ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~
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第2章 滅殺姫の憂鬱と焼き鳥の末路
第41話 禁手
イッセーの悲鳴を背後に、私は部長たちを守るようにしてライザーの前に立った。さっきまで呆けていたライザーも私が前に立つと苦虫を噛み潰した様な表情になったわ。
「5日ぶりですねライザー様。約束通り全力でお相手しに来ました」
「……ちっ、会う前に決着を付ける気だったんだがな」
「イッセー、もっと力抜く」
「んおおおおおおっ!?」
「端から漏れてるにゃ」
「お兄ちゃん、入り口は力入れてください」
「んな器用なことできるかああああああ!!」
「そんなつれないこと言わないでくださいよ」
そう言って私は腰の七天七刀に手を掛ける。
「それにしても貴様……なんだその格好は!?」
「何って……私の勝負服ですけど?」
「はぁ!? しょ、勝負ってお前……」
「やらなきゃいつまでも入らない」
「龍巳ももうちょっと強めに入れてもいいんじゃにゃいかにゃ?」
「お兄ちゃんならやってくれます!」
「イヤイヤちょっと待って!」
「えい!」
「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
あら? 何でそこで顔が赤くなるかな?
「私昔から修行とか戦闘する時はだいたいこの格好なんですよ。動きやすいですからね」
「……くっ、勝負ってそういう意味か。っていうかその露出の多さはおかしいだろうが!」
「黒歌姉様、耳に息吹きかけてみましょう」
「それはいい考えにゃ」
「「ふぅ」」
「あふん……」
「え~、あなたがそれを言いますか。あなたの眷属たちの方がよっぽど奇想天外な格好をしてたでしょう?」
「……まあいい。さっさとそこをどけ。もうゲームは終わりだ。あんなことをしたって俺と戦えるようになるわけ無いだろう?」
そう言いつつライザーは顎で今も悶えつつ浣腸されているイッセーを指した。
「今にゃ!」「今です!」
「ん!」
「ぐえあ゛あ゛あ!」
「さあ? それはどうでしょう? 確かに今はあなたの足元にも及びませんけど……もし赤龍帝が真に目覚めればフェニックスともまともに戦えると思いません?」
「……ならその前に潰すだけだ」
「一気に入りました」
「やれば出来るにゃ」
「イッセー、あとちょっと」
「無理無理! もう無理!」
「だからそれは私がさせませんって」
そう言って私は一歩踏み出す。ここから先は通さないと言わんばかりに。
「ちっ、まあいい。邪魔をするなら貴様も潰すまでだ」
そう言いつつライザーは炎を展開、こちらに歩み寄ってきた。どうやら向こうもやる気になったみたいね。まあ私は足止めに徹する気なんだけど。それじゃあ早速
「七閃」
ジュワッ
……あれ?
「無駄だ。貴様には何回も斬られたからな。もうその攻撃のタネは割れている。貴様が七閃と呼んでいるその斬撃は不可視の高速抜刀術ではなく刀の柄頭から伸びる極細のワイヤーで相手を斬っていただけだ。それで今までどんなものでも斬ってきたんだろうが、残念だったな。俺の炎の前では斬る前にワイヤーが蒸発する」
……あらら、まさかこんな早くに七閃のカラクリに気付かれるとは。ちょっとこの間の教育の時に見せすぎたわね。
そう、実際一瞬で七回の抜刀術なんて出来るわけない。七閃は柄頭から伸びる七本のワイヤー、詳しくは七本の極細の触手で斬ってたのよ。この七天七刀を創るとき、私はまず最初にイソギンチャクをイメージした。そしてそこからイソギンチャクの触手を徐々に細く長く強靭に、そして茎の方を徐々に刀に似せて最終的に出来上がったのがこの七天七刀なのよ。
この七天七刀、雑魚相手なら自動で周りを斬ってくれて、さらに相手への威嚇になるから重宝してたんだけど……さすがに上級悪魔の、更にフェニックスには効かないか。ちょっと甘く見すぎてたかな?
「貴様の攻撃はもう俺には効かない。さあ、諦めてそこをどけ!」
「いえいえだからそういう訳にはいかないんですって」
そう言いつつ私は右足を前に、左足を後ろに下げ、右手で刀の柄を握り前傾姿勢気味の抜刀の構えを取った。
「「はむっ」」
「あはん……」
「えいっ」
「んい゛い゛い゛い゛い゛い゛!!」
「……なら!」
そこでライザーは全身から更に炎を吹き出しつつ突っ込んできた。
「フェニックスの業火、その身に受けて燃え尽きろ!」
「火織!」
後ろからイッセーの叫び声が聞こえた。雰囲気からして部長たちも無言の叫びを上げてるわね。まあ当然か。今にも私、炎の雪崩に飲み込まれそうに見えるだろうし。
……全く、皆私を信じてなさすぎ!
ズバンッ!
「な……に……?」
その轟音と共に私の目の前まで迫っていた炎と、その奥にいたライザーが縦に真っ二つになった。そのまま真っ二つになったライザーは勢いのまま私の両側を通り過ぎそうになったから部長たちから遠ざけるよう蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたライザーは……さすがにすぐに復活したわね。ただ斬っただけだし。でもその表情は驚愕に染められているわ。
「ど、どういうことだ? 貴様の七閃は俺の炎には効かないはず……」
「ええ、確かに七閃はもうあなたには効かないでしょうね。でもだからと言って私にもう戦う術がないって言うのは早計過ぎません?」
っていうかライザーだけじゃなくて後ろの部長たちもそう思ってたでしょうね。今のを使ったのは初めてだけど、私と何度も手合わせしたんだからこのくらい平気だって分かって欲しかったな。
「貴様、今度は一体何をした!? まだその刀にカラクリがあるとでも言うのか!?」
「そんな大層なものじゃないですよ。私の七閃を破ったことには驚きましたが、それなら今度こそ私の神速の抜刀術、『唯閃』を使うまでです。私の強さがこの七天七刀におんぶに抱っこだとでも思いましたか?」
「っ!」
そう言うとライザーは絶句した。まあ今の抜刀は本当に目に見えなかったでしょうしね。ちなみに私もこれを私の力のみでやったわけじゃなかったりする。さすがに自力でそんなに早く動けないしね。私聖人じゃないし。種明かしをすると全身のスラスター魔獣を稼働させて動きをブーストさせてるだけなのよ。これが出来るようになるまでは本当に長かった。ちょっと出力配分間違えるとその場でずっこけたりするしね。
「良かった、火織無事だったのか」
「ん、イッセー、力抜けた。残り一気!」
「んおあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」
「それにしても驚きました」
そう言って私は七天七刀を鞘から抜き放った。その抜き放たれた刀身は赤熱化し、刃の部分にいたっては熱で若干溶けて潰れてちゃってる。もうこれ使えないわね。まあ……
「創り直せば問題無いですけど」
すぐさま七天七刀の刀身を消し、新しい刀身を創り上げる。刀は剣士の命って言うけど、私にそれは当てはまらないわね。盛大に使い潰してはすぐにこうして新しいの創ってるし。さて、そろそろかな?
「残念でしたね、ライザー様」
「一度防げたからといっていい気になるな! 確かに貴様の斬撃は見えないが所詮はただ斬っているだけだ! 俺にダメージは殆ど無い! ならば俺とお前、先に体力が尽きるのはお前だ!」
「いえ、そうではなくて……」
そう言って私はニッコリと笑顔を向ける。
「時間切れです」
その瞬間、私の背後で膨大な量の赤いオーラが弾けた。
☆
どこだここ? 俺は今までレーティングゲームの会場にいたはずじゃあ?
『あまり無様なものは見せないでほしいものだな、相棒?』
「なっ!? お前は!」
俺の前にいきなり火柱が立ち上がったと思ったら前夢に出てきたでっかくて赤いドラゴンが!
「ここはどこだ!? なんでお前が俺の前に!」
『ここはお前の心の中だ』
「心の……中……?」
『そうだ。お前は戦闘中無様な様を晒しつつ気を失いここへ来た』
「俺気を失っちまったのか!? ゲームはどうなったんだ!? それに俺の心の中にいるお前はいったい!?」
『落ち着け相棒。俺の正体はもう気付いているんだろう? 赤い竜の帝王、ドライグ。お前の左腕に宿っているものだ。俺とお前は一心同体、故にこうして心の中で会話できる』
そうか。やっぱりこいつが赤龍帝だったのか。
『で? あんな無様を晒して、お前はこれからどうするつもりだ?』
「……決まってる。俺はまだ戦う! 部長を、そして皆を守るために!」
「はっはっはっ! いいだろう! それならやってみろ! そのための力は俺が分け与えてやる! だが覚えておけ。そのためには大きな犠牲を払うことになる」
『犠牲?』
『なに、心配するな。大きな犠牲を払うだけのものを与えてやる。貴様をあざ笑った連中に、ドラゴンって存在を見せ付けてやってこい!』
その言葉とともに俺の視界は白く染まった。頭に力の本当の使い方が流れ込みながら……。
☆
弾けた赤いオーラに振り向くと、そこには傷を回復し膨大な赤いオーラを振りまきつつ、こっちに背を向けて立ち上がりズボンを履いているイッセーがいた。なんか微妙に背中が煤けているように見えるのは気のせいかな?
「で? イッセー、気分はどう?」
「……最高に最低だ」
「それを言うなら最低に最高じゃない?」
「どっちだっていいよそんなこと……」
あ、なんかこっち向いたイッセーの目が死んだ魚の眼みたい。そんなに辛かったかな?
「で、どうなのイッセー? やれそう?」
「……ああ!」
そこでイッセーはパンッと両頬を叩くと、いつもの元気な表情に戻り私の横に並んだ。
「イッセー……」
「……大丈夫です部長。俺まだ戦えます。だからそこで待ってて下さい! 必ずあなたを守りますから! それで皆で一緒に帰りましょう!」
ふふ、かっこいいこと言っちゃって。部長も真っ赤になってるじゃない。
「行くぜ焼き鳥野郎! 輝きやがれ! オーバードブースト!」
『Welsh Dragon over booster!!!!』
その瞬間イッセーの周りに振りまかれていたオーラがイッセーを中心に凝集し、赤いドラゴンを模した鎧を形作った。
「これが龍帝の力! 禁手、赤龍帝の鎧だ! いくぜドライグ!」
『ああ行け相棒! 本来なら10秒しか使えない力だが今なら30分は使える! ドラゴンの前に立ちはだかったこと後悔させてやれ!』
「おおおおおおっ!」
そう言ってイッセーは背中のブースターを吹かし、ライザーに突っ込んでいった。一方ライザーは悪態をつきつつ炎の翼を広げ飛び上がり、炎を放って迎撃に移る。でもイッセーはその炎を突っ切りライザーの顔面に一撃を入れた。
今の炎を真正面から受けて鎧の一部が破壊されたけど、一瞬で修復されたわ。どうやらドーピング液が正常に働いているようね。それにさっきの話ではどうやら30分は戦えるみたいだし、ドーピング液を作ってよかったわ。あのドーピング液、正体は龍巳の蛇と私の創る魔獣の血液を仙術を使って混ぜ合わせた物なのよ。蛇で力をブーストし私の回復系の魔獣の血液で体に掛かる負荷を軽減する。そして仙術でこの2つをうまく馴染ませつつ無限の龍神と魔獣創造の気配をうまく隠蔽。うん、我ながら良く出来てるわよね。
そしてそんな力でパワーアップしたイッセーは上空でライザー相手に膨大な魔力を撃ちあいつつ殴り合いをしている。しかしすごい力ね。私でもあれ正面から受けたらバラバラになりそう。さすが赤龍帝。
「で、どうですか部長? これでもまだ諦めて負けを認めようと思いますか?」
「……」
って聞いちゃいないわね。部長ったら頬を染めつつイッセーから目を離そうともしないわ。これは原作とはちょっと違うけど惚れた、いや惚れかけてるかな? 見ればアーシアとレイナーレも頬を染めつつ上空を見てる。で、朱乃さんは……ちょっと判断がつかないわね。
それで最後にうちの姉妹たちは、嬉しそうにしつつも若干悔しそうな、いえ苦味走ったような形容しがたい表情をしていた。まあ気持ちは分からなくはないけど。だって……
「イッセー、このまま、勝てない」
「えっ!?」
「そんな!?」
龍巳が言うと部長たちが驚いて上空から目を離しこっちを向いた。
「どうして!? ああしてライザーとも互角に戦ってるじゃない!」
「まあ確かに今は互角にゃけど……」
「はい、むしろ瞬間的な出力に関してはお兄ちゃんの方が上です」
「だったらどうして!?」
「問題は時間ですよね~。あの力は30分しか保たないってドライグが言ってますけどこのペースじゃ30分で倒しきれません」
「それにイッセー、力使うごとに残り時間短くなる。倒すならさらに短い間」
「さすがに一撃で倒すほどの力はまだ無いしにゃ~」
「それに経験の差も大きいです。だんだんあの婚約者さんもお兄ちゃんの攻撃を避け始めました」
「そんな、ではいったいどうしたら……」
そう部長が弱音を吐いた瞬間、屋上にイッセーがものすごい速さで激突した。
☆
「ゲホッゲホッ!」
いってぇ……。クソ、だんだん俺の攻撃が当たらなくなってきやがった。その上かなりでかいの貰って屋上に落とされちまった。
「残念だったな! いくら赤龍帝の力でも扱うのが貴様のようなカスじゃ宝の持ち腐れだ! まあ兵士の力でよくやったとだけは言っといてやるよ! だからいい加減諦めろ! もう貴様は詰んでるんだよ!」
「うるせぇ!」
約束したんだ、部長を守るって。女の子1人守れないようじゃ火織を守れないどころか肩も並べられねえ! 諦めて溜まるか! おいドライグ! 力をくれるんじゃなかったのかよ!
『残念ながらこれが今のお前の限界だ。初めての禁手化、それも限定的なもの、しかも相手がフェニックスでは相棒1人では荷が重かったか』
そんな今更!? じゃあ俺はここで負けるってか!? そんなの……!
『落ち着け相棒。言ったはずだぞ、お前1人では、とな』
は? それってどういう? とその時ポンッと肩を後ろから叩かれた。
「落ち着きなさいイッセー、さっきまでのあんた、力こそすごかったけど動き自体はいつもの剣道の立ち会いのほうがよっぽど良かったわよ? 少し冷静になりなさい」
そこには火織が苦笑しつつ立っていた。俺はその顔を正面から見れなくてつい顔を逸らしちまった。
「……ごめん火織。せっかく力くれたのに俺!」
俺は情けなくって、つい声が震えちまった。せっかく皆が俺にチャンスをくれたってのに俺は! でもそんな俺に対する火織の返事は予想外なものだった。
「だから落ち着きなさいっての。誰もあんたに最初っから全部1人でやらせようなんて思ってなかったから。むしろ初めてでよくやったわよ」
そうやって火織はこんな情けない俺を褒めてくれた。
「イッセー、ここからは私達も一緒に戦うわ」
そう言った火織の右手にはいつの間にかいつもの七天七刀じゃなく氷輪丸が握られていた。でもダメなんだ火織、その刀じゃ……。
「ふんっ、その刀、いったいどこから調達したのかと思えばお前が創ったものだったのか」
「ええ、これも、さっきまでの七天七刀も私が神器の力で創った物ですよ?」
「だが残念だったな。フェニックスたるこの俺に氷系の能力をぶつけるのは悪くないが、いかんせんそれでは出力不足だ」
そう、確かに氷輪丸はあいつの炎からは身を守ってくれたけどあいつにダメージはほとんど与えられなかった。なにせ部長と朱乃さんの放った最大出力の氷龍からもあいつは復活したんだし。
「火織、その刀じゃあいつには……」
「はぁ、イッセー、それにライザー様も、相手の戦力は正確に分析できないとそのうち取り返しのつかないことになりますよ?」
「……どういう意味だ?」
「言葉通りの意味です。私たちの力を借りたとはいえ神器を目覚めさせてまだ1ヶ月足らずのイッセーが踏み込んだ領域に、10年近く前から神器を使ってる私が踏み込んでいないとでも思いました?」
っ!
「まさか……貴様!」
今の言い方、じゃあもしかして火織も!
そんな俺と焼き鳥、そしておそらく部長たちの驚愕の視線が集まる中火織はにっこり笑うと片目を閉じてその言葉を口にした。
「禁手化」
その瞬間火織を中心にものすごい衝撃波が周りに放たれた! そのあまりの強さに俺は腕で目を覆い隠す。
「なっ!? なんだこれは!?」
焼き鳥の驚いたような叫び声に目を開ける。俺の横、火織のいた場所は煙に包まれ火織本人は見えなかった。そして俺達の前の宙に浮いていた焼き鳥に目を移すと、焼き鳥は周りを見回しつつ驚愕の表情が顔に張り付いていた。それに釣られ俺も周りを見回してみると……
「なんじゃこりゃあ!?」
ここから見渡せる景色が全部氷で覆われちまってる! 俺達の立つ校舎も、グラウンドも、テニスコートも、森も、遠くに見える旧校舎も全て氷漬けだ! しかも人の数倍はありそうな先の尖った氷柱が辺り一面びっしり生えてやがる! おまけにここら一帯ものすごく寒い! 鎧を着込んでいるにも関わらずこの寒さって、いったい外は何度なんだ!? その上極め付きはさっきまでオーロラのようだった異界の空模様が今は分厚い雲に覆われちまってる! いったい何が起きたんだ!? いや、これみんなもしかして火織が……!?
そう思い隣に再び目を向けると、火織を取り囲んでいた煙が中から一気に吹き飛ばされた。
「霜天に坐せ……」
そこには体の各所に氷を纏い、氷で出来た巨大な翼を広げた美しい、まさに氷の女王とでも呼ぶべき姿の幼馴染が
「大紅蓮氷輪丸!」
神裂火織がそこにいた。
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