ソードアート・オンライン 瑠璃色を持つ者たち
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第一話 始まりの鐘
ーーーリンゴーン、リンゴーン。
「な、なんだよこれ……どうなってんだ?」
一人であたりを見回すリュウヤ。
先ほどまで夕日に染まる草原の中、ひたすらモンスターを狩っていたはずなのに、なぜかいきなり青い光に包まれ、景色が一変。ログインして初めて降りた地に強制返還されていた。
《はじまりの街》中央広場
わけのわからない事態にリュウヤは混乱していたが、そんなものはまだ序の口だった。
自分の周りにも数多いるプレイヤーたちもこの異変というべき強制参加イベントに騒然としている。
皆一同、強制転移に対しての不満を声にしていると思って周りの声を聞いていたリュウヤだが、だんだん不穏な表現が耳に届き始める。
「なんでログアウトできないんだ!?」
「早くここから出してくれよ!母ちゃんに殺される!」
「GMはなにしてるの!?」
「ログアウト?そんなもんメニュー開けばできんだろ」
リュウヤはアホらし、と思いながらメニューを開き奥へと進んでいくが、
「……あれ?《LOG OUT 》ボタンがない」
首をかしげ頭の中にはてなが浮かぶ。
なぜ《LOG OUT 》ボタンがないのか。
というか、なぜ自分はこんなことに気づかなかったのか。
後者は完全なる自業自得だ。ログインしてすぐにそこらの店にある片手剣を購入し、鬱憤を晴らすがごとくモンスターの狩りに熱中していたのだから。
しかし前者の疑問に自答する知識はリュウヤにはない。ゲームの説明書すらうろ覚えなのだからこれまた仕方ない。
ただし、なぜここに、《はじまりの街》に強制転移させられたのかは分かった。
ここに全プレイヤーを集め、記者会見のようにGMかなにかから謝罪と説明が行われるのだろう。
「けどなぁ……なんかやな予感すんな〜」
ボソリ、とつぶやくリュウヤは頭を掻きながらGMのご登場を待った。
リュウヤが嫌な予感を持つには一つの理由が存在する。この《ログアウト不能》の事態がバグなのだとしたら余りにも遅すぎるのだ。
午後一時に正式にサービスが開始したのに対し、この突然の収集の時間は午後五時半。
普通なら運営でも気づくこの致命的なミスをこんな長時間も開けてから説明が入るのは極めてチグハグだ。
「おい、上を見ろ!」
「上?」
誰かの声とともに、おそらくここに集まった一万人弱のプレイヤーたちが空を仰いだ。
第一層の天井にして第二層の床とも言える空には赤いフードの亡霊のようなものが浮かんでいる。
そこから彼の余裕は崩され、彼の嫌な予感は的中することになった。
「くっそ……ゲームクリアだけがログアウトする条件だと……!?ざけんなっ」
GMーー茅場晶彦による宣言により中央広場は大混乱。押しては押され、叫んでは叫ばれて、怒りに狂えば八つ当たりまで、多種多様な《ログアウト不能》への不満が広場を埋め尽くしている。
そこから一歩離れ、リュウヤは静かな裏路地で思考をまとめようとしていた。
(ゲームクリア、即ち第百層到達を達成するにはどれだけ時間がかかる?)
(確か、ベータテスト時じゃ第六層まで上がったはず……。そこだけを切り取りゃ一年で三十六層ーーつまり、二年以上はここで縛られるっつうわけだ)
「ははっ……笑えねえ〜」
本当に笑えなかった。笑おうとしても口角は上がらず、息をだしても咳き込むような息のみ。
彼が心配しているのは、当然自分の安否だ。
二年以上に渡る牢獄生活を生き抜けるか。
自分に、その耐久力があるのか。
今でも発狂しそうなのに、二年も耐えられるのかーーー
「ん?……や、楽勝だなぁ」
なにを今更、と考えを即座に改めるリュウヤ。
現実でも牢獄のようなものだったではないか。誰も頼れず、一人でその日を生き抜くために全力で、家賃、生活費、学費に追われ、まるで地獄のような労働と勉学を行うあの生活が、ここ以上に苦しいか?
「ねえな。うん、全然ねえわ。むしろこっちのが楽だわな」
「なんならこっちのがお気楽でいいかもな」
まず学費が一切いらないためその分の労働を割ける。家賃は……まあ少しかかるが稼げないわけじゃない。生活費だって電気代や水道代すらいらない。食費さえ稼げればそれでいい。
それなら、それならばーーー
「ゲームクリアに貢献する時間だって作れるわな」
ニヤ、と笑みを浮かべる。
結局はこれだ。これなのだ。ただリュウヤはゲームがしたい。モンスターと戦い、時に死闘を繰り広げ、現実とは違う刺激を求めてここに来た。
ここが普通のゲームだろうが命を賭けたデスゲームだろうが関係ない。元より、自分に命など
あってないようなものだ。
どうせ、心配してくれる人は誰一人としていないのだから。
「ーーそれはそれで悲しいな、おい」
自分の思考に自らツッコミを入れながら裏路地を進み、《はじまりの街》を後にしようとする。
リュウヤはベータテスターではない。ここの情報など知る由もない。
だが、それが面白い。どうせならハデに、リスキーに行ってやろう。進むだけならその方針で行こう。
戦闘中さえ気をつければいいのだ。その戦闘に必要な情報は、RPGならば村や街で手に入れられる。
この街のNPCには全て話を聞いた。これ以上、ここにいる価値はない。
「さて、行くかね」
リュウヤのそんなつぶやきは、リュウヤ自身に《はじまりの街》へ置いていかれる。全力疾走で街から離れたのだ。
さすがに夜間の戦闘は避けるべきだと自分でも分かっている。だから、マップで見れる次の村へと全力で移動するのだ。
ここらでレベル上げをするのもいい手だが、そのうちポップリソースの奪い合いが始まる。
そんな無毛な時間を過ごすならば、危険だが効率のいい選択をする。
疾走するそんな彼に、モンスターが二匹現れる。
「邪魔だぜぇぇぇ!」
二匹とも一刀の下に斬り伏せる。
モンスターは青いポリゴンへと変化し、この世界から追放されていく。
その様を見ることもなく、経験値などの獲得表示画面を見ることもなく、彼はひたすら走る。
口では、理性ではただ楽しもうと言う彼が、本能では、感情ではーー現実に帰ろう、そう思うが故に。
レベル三、「リュウヤ」は疾走する。
己が現実を手にするために。
後書き
いかがでしたでしょうか!
なんか主人公のキャラがまだあまり掴めてないのでブレまくりになるとおもいますがご容赦ください……
次はたぶん第一層攻略編だと思います。
ではまたお会いしましょう
See you !
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