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ソードアート・オンライン 瑠璃色を持つ者たち

作者:はらずし
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第三話 初の攻略会議

 
前書き


どうも、二日ぶり、ですかね。はらずしです。

さくっと書けちゃいましたのでアップしました。

では、どうぞ。 

 





《ソードアート・オンライン》が運営を開始してからーーー《デスゲーム》がスタートしてから一ヶ月の月日が流れた。

ゲーム開始時にログインしていた総数一万人のプレイヤーたちは、その一ヶ月で急激に数を減らし、犠牲者は二千人にまで昇った。

はじまりの街に残る者。
生活を維持できるほどのコルを稼ぐ者。
自殺する者。
現実を受け入れない者。
現実を受け入れ、ただ生き残ろうとする者。

生き残っている約八千人がその多くに属した。

けれど、ここは《ソードアート・オンライン》でありVRMMO。もちろん、こんな集団に属する者がいた。


ーーー第百層を目指し、迷宮区を攻略する者。


そんな彼らによる、「第一層フロアボス攻略会議」がもうすぐ始まろうとしていた。




《トールバーナ》
迷宮区の一つ前の街。そこにある広場にて攻略会議が行われる。

その広場から少し離れた地点に二つの影。

「なるほど、分かった。ありがとな」

「ニャハハハ、オレっちは仕事をしたまでだヨ。ちゃんとコルももらってるしナ」

チャリーン、とサウンドが鳴り、コルが相手の元へと入っていく。

「キー坊、行くんだロ?《フロアボス攻略会議》」

キー坊と呼ばれたプレイヤー、キリトは肩をすくめながら頷く。

「ま、一応な。どんな会議になるかは知らないけど、行くしかないだろ」

「結構な数が集まると、オイラは予想してル。結果が楽しみだナ」

ニャハハハ、と笑い、「じゃあ、また後でナ」と言い残し去ろうとするプレイヤーを慌てて引き留める。

「あ、待ってくれアルゴ」

「ん?なんダ?」

キリトに呼び止められたプレイヤー、アルゴは素直に立ち止まり振り返る。

「アルゴ、身長が俺より頭ひとつ分デカくて、アニールブレードを使ってるプレイヤーを知らないか?」

この《ソードアート・オンライン》で初めて《情報屋》と名乗り活動している物知りのアルゴは、しかし、う〜んと首をひねる。

「……オイラは知らないナ。言っとくけど、コルを取る取らない抜きの話でだゾ?」

「そうか……すまないな、変なこと聞いて」

「いや、キー坊が気にするくらいのプレイヤーだし、オイラもなにか分かったら教えるヨ」

「助かる」

小さく頭を下げたキリトだが、

「もちろん、コルは取るけどナ」

と言われてしまい、頭を下げたことを軽く後悔した。

「今度こそ、ジャナ〜」

アルゴはそう言って路地裏へと姿を消した。

(アルゴでも知らないのか……)

キリトは内心で呟く。
いったい彼は今どこにいるのだろうか。最悪の場合、という可能性はあるが、あの強さでは死んだとは考えにくい。

(とりあえず、それは置いといて、攻略会議だな)

ふぅ、と一旦息を吐いてから、キリトはその足を広場へと向けた。





キリトが広場に着くと、すでにそこそこの人数が集まってきていた。

ーーー四十五人、か。

この広場にいる、攻略に参加するであろうプレイヤーたちの総数である。アルゴも少し離れた位置に佇んでいたが、彼女は情報屋だ。戦闘に加わるはずがない。

男女比は、言わずもがなだろう。
圧倒的に男の比率の高いこのゲームで、最前線にいる戦闘職の女性プレイヤーなんて皆無に等しい。

フードを被ったプレイヤーが一人……いや、二人いるが、どちらも男だろうと推測するキリト。もうすぐ会議が始まるということで、近くに腰を下ろした。

そして、おもむろに広場の中央に登場したのは、青髪の、ゲーマーとは思えない爽やかイケメンプレイヤーだった。

最前線にいる証拠として、十数段ある階段をひとっ飛びで広場に着地した。筋力・敏捷力がともに高くないとできない芸当だ。

「じゃあ、そろそろ会議始めまーす!」

キリトの思考をよそに、イケメンプレイヤーはよく通る声で集まったプレイヤーたちに呼びかける。

「一応、自己紹介からさせてもらう。オレはディアベル。気持ち的に《騎士》やってます!」

ドン、と自身の胸を叩いて笑みを浮かべながら宣言するディアベル。
その発言に「ジョブシステムなんてねえよ!」などと軽い反応が返ってくる。

だが、次のディアベルの発言によって場の空気は一変する。

「昨日、オレたちのパーティが、ボス部屋を発見した」

どよっ、とこの場にいる全員がほぼ同じ反応を見せた。それもそうだ。ベータテスターであるキリトでさえ発見には至っていなかったというのに、彼はーーー彼らのパーティはもうすでに発見したというのだから、驚くのは無理もない。

「一ヶ月。そう一ヶ月だ。ここまで来るのに一ヶ月も時間がかかって……二千人もの犠牲者が出てしまった」

ディアベルはぐっ、と拳を胸の前で握りしめ顔をうつむかせている。
しかし、次には顔を上げ、拳を先ほどよりめい一杯握り込み、呼びかける。

「けど、ようやく見つかったんだ!次への道筋が!解放の希望が!そして、その希望をはじまりの街で待っているみんなに与えてあげるのは、オレたちの役目で、義務だ!そうだろう?みんな!」

一瞬の静寂。
そしてこの場にいるほぼ全てのプレイヤーが拍手や指笛を鳴らし、ディアベルの演説に賞賛を贈ると同時に、賛同の意を伝える。

かくいうキリトも小さく拍手しながら、顔には笑みがこぼれていた。

(いい雰囲気だな……)

こんな雰囲気にしてくれる指揮官がいるのはこれから先の攻略にも必須だろう、とこの先の未来を担う指揮官を想像していると、野太い声が響き渡った。

「ちょお待ってくれんか、ナイトはん!」

声とともに、中央へと降り立ったのはそこそこガタイの良い、サボテン頭のプレイヤーだ。

「ワイはキバオウゆうもんや。そん前に、これだけは言わせてもらわんと仲良しごっこはできへんねや」

先ほどから漂っていた弛緩した空気は、ディアベルのボス部屋発見の宣言とは違う固まり方をキリトは自覚した。

「なにかな、キバオウさん」

「こん中に、今までに死んでった二千人に詫びぃ入れやなあかんやつがおるはずや」

「詫び、かい?それは誰のことかな?」

「決まっとるがな!こんクソゲーの開始そうそうに右も左もわからんビギナーたちを見捨てて、自分の利益のみに走ってった、ベータ上がりどものことや!」

冷静なディアベルとは正反対に、自らの激情を吐露するかのように吠えるキバオウは、続けてテスターたちへの怒りを見せつける。

「ジブンらだけがポンポン強うなってって、旨いクエストや狩場を独占し、強くなっただけで他の奴らは知らんぷりや。そいつらに土下座させて、身ぐるみ全部出して謝らん限り、ワイはジブンの命預けれんし、預かれん!」

キリトはその発言に、ぐっ、と息を飲み込む。
もし自分がテスターだとばれたらーーーという自己保身もある。しかし、それだけではない。

以前、アルゴに頼んでもらった件に関してだ。
ズバリ、元テスターの被害状況。

ベータテスター全員が、こぞってこの正式サービスへと移行したわけではないはずなので、おおよそとして八百人という予想をつけ、その中の死亡者数を確認するべく、アルゴに調査を依頼した。

当然、調査は難航したはずなのだが、彼女はたったの三日でキリトの欲しい情報を持ってきた。

元テスターの死亡者数ーーーおよそ三百人。

今までに死んでいった二千人から計算すると、実に四十パーセントの確率で、元テスターが死んでいるということになる。

それを知らずにーーーと知らずのうちにキリトは小さく拳を握っていた。

この場の全員が、この先会議がどうなるのかと俯瞰していたが、その状況は突如として打ち破られる。

「アハッ、アッハッハッハッハッハッ!!……くくくっ、ちょ、笑わせんなってーーーアハハッ!!」

大きな、およそ無遠慮といっても過言ではない笑い声が周囲に響き渡る。

その発生源は、端の方にいた茶系のフードケープを身につけた、腹を抱えている男のプレイヤーだった。

一同が、キバオウですら呆然としている中、彼はしばらく笑い続けていた。

しかし、少し遅れて我に帰ったキバオウが、場の雰囲気にそぐわない笑い声をあげる謎の男を怒鳴りつけた。

「な、なにがおかしいんやっ!!」

笑い続けていた男はようやく笑い声をひそめ、すく、と立ち上がった。

「いやはや、スマンスマン。お兄さんのご高説に感心して、ついね」

ーーー絶対ウソだ。

この場の全員が一瞬にして同じ考えを抱いた。

そんなことを知る由もない謎の男は発言を続ける。

「お兄さんの言いたいことは、要するに元テスターによる謝罪と賠償の要求、だろ?」

「そうや、よく分かっとるやないか。なんや、あんたが元テスターなんか?」

眉をつりあげるキバオウに、フードの男はとんでもないと手をあげる。

「いやいや、俺は単なるしがない新規プレイヤーさ。けど、お兄さんの言い分に、ちょいと言いたいことがあってな」

「な、なんや」

「あんた、自分の言ってること、矛盾してるのきづいてるか?」

キバオウのみならず、キリトも、ディアベルでさえ、彼がなにを言い出したのか分からなかった。

「ど、どういうことや」

「要するにさ、あんたはビギナーを放ったらかしにして、なんの手助けもせずに強化に邁進してきた元テスターたちを締め上げたいわけだろ?なら、その対象はあんたも、ここにいるやつら全員も入ってることになってるんだぜ?」

全員が息を飲むのがキリトにもわかった。元テスターでもないプレイヤーさえ、呼吸を忘れただろう。
普通の状況下でなら妄言と切って捨てれる彼の発言は、彼の纏う不気味なオーラがそれをさせてはくれなかった。妙に筋が通った彼の言葉は聴衆が耳を傾けてしまう何かがあった。

「そ、そんなわけあるかいっ!ワイはビギナーを無視して、その無視されたビギナーが死んでった責任を負え言うてるんや!」

「なら訊くが、ここにいる全員、ビギナーを見捨てていないと、ハッキリと言えるのか?」

ここで、キリトは彼が言いたいことに気がついた。確かにそうだ。キバオウのいう論理に従って謝罪と賠償を求めるのならばーーー

「言えないだろう?ここにいるってことは、少なからず一人でもビギナーを見捨てて、見殺しにして、自己強化に邁進してきた最たる証拠じゃねえかよ。なら、あんたの言う『ビギナーを見捨てて自己強化してきたやつら』はここにいる全員のことだぜ?アンタも、俺すらも例外じゃない」

結論に気がついていたキリト以外全員が、あんぐりと口を開いていた。次いで、全員がキバオウから目を逸らす。
彼の言うことが正しいと認めているから、全員がキバオウに賛成しないと、意思表示しているのだ。

しかし、その正論はキバオウの一言で霧散する。

「そ、そんなこと言うて、あんさんが元テスターやから、元テスターを庇っとるんちゃうんか!」

確かに、言われてみれば、客観的に考えてみればそう言われるのは当然である。元テスターじゃないのか、そう疑われるのを見越してキリトは何も言えなかったのだ。

けれどその一言を、フードの男は笑って切り返した。

「ウハハッ、まあ予想どおりの反論だわな。疑われるのは承知の上さ。ま、俺はれっきとした新規プレイヤーなんだが、その点について議論したいわけじゃないんだよ」

先ほどまで漂わせていた冷気のようなものから打って変わって、朗らかな雰囲気を漂わせ始める。

「確かに、ビギナーを見捨てた元テスターも悪い。けど、それはここにいる俺たちだってたいして変わらないことやってんじゃねえか。ならどうするか、決まってる。ボス倒して、死んでいったやつらに贖罪するしか、することねえんじゃねえのか?なあ、ディアベルさん?」

「あ、ああ。そうだ。彼の言う通り、認めずらいけど、考えてみれば、結果的に俺たちもビギナーを見捨ててきたことになる。なら彼の言う通り、亡くなってしまった人たちへの贖罪と、まだ懸命に生きている人たちへ希望を伝えようじゃないか!」

いきなり話を振られたディアベルは始め少々戸惑っていたものの、すぐに持ち直し、雰囲気が明るくなるよう努めた。

ディアベルの軌道修正のおかげで、プレイヤーたちはまた明るく騒ぎ始めた。

それを見ていたキリトは安堵するとともに、フードの男へと感謝した。
彼のおかげで少しばかりは、元テスターへの悪意は減ったであろう。
元テスターがビギナーを見殺しにした罪は、ここにいる元テスターでない人たちが自己強化するために見捨ててきたビギナーたちと同一である、という罪悪感を植え付けさせたのだ。

素直に称賛できない方法だが、この攻略を目指す人たちの互いへの疑心暗鬼はもちろん、総数や戦力を落とさずに、良い方向へと士気を変換させれたのだから。

「発言、いいか」

士気が高まる中、スキンヘッドの厳つい雰囲気を見せる両手斧を担ぐ大男が前へと進み出た。

「なにかな?」

「オレの名はエギル。なに、雰囲気をぶち壊しにするような発言じゃない。ただの提言、補足みたいなもんさ」

相次ぐ発言が、この場を暗くさせるものばかりで、またか、という表情を迂闊にも出してしまっていたディアベルに、エギルは苦笑する。

「キバオウさん、あんたこのガイドブック知ってるだろ?」

彼が取り出したのは《鼠のマーク》がついたガイドブックだ。

「そ、それがなんや」

「これは、あんたの言う元テスターたちが無料配布していたものなんだ。みんなも聴いてくれ。いいか、情報は誰にでも手に入れることができた。なのに大勢のプレイヤーが死んだ。引き際を間違えたんだろうな。だからオレたちはそのミスを少なく、いや無くさなければならない。今回の会議は、そういうことを議論する場じゃないのか?」

「ーーーふんっ」

なにも言い返せないキバオウは鼻を鳴らすと、近くの席にどかっ、と行き場のない怒りを吹き飛ばすように勢いよく座り込んだ。

「エギルさんの言うとおりだ。今は、この第一層を攻略することに力を貸して欲しい。よろしく頼む」

ぐっ、と一度深く頭を下げると、パラパラとだが拍手が聞こえてきた。完全にとは言わないが、それでも納得したということだ。

「みんな、ありがとう!じゃあ、ボス攻略の話に移る前に、みんなパーティを組んでくれ。近くにいる人や、仲間内でいい。レイドの形を作らないと役割分担ができないからね」

ざわざわ、と皆が動き始める中、キリトは

ーーーげっ!?

と声に出さずして内心で慌てる。
ソロで活動してきたキリトには、こういう場面で頼る筋が皆無だ。

そもそも、SAOでのパーティメンバーは六名。総数四十五人だから……。

なんて考えているうちに、ディアベルの指示からたった一分にも満たない間に、アッサリと六人組七個のパーティが完成していた。

発言で目立ったキバオウやエギルでさえパーティに入り込んでいる。もしかして、誰にも声をかけられなかったということは、一人で戦うハメにーーー?

そう危惧していたキリトはふと、一人じっと座って動かないロープを被ったプレイヤーを発見する。先ほどまで中央で発言していた彼ではない。

孤立するプレイヤーにキリトはそそそ、と近寄り、話しかける。

「アンタもアブれたのか?」

訊くと、落ち着いたトーンの、女性の声が返ってきた。

「……アブれてないわよ。周りがお仲間同士みたいだったから、遠慮しただけ」

それをアブれたって言うんだよ、とは言えなかった。

「なっはっは、気の強い嬢ちゃんだな。それをアブれたっつうんだぜ?」

いきなりの声にーーーキリトが言わなかった無礼な発言をした男を見ると、それは先ほど中央でキバオウを論破しようとしていた人物その人だった。

「だから、違うってーーー」

「まあまあまあまあ、そこらへんはイイじゃねえの。実は俺アブれちまってよ。嬢ちゃんたちのパーティに入れてくんないかな?」

フードの彼女の声を遮った男はなんとも軽いノリでパーティの参加を申し出た。

こんなコミュニケーションが取れるのなら、なぜアブれたのだろう、と不思議に思いつつ、キリトは自分からパーティ申請を出した。

「お、サンキュー。断られたらどうしようかと思ったぜ。ほら、嬢ちゃんも入んなよ」

ささっ、とウインドウを操作して、彼女にパーティ申請を申し込む。すると、不承不承というように、OKボタンをクリックした。

「おし、OKだな。ほんじゃ、説明を聞いて行こうか」

キリトの後ろで、腕を組んで座るフードの男は嬉しそうに笑っている。

ちら、とキリトは視界の左端を見る。
そこに表示されているのはパーティメンバーの名前と体力ゲージ。

一つは、隣に座る数少ない女性プレイヤーの名前ーーーアスナ。

希少ともいえる女性プレイヤーの存在に興味が湧かないわけではないが、今は違うものに思考が吸い寄せられていく。

背後でフードを目深く被った陽気な男ーーーこれは、リュウヤと読むのか。

この男が一体どれだけ強いのか、キリトはボスの情報を聞き流してそればかりを考えていた。





会議後、ディアベルによる「解散」という宣言とともに、プレイヤーたちは各々散らばっていった。

と言っても、出来たパーティ内での会食のようなものが開かれたりしていて、それなりに心にゆとりを得ようとしているものが多かった。

キリトも、夕食を食べようとその場を去ろうとしたが、とある声に呼び止められる。

「キリト、だっけか。久しぶりだな〜」

「……前に会ったことあったか?」

声をかけてきたのは暫定パーティメンバーであるリュウヤ。
素直な疑問をぶつけてみると、彼は笑って答えてくれた。

「ハッハッハ、やっぱ声だけじゃ分かんねえのかね……」

言いつつ、彼はフードケープの装備を解除する。そこから見えたのは、キリトより頭一つ分大きい身長に、短髪で、どこかで見たことのあるような顔ーーー

「あ、ああっ!!あの時の!?」

「お、思い出した?そうそう、あの時の俺よ」

ニヤ、と笑みを作るリュウヤに、キリトは驚きを隠せない。

今までどこに行っても、誰に訊いても居場所の分からなかった命の恩人とも言える人が、なんと自分から現れてくれたのだ。

「な、なん……どう……!?」

驚きすぎて、質問が形をなさない。そんなキリトを見て、だいたい察してくれたようでリュウヤは自分から答えてくれた。

「いや、まあたまたまだ。情報屋の網に引っかからなかったのも、キリトと会えなかったのものな」

そんな偶然があるのだろうか、と疑問に思うが、自分の中にある常識が世界の常識とは限らない。
そう納得して、とりあえず疑問はさておき、再開できたことを嬉しく思った。

「久しぶりだな、えと……リュウヤ。あの時はありがとう。本当に助かった」

「いやいや、こちらこそだぜ?戦闘技術も見せてもらえたし、オマケに使える剣ももらえたし」

「そういえば、剣はどこに?」

見るからに、リュウヤのどこを見てもアニールブレードらしき剣はない。なんならまともな装備すらつけていなかった。

「ああ、ちゃんとあるよ。けど、圏内くらいでは外したくてよ。なんか、動きづれえし」

「ははっ、どんな理由だよ」

冗談と言われても不思議ではない理由にキリトは噴き出してしまう。けれど、そこらへんは個々人の自由だ。キリトにとやかく言う気はなかった。

「ところで、さっきの発言、びっくりしたよ。リュウヤが……その、あんなこと思ってるなんて」

キリトは自分から言いだした話題のくせに、口にしたことを後悔した。
あの発言から考えてみれば、リュウヤは元テスターを嫌っているように聞こえる。
なら、キリトが元テスターだということを知っているリュウヤの心境やいかにーーー

「ん?ああ、あれか。なに、気にすんな。別にお前らテスターのことなんざこれっぽっちも恨んじゃいねえよ。羨ましいとは思うがな」

やけにあっさりと心境を吐露してくれたことに、キリトはまた驚く。それを見てリュウヤは小さく苦笑した。

「別に、あれはあのキバオウとかいうやつの、本心が丸見えの演説に嫌気がさしたから言ったまでだぜ?ま、俺たちトッププレイヤーって呼ばれる部類に入るやつらは、みんなテスターと同罪だってのは、俺の本心ではあるが」

「キバオウの、本心……?」

補足のように付け足した最後のリュウヤの本音より、正直キバオウの本心とやらの方に興味が勝った。

リュウヤはヘドが出ると言いたげにこっそりと教えてくれた。

「あいつは、俺と同じで、単にテスターが羨ましいだけだ。嫉妬だよ嫉妬。元テスターがビギナーを見捨てたっつう怒りも本心だろうが、そんなの一、二割くらいのもんだよ。八割方、元テスターが溜め込んだ自分の知らないアイテムを欲しがってるだけさ」

ケッ、と嫌味たらしく言うリュウヤに、キリトはおかしくて笑ってしまう。

それが本当なのかどうかは本人に聞かないと永遠に分からないが、そんなことはどうでもいい。ただ、キバオウが本心を隠して元テスターを糾弾することに腹を立てたリュウヤは、いい奴なんだな、と再確認したのだ。

「なんで笑ってんだよ」

「内緒だ」

ハハハ、とキリトは笑いながら、その日リュウヤと別れたのだった。









 
 

 
後書き

いかがでしたでしょうか。

キバオウの心理などは、自分が「こういう奴だったらコテンパンに殴ってやりてえ」と思えるように自己改変したものです。ご了承ください。

さて、次回ですが、オリジナルの話を一つ挟んでボス戦に行きたいと思います。

ではまたお会いしましょう。
See you! 
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