ソードアート・オンライン 瑠璃色を持つ者たち
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二話 必然の出会い
前書き
お久しぶりですね。かなり時間が空きましたが二話です。
どうぞ!
なんとか村へと到着したリュウヤは目の端に映る時刻を確認する。もうとっくに七時を過ぎ、日も暮れていた。
かれこれ一時間以上突っ走っていたことになる。
とはいえずっと走っていたわけではない。きちんと休憩も入れた。
それでも時間がかかったのは、ポップしたモンスターを全て倒していたからだ。
少しでも経験値を稼いでレベルを上げていかないと、ベータテスターのように、この世界の情報を持ち合わせていないリュウヤは危険過ぎる。せめてレベル差での安全マージンがないとこの先やっては行けない。
けれど、まさか数匹のモンスターの群れに、二回もエンカウントするとは思わなかった。一匹ずつ相手取ろうとすると時間がかかって仕方なかった。
特に倒す必要もない、ましてや今のリュウヤの敏捷値ならば逃げ切ることは可能だった相手を倒しただけはある。レベルが一つ上がっていた。
「と、とりあえず……寝たい……」
生存本能に従った集中力も、圏内に入れば即座に消え失せ、分泌されていたアドレナリンの変わりにどっと疲れがリュウヤを襲う。
のろのろとした足取りで適当な宿に入り込み、コルを払ってベッドに倒れこんだ。
「あ〜……つかれたぁぁ……」
安い宿の簡素なベッドに顔を埋め、至福のひとときを味わう。疲れた体(厳密には脳)が軽くなったような気分だ。
本当に気分だけだが。
「よっこらせ……さて、金も溜まってるし、なんか買ってくるかな〜」
五分という短時間の休憩の後、宿を出て店に向かう。
さっさと回復アイテムや防具などを見繕った後、リュウヤは宿には戻らず、物陰に潜み視線を巡らせた。
理由は単純。ベータテスターを探すためだ。
この時間にはじまりの街から出てこの村にいるプレイヤーは狂気に走ったバカみたいなやつか、事前に情報があり、かつ実力に自身のある者しかいない。
当然、ベータテスターは後者に属する。そのベータテスターたちの後についていけば何かしら有力な情報が得られるはず。そう踏んだリュウヤはNPCに鬱陶し気な目線を送りつつベータテスターという実力者を探す。
ちなみに、リュウヤは言わずもがな前者だ。
別に狂気に走ったわけではない。自分を客観的に見て、認めたくはないがバカだとは思っている。
その自称バカは数分して、ようやくお目当てのプレイヤーを見つけ出す。
そのプレイヤーはリュウヤが寄った店で茶革のコートの防具を買うと、なんの迷いもなく走り出していった。
(ありゃあ完璧ベータテスターだな……)
目つきといい動きといい、VR空間に馴れた、いやこの《SAO》に馴れている者のそれだ。
この村に自分一人しかいないと思っているような彼(彼女?)を追いかけるためにそっと尾行を開始した。
そのプレイヤーが向かったのは森の中。確認したリュウヤの足が止まる。
木々が生い茂っていて隠れやすいので尾行にはもってこいなのだが、それはモンスターも同じ。
いきなり死角から襲われたらアウトだ。精神が揺さぶられ思った通りの実力が出せなくなる。
加えて夜間の戦闘だ。まだ馴れないこともあるが、夜目が聞き辛くなる。そんな現実的なものがこの世界で反映されてるのかはわからないが。
まあレベル的にも余裕はあるだろうし、そろそろ追いかけないと彼を見失ってしまう。
なんとかなるだろ、と思いつつ前を行くプレイヤーを追いかけるためにリュウヤも走り出した。
「で、結局これかい……」
やってしまったと言わんばかりにその言葉を口にするリュウヤ。
あのプレイヤーを尾行していたら、モンスターのPOPで行く手を阻まれてしまった。
敵の動きを知るために時間を割いたのもあるが、やはり馴れない夜間の戦闘は時間を食ってしまう。
「さっさと慣れとかねえとやべえな〜」
レベル上げを行うには昼夜問わずモンスターを狩る必要だってそのうち出てくる。慣れるのに、早ければ早いほどそれに越したことはない。
「つかどこいったんだよあいつ」
言いながら、キョロキョロと辺りを見回しながらポリゴンで生成された草地を踏み進む。
スキルは《片手剣》以外取っていないので頼りになるのは自分の目だけだ。
残り一つのスキルスロットを埋めていないのは保険でもある。もし、この層にスキルを会得できるクエストがあって、それが便利なものだった時のためだ。
それに加えて、もう少し考える時間が欲しかったのもある。
だが、一番の要因は「後でいいや」という楽観的なものだった。
しばらく歩いていると、視認できる範囲にモンスターが数匹いるのを見つけた。
さっ、と木陰に隠れ様子をうかがう。
さっきからPOPし続けている《リトルネペント》だ。だがリュウヤが見たものとは少し形状が異なっている。
方や蕾を膨らませ、方や花を咲かせている。何がどう違うのかは分からないが、とりあえずどちらもレアなモンスターなのだろう。
だから、リュウヤはここから立ち去ろうとした。
レアなモンスターということは、レベル差が激しい場合や、特殊攻撃、通常のモンスターでは使うことのない技を使ってくることがある。
さすがにこんなところで死にたくはないリュウヤにとって、このモンスターは避けるべき相手だ。
そう思案して立ち去ろうとするリュウヤの目の端に、二人のプレイヤーが映る。
まさか、と思い振り返ると、そこには初めて見た青年らしきプレイヤーと、村で見かけて尾行していたプレイヤーだった。
(ついてんなあ、俺)
レアなモンスターの動きをノーリスクで勉強でき、尾行していたプレイヤーの後もつけられる。
ノーリスクハイリターン。なんていい響きだ。
なんてバカげたことを頭に浮かべながら、彼らの戦闘を眺める。
茶革のコートを着たーーーあれは少年か。一瞬どっちか分からないくらい中性的な顔を持つ少年は淀みないステップで相手の攻撃を回避。隙を狙ってソードスキルを発動ーーー撃破。
(おいおい、一撃とかどんな技使ってんだ?)
レベル的にリュウヤと変わりはないであろう彼が一撃で敵を屠れた理由。
ーーーああ、弱点を見抜いているのか。
少しも考えずとも答えがすんなりと降りてくる。こんな時間にここで狩りができる時点でベータテスターだと予想していたが、これで確信へと至る。
「後で弱点聞いちゃ教えてくれんかなぁ」
ないであろう可能性を口にするくらい、彼が、いやもう一人、《リトルネペント》と奮闘する青年も羨ましかった。
事前に情報を得ている彼らベータテスターが心底羨ましい。情報収集に時間もかけず、ただひたすらに己の強化に邁進できる。
だから、自分も抽選に当たっていたら、なんて今更な感想を思い浮かべる。
茶革のコートを着た少年が何かを叫んだ。顔を見るに、恐らくはお目当てのドロップアイテムかなにかを手に入れたんだろう。
そろそろ青年の方も戦闘を終わらせそうだし、ここらで彼らに近づくか。
だが、一歩踏み出した右足は即座に引っ込めなければいけなくなった。
青年が相手をしていた実のついた《リトルネペント》が爆散した時の、青年と少年の表情。
少年は困惑に顔を歪ませ、青年は謝罪の意を込めた、罪悪感を感じさせる表情。
(あり?なんか……やばいか?)
そう思った瞬間、彼らの背後から湧き出るように《リトルネペント》が出現。目算だけでも、ゆうに10体を超えていた。
(あちゃ〜、もしかしてあの実つき倒したらまずかったのか?)
あのモンスターは、いわゆるトラップみたいなものなのだろうか。あいつを倒すことで、モンスターが急激にPOPする仕掛けでも施してあるのだろう。
しかし、それが分からなかった彼らではないはずだ。ベータテスターである彼らがそんな重大な情報を知らないはずがない。
それに、あの少年の表情。あれは確実に予想外の状況に陥った時のそれだ。
加えて、青年の罪悪感を漂わせる歪んだ笑み。
それらを鑑みるとーーー
(モンスターの総数は捌ききれないほどになるはず……つうことは、目的はMPKか)
思考の終着点にたどり着くと同時に、青年の姿がすう、と消えていくのを目視する。それがリュウヤに確信と次の行動を決めさせる一因となった。
(俺もここで終わりかーーー早かったな)
レベル上昇時に割り振った敏捷値補正により現実とはかけ離れたダッシュ力で少年の元へと駆け寄る。
そして、少年の背後から迫る《リトルネペント》を一刀のもとに斬り伏せた。
「だ、誰だっ!?」
「疑問は後だ!こいつらの弱点、行動パターン、攻撃してはいけない場所、それとほかの留意点を簡潔に教えろっ!」
「え……!?」
「いいから早くっ!!死にてえのか!?」
「わ、分かった!」
裏切られた直後の手前、懐疑心があるのは分かるが、今は別の場所に置いといて欲しいというのがリュウヤの本音だ。
その本音が伝わったのか、単に死にたくないだけなのかは知らないが、本当に簡潔に情報を伝えてくれた。
(判断力に切り替えが早いのはいいことだ……なっ)
思考とともに教えてもらった弱点へ剣を振り切る。レベルが上がっているからか、すんなりと一撃で倒すこともできる。
(ま、彼のようにはいかないが)
ちら、と盗み見た少年の戦闘は素晴らしかった。
無駄のない回避術から冷静な判断でソードスキルを使うかを刹那で決断し敵を屠っていく。
彼自身の剣さばきもそうだが、ソードスキルの扱いには脱帽する思いだ。
リュウヤみたいにソードスキルに引っ張られるのではなく、彼自身がソードスキルの動きを阻害しないように動いている。むしろ、ソードスキルが彼に引っ張られているといっても過言ではないくらいだ。
さすがはベータテスター。それどころか、ベータテスターでもかなり上位の部類にいたのではないだろうか。
(生きてたら今度教えてもらおうかな)
なんて甘い考えでいたからだろうか、目の前から迫ってくるツルに対応しきれず尻餅をついてしまう。
「やべっ!?」
慌てて立とうとするが、その前に次の攻撃が迫り来る。ヤバイーーーと思った矢先、声が飛んできた。
「ボーッとしてると、アンタが死ぬぞ!!」
キィン、とソードスキル独特の音が鳴ると、背後にいたはずの少年が自分のまえに回り込んで《リトルネペント》を《スラント》の一撃で仕留めていた。
「すまん、恩にきるっ!」
即座に立ち上がったリュウヤは一言の礼とともにまた《リトルネペント》と応戦する。
(すげえな、あいつの動き……)
迫るツルを必要最低限の動きで回避しながら先ほどの彼の動きを脳裏に浮かべる。
(こんな感じか……?)
「……せやっ!」
ソードスキルの発動モーションとともに開始する加速に自らの体を委ねるのではなく、己から進んでいくような感じ。
『ギャァァ……」
断末魔とともに鳴り響くのはポリゴンが散っていく音。リュウヤの渾身の《スラント》が見事に弱点を貫いて相手のHPを全損させたのだ。
(おお、でけたでけた!)
「ってはしゃぐのは後だな!」
リュウヤは硬直が解けると同時に次の《リトルネペント》へと突進する。
さすがにいきなり何度もあれができるとは思っていないので、ここだという時にしかできないが、後に練習しようと心に決めて、背後の少年と《リトルネペント》殲滅戦へと剣を振り抜いた。
「………ハァ、ハァ……もう、終わりか?」
「あ、ああ……終わっ……た……」
バタン、と二人して仰向けに倒れる。疲れ切った体が休息を求めるように動こうとしない。
それと同時に、二つの曲が流れる。
「お、レベルアップ〜」
「あ、俺もだ……」
リュウヤは嬉しそうに、隣に寝転がる少年は疲れたように自らのレベルアップを喜んだ。
「そういや、あのヒョロ男は?」
「………途中で、ポリゴンが散る音が聞こえた」
つまりは、モンスターにやられHPを全損し、ナーヴギアの高圧電流で脳が焼かれーーー死んだのである。
「………そうか。残念だ」
また一つ散ってしまった命を悔やみつつ、リュウヤはパッ、と上体を起こす。
(さて、聞きたいことは山ほどあるんだが、今は答えてくれそうにねえしな……)
疲れ切った彼は表情を、ピクリとも動かさず、ただ木々に覆われた空を仰いでいる。
(しゃあねえ、要点だけ絞るか)
「なあ兄ちゃん、この《リトルネペントの胚珠》ってのは、なんかに使えんのか?」
訊くが、中々返事が返って来ずしゃがみこんでもう一度訊こうとしたが、その前に答えてくれた。
「村の奥の一軒屋に行けば、クエストが受けられる。それのキーアイテムが《リトルネペントの胚珠》で、渡せば《アニールブレード》って片手剣がもらえる」
「そうか、ありがとな。なら俺はこれで行くが、兄ちゃんはどうするよ」
「俺は……もう少し、ここにいるよ」
「あいよ。じゃあせいぜい死んでくれるなよ?助けた意味がねえしな」
アッハッハ、と笑いながらリュウヤはその場を立ち去る。
背後から「余計なお世話だ」と苦笑気味の発言をもらいながら、件の一軒屋へと向かう。
彼らが命をかけて、人の命すら奪えるほどの価値のある剣を受け取りに。
「それにしても、なんだったんだろうか……」
茶革のコートを着た少年ーーーキリトは《アニールブレード》手に、宿屋でぼやく。
青年ーーーコペルがじぶんをMPKしようとした時、どこからか助っ人に来てくれた彼。
長身で短髪。かなり年上みたく、高校生かそれ以上と思われるあの男性は、いったい何のために自分を助けてくれたのだろうか。
(それよりも、あの人の順応性ーーーいや、即応性か……あんなのチートにもほどがある……)
キリトが十日間もの期間、練習に練習を重ねてようやくものにしたソードスキルのブースト。それを、目の前で一度見ただけで自分のものにしていた。
彼があのまま、キリト自身の経験や他プレイヤーの技術をすべて盗んでいき、やがて自らの戦闘スタイルを確立させた時にはいったいどうなるのかーーー
ゾクッ、と身震いする。
しかしその身震いは、武者震いだった。
「名前……聞き忘れちゃったな。聞いとけばよかった」
次に会えたらフレンド申請でもしようか、と柄にもなく思ったのは彼だけの秘密だ。
後書き
次回は第一層攻略会議のところになるかと思います。
では、See you !
ページ上へ戻る