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ローゼンリッター回想録 ~血塗られた薔薇と青春~

作者:akamine0806
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第1章 第12同盟軍基礎訓練所:中半 鬼白兵戦軍曹 ルイ・マシュンゴ

「シュナイダー2等兵!
フェイントを使いすぎです!
あなたの白兵戦は上手ですが、自身のフェイントに頼りすぎです。
そうするとこのようにすきができますよ!」
訓練用トマホークが左胴に直撃した。
「ピーッ!
胴体切断。大量出血により戦死」
機械的な声がヘッドセットから聞こえてきた。
私の目の前に立っているトマホークを肩にかけた男は「白兵戦の鬼」「優しい顔をした白兵戦の鬼」などなど訓練生からのあだ名は幾多にも及ぶが必ず最後には「白兵戦」とか「鬼」とかがついている。
顔はなかなかの男前で、性格も「いつもは」優しいうえに階級が下でも敬語を使う人であるが、白兵戦教練の時だけ相手に対する敬語は変わらないが一言一言のアドバイスが適格なうえ、手厳しい。その上、訓練生の骨の髄までクタクタにさせるまで返さないという徹底ぶりだ。
そして、このマシュンゴ軍曹は22歳にして戦闘経験実に50回以上という「鬼」を超越した「死神」である。
装甲ヘルメットの奥からこの声を発しているとは思えないような優しい顔が見える。
マシュンゴ軍曹は私を差別による攻撃のメインターゲットにしていたケイン中隊教練軍曹とは違い、理不尽に訓練生を殴り飛ばすことを嫌い訓練生を自分の弟のようにかわいがっていた。
自主トレの白兵戦訓練が終わると、我々は訓練所内にあるバーにのみに行く。
これはいつかの訓練後のことだが、あるとき私はマシュンゴ軍曹にきいたことがある。
「どうしてマシュンゴ教官は我々にここまでして白兵戦を手厳しく教えてくださるのですか?」と
これは後々、私が指揮官としての道を歩むうえでとても重要な話であった。
「そうですね。 私の初陣の時の話をしましょう。
当時私はあなたたちと同じく訓練を終えて1等兵として今は帝国領ですが、アルレスハイム宙域の第21方面軍の第22空挺装甲白兵戦師団に所属していました。
多分この部隊はとても有名だと思います。第2次アルレスハイム攻防戦でたった199人の第29空挺装甲白兵戦中隊戦闘団を残して全滅したのですから。私たちの中隊長であった第29空挺装甲白兵戦中隊戦闘団エベール・クラウト中尉は今の私より2歳年上の24歳の若き英雄でした。
人当たりがいい人で自分たちより年上の先任下士官たちと意気投合して毎日のごとく白兵戦の猛訓練を行っていました。
何人もの兵士がもう無理だと思うような訓練の辛さの中でも中尉は必ず彼らを引っ張り上げ
「ここで貴官らが倒れたらだれがこの星系を守るんだ?
わが師団を見てみろ! わが中隊以外のだらけざまを!
君たちはここで訓練をしている以上死なないし、絶対に私が殺させない。
私は君たちが生き残るため、この中隊の全員が生きて祖国の土を踏み、愛する者のところへ生きて帰るためにこの灼熱の太陽の中、泥の中、雨の中で訓練をしている。
だからあきらめるな!! あきらめたらそこでおしまいなんだよ。
必ず任務を全うして、必ずこの星系を守り、君たちを生きて祖国に帰させる!
これが私の使命だ!」
とおっしゃってた。 私は自分が指揮官になったらこの精神を守り抜こうと思ったからなんです。あなたたちをクタクタにさせてまでしごきあげているのは。」
軍曹は、手に持っていた原液のウォッカを一気にのどに流し込んだ。
「この後の話もここまでしたのなら致しましょう。
エベール中尉は第2次アルレスハイム攻防戦で200人の中隊の中で唯一の戦死者となってしまいました。
私たち守備兵は自分たちの防御している宇宙港にあるトーチカ群で頑強に抵抗していました。攻防戦が始まって1か月がたち師団のうち我が中隊以外の部隊はほとんど壊滅。私たちの防御している宇宙港が攻め落とされるのも時間の問題でした。
帝国軍としてはそこさえ落とせば、後方支援物資の潤滑な搬入ができるんですから。そこで、帝国軍はこの宇宙港に公式記録では2個装甲擲弾兵師団、2個砲兵連隊、3個小型戦闘艇(ワルキューレ)航空群そして、アルレスハイム攻略任務宇宙艦隊からの衛星軌道上からの艦砲射撃でした。
たったの200人に対してです。私たちはそれ以前にも何度も攻撃を防いでいましたが、このすさまじさには言葉を失いました。
私たちはひたすら3日間に及ぶ砲爆撃に地下の防空壕に立てこもっていました。
そんな中でも、我々200人の生き残るという意志はどんなコンクリート防空壕よりも硬かったと思います。そして総攻撃4日目敵の装甲擲弾兵師団はワルキューレの圧倒的な空対地攻撃支援により前進を開始しました。
私たち200人は敵を1か所に集め200人一組で敵に臨み、全員がそれぞれの役割を果たしていました。
そんな中総攻撃開始から7日目謎の猛砲爆撃がありました。敵の艦隊方面からではない方面からその砲撃は開始され、敵の攻撃陣地に降り注いでいました。
そして8日目朝いつも通り哨戒に出ると敵の攻撃陣地があったところは焦げた死体や戦車の残骸が転がっていました。
そして、「キューン」という聞いたことのあるなじみ深いわが同盟軍小型戦闘艇スパルタニアンが飛翔してきました。
我々は助かったのです。しかし、その直後中尉が
「マシュンゴ!危ない!」
と言って私の前に飛び出したのです。
「中尉!!」
中尉の胸部から血が流れていました。もはや即死でした。 30メートル前には腹部を負傷した若い敵兵がレーザーライフルを構えて倒れていたのです。彼は狂ったように笑い始めました。
私のその時の形相は人間ではなかったと思います。
「この野郎!!!」
と言ってその瀕死の帝国兵に対してトマホークを彼の顔面めがけて振り下ろしました。
自分の正気が戻ったのは目の前の17,8歳の若い帝国兵を人間とは思えないくらいの肉片にした後でした。
拭ってもぬぐっても涙は出てきました。
中尉は自分のために戦死されてしまった・・・という罪悪感が残りに残って、中尉に申し訳ないとしか言いようのない情けない自分を恥じました。
その後中尉の遺品の中に中隊の全員200人個人個人へ向けた手紙が見つかりました。
そこには訓練中の思い出、みんなでばか騒ぎをした思い出などが個人個人に綴られていました。
そして中尉は最後に
「追伸
マシュンゴ1等兵へ。貴官を陸戦専科下士官学校に推薦しておいた。
よい指揮官になれよ。
エベール・クラウト中尉」
とありました。
その後私は、必ずや、中尉のような指揮官になる。
部下を第一に考え、自ら前に前に行く指揮官に。そして、自分の尊敬する人を今度は守るために。」
と言って、マシュンゴ軍曹は7杯目のウォッカを飲み干した。
この優しい顔の裏には、そんな壮絶な経験があったなんて思いもよらなかった私は感動の涙と共感と一緒に紅茶を飲み干した。 
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