乗り越え猟兵として成長した。その結果お父さんにもある程度認められ仕事に参加できるようになった。
僕はこの三ヶ月で猟兵として数々の仕事をこなしてきた……のだが何故か赤い星座と鉢合わせになることが多かった。大きな仕事どころか小さな護衛の仕事でも僕は赤い星座—————シャーリィと出会ってしまった。
あの日以来シャーリィは僕を見つけると直に向かってくるんだけど、その度に迎撃しているが何故か出会う度にシャーリィは強くなっている。流石はオルランドの血を引く者、戦えば戦うほど強くなるようだ。
「一週間前にも出会っちゃうし……もう向こうが僕の動き把握してるようにしか見えないんだよね」
「ご、ご愁傷様だな。本当に……」
今回は西風の旅団に二つの依頼が来ていた。ひとつは紛争地帯の介入、もうひとつが七耀石を取り戻すという依頼だ。シャーリィに会いたくなかった僕はシャーリィが興味なさそうな七耀石側の依頼について来たというわけだ。
「ふぁ、気がぬけたら疲れたよ、二人とも早くアジトに帰ろう……」
((目が死んでる……))
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森の中にある西風の旅団のアジト、その入り口にはマリアナ姉さんが立っていた。
「あ、姉さん、ただいま」
『お疲れ様です、姐さん』
「あらリィン、お帰りなさい。貴方達もご苦労様。リィン、帰ってきて早々に悪いんだけどルトガーが貴方に用があるらしいの」
「団長が?一体何の用なんだろう」
僕はマリアナ姉さんとカイト達に別れを言って団長がいる部屋に向かった。
「団長、失礼します」
「おお、来たかリィン」
団長がいる部屋にノックをして入室する。西風の旅団はゼムリア大陸のいろんな場所に隠れ家を持っておりこのアジトもその一つなんだけど団長が使っている部屋はどこも散らかっているな。
「帰ってきたばかりで悪かったなリィン、依頼は達成できたか?」
「はい、皆の手助けもあり何事もなく依頼を終えました」
「そうか、無事に終わったならいい。だが油断するなよ、人間は慣れ始めた時に失敗しやすいもんだ。特にお前は無茶しやすいから仲間との連携は心がけておけ、分かったな?」
「分かりました、もしかして僕を呼んだのはその事を伝えるために?」
「いや今の話もあるが別の用件があるんだ」
「別の用件?」
団長は普段はしない真剣な表情になり、僕も自然と身構える。
「(な、何だろう?団長何時もになく真剣だ、もしかして僕に関する事で何かあったのかな?だとしたら心して聞かないと!)それで話とは……?」
僕は恐る恐る話を聞く。
「ああ、実は……」
「……ごくり」
「お前に妹が出来る!!」
「……はッ?」
だが団長が話した話の内容は僕の予想を遥かに上回るものだった。
「えっ、えっ?」
「何だ聞いてなかったのか?もう一度言うぞ、お前に妹が出来たんだ」
「まさか姉さんと遂に……」
「いや、流石にまだガキは作れねえな。マリアナ抜けたら結構厳しいし、それはいずれするつもりが今回は違う」
「じゃあ姉さん以外の人と……!?」
団長がモテるのは知っているので相手が特定できない、団の女性だけでなく酒場のお姉さんとかカジノのバニーさんとか仕舞いには貴族の令嬢と幅広い女性関係を気付いているしね。
まさか僕が全く知らない女性との間に出来たんじゃ?そんなことを考えていると、団長はため息をつきながら話し出した。
「心当たりはそれなりにあるが今回はそれも違う。というかさっきから生々しい反応するがお前にとって俺は簡単に女を孕ませる男に見えるのか?」
「だってあっちこっちに愛人いるし……」
「強い男には自然と女が近寄ってくるもんだ。お前もハーレムを作るなら全員を満足させられる器量の良さを身に着ける事だな」
「ハーレムなんて興味ないよ……まあその話は置いといて妹って僕みたいに拾ったって事?」
「まずは見てもらったほうが早いか。フィー、お前のお兄ちゃんだ、顔を見せてやれ」
団長の背後からヒョコッと顔を出したのは僕よりも小さな銀髪の少女だった。
「………」
「団長、この子は?」
「この子はフィー、俺が行った紛争地帯にたった一人でいた子だ」
「たった一人で?」
僕も戦場で団長に拾われた、だがこのフィーという少女も同じ境遇のようだ。
「……この子の親はどうしたんですか?」
「分からない」
「えっ?」
「この子は俺と出会う前までのことを名前以外覚えてないらしい。親の姿も見えなかった、もしかしたらこの子はずっと一人で生きてきたのかもしれないな」
「そんな……」
僕は3歳の時に拾われた、そしてこの女の子……フィーも記憶も定かでない状態で戦場を彷徨っていたのか。いや、覚えることすら過酷な環境の中、必死で生きていたのかも知れない、自分よりも小さな少女が……
「……どうしたの?」
「えっ」
「何だか悲しそうな顔をしてる、元気だして」
フィーはその小さな手で僕の頭を撫でる、自分の方が遥かに苦難の境遇なはずなのに自分を心配してくれるなんて……
「……ありがとう、君は優しいんだね」
「どういたしまして」
僕はフィーを抱っこする、ちっちゃい体だけどとってもあったかい。
「フィー、僕はリィン・クラウゼル。君のお兄ちゃんだよ」
「リィン?……お兄ちゃん?」
「ああ、君は今日から俺達の家族……そして俺の娘〈フィー・クラウゼル〉だ」
「フィー・クラウゼル……わたしはフィー・クラウゼル……うん」
フィーは新しい自分の名前を嬉しそうに呼んだ。
「今日からよろしくね、フィー」
「ん、よろしく。リィン……」
それにしても僕に義理の妹が出来たのか、何だか実感が沸かないな。
「それじゃリィン、早速で悪いがお前にフィーの面倒を見てほしいんだ」
「え、僕がですか?」
「勿論俺達も面倒見るが最近は少し忙しくてな、それに年の近いお前ならフィーも安心すると思うんだ」
なるほど、確かに団長達は最近忙しいしそれなら仕方ないか。でも僕もあまり年の近い人がいなかったからどう接しようか。
「大丈夫かな……」
「どうしたの、リィン?」
フィーが心配したようにクイクイッと裾を引っ張ってくる、可愛い……じゃなくて。
「ううん、何でもないよ、フィー」
そういって僕はフィーの頭を撫でてあげる、するとフィーは嬉しそうに微笑む。うん、やっぱり可愛い。
「取り合えず団の奴等に会わせてやってくれないか、一応事情は話したがちゃんとした自己紹介はしてなかったんだ」
「じゃあまずはゼノ達に会ってきます」
「頼んだぜ」
団長との話が終わり僕はフィーと一緒にアジトを歩きながらゼノ達を探す。
「ねえリィン、何処に行くの?」
「今からフィーを団の皆に紹介しに行くんだ」
「……皆?」
フィーはきょとんとした顔で僕を見る、少し怖がっているようにも見えた。
「もしかして緊張してる?」
「……うん」
フィーは恐る恐る僕の手を握る。
「大丈夫だよ、皆フィーを受け入れてくれるよ」
「本当に?」
「僕を受け入れてくれたんだ、フィーなら直に受け入れてもらえるさ」
「……うん」
フィーと話しているとアジトの食堂についた。
猟兵の食事は基本的にレーションや町のお店などでご飯を食べている。戦時には非戦闘員が作るがそれも塩で味付けしたり焼いたりと簡単なものが多い。
だからこの西風の旅団でもまともな料理が出来るのは姐さんくらいだろう。
「おー、ボン、どうしたんや?」
「あ、ゼノ、それにレオ」
そこにいたのはゼノとレオだった、二人は依頼を終えると大体食堂とかでお酒を飲んでいる。
「ちょうど良かった、二人を探していたんだ」
「俺らをか?」
「うん、ほらフィー出ておいで」
僕は後ろにいるフィーを前に出した。
「………」
「お、もしかしてその子が団長が拾ってきたっちゅう子か?」
「うん、今日から団長の娘になったフィー・クラウゼルだよ、僕の義妹になるね。フィー、こっちの胡散臭い話し方をするのがゼノ、こっちの大きなお兄さんがレオ、二人は西風の旅団の連隊長なんだ」
「胡散臭いはないやろ。嬢ちゃん、俺はゼノや」
「俺はレオニクスだ、よろしく頼むフィー」
「ん、よろしく。ゼノ、レオ」
フィーはゼノとレオに手を差し伸べて二人と握手をする、良かった、どうやら打ち解けられたみたいだ。
「しかしこんな可愛らしい子が団に入ってくれるなんてな、俺嬉しいわ~」
「え、まさかゼノそういう趣味だったの……?」
僕は警戒するようにゼノからフィーを遠ざけた、まさか身内が幼女好きの変態だったなんて……!
「ちょ、リィン!ちゃうで、俺はただ可愛らしいと素直な感想言っただけやで!」
「ゼノ、変態さん?」
「フィー!?」
「お前とは長い付き合いだがまさか幼女趣味だったとはな……」
「レオ!皆酷いで――――ッ!?」
フィーにまで言われたゼノはおいおいと泣き出した、ありゃりゃ……ゼノ酔ってたのか、それにレオも少し酔っているみたいだ、普段はあんな風に悪ノリはしないしね。
「……ふふっ」
泣き出したゼノやそれを慰めるレオを見てフィーは少し笑った。
ゼノ達と別れて次に訪れたのはマリアナ姉さんの部屋だ、姉さんは副団長みたいな扱いだし早めに紹介しておこう。
「姉さん、リィンだけど入っていいかな?」
「あらリィン、ちょっと待っていて。直ぐに開けるから」
扉が開き姉さんが出てきた、どうやらシャワーを浴びていたらしくその肌はほんのり赤くなっている。
「姉さん、いきなりごめんね、姉さんに紹介したい子がいるんだ」
「あら、さっきの子ね。また挨拶をしにきてくれたのかしら?」
「あっ、姉さんはもう会っていたんだね」
「……」
フィーはさっきみたいに僕の背後に隠れていた。やっぱりまだ慣れてないのかな?
「フィー、姉さんは優しい人だから大丈夫だよ」
「……ん」
それでもフィーはチラチラと姉さんを見ているだけで出てこない。おかしいな、ゼノ達と比べたら姉さんのほうが気を許しやすいと思ったんだけど何だか怖がっているみたいだ。
「もしかしてさっきのアレが原因かしら……」
「姉さん、フィーに何かしたの?」
「いえ、その子には何もしてないんだけど……そのね、最初ルトガーがその子を連れてきた時にルトガーの隠し子かと思っちゃって」
「ああ、そういう事か」
前にレオから聞いたけど姉さんって普段は冷静だけど団長が絡むと勘違いしやすいみたいなんだ、僕の時も同じように勘違いしたらしいし姉さんも意外とドジッ子なのかな。
まあ姉さんがそう言う勘違いをしてしまう位に、女性に手を出している団長にも原因はあると思うけど。
「フィー、姉さんはフィーに怒ったんじゃないよ、団長に怒ってたんだ」
「そうなの?」
あっ、やっぱり自分に対して怒ってると思ってたんだ。まあ姉さんは怒ると怖いしね。
「フィー、ごめんなさい。貴方に怖い思いをさせてしまったわね。でもね決して貴方が嫌いな訳じゃないの、寧ろ貴方が家族になってくれて嬉しいくらいよ」
「本当に?」
姉さんはゆっくりとフィーを抱き上げた。
「本当よ、貴方が家族になってくれて嬉しいわ、フィー。これから宜しくね」
「うん、宜しく……マリアナ」
良かった、無事に姉さんとも打ち解けられたみたいだ。
「でもルトガーがまた子供を拾うなんてね、長年一緒に猟兵をやって来たけどあの人の行動は読めないわ」
「あはは、でも姉さんも以外とおっちょこちょいなんだね」
「言わないでよ。私だって恥ずかしいんだから」
「でもそんな所が姉さんの魅力だと思うよ」
「……」
おや、何で姉さんは驚いたような顔をしてるんだ?ちょっと顔も赤いし風邪かな?
「リィン、貴方いつの間に女性を口説くスキルを身に付けたの?」
「え?僕は正直に思ったことを話しただけだよ?」
「やっぱり血は繋がってなくでもルトガーの子ね、あの人も天然タラシだし将来が怖いわ……」
何だか困ったような顔で僕を見てる…どうしたのかな?
僕がそんなことを考えてるとフィーがクイクイッと裾を引っ張ってくる。
「どうしたの、フィー?」
「……んー」
だがフィーはなにも言わない、というか何だか少し不機嫌な感じだ。
「あらあら、もう仲良くなったの?お姉さん安心したわ♪」
何か微笑ましい物を見たような表情を浮かべる姉さん、怒ってるように見えるけど仲良く見えるのかな?
その後も他の団員達にフィーを紹介していったが皆快くフィーを受け入れてくれたみたいで良かった。自己紹介を終えた僕は自分の部屋に戻った……何故かフィーも一緒に。団長曰く「お前ら兄妹なんだから部屋一緒でいいだろ?」ということらしい。
まあいいけどさ、僕も女性団員の人と一緒に寝る事もあったし……でも何か落ち着かないな。
「えっとフィー、君が使うベットなんだけど……ってもう寝てるじゃないか」
フィーは既に眠っていた、しかも普段僕が使うベットのほうで……仕方ないか。僕はフィーに毛布を被せる。
「それにしてもあっという間に寝ちゃったな、よほど疲れてたのかな。まあ無理もないか、ずっと一人で生きてきたんだからな……」
僕は兄としてやっていけるだろうか?いや、僕だって皆に育ててもらったんだ、なら次は僕がフィーを支えなきゃ……
「お休み、フィー」
僕はそういって眠りについた。
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ーーーーーー
ーーー
フィーが西風の旅団に来て一ヶ月が過ぎた、フィーも団員達と打ち解けてきたようである程度のお手伝いを率先して行うほどだ。でも少しだけ問題があった。
「フィーが遠慮ばかりしている?」
「そうなの、あの子あまり自分を顧みないの」
僕の部屋に姉さんやゼノ、レオ、それに団長もやって来た。姉さんの話ではフィーは最近遠慮がちのようらしい。
「姉さん、それってどういうこと?」
「分かりやすくいうとあの子自分の事を疎かにしてるの。お手伝いしてくれているのは嬉しいんだけど……自分の時間とかがないのよ」
「働いてばかりやしそれ以外は食うか寝るくらいの事しかしないんや。もっと子供らしく遊んでもええのにな」
「食事も必要最低限しか食べん、他の奴等に渡したりしているようだ。まるで自分から遠慮してるかのようにな」
姉さん、ゼノ、レオの話を纏めるとつまりフィーは僕たちの為には動くが自分に関しては無関心っていうことかな?フィーももっと皆に甘えてもいいのに何でだろう、あれ、でもそれって何処かで聞いたような気がするな……
「前のお前にそっくりだろう?」
団長にそう言われて僕も思った、僕も猟兵になるまでは今のフィーみたいに自分の事を疎かにしていたらしい。
「多分フィーは皆の役に立ちたいんだよ。団長に拾われて西風の旅団に入ってフィーは嬉しかったんだと思う、だから彼女は感謝の思いを行動で示してるんだよ。僕も皆の役に立ちたかったから多分そうだと思う。
それに彼女は今まで生きるために必死だったんだ、遊んだりできる訳ないし甘えられる相手もいなかった、だからそういうのが分からないんじゃないかな?」
「フィーは俺が見つける前の記憶すら無くしてしまうくらい過酷な環境で生きてきたそうだ。そういった当たり前の感情すらだせないのも無理はないか」
フィーは僕よりも過酷な環境で生きてきたんだ、それもたった一人で…せっかく家族になれたんだ、もっと自分を出してほしいんだけど…何かいい方法とか無いかな……そうだ!
「団長、フィーの歓迎会を開こうよ!」
「歓迎会?」
「うん、そういう無礼講の場なら自分をさらけ出しやすいんじゃないかな、ほら、ゼノが酔っ払って普段よりはっちゃけたりレオが苦手な笑みを浮かべたり姉さんが団長に甘えたりするじゃない?」
「ちょ、そないな事あらへんって!」
「……そんなことしてたのか」
「リィン!そんなことは言わなくていいから!!」
ゼノが慌てておりレオは軽くショックを受けて姉さんは顔を真っ赤にして抗議するが事実だからしょうがない。
「なるほど、そういう席ならフィーも案外自分を出しやすいかも知れないな」
「それに僕も祝いたいなって思ってたんだ、せっかくフィーが家族になったんだから」
「そうだな、じゃあいっちょフィーのために最高の歓迎会を開いてやろうぜ!」
『応っ!』
こうしてフィーの歓迎会を開くことが決定した。
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ーーー
それから一週間後が過ぎたよ、僕達はフィーに内緒で歓迎会の準備をしているところなんだ。フィーが喜んでくれるといいなぁ。
「どうだ?みんな、準備はできたか?」
「料理は大丈夫や、レーションやけど何時もより高級な奴を買ってきたで」
「部屋の飾りつけ用の道具も用意した」
「後は会場を用意するだけね」
「僕もプレゼントは用意できたよ」
「後は会場を用意するだけだな。リィン、手はず通りに頼むぜ。」
「了解!」
団長達が飾りつけをする間僕はフィーにばれないように外に連れ出す係になっている。僕はフィーがいる自分の部屋に向かった。
「フィー、いるかい?」
「リィン?」
ベットに座っていたフィーはトコトコと側に寄ってくる。
「僕と一緒に森に行ってくれないかな、ちょっとレーションが切れてきて食料を調達しないといけないんだ」
「そうなの?ならわたしも手伝うね」
よし、普通に誘ってもフィーはお手伝いがあるからと断るかも知れない。そこでこんな言い方をしたが食いついてくれたようだ、優しいフィーの気持ちを利用するみたいで嫌だけどそこはごめん。
「それじゃ行こうか」
「うん、レッツゴー」
僕とフィーは手を繋いで一緒に森に向かった。
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「ん、これ食べられるね。こっちは駄目、毒がある……」
森についてからフィーは慣れてるかのように食べれる物と食べられないものを分けていた。僕も訓練してるから分かるけどフィーはそれ以上かもしれない。
「すごいねフィー、どうやって判断してるの?」
「ん、一口食べて危ないかどうか身体で覚えていた」
フィーは僕よりも小さな身体で一人で生きてきたから、ここまでの知識を持っているのか。でもだからこそ甘えて欲しい、頼りにしてほしいと思う。この歓迎会でフィーが変わってくれるといいんだけどね、僕も頑張らないと。
「っとフィーばかりにやってもらったら駄目だな、僕も何か見つけないと。おや、あれは……」
僕が見つけたのはウサギ型の魔獣だった。ふむ、肉も用意しておいた方がいいかな?そう思った僕は武器を構えて魔獣に向かっていった。
でもその時僕はいつの間にかフィーの姿が見えなくなっていたことに気が付かなかった。
side:フィー
ふう、こんな所かな。わたしはある程度の食料をカゴに入れて一息ついた、こうやって食べ物を探したのも久しぶりかも知れない。
「家族か……」
団長には本当に感謝している、あの人が見つけてくれなかったらわたしは今も一人でいたと思う。最悪死んでいたかもしれない、でも団長と出会ってわたしには家族が出来た。ゼノやレオ、マリアナに皆…それにリィン。
彼も私と一緒で団長に拾われたらしい。色々面倒を見てくれたり気にかけてくれたり本当の兄のような人……皆に恩返しがしたくてわたしに出来ることをしてるけどわたしは皆の力になれてるのかな?
「あれ、リィン?」
ふと周りを見るとリィンの姿がなくなっていた、はぐれちゃったのかな?急いで戻らないと……
ズシンッ、ズシンッ!!
ん?何だろう、何かが近づいてくるような……
バッ、ズシィン!!!
「あれは、魔獣!?」
わたしの前に現れたのは大木と間違えるかの如く太き両腕…岩を思わせる強靭な身体……そんな魔獣だった。あれって確か森の主であるグルノージャっていう魔獣だっけ?団長がこの辺りにいるから気を付けろって言ってた魔獣だ。
「ガァァ―――ツ!!」
魔獣は大きな咆哮をあげながらわたしに腕を叩きつけてきた。
「くっ!」
わたしは横に転がり何とか魔獣の攻撃をかわした。でもどうしよう、わたしは気配を読むことができるからその力で極力魔獣を避けてきたが今回は油断していた、魔獣の接近に気が付けなかったなんて……!
「グガァァァァッ!」
魔獣は再び腕を振り上げる、不味い、不安定な体勢だからかわせない!
嫌だよ、やっと……やっと一人ぼっちじゃなくなったのに……家族が出来たのに……
助けて団長……助けて…ゼノ、レオ……助けてマリアナ……助けて……
「グァァァッ!!」
助けて……リィン!!
「時雨連撃!!」
……え?魔獣が突然吹き飛んだ、どうして……?
「大丈夫か、フィー?」
「リィン!」
……来てくれた、本当に来てくれた!!
「ごめんね、僕が目を離したせいでフィーを危険な目に合わせてしまった」
「ううん、わたしが勝手に行ったのが悪い」
「でもフィーが無事で良かった」
「あ……」
何でだろう、リィンに撫でられると胸がポカポカする。全然嫌じゃない、寧ろ暖かい……
「グルル……」
さっきの魔獣が起き上がりこちらを威嚇する。するとリィンはわたしを守るように奴の前の立ちふさがった。
「フィーは下がっていて、僕が奴の相手をする」
「でも……!」
「大丈夫、妹を守れなくちゃ兄として失格だろ?」
「……リィン」
そういって魔獣の刀を向けるリィンの背中は…何よりも頼もしかった。
「ガァァァッ!」
「お前の縄張りに勝手に入った僕たちが悪いのは分かる、それでもフィーを傷つけようとしたのは許せない!」
魔獣は咆哮をあげながらリィンに飛び掛る。
「焔ノ太刀!!」
リィンの刀が燃え上がり魔獣と交差した。
斬、斬、斬ッ!!!
「グォォォ……!」
魔獣は三回の斬撃を受けて地に伏せた。
「……ごめんね」
リィン、とても悲しそう、あの魔獣だって縄張りを守るために戦っただけ……それでも彼は優しいから心を痛めている。
「フィー、怪我はない?」
「うん。でもごめん、迷惑をかけて……」
「いや、僕も不注意だった、君だけのせいじゃないさ」
「でも……」
俯くわたしにリィンはポンッと頭に手を置いた。
「僕たちは家族なんだ、助け合うのは当然さ」
「助け合う?」
「そうだよ、君が皆の為に動きたいのは分かる、でもフィーばかりが頑張っていたらいつか倒れてしまうだろ?皆、フィーに甘えて欲しかったんだ」
皆がわたしに……
「でも分からない、甘えるってどうすれば……」
「簡単だよ、フィーがして欲しいと思ったことは言えばいいし、言いたいことを言えばいい。我慢しないで自分に素直になればいいんだ」
「……自分に素直になる」
リィンはわたしを抱っこする。
「さあ帰ろう、皆待ってるよ、フィーのことを」
「……?」
ーーー 西風の旅団 アジト ---
『お帰りなさい、フィー!』
「うわぁ……!」
アジトに戻ったわたし達の前に現れたのはいつもとは違う綺麗に飾り付けされたアジトだった。これは?
「どや、驚いたやろフィー、これ皆フィーの為に用意したんやで」
「私の為に……」
「皆が準備したんだ、お前の歓迎会がしたいってな」
わたしの為に……どうしよう、凄く嬉しい。
「皆フィーと家族になれて嬉しいんだ、勿論僕だって嬉しいよ」
「リィン……」
「はい、これ受け取ってくれるかな?」
リィンがくれたのは猫みたいな髪留めと小さな人形だった。リィンは髪留めをわたしの髪に付けてくれた。
「うん、よく似合ってるよ」
「リィン、凄く嬉しいよ……」
「これからは本当の家族として一緒に生きていこう、フィー」
「うん!」
わたしには家族が出来た。お父さんみたいなルトガー団長、お母さんみたいなマリアナ、年の離れたお兄ちゃんのゼノやレオ、そして……
「宜しくね、リィン」
大好きなお兄ちゃん……リィンが家族になってくれた。これからは皆と一杯思い出を作っていけるといいな……
後書き
これからはカッコいいフィーや可愛らしいフィーをどんどん書いていきたいです。
因みに焔ノ太刀は八葉一刀流に連なる技ですがこの小説ではリィンが独自で編み出した技に変更しているのでお願いします。
ーーー オリキャラ紹介 ---
『カイト』
青髪の双剣使いで面倒見のいい青年、だが少しドジなところがある。西風に入る前は帝国で飛行船の操縦士をしていた。
キャラのイメージはドラゴンボールのヤムチャ。
『ミリア』
茶髪のショートヘアの導力銃使いの女性。猟兵にしては珍しく導力銃を使っているが火薬式の銃も使える。
カイトとコンビを組んでおりドジなカイトをサポートしている。
キャラのイメージはONE PIECEのナミ。
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