とある星の力を使いし者
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第155話
ごふっ、とブリジットは口から血を吐く。
麻生に右の肺を貫かれているのだ。
こうして意識を保っていることでさえ不思議で仕方がない。
麻生が能力で干渉して意識を覚醒させている。
ブリジットの記憶から未知の敵に関する情報を探ろうとするが、魔術的なプロテクトが邪魔をする。
それも全く知らない未知の魔術だ。
これでは脳から情報を読み取る事はできない。
「おい、お前の仲間について教えろ。」
質問するがブリジットは何も答えない。
逆にブリジットは笑みを浮かべている。
左手に持っている刀をブリジットの喉に当てる。
「死にたくなければ答えろ。
声は戻している。」
「へ、へへへへ・・・・・教えるかよ、ば~~か。」
「そうか。」
ブリジットの答えを聞いて刀を振り上げる。
プロテクトがかかっていて、本人自身も答える気が全くない事が分かった。
なら、最後にする事がある。
「お前は危険な存在だ。
このまま生かしていても何をするか分からない。
だから、ここで殺す。」
振り上げた刀を一切の躊躇いもなく振り下ろす。
刀がブリジットの顔面を真っ二つに斬り裂きそうになった時だった。
「恭介、だめ!!」
後ろからその声を聞いて刀はブリジットの手前で止まる。
小さくため息を吐いて、身体を半身にさせて後ろを見る。
そこには愛穂と桔梗と制理が立っていた。
制理はこれから麻生が何をしようとしているのか分かっているのか、口元に手を当てて少し震えているのが分かる。
愛穂と桔梗は真っ直ぐな視線で麻生を見ていた。
「恭介、その刀を置いて。」
愛穂が近づきながら麻生に言う。
それを聞いて麻生はもう一度ため息を吐いて言いかえす。
「お前は分かっているのか?
こいつは危険だ。
生かしておくだけで何をするか分かったもんじゃない。」
「でも、右手を切断して肺も潰しているのでしょう?
もう充分よ。
そういう事はあなたがする事じゃない。」
桔梗も愛穂と一緒に説得を試みる。
二人もよく分かっている。
この男がどれだけ危険なのか。
ティンダロスの猟犬に追われ、死ぬかもしれない体験までした。
それでも目の前で麻生が人を殺すのを見て見ぬふりは出来なかった。
彼には人殺しの罪を被って欲しくないから。
この男は学園都市の人間でも何でもない。
ここでこの男が死んでも誰も罪には問わない。
でも、麻生が人を殺したという事実は変わらない。
そんな事を麻生に背負わせたくなかった。
「あ、麻生、人殺しは私も駄目だと思う。」
「制理、お前まで何を言っている。
こいつがどれだけ危険なのかお前達が一番分かっているだろ。」
「それでも麻生が人を殺していい理由にはならないよ。」
三度目のため息を吐く。
今までより深いため息だ。
そして。
麻生が手に持っている刀が塵になって消えた。
さらに右手をブリジットの肺から引き抜く。
ブリジットの右胸に穴が空いている筈なのにそれが綺麗さっぱりなくなっている。
切断された右手も元に戻っていた。
何が起こっているのか全く分からなかったが、ただ一つ分かった事がある。
麻生はこの男を殺すのをやめたという事だ。
それが分かった三人は安堵の表情をする。
濡れた路面に落ちている魔道書を回収する時にブリジットは麻生にしか聞こえない声で言う。
「甘すぎるぞ、星の守護者。」
「確かに反吐が出るくらいに甘いな。
それでも俺はあいつらの悲しい表情は見たくないんでな。
それに人を殺さないという約束もある。」
「そういう事を言っているんじゃねぇよ。」
なに?、とブリジットに視線を向ける。
意味深な発言をしたブリジットは含むような笑みを浮かべる。
「そんなんじゃあ、教皇様おろか幹部様にも勝てない。
力の扱い方を全く知らない、人を殺すのに他人の意見を優先にする。
お前は勝てない、我々には絶対に。」
そう言ってブリジットは気絶する。
既に彼の身体は麻生の能力で限界まで作り変えている。
魔術回路を無くして魔術師ではなくした。
今のこの男は魔術師でも何でもないただの男だ。
愛穂は気絶しているブリジットに手錠をかける。
「そいつどうするつもりだ。」
「とりあえず、豚箱にぶち込むじゃん。」
危機は脱したのを感じて愛穂の調子も元に戻りつつあった。
ふと、見上げるとあの光はどこかに消えていた。
どうやらあちら側も無事に解決したらしい。
ヴェントはどうなっているかは分からない。
だが、風斬と打ち止めは助かったのは間違いないだろう。
「あ、あの・・・麻生。」
「どうした?」
制理が何やら言いにくそうな顔をしながら麻生に話しかける。
麻生は知らないが既に制理の中ではあの時の少年と麻生は完全に同一人物である事に気がついている。
つまり、麻生に恋をしている制理は何をどう話せばいいのか困っている。
何も話していないのに慌てふためく制理に麻生は彼女の頭に手を乗せる。
「ともかく、一件落着だな。」
「あっ・・・・うん。」
慌てる必要はない。
麻生とは同じ学校なのだからいつでも話す事ができる。
「さっきの光、無くなっているわね。」
桔梗は気になった事を口にする。
「あの子、無事かしら。」
あの子と言うのは一方通行の事だろう。
重要参考人として顔写真は警備員の間で既に出回っている筈だ。
今はそのほとんどが麻痺しているが、ヴェントの術式が解除されれば一方通行は捕まる。
もう彼はこちら側に帰って来れないかもしれない。
それを心配しているのだろう。
「大丈夫だろ、あいつなら。
必ず戻ってくるさ。」
別段根拠がある訳ではない。
戻ってくる保障など全くない。
でも、桔梗は麻生の言葉を聞いて少しだけ笑う。
「朗報じゃん。」
携帯をポケットにしまって愛穂は言う。
どうやら、先ほどまで誰かと通話していたらしい。
「警備員の同僚が目を覚ましたじゃん。」
「そうか。
多分、他の人も時期に目が覚める筈だ。」
上条がヴェントを倒したのだろう。
おそらく上条の右手が天罰術式の霊装を破壊したのだろう。
事件が徐々に治まり始めている。
長い一日が終わろうとしていた。
気絶しているブリジットは他の警備員と共に回収するらしい。
愛穂は起きたブリジットが逃走する可能性があるのでこの場に残る。
一人にさせる訳にはいかないので麻生も残り、つられて制理も残ると言い出し、最後に桔梗も残ると言い出した。
結局全員がこの場に残るという結果になり、三人は笑い合う。
そんな中麻生は回収した魔道書に視線を向けていた。
(これを解読すればあいつらの魔術について知る事ができるかもしれない。)
視界に入れるたびに頭痛がする。
この場でこの本を開ければ何が起こるか分からない。
寮に戻って色々と準備を進めないとな、と考えた時だった。
本当に突然だった。
空気が凍りついたのは。
実際に凍りついたわけではない。
四人はしっかりと息はしている。
なのに、空気が冷たい。
胸を圧迫する威圧感は背後からだった。
麻生の除く三人は顔は血の気がなくなっていた。
麻生自身嫌な汗が全身に噴き出している。
さっきのブリジットとは比較にならない。
何かが後ろにいる。
「お前ら逃げろ。」
だが、三人は動こうとはしない。
金縛りにあったかのように全身が硬直しているのだ。
動けるのは麻生だけだ。
大きく深呼吸をする。
このままここで突っ立ていても殺されるだけだ。
意を決して後ろに振り返る。
能力を躊躇いもなく発動する。
初撃で倒すつもりだった。
後ろを見るとそこにはブリジットと同じ赤いローブを着た人物が立っていた。
左手に星の力を集め、さらに前方には歩く教会を凌駕する防御魔法陣を一〇を展開。
その一枚一枚は術式の理論は別々で、一枚目を破壊する為に魔術を構築しても二枚目は全く別の魔術で作られた防壁が待っている。
これを破壊するには幻想殺しくらいだろう。
星の力をフルに使い、短い時間でこれほどの防御魔術を展開。
破られるとしても数分は稼げると思っていた。
その間に新しい魔術や科学を応用して活路を見出す。
そのつもりだった。
相手は麻生を見て確かに笑った。
被ったローブで表情が見えないはずなのにそれなのに笑っている事を麻生は分かった。
次の瞬間。
左手を突き出していた麻生の掌に一本の木の杭が突き刺さった。
「なっ・・・・」
思わず息を呑んだ。
展開されている防御結界は糸も簡単に破られていた。
それどころかいつこの杭を自分に投げたのか全く分からなかった。
杭は一本だけではなかった。
続けさまに七本の杭が麻生の左腕に等間隔を開けて突き刺さる。
右腕も同じだった。
掌も含めて八本の杭が突き刺さる。
右足も左脚も太股から爪先まで杭が突き刺さる。
そうして、ようやく。
痛みが麻生を襲う。
「あがああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
想像を絶する痛みに麻生は叫び声をあげる。
思わず膝を折ってしゃがみ込むと、刺さっていた杭がさらに深く刺さりまた叫び声をあげる。
その声を聞いた愛穂は動かない身体を無理矢理動かして振り向く。
その瞬間、愛穂の右肩に一本の杭が突き刺さる。
その勢いは凄まじく貫通しなかったのが不思議で仕方がなかった。
そのまま後ろに吹き飛び濡れた路面に倒れる。
全身に突き刺さる痛みが愛穂を襲う。
「くあがああああああああああああ!!!!!」
肩に刺さっただけなのになぜか全身に杭が突き刺さったような痛みを感じた。
桔梗と制理は身体は動く事に気がつく。
そして、どうするべきか迷っていた。
振り返って麻生の所に行くべきか。
それとも愛穂の所に行くべきか。
二人は迷っていると後ろから麻生が言う。
「あい、ほ・・・ところへ・・・」
必死に痛みを堪えながら麻生は言った。
二人は頷き合い、倒れている愛穂の所に駆け付ける。
愛穂は未だに痛みで苦しんでいた。
ともかく杭を抜こうと杭に触れると愛穂は悲痛な叫び声をあげる。
「どうなっているのよ、これ!」
「先生、しっかり!」
二人はゆっくりと前を見る。
そこには左右両方の腕と脚に何本もの杭が突き刺さった麻生を見て息を呑む。
堪らず、制理は麻生の所に駆け寄ろうとする。
「来るな!!!」
後ろに目でもついているのか。
制理が動こうとした瞬間に麻生の声を聞いて動きを止める。
「ぜっ、たいに・・くるな・・・」
杭を突き刺した人物は麻生に近づく。
(これ、は・・・浸食の呪詛を・・含んでいるのか?
それに、呪縛も・・・)
あくまで麻生が持っている知識に一番近い魔術的を考える。
こんな魔術麻生は全く分からなかった。
だから、この世界で一番似ているであろう魔術の候補をいくつか挙げる。
どれも麻生自身に対しての魔術。
麻生自身にかかる魔術は無効化されるはずなのにそれが通じない。
つまり、これは未知の魔術。
星も知らない全く未知の魔術が使われている。
「てめぇは・・・何者だ。」
苦しげな表情を浮かべながら麻生は目の前に立っている人物に問い掛ける。
その人物は被っているローブを外す。
それは老人だ。
髪は黒髪だが、一部が白髪になっている。
顔には少し皴があり、これを見た限り歳は六〇歳以降である事が分かる。
だが、老人の弱々しい雰囲気は一切感じない。
少しだけ笑みを浮かべて口を開く。
「私はダゴン秘密教団の教皇、バルズ=ロメルト。」
後書き
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